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回想録4
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あの夜は、神が見せた幻想なのでしょうか?
あの後の記憶は私にはありませんでした。馬車の中で彼女の残り香を思い出すと、やはりあれは夢ではなかったのか?と疑念が湧きます。
そして仮にもそれが夢だとしても、愚かな私は彼女の申し出を断ってしまったのです。
「マ、マドモワゼル!そんな!!」
「そんな?」
「いや、私の様な……それも貴族の末端の末端。風吹けば消えるような門家です。
誰がどう見てもマドモワゼルの家には合いません。それにー…」
「それに?」
魔女の家系だから怖いなんて絶対に言えませんでした。
先程まであんなにも、大見得切っておりましたが、やはり怖いものは怖いのです。
家以外のそれらしい言い訳を見つけないといけません。
「魔女の一族だから?」
もう本当にどうしてこの淑女は、私が思ってる事を当ててくるのでしょう?
どうして、そこでSiなんて言えるでしょうか?
「……マドモワゼル、お互い会って2回目です。まずはお互い知らないでしょう?普通は家同士の家長が話を進めるものです。」
もっともらしい言い訳はこれしかありません。
魔女の一族とはいえ、相手は侯爵家です。持参金は破格でしょうが、そんな高貴な身分の方が私の様な家に嫁入りなんてできるわけがありません。それで逃げ切り、話を終わらせましょう。誰も傷つきません。
「もうお互い大人なのになぁ。私もようやく15になったのに。」
じゅう…ご…?彼女はまだ15の乙女だったのです。身長のせいで、私より7歳も年下だとは思いもしませんでした。
「うーん。婚活て難しいなぁ。」
この独り言は私に向けてなのでしょうか。本当にただの独り言なのでしょうか。
15になったばかりのマルグリットは、婚活のために滅多に顔を出さない社交界へ出てきた。
それも家長の父親と共に!
先程の発言からしてあらぬ噂や、異名のせいで結婚相手を見つけるのが大変なのだと推測します。
それでも、少なくとも当時の私にその責任を背負う勇気はありませんでした。
「まぁ、しょうがないよね。でも友達ではいてほしいな。また声をかけるよ。」
彼女の諦めの速さは、私の意思替わりの速さと同じぐらいでした。
あっという間にバルコニーには私だけ。吹かれる風と共に彼女の残り香も消えていきました。
冒頭で述べたように、もうその後の事はなにも記憶にございません。
それを後悔と言うには軽く、失恋には程遠い世界でした。
その後も、私は変わりなくサロンや夜会へ通いました。
時折彼女を見つけては、心臓がチクリとしました。
彼女の方はというと、私を見つけては小さく手で挨拶してくれたり、あの日と変わらず声をかけてくれました。時折、彼女を介して他の貴族を紹介してくれたお陰で、少しずつ私にもコネクションができつつありました。
そして、いつの間にか私は背徳な行為のためのパイプをふかしにバルコニーへ近づくことはありませんでした。
私が振った後もなおも変わらず、接してくれる彼女に申し訳が立たなかったのです。
その代わり、サロンでは随分とパイプの量が増えたと思います。
「ダントン、お前……パイプの吸いすぎじゃないか?」
「パイプは精神医学的にも良いと、論文に書いてあったんです。大丈夫です。」
もし本当にそうなら、この論文を書いた医者は大馬鹿者でしょう。
ちっとも良くなるような気配は無かったのですから。
もっとも、彼女と会った時に胸の痛みに気づき、パイプをふかせばマシになるかもしれない。
しかし、それもできなかったのです。言いようの表せない感情は社交シーズンが終わったあとも続きました。
窓には雪がチラつき、聖夜祭の準備が始まります。1年の中で1番忙しい時期です。
義姉も準備で忙しいのか、最近は何も言ってきません。義姉に替わり、私は生まれたばかりの2番目の甥っ子と、1番上の甥っ子の面倒を見る機会がしばしばありました。
特に1番上の甥っ子に字や数を教える事もしており、教える事は、存外悪くないと感じました。どうやら私には教えることに才能はあったようです。
そんな傍らで、友とも言えぬ貴族と手紙のやり取りはありましたが、あまり良いものではありませんでした。
突飛な投資の計画話や経営話は、私が読む突飛な医療論文よりやっかいなものでした。
Je ne puis accepter.(受け入れることはできません)
