黒髪令嬢と百年前の約束

ミカエル

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美緒(みお)

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「九条先輩、これ受け取ってください!」
 校舎に続く坂を上がっていたとき、小走りで駆けてきた一年生が、両手で差し出してきたのは淡いピンク色の封筒だった。角が少し折れていて、小さな花柄のシールで留められている。ぎゅっと握って持ってきたのが伝わってきて、私は一瞬驚きつつも笑顔を作り、それを受け取って軽く会釈した。

 隣を歩いていたマミが、すかさず肘で私の脇腹をつつく。
 「美緒先輩、相変わらずモテモテですねぇ」

 私はため息まじりに小声でつぶやいた。
 「……いやいや、女子が女子から手紙もらってどうすんの」

 マミは吹き出しそうになりながら肩をすくめる。
 「そりゃそうだ。でも女子高だからねぇ」

 私は思わず苦笑して、結局その封筒を鞄にしまい込むしかなかった。

 ──私の名前は九条美緒(くじょうみお)。
 世間では「名家のお嬢様」なんて言われている。ちょっと上品にお辞儀をすれば「ああ、やっぱり九条ね」ってみんな納得した顔をする。制服を着て背筋を伸ばして歩けば「さすが九条のお嬢さん」と勝手に噂される。

 でも実際は、全然そんな立派なものじゃない。九条家なんて看板だけ派手で、中身はすっかり落ち目。衰えかけた家の名前が私を飾っているだけで、私はただの普通の高校生だ。

 2時限目の授業が終わって休憩時間になると、教室は一気ににぎやかになる。
 窓際で雑誌を回し読みして盛り上がる子、机をくっつけてゲームの話で笑い合う子──あちこちで声が飛び交って、静かな瞬間なんてひとつもない。

 私は机に頬杖をつきながら、隣のマミと話していた。マミは椅子を少し揺らしながら、何気ない調子で言う。
 「ねぇ美緒、夏休みどっか旅行いくの?」

 「旅行?」
 一瞬、言葉に詰まった。頭に浮かぶのは、年々しょぼくなっていった我が家の夏の旅行のこと。幼稚園の頃は海外リゾートが当たり前だったのに、小学校の頃は沖縄とか北海道に変わり、中学に入るころには近場の温泉一泊になった。子どもでも「うち、ちょっと前と違うな」って気づくくらいの変化だった。

 でも、そんなことマミに言えるわけない。
 「うーん、まだ決まってないかな」
 私は曖昧に笑ってごまかした。

 マミは足を組み替えながら、軽い口調で続ける。
 「うちはね、べたにハワイ行くらしいのよ」
 そして、ちょっと不満げに眉を寄せる。
 「ていうか、夏なのにあえてハワイって何よ。暑いのにわざわざ暑いとこ行く意味、分かんない」

 その言葉に、私は思わず笑ってしまった。
 ──でも、反面モヤモヤしてしまう。
 昔は私だって「海外旅行なんて当たり前」って思っていたのに、今では遠い話にしか聞こえない。

 「でも楽しそうじゃん。海きれいだろうし、買い物もいっぱいできそうだし」
 努めて明るい声で返すと、マミは「まぁね!」とあっけらかんと笑って机に突っ伏した。

 私はそんな彼女を横目で見ながら、「うちにはもうそんな余裕ないんだ」って正直に言いたかった。
 でも、言えない。言ったらこのマミとの気楽な関係が壊れてしまいそうで。
 だから私は笑顔を整え、軽い調子で相槌を打ち続けた。
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