ぽっちゃり?令嬢は可愛がられる

紫乃

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閑話4

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達したオリアーナがくたりと私の身体の上でしどけなく伏せている。はぁはぁと荒かった吐息も落ち着き、
淫美な空気が少し薄れてきた頃。



どうしても気になってしまい、うら若い女性に聞くのは憚れるが聞いてしまった。

女王陛下は、男性と閨を共にしたことがおありなのですか?と

「いいえ?私は女王よ?王配もいないのに非嫡出子を設けるようなことはしないわ。
それに私はあなたをずっと前から愛しているのに他の方に身体を許すと思う?」

そうだろうなと途中から察してはいたが、自分を受け入れる直前までの壮絶なまでの色気と手際の良さから、最初は誰かに抱かれたことがあるのだと思っていた。この美しい女性を組み敷いた男への嫉妬と、美貌の陛下なら仕方がないことであるのかと嫉妬と諦観がぐるぐると織り混ざっていた。


「私は各領地の収支報告書から大衆紙まで毎日この国で発行される書類や本、雑誌の全てに目を通しているの。
艶本までね。
経験はないけれど、殿方の喜ばせ方はひと通り熟知しているつもりよ?」

さらりと凄いことを言っていてやっぱり規格外な人だなと思っていると

「あなたはどうなのかしら。随分とたくさんお見合いをしていらしたみたいだけど。」と問うてくる笑顔は非常に美しいがなんだか怖い。

「私は13の頃商船に雑用として放り込まれていたので。
1年間の雑用が終わる祝いだと気のいい船員たちが初めては最高の店で。と金を出し合って娼館に連れて行ってくれたんですけど…。」

「けど?まさかその最高の娼館とやらの娼婦が初めての人で初恋とでもおっしゃるのかしら?」と女王陛下が睨め付けてくる。

「いや、初恋の人というよりは師匠か姉もしくは母という感覚でしょうか。」

「どういうことですの?」

「いや、私の両親は仲が良くて。その両親を見て育ったのでできるのなら初めては愛する人とがいいと思っていたんです。

そのまま追い返すのもせっかく高いお金を払ってくれたみんなの気持ちを思うと申し訳ないし、その方もこのまま帰ったら他の客を取らされると言うので、
相手の方と一晩中チェスをしてたんです。」

それがもの凄く強いんです。チェスの先生にでもなって貰おうと思って身請けしました。
今はうちでメイドをしています。


は?とぽかんと口を開けているところもまた可愛い。
彼女は月の女神見たいに綺麗だけど意外と表情が豊かで可愛らしいと思ってしまった。




お坊っちゃん育ちの自分には甲板の床磨きや嵐で飛んできた木材によって裂かれてしまった帆の補修や荷運びなど雑用仕事は最初の頃は辛かった。
けど、船長や先輩に叱られて落ち込む時もあったが、そんな時はさりげなく正しいやり方を教えてくれたり、航海中は貴重な筈の果実をくれたりする。ぶっきらぼうな優しさをみせる船員たちをこの1年間で家族のように思うようになっていた。

フローレス王国へやっとたどり着いた。
最後の寄港地であり、我がブランシェット領までは船であと1週間というところだ。比較的大きな港ではあるがなんだか、港へ着いてから進むと町の雰囲気はどこか如何わしい物になっていく。ドギツイ派手な装飾に、品のない店名の書かれた看板。

船長たちに連れられて町を進んでいくと他の店と比べて立派な建物についた。受付に着くと、
船長がこの店で1番器量が良くて、人気のあるものをと注文をつけている。

なんだろうと思っていると、修行を終えたお前へのご褒美だ!男になってこい!と笑顔で、ある一室に放り込まれてしまった。


しょうがないなぁと思いつつ、部屋を見渡すと
大きなベッドと小さなテーブルセットに小さなキャビネットくらいしかないという部屋に自分より少し年上だろうかという女性がいた。
露出の多い衣装を身に纏っており、ぼーっと部屋の入り口に立っている私の手を引いて
ベッドへ促そうとする。


