僕たちのこじれた関係

柏葉 結月

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僕たちのこじれた関係①

14. side Y ⑥

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『 ごめんね?……もう!お前の事は!気にかけないから!』


頭の中に木霊する絶望的な言葉に、涙が止まらない。いつの間にか、自分がこんなにもあの人の事を好きになっていて、想いを伝える前にすれ違ってこじれて。

練習室を飛び出して行ったミンジェが、事故に巻き込まれたりしていない事を祈る。あの人を追いかけてきたつもりが、自分がとんでもない所に迷い込んで、宿舎にも帰れないなんて。しかし自分の事よりもミンジェが心配で、何かあったらどうしようと、頭の中はそればかりだ。

必死で追いかけて掴まえられれば、違う未来があるはずなんだ。
何事も熱しやすく冷めやすい自分が、未だに同じ熱量で、いやそれ以上の想いであの人を追いかけているのだ。そして今も、あの人と共にある未来を諦めたら駄目だと、強く想う。

それなのに、祈るようにかけていた電話は機械的なリダイヤルになり、全力で走っていた足はとぼとぼと重い足取りになってしまった。


『 もしもし!ヨング?』

突然電話の向こうでミンジェの声が聞こえ、心臓が飛び上がった。半ば諦めていた応答に自分を取り繕う事も出来ず、とにかく謝らなきゃと急いで言う。

「 ミ、ミンジェヒョン~、ごめんなさ…!」

涙声になってしまったのがカッコ悪い。
“ 良かった…無事だった…”子どもみたいな自分が情けないけれど、ミンジェの声を聴いて、安心したら力が抜けた。

『 お前は何処にいるの?』

「………わからないんです …」

ミンジェの声に我に返ると、見覚えのない街に取り残され、どっちに行けば宿舎があるのかわからない状況に、不安が込み上げてきた。

『 迎えに行くよ!何か目印無いの?』

「 わからないよぉ!」

電話の向こうで、わずかにスヒョンの声が聞こえて、何故かドキッとした。二人が今一緒にいることを想像しただけで、胸が苦しい。
“ タクシーを使え” と言われて、
“ あぁその手がありましたね ” と冷めたように考えながら、逆ギレした子どもみたいに通話を切ってしまった。

自分の行動の幼稚さが恥ずかしく、
“ 別の意味で宿舎に帰りたくない ”なんて思ってしまったけど、それよりもミンジェに会って、練習室での誤解を解かなければならない。

自分のプライドや羞恥心に構っている場合ではない。とにかく謝って、想いを伝えて、ミンジェとのこじれた関係を修復しなくては。




タクシーを降りる前から、宿舎の前に佇んでいる人影がミンジェだと、すぐにわかった。わざわざ外で、待っていてくれたのだ。

人影に近づくと、僕の濡れた頭にふわっとタオルが掛かった。ミンジェの匂いに包まれて、ミンジェの傍に帰ってきたと思ったら、安心して気が弛み留まっていた涙がまた溢れ出す。この人の存在感が、僕のささくれた心を甘く、優しく溶かしていく。

「ミンジェヒョン~!」

自分の身体がびしょびしょだったけれど、構わずミンジェに抱きついた。

「ヨングゥ、なんで泣いてるの」

微笑みながら暖かい指先で涙を拭われ、溢れる想いで頭が全然回らない。だからもう、思いついた言葉をぶつけるしかなかった。

「ミン、ジェ、ヒョンがっ、僕のそばに、居てくれないと…!」

「そばに?」

「ぼ、僕はミンジェヒョンの、ことが、好きに…なってしまってっ」

「……え?」

「ミンジェ、ヒョンに……、裏切られたと、思ってっ」

なんて締まらない告白を!

伝えようとすればするほど、自分でも何をしゃべっているのかわからなくなり、きょとんと見上げるミンジェに、どんどん顔が熱くなり…。

「とりあえずシャワー浴びよっか。風邪引いちゃうよ?」

タオルの上から僕の頭を撫で、糸目で微笑まれたら、降参するしかなかった。




お風呂に入って落ち着き、じゃあねと言いかけるミンジェに、もう少し一緒にいたいから『ミンジェヒョンの部屋に行きたい』と伝えたら『わかった。おいで』と言ってくれた。

それぞれの部屋に戻ってしまったら、さっきの告白はなんだったのか。練習室でのやり取りはなんだったのか。まるで全て無かった事になりそうな気がして、またいつもの関係に戻るだけのような気がして。
強引にミンジェの部屋へ、突入した。


練習生各々個人に与えられた部屋は狭く、座る所などベッドの上しかない。黒が基調の僕の部屋と違い、白より柔らかいわずかに黄色を帯びた色合いは、他人の部屋だというのにとても落ち着く雰囲気だ。それは、ミンジェそのものだった。

その中で緊張気味のミンジェは、ベッドの上でソワソワとしている。
僕の何が、あなたを緊張させるのだろう?
渡されたクッションを抱えてベッドに上がると、眼をぱちくりさせて僕を見た。

「なんか…大きくなった?」

「ミンジェヒョンは小さくなりましたね」

「………。この間まで子どもだったのに」

「僕は子どもだけど、すぐ大人になります。手だって、ミンジェヒョンより大きいし…腕だって筋肉がついて、ヒョンを抱き上げられる。身長だって、ヒョンよりも……」

ミンジェからクッションが飛んできた!

本気ではないから、難なく受け止める。クッションの陰からミンジェを見ると、怒ってるよっという恐いどころか可愛らしい表情。

「……僕の身長の話はしないで。抱き上げるってなに。赤ちゃんだとでも思ってるの?!」

「ふふっ。ミンジェヒョン、口唇尖ってる」

僕は、クッションを抱き締めてころんと横になった。

『 その、尖ってる口唇に…キスしたい』

僕がこんな事を考えてるのがバレたら、ベッドから蹴り落とされたりして。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、横になったら僕の瞼が自然と落ちてくる。

あぁ、あんなに走り回るんじゃなかった。せっかくミンジェのベッドに、来たのに。

「おやすみ、ヨングゥ」

まだ…、眠りたくない…のに…

「明日も部屋に来ていいから」

布団を掛けられて、身体をぽんぽんと心地好いリズムでたたかれる。

…そうやって、寝かしつけないで…。
せめて、せめておやすみのキスくらいしたかったのに。

そう思った瞬間頬に柔らかいものが、ふにっと触れた。


「大好きだよ、僕のマンネ」






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