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閑話3
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女王陛下のご尊顔を思い出すと
まだポーッと体温が上がり顔に血がのぼっているのか鏡を見なくても赤くなっているのが分かる。
ー 文字だけであなたに恋していたのとも、眼鏡がなくても素敵だとも言ってもらって。
月の女神のような美貌の陛下から自分の目を見てそんなこと言って頂いて、好きになってしまわない方がおかしいだろう。
ただ、自分はあれだけ見合いで令嬢から振られ続けてきたのだ。月とスッポンならぬ月とラクーン。
確実に釣り合わないな。文字に恋というのはブランシェット領がちゃんと納税の義務を果たして、国防にも力を入れていたことへのお褒めの言葉か何かなのだろう。
夢を見させて頂いた貴重な経験を大切にしようと胸にしまう。
遠方からの貴族は王宮内の貴賓室への宿泊が許されるが、王宮内でも奥まったここは自分も来たことがない。まぁ田舎貴族の自分は年に一度夜会に参加して、夜はタウンハウスに帰るくらいなので大体ダンスホールくらいしか来たことがないのだが。
今回もあの謁見の後直ぐにでもタウンハウスに帰りたかったのだが、転んで額をぶつけているから心配であると優しい女王陛下からのお言葉があり、御殿医にかからせて頂いたあと、念のための王宮での宿泊を許されたのだ。
やっぱり女王陛下は女神様だ。
うちは領地の城も外国からの急襲に備えられるように外観は堅牢なものだし、タウンハウスも立地と敷地面積の広さはあるが外観はどちらかといえば質実剛健といったシンプルなつくりだ。内装は家では落ち着きたいという代々の気質を考慮した木目調を基調としたシックな調度で揃えられており、王宮の調度の繊細かつ華やかなデザインはなんだか物珍しくてついついお上りさんのように室内を眺めてしまう。
「うちより調度も華奢な作りのものが多いからか、華やかだな。部屋自体が女性らしいというか。女王陛下が似合いそうだ。」
豪華な調度に売ったらいくらになるんだろうかと、無礼にもつい頭の中で算盤を叩いてしまうのはもう職業病だろう。
天蓋付きのベッドに、白を基調とした丸いテーブル。椅子の座面や背もたれ部分に貼られた布地さえ可愛らしい。他のドアをあけると猫脚のバスタブとトイレ、洗面スペースさえある。
バスルームは可愛らしいデザインだがスペースは広く取られ、バスタブは大きめで男の自分でもゆったりと入浴できそうだ。
元々何でも自分でしたいタイプなのでメイドは断ったから人目もないし、お風呂に入ってさっさと寝よう。
ーーー
王宮のベッドは非常に寝心地がよく、精神的な疲れもあってか直ぐに眠りの世界へと旅立ってしまった。
正直自分は寝汚いタイプでよっぽどのことがなければ起きない。ブランシェット家の男子は貿易を家業とするものなら海を知らなければならないという教えのもと、1年間雑用として貿易船に放り込まれる。
嵐の中のハンモック上でさえ熟睡できるタイプの自分にとっては王宮のベッドは天上の世界のようだ。
王宮は女神である女王陛下の居城だし。
ひたりと冷んやりとしていて柔らかいものが額に触れた。そこは転んだ時にぶつけたからこの冷たさが気持ちいい。頬にも擦り付けるとひゅっと柔らかいものが逃げてしまった。
それがなんだか名残惜しくて目を閉じたまま手で探すが、手は空をかくばかりだ。
「もっと…。」寝ぼけ眼を擦りながら体を起こすと、
そこにはシルクの薄衣を羽織っただけの女王陛下がいた。ランプの灯は落とされており、月明かりしかない部屋の中でも月光を浴びて彼女自身がまるで内から白金の柔らかな光を放っているようにも見える。
「…っ女王陛下!私の部屋で何をなさっているのですか!」
と驚愕に声を上げると
起きてしまいましたね。と首をすくめる姿はいたずらがバレてしまったとでもいうような軽い様子である。
なぜ陛下が自室にいらっしゃるのか。
それに紳士として目を逸らさなければならないと思うが、その美しさに目が離せない。清廉な美しさを持つ方だと思っていたが、薄衣越しにひっそりと咲く小ぶりな2つの淡いピンクの花が見えて艶めかしい。
「なぜっ!どうやっていらしたのです!
それに近衛は何をしているのです!」
その問いにうん?と首を傾げる姿も非常に愛らしい。
つい見惚れてしまう。っではなくて!と自分の考えを振り切る。
「夜這いですわ。それにこちらの部屋は私の部屋に繋がっているの。だってこちらは王妃の居室ですもの。
私は王の居室を使用しているけど、配偶者がいなかったからほとんど改装はしていなかったのだけど。」
女王陛下が夜這い…。
それに王妃の居室…。変だなとは思った。だって掛けてある絵画が巨匠バルテミオルスの代表作ともいわれる女神の誕生だし、何げなく飾ってある花瓶が小国の国家予算くらいするものだったりするのだ。
陛下のお声かけで最高の居室を用意してくださったのだと呑気に考えていた数時間前の自分をボコボコにしたい。
「それにね。あなたが領地経営を始めた14の時から5年も片思いをしているのよ?