貴女には申し訳ないんですが、初めては好きな人とがいいんです。みんなに申し訳がないし、一晩ここから出られないので落ち着いた頃にあなたは控え室にでも
帰られていいですよ。

と伝えると女性は少し驚いたような様子だったが、
客を他に取らされるのも嫌なので他のことであなたを楽しませて差し上げましょう。というと
小さなキャビネットから折りたたみ式のかなり使い込まれたチェス盤を取り出したのだ。

庶民から貴族まで幅広く楽しまれるチェスは遊びでもあるが、貴族の嗜みでもある。

自分も子供の頃から家庭教師に駒の動かし方、戦略を習ったものだ。
うきうきとした気持ちで臨む。しかし、こちらがどれだけ攻めてもするりとかわされる。
それなりに自分も強いつもりだったが、底が見えないのだ。これは手強いな。
と思っていたがあっさりと勝ってしまった。
接待チェスを受けたようだ。なんとなく悔しくなって次は全力でお願いしますとお願いすると、しょうがないですね。と笑うと次の勝負は瞬殺された。
泣きの一回を繰り返し、女性相手にハンデを頼む。
それでも勝てないのだ。彼女の指し方は楚々としていて女性らしくさらりと攻撃をかわすが、攻める時はどこの猛獣かというようなさまであり自分のキングの首元にくらいつく的確で速い攻撃を仕掛けてくる。

彼女はきっとチェスの指導を受けたことがあるのだろう。今までよく見ていなかったが、よく見れば指先まで品があるようで、娼館にいるには相応しくない佇まいだ。まるで、高位の令嬢のような。


朝を迎えた時、結局接待を受けた一回しか彼女には勝てなかった。散々な成績だったことが、なんとも悔しかったことと、彼女にはこの場所は似合わないなと思ったため、身請けしてしまうことにした。
なんとか、今まで貯めていた自分のお金が足りてよかった。

別に好きになったからというわけではないが、何となく。戻るところがあるのなら戻ればいいと思って。

そのことを女性に伝えると、
帰るところがないというのでこれまた何となく「うちに来ますか?」

と言ったら一も二もなく頷いたのでそれからは私のチェスの師匠兼メイドとして我が家で働いてもらっている。




ーーーーーー
とあるメイドの話




太陽がだんだんと沈み、辺りは少しずつ暗くなってくる。店々にポツポツと明かりが灯され男たちがやってくる。

あぁ、また夜がやってきた。
この国では夜は月の女神が癒しを与えてくれる時間なのだそうだ。私にとっては癒しどころか地獄の時間だが。
この町は王都にほど近い港町で、大きな歓楽街で栄えている。この国の女性たちはどんなに借金を抱えても、身体を売るくらいなら命を絶ってしまうというものばかりらしく、この町は海の向こうから売られてやってきた娼婦ばかりだ。

そんな私も外国から売られてきた女の1人だ。

私は代々将軍を輩出してきた名門伯爵家の令嬢だった。厳しい父と貴族にも関わらず、家庭的で優しい母。子である兄と弟の真ん中のただ1人の女の子として蝶よ花よと育てられたものだ。ただ、家業に関すること以外は。
我が家では男女関係なく素養のあるものは全て武術や馬術、戦術の教育を受け、騎士団に入団する。
男は将軍を目指し、女は王妃や王女を守る女騎士となるのだ。


我が父は将軍であった。父はチェスを非常に好む人であり、どんな時も簡易な折りたたみ式のチェス盤を持ち歩き、戦場ですらもチェスを指していた。

私は父がいつも遊んでいると思っていたのだが、ある日父は私に、
チェスはゲームでもあるが、これは戦争の縮図だ。
王の命を奪われたら負ける。
東洋にも同じようなゲームがあるが、そちらは敵により倒されてしまったら兵は奪われ、こちらを裏切り、敵となって襲いかかってくる。

