ぽっちゃり?令嬢は可愛がられる

紫乃

文字の大きさ
11 / 22

6

しおりを挟む




ブランシェット家の食堂では熊のように辺境伯が落ち着きなくうろうろとしている。

娘のところに行った妻がなかなか帰ってこない。
オリアーナは子どもたちみんなを愛しているが、一際素直で愛らしいレイラを可愛がっているのだ。
オリアーナは対外的には月の女神のようなお淑やかで気品に満ちた女性であるが、家族や心を許した使用人たちの前では結構ざっくばらんで大雑把、そして口が悪い。
それに敵に対しては性格が捻じ曲がり、容赦ないところを隠してはいない。
オリアーナに似た性格の4人の子どもたちも。

ーそんな所も意外性があって可愛らしいとのほほんと思っているのは家長であるドミニクだけである。


しかし例外もいる。末娘のレイラである。
レイラは子どもの頃から子どもらしい子どもだった。夢見がちで王子様やお姫様、魔法使いや幻獣、女神達が出てくる絵本を好み、素直な子どもだった。

同じ本を同じ年の時に現実味が乏しいとバッサリと切り捨てたアウラが第一子でそれに続く息子達も白けた目で絵本を見ていたため、レイラの年相応に絵本を楽しむ姿に子どもとはこういうものなのかと感動したものだ。


オリアーナはレイラの前では完璧な淑女だ。


オリアーナが言うには、
まだレイラが3歳でまだ1人で絵本が読めなかったころ、いつものように小脇に絵本を携えてやってきた。絵本を読んで欲しいのかとも思ったが様子が違う。

「おかあさま。どうしたら王子様とけっこんできるのかしら。レイラは王子様とけっこんしてお姫様になりたいの。」

自分は女王でありお姫様だったこともあるがそんないいものでもなかったがと思いつつも真剣そのものな表情だったため、何げなく伝えたのだそうだ。

王子妃になりたいならまず、何よりも自分らしい美しさね。
見た目だけなら何とでもなるわ。流行でなく自分に似合うものを身につけるの。
色やドレスの形、生地だってどんなに高くても似合っていなければ意味がないわね。あなたの好きなシンデレラだって心だけ美しくったって王子様は見初めなかったでしょうね。心と一緒に見た目も磨くの。
流行りに乗っかって自分本来の美しさを簡単に捨ててしまうなんて馬鹿みたいよ?

それに教養ね。見た目だけで嫁いだって苦労するわ。
貴族ともなれば古典から現代文学に音楽、美術、ダンスにマナー、一通りできなければ鶏ガラは頭は空っぽだけど悪知恵は働くから上手にこちらを貶めにくるわ。馬鹿に馬鹿にされるなんて屈辱を味わいたくはないでしょう?

まあ簡単にいえばいつでも身も心も美しく、完璧な立ち振る舞いを身につけることね。

わかった?


子ども相手になんと夢のない説明をしているのだと思うが、レイラはどこまで理解できているのか、
にっこり笑って


「わかったわ。お母様みたいになったらいいのね!」と言ったらしい。

その時点でズキュンと心臓を撃ち抜かれていたオリアーナだったが、それからも自分の後をひよこのようにちょこちょこついてまわって小さなレディらしく振舞うのだ。
子どもらしくない子どもたちを4人も見続けた後に素直なレイラを見てしまったら天使にしか見えなくなってくる。

オリアーナのことを素敵なレディだと真剣に思い必死で真似をしているレイラを見たらもう女王を辞めたその時脱ぎ捨てた淑女の皮を被り直すしかなかったとのことだ。




それ以来我が家ではレイラの前では上品に、敵を殲滅するための家族会議はレイラ抜きでが暗黙の了解となった。


ーーーー

アウラ・ブランシェット辺境伯家令嬢は幼い頃から母の生き写しとも言われていた。神童と呼ばれ、莫大な魔力を持ち、勉強であっても武術であっても何でもできすぎた。
貴族の子どもたちは最初は羨望の目で見るが、次第にそれは嫉妬に変わっていく。そして恐れへ。
男女平等とは言われているが、女性は儚く、繊細であることを美徳とされているため女のくせにという言葉はずっと付いて回った。嫉妬で嫌味を言ってくるような女々しい奴にはそいつ自作のポエム付きラブレターを入手し、王都の目ぼしい令嬢全員に送りつけてやったり、その他様々な報復をバレないように行ってやったが。
弟たちは可愛がってはいるが、兄弟間で揉めるとしたら一対一では自分には敵わないと分かっているからか、3人対自分という構図になる。自分と対等にいてくれる相手がいないことがもどかしいのだ。
そのことを母に伝えると、


自分の限界の壁にぶつかってないなんていいことじゃない。できすぎて困るなんて贅沢な悩みがあるなんて若いわねと母に爆笑されたため、腹がたつから二度と母には相談しないと決めた。

レイラが生まれたのは私が8歳の時だ。
ふにゃふにゃとしていて、人形ようだった。
何よりも驚いたのが、一歳になっても四則演算もしないし、バク宙もしないし、外国語で嫌味を諳んじたりしないのだ。
3人の弟たちの後に生まれた妹はなんだか弱々しくて、死んでしまうのではないかと思うほどだった。

そんなレイラを守り、可愛がるようになったのは自然なことだった。

レイラが花冠を作るというので一緒に庭で作ってやったことがある。ちょっと不器用なレイラの花冠は歪んだものになっていた。私の作ったものは定規で測ったかのように揃った大きさに、編みこむ力も均等だからレイラのものと比べて圧倒的に美しい。

「アウラお姉様すごいわ!とっても綺麗!
私もお姉様みたいに綺麗にできるように作りかたを教えて!」

レイラは強くて優しい子だ。私が何をしてもアウラお姉様すごいと褒めてくれるのだ。嫉妬も恐れもない目で。





ずっと私は自分と対等に張り合えるものを求めているのだと思っていた。しかし、ただ自分を褒め、認めてくれる存在を求めていただけだったのだ。



私はレイラが可愛くてしょうがない。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

歳の差を気にして去ろうとした私は夫の本気を思い知らされる

紬あおい
恋愛
政略結婚の私達は、白い結婚から離縁に至ると思っていた。 しかし、そんな私にお怒りモードの歳下の夫は、本気で私を籠絡する。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ
恋愛
「ご挨拶申し上げます。わたくしフェルマー公爵の長女、アメリアと申します」 男性優位が常識のラッセル王国で、女でありながら次期当主になる為に日々頑張るアメリア。 最近は可愛い妹カトレアを思い、彼女と王太子の仲を取り持とうと奮闘するが…… あれ? 夢に見た恋愛ゲームと何か違う? ーーーーーーーーーーーーーー ※主人公は転生者ではありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...