私の侍女も侍従も近衛も知っているわ。知らないのは宮廷のうるさ方くらいかしら。」とクスリと笑う笑顔はとても艶やかだ。
うちの両親は書類仕事ができないわけではないが、それよりも海を愛し、自分たちで勝手に航海にでて新たな航路を見つけたり、最新技術を探しに行ったりしており最近では父なんてどこの海賊かという風貌になっている。
やむにやまれず始めた領地経営であったが、13からの1年間の航海の間に立ち寄った様々な地でみた人々の暮らしを思い出すと我が領地をあのようにしてはいけない、領民がみんな笑って暮らせる地にしなくてはと思うのだ。
本当のことを言ったら女王陛下に拝謁して、その美貌と民のことを思う心の美しさに心惹かれてしまった。けれど、自分はラクーン似の見合いを断られ続けている冴えない男だし彼女の横に立っては彼女が恥をかくだろう。
彼女は一度も婚約者をたてたことがないが、婚約者候補として沢山の男らしくて身分が高くて優しいと評判の男性達が彼女の横に立ちたいと願っていることを知っている。
それに自分がブランシェット領から離れたら、継ぐものはいない。今は我が領が目を光らせているから良い貿易相手となってはいるが、背を向ければ豊かなこの国と、美しい彼女を手に入れんと虎視眈々と狙う国々はいくらでもある。
ブランシェットという盾がなければ彼女を守るものは他にはない。
彼女の横に立つ男のことを本音で言えば見たくなんてない。けれど彼女の御代がずっと平穏に続いて彼女が微笑んでいられるような国を作るためならば、喜んでブランシェットの礎としてあの地に身を捧ごう。
この国は女神信仰のため男女平等であり身分の違いはない。
しかし、至上神である月の女神がただ1人太陽神のみを夫として愛したため、女性には一夫のみを伴侶とする貞淑さが求められる。
男の部屋に夜間に忍びこんだなんて知れたら彼女はふしだらであると非難を受けるだろう。
今ならば、この夜が白いものだったことを証明できる。
そのためにも身を切りさくような思いで告げる。
陛下、どうかお戻りを。あなたと私ではとても釣り合いませんと。
数秒の沈黙の後、
そう…。わかりました。と陛下がするりとベッドから降りバスルームの方へ消えていった。
その言葉にホッとするとともに、自分で告げたにも関わらず残念な気持ちになる。去っていこうとするその細い体を抱き寄せ、愛を囁き自分のものとしたい。
その気持ちを自分の心の奥底に抑え込む。
いつの間にか月が雲で隠れたのか、月光により仄かに明るかった寝室は真っ暗闇になっている。
光輝く陛下がいらっしゃらないからこのように闇の中にただ1人のように感じるのか。
眠りにも付けず、まんじりとベッドの上で過ごしていると、再び雲の切れ間から月が現れた。
帰ったはずの陛下と共に。
「私は完璧な女王を演じているわ。けど、本当はわがままなの。欲しいものを手に入れるためにはなんでもするわ。たとえあなたとあなたの思いを傷つけることになったとしても。」
「うごかないで」
女王陛下の瞳には強い覚悟がみえ、女王としての覇気が滲む。陛下のためには抵抗しなければならないと思うが、凄絶な美しさに指一本動かすことができない。
ぎしりとベッドが2人分の重みを受けて軋む。
陛下は手にした小さなクリスタルの小瓶からとろりとした何かを口にすると、私に口付けた。子猫のような小さな舌がその何かを私の奥に奥に送り込もうと口腔内をこする。クチュクチュという淫美な音が静かな部屋に響く。
とろみのある何かが送り込まれ、唾液と共に飲み込んでしまった。
なにを!
カッと熱くなる身体と今までにないほどに自身のものが熱く堅く張りつめていくのがわかる。
「これは初夜の花嫁が苦しまないようにと王家に伝わる媚薬なの。精を受けなければ、そして精を放たなければ飲んだものは止まらない。
私を愛していなくてもね。あなたを私に縛り付けるわ」と寂しげに呟いた。
月が頂点に登った頃。
「これであなたは私のものよ」と陛下は満腹になったライオンみたいに満足げに微笑んだ。
ドミニクは社交嫌いな両親に代わり16歳から年に一度だけ王宮で開催される夜会に参加していた。
今まで玉座に座る陛下を下から眺めるだけで満足していた。陛下は自分にとっては月のような方だ。そんな方が恐れ多くも自分を見初めて下さり、形振り構わず自分に手を伸ばしてくれた。
自分も逃げてばかりではいられない。
「陛下。薬を一緒に飲んだあなたがこれだけ動けるのなら私が指一本動かせないのはどうしてなのでしょうか。可能なら動かせるようにして頂けませんか?