味方の裏切りは怖いが、チェスは敵に倒されたら全て終わり、兵は死ぬ。
戦場ではもし皆殺しはされなくても捕虜にされる。兵は騎士としての誇りを殺されるんだ。
そうさせないためにも、私たちが戦略を練り、王を守りきらなければいけない。最小の被害で。

そんなこと言って本当はチェスで遊んでいたいだけなんでしょと兄は笑っていたが
父の話を聞いて私はもっと熱心にチェスに取り組むようになった。


ある日父が政敵に嵌められ、将軍の座を追われた。
父が裏切りを働いたと王宮に拘束されている間に娘の私も捕まり、売られることになったのだ。

家に押しかけてくる暴漢と戦うにしても人数が多すぎる。連れさられる時、家族の肖像画の入ったロケットでも、お気に入りの髪飾りでも、宝石でもなく、
とっさに持って行ったのは、父のチェス盤だった。

売られてからは船に乗せられ、遠くのこの国にやってきた。


伯爵令嬢であった私が身体を売る。
喘ぎ声をあげて雌猫のように媚び、男性に情けをこうのだ。
悔しくてしょうがなかったが、自分の価値を示さなければもっと下の店へ転売されてしまう。
自分が来たばかりの頃いた優しく面倒を見てくれた女性も、性格がきつくて自分の客を取ったとか因縁をつけてくる女性もいつのまにかいない。
優しい人に身請けされたのか、それとも売られたのかはわからない。

そんな中で私を慰めたのは父のチェス盤だった。
朝から夕方までずっとチェスの戦法を考えている。
そうすると、家族のことも、自分のことも何も考えずにいられた。

私が大人しく、逃げ出すそぶりがみられなかったからか少しのわがままが許された。
母の作ってくれたミルク粥が食べたい。
ミルクに砂糖と少しのシナモンを溶かしてパンを浸して煮る。もっとたくさんの料理を母は私に教えてくれようとしたが、不器用な私にはこれだけしか作れるようにはならなかった。

高価な砂糖やシナモンなんて手に入らない。
パンは硬い黒パンだし、ミルクは安いヤギの乳だ。

思い出の味は霞んでしまって一度だけ作ったらそれからは作ることはなかった。


ある夜少年がやってきた。
13歳という彼は弟と同じ年で好きな人としか寝たくないという。
なんだか本当に弟を前にしているように思えて、この子なら今まで誰にも触らせなかったチェス盤を使わせてもいいと思えた。

負けてムキになるところも、ハンデを上目遣いでお願いしてくるところも弟に見えてきた。


一晩中チェスを楽しんだ後。
そんな彼は私をあっさり身請けしてしまった。くるりとした瞳の小動物の様な可愛らしい少年はこの国有数の大貴族の跡取りだったらしい。

国に帰るなりしたらどうか、支度金なら渡しますけどという彼の優しさが身に沁みたが、
自分は娼婦だったのだ。風の噂で復権したときく両親の元に帰っても自分を娶ってくれる奇特な人はいないだろうし、修道院に入ることもできない。家族の重荷になるだけだ。
きっと家族は私を探してくれているかもしれない。
けれど、チェスの駒と同じ。王である家長が政敵に負けたのだ。令嬢としての私の誇りは死んだし、
私は死んだと思って忘れて貰った方がいい。

帰るところはないと告げると、これまたあっさり「じゃあうちに来ますか?」と少年は私に聞くのだ。

一も二もなく頷くのはしょうがないことだと思う。

騎士であり令嬢であったが売られて娼婦へ。そんな経歴の私を雇い、居場所も家族も与えてくださった。それに大切なお子様達を私に託して下さったのだ。

その優しさと信頼に応えたい。私の全てを持ってブランシェット家を守り、仕える。

言葉にしてもしきれないこの思いをこめておいしいミルク粥を作るのだ。






ーーーーー
アニタは伯爵位と侍従長の職を捨ててオリアーナ様についてきてしまった奇特な人と結婚しました。
ブランシェット家メイド長兼軍事顧問です。
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