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キャラメリゼされたナッツ達がこうばしく香るフロランタン。
生クリームでドレスアップされたクグロフに、優美なシェルの形のチョコレート。
美しく整えられたテーブルであるが、
参加者たちからはほとんど見向きもされていない。
ただ1人以外には。
「さすが王宮ね。あのチョコレートは王都一のショコラ店アンブロジオのものだわ。なんとしてでも食べなきゃ。それにベリーにアプリコットのケーキと柑橘の香りのあれは何かしら?
新作デザート?」
レイラ ブランシェット辺境伯令嬢は初めての舞踏会を暢気に楽しんでいた。デザートのブースで。
本日は王宮主催の舞踏会である。
一般に舞踏会は社交の場であり、男女の出会いの場でもある。20歳までに結婚しなければ行き遅れと呼ばれ、後妻か側室として嫁ぐか、最悪修道院で一生を過ごすかの瀬戸際に立つ女子たちは和やかに会話をしながらも、いかにより条件のいい相手を見つけるか、ライバルをそれとなく蹴落とすかという熾烈な争いの場でもある。
特に王子に婚約者のいない今、王子妃の席をめぐっての争いは舞踏会の回を重ねる毎に激しくなっていっていた。
レイラは16歳となり、社交界デビューのために父のエスコートで王都へやってきた。侍女たちにより磨き上げられ、これまでは背中に流すだけでリボンくらいしか付けたことのなかった白金の髪は結い上げられ、コーンフラワーブルーの瞳に合わせたブルーのドレスはたっぷりとレースが使われ華やかだ。
白金の髪と長い睫毛に彩られたブルーの瞳、繊細な顔立ちはまるで妖精にも見える。
しかし、彼女を妖精と例えるには不釣り合いなものがある。小柄であるが、甘いものが好きな彼女の身体はふっくらと女性らしい曲線を描いている。
「あちらもとっても綺麗。宝石みたいで可愛いわ」
宝石のような砂糖菓子を口に入れたその時、
クスクスと小馬鹿にしたような密かな声が聞こえた。
「ご覧になって?どこの田舎からいらしたのかしら?」
「お菓子ばかりお召しになっていらっしゃるからあのようなだらしのない体でいらっしゃるんだわ」
「まるで子豚のようね」
扇子で口元を隠しながらひそひそと囁かれる陰口にレイラの心は沈んでいく。
ーーーーーー
レイラだって王都に来るまでは、初めての社交界でお友達を作ったり、国中の女の子の憧れである王子様とお付き合いするなんて高望みはしなくても、デビュタントの権利としてダンスを踊って、お話ししたり、素敵な男性と出会ったりしたいと年頃の女の子らしい期待に胸を膨らませていたのだ。
国の南東に位置するブランシェット辺境伯領は大きな港を構えており、外国との貿易の要であるため街は栄え、豊かだ。
両親や上に4人いる兄姉は末っ子であるレイラを溺愛しており、家族は貴族としての責任やマナーについては厳しかったが、交易で得た絹や真珠、新しいデザインのドレスがあればすぐに仕立ててしまう。兄や姉はレイラのことを海の女神テティスの様に美しく、愛らしいと常に言っている。
お付きの侍女達やその他の使用人たちもレイラを美しいと子供の頃から言ってくれていたのだ。
だから勘違いしてしまっていた。
家族の欲目と辺境伯令嬢へのお世辞を。
家族から美しい、可愛いと言われ続けてきたレイラは自分の容姿が大好きだった。母は元王族で降嫁してブランシェット家にやってきた。母譲りの白金の髪とブルーの瞳は最上級のサファイヤの色だと褒められていたし、母のようなほっそりとした体つきではないが、父方のおばあさま似で海の女神テティスのようだと言われたら自分の体型も好きになった。
何より食べるのが大好きだったのだ。外国からもたらされる香辛料やナッツ、砂糖から作られる甘いお菓子が大好きでドレスのポケットやポーチにはキャラメルやチョコレート、小さなキャンディをいれ、色んな人と一緒に食べるのが大好きだった。
楽しみにしていた王都だったが、自ら開いたお茶会で、街で、演劇場で、クスクスと自分を見て令嬢たちから笑われる。
最初は何故だか分からなかったが、王都ではほっそりとした美人ばかりだった。流行りのドレスショップもシャープなラインのものばかりで胸やお尻ばかり大きい自分が洗練されていない、惨めな気持ちになってしまった。
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