愛する陛下を抱きしめてキスしたいので。」
と囁くと
ボッと一瞬で真っ赤になった陛下の顔はすごく可愛らしく見えて笑ってしまった。
笑わないで!と眦に涙を浮かべてぷりぷりとしている。月のような冴え冴えとした美貌なのにこれだけ可愛いってすごいなとまた笑ってしまう。
なんだかおかしくなってひとしきり笑うと、
そこには随分と余裕なようですね。と妙に迫力のある笑顔の陛下がいた。
せっかくなので私があなたの子を孕むまでずっとそのままにして差し上げましょうか?
と囁くと、入ったままだったモノを締め上げた。
「お手柔らかにお願いします」としか、ドミニクは言えなかった。
結局、ドミニクがオリアーナを抱きしめてキスできたのは翌朝のことだった。
ーーーー
僕の名はフェンディ・アポロディアス・フローレス。
フローレス王国の王弟だ。
今日は14歳の誕生日であり、毎年誕生日の朝に姉である国王陛下から贈り物を頂くことが恒例になっている。
僕の姉は月の女神のような美貌を持っているが、弟の自分にとっては中身は暴君だ。
メイドに手を出そうとした貴族を全裸にして尖塔から吊るしたり、僕のことを姉と比べて無能だと馬鹿にした貴族の悪事を有る事無い事書いた怪文書を王都中にばら撒いたり、復讐がエゲツないのだ。他にも大きなことから小さなことまで様々なことをやってくれているが、何故か僕がやったことになっている。
やんちゃ坊主どころか稀代の悪童のように呼ばれている。後ろ暗いところのある貴族たちは自分には近寄ってこないほどだ。
暴君ではあるが対外的には完璧な姉にはとある欠点がある。それは僕に対する贈り物のセンスがゼロなことだ。
よく分からない高価な壺や宝石や絵画の時はまだいい。一昨年は最古の月の女神神殿から発掘されたとかのどれが目だか口だか分からない女神像で、去年はどんな傷も一度だけたちどころに治してしまうという眉唾物の木の枝だった。
あまり期待しないで行くのが1番なのである。
他の貴族や他国の王族相手への贈り物は全て侍従長のセバスに任せきりというから、忙しい姉自ら選んでくれているというところは嬉しくもあるのだが。
ー結局どんな要らないものでも自室に全て飾っているところがメイドたちに隠れシスコンだと密やかに噂されていることをフェンディは知らない。
コンコンコンとノックと共に謁見室に入室すると、満面の笑みの姉がいた。我が姉ながらなんだか後光を放っているように美しく見える。隣にはなんだか窶れたような焦げ茶色の髪の小柄な男性が控えている。
「お誕生日おめでとう。フェンディ。」
開けてみて?と姉から手渡された黒い箱は木製だがつるりとしたまるで陶器のような触り心地で、黒く艶々と輝いている。箱自体にも螺鈿の細工が施されている。美しいがさりげない装飾で箱だけでも気に入ってしまった。
これだったら中身はなんでもいいな。
箱の蓋を開けると何とも男心をくすぐるというか渋い作りの短剣が入っていた。
重厚な見た目から重いかと思ったが、非常に軽く、鞘から抜くとこの国では見たことのない作りの短剣で剣には波のような刃紋が浮かんでいる。
急激にセンスの良くなった誕生日の贈り物を貰い、いい1年のスタートが切れそうだとほくほくとした気持ちで箱に納める。
「あのねフェンディ、今年はあなたにもう一つプレゼントがあるの」
この短剣の次だ。きっと素晴らしいものだろうとフェンディは思った。
「何ですか姉上。もったいぶらずに何なのか教えてください」
「国」
絶句するしかなかった。やっぱり姉からのプレゼントに期待してはいけないのだ。
フェンディ・アポロディアス・フローレスの受難はオリアーナという姉の弟として誕生した頃から始まっていた。
ーーーー
少し時は遡る。
ドミニクがオリアーナをやっと抱きしめプロポーズできた時。
ドミニクはオリアーナと生きることを決めたのだ。オリアーナは女王だ。ブランシェット領へ降嫁はできないだろう。
ブランシェット領はまだ40代と若い両親に再び支えてもらって、これから見込みのあるものを探し後継者を育てようと決めた。
そのことをオリアーナに伝えると、
「最年少で王位を継いだ王は何歳だったと思う?」
となぜか質問された。
体の弱かった王妃に続いて前王も若くして逝去したため、オリアーナは最年少の女王として14歳で王位を継承した。
「14歳?」
「あたり。フェンディを王に据えるのに前例の大好きな貴族たちに付け入らせないためにも、今日まで待つ必要があったの。」
あなたを見つけてからすぐ帝王教育を始めたの。
私の影に今までは隠れてしまっていたけど、あの子は私の弟だもの秀才よ。本人に自覚はないみたいだけど5年で全ての教育を優秀な成績で終えたの。
それにフェンディの邪魔になりそうな貴族はほとんど始末したし。
きっと大丈夫よ。
満足げに微笑む彼女はとても美しくて、昨夜のせいで疲れ切って何も考えられなかったドミニクはただ見惚れるしかできなかった。
ーーーー
※元々R18で公開していたものを一部シーンカットしたものです。繋がりが悪いところが出ているかも知れません。
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