と書くようなもんなら、返事が来ることはありません。
しかし、マルグリット嬢の紹介で得たコネクションは、社交シーズンが始まるまできちんとしておりました。
この質の違いは彼女がしっかりした出自だからなのでしょう。
たとえ魔女だ、落ちぶれた貴族と言われても侯爵は侯爵なのです。
やはり彼女という人物そのものが、私の様な取るに足らぬ人間であっても、決して見下すことなく対等に接してくれたのです。
そんなこともあり、私には細々ではありますが、医師として病気を見てほしいと仕事をもらえるようにもなりました。
私は貴族相手にお金を稼ぐ様になる事ができたのです。
友を持つとはまさに宝物を持つに等しいと、ようやく理解しました。
今度は子育てに忙しいのか、私が医者として働く様になったからか、義姉は何も言わなくなってきましたが、早く家を出て欲しいという視線は変わりません。
私の逃げ場所はまだまだサロンや社交界のようです。
あの後の記憶は私にはありませんでした。馬車の中で彼女の残り香を思い出すと、やはりあれは夢ではなかったのか?と疑念が湧きます。
そして仮にもそれが夢だとしても、愚かな私は彼女の申し出を断ってしまったのです。
「マ、マドモワゼル!そんな!!」
「そんな?」
「いや、私の様な……それも貴族の末端の末端。風吹けば消えるような門家です。
誰がどう見てもマドモワゼルの家には合いません。それにー…」
「それに?」
魔女の家系だから怖いなんて絶対に言えませんでした。
先程まであんなにも、大見得切っておりましたが、やはり怖いものは怖いのです。
家以外のそれらしい言い訳を見つけないといけません。
「魔女の一族だから?」
もう本当にどうしてこの淑女は、私が思ってる事を当ててくるのでしょう?
どうして、そこでSiなんて言えるでしょうか?
「……マドモワゼル、お互い会って2回目です。まずはお互い知らないでしょう?普通は家同士の家長が話を進めるものです。」
もっともらしい言い訳はこれしかありません。
魔女の一族とはいえ、相手は侯爵家です。持参金は破格でしょうが、そんな高貴な身分の方が私の様な家に嫁入りなんてできるわけがありません。それで逃げ切り、話を終わらせましょう。誰も傷つきません。
「もうお互い大人なのになぁ。私もようやく15になったのに。」
じゅう…ご…?彼女はまだ15の乙女だったのです。身長のせいで、私より7歳も年下だとは思いもしませんでした。
「うーん。婚活て難しいなぁ。」
この独り言は私に向けてなのでしょうか。本当にただの独り言なのでしょうか。
15になったばかりのマルグリットは、婚活のために滅多に顔を出さない社交界へ出てきた。
それも家長の父親と共に!
先程の発言からしてあらぬ噂や、異名のせいで結婚相手を見つけるのが大変なのだと推測します。
それでも、少なくとも当時の私にその責任を背負う勇気はありませんでした。
「まぁ、しょうがないよね。でも友達ではいてほしいな。また声をかけるよ。」
彼女の諦めの速さは、私の意思替わりの速さと同じぐらいでした。
あっという間にバルコニーには私だけ。吹かれる風と共に彼女の残り香も消えていきました。
冒頭で述べたように、もうその後の事はなにも記憶にございません。
それを後悔と言うには軽く、失恋には程遠い世界でした。
その後も、私は変わりなくサロンや夜会へ通いました。
時折彼女を見つけては、心臓がチクリとしました。
彼女の方はというと、私を見つけては小さく手で挨拶してくれたり、あの日と変わらず声をかけてくれました。時折、彼女を介して他の貴族を紹介してくれたお陰で、少しずつ私にもコネクションができつつありました。
そして、いつの間にか私は背徳な行為のためのパイプをふかしにバルコニーへ近づくことはありませんでした。
私が振った後もなおも変わらず、接してくれる彼女に申し訳が立たなかったのです。
その代わり、サロンでは随分とパイプの量が増えたと思います。
「ダントン、お前……パイプの吸いすぎじゃないか?」
「パイプは精神医学的にも良いと、論文に書いてあったんです。大丈夫です。」
もし本当にそうなら、この論文を書いた医者は大馬鹿者でしょう。
ちっとも良くなるような気配は無かったのですから。
もっとも、彼女と会った時に胸の痛みに気づき、パイプをふかせばマシになるかもしれない。
しかし、それもできなかったのです。言いようの表せない感情は社交シーズンが終わったあとも続きました。
窓には雪がチラつき、聖夜祭の準備が始まります。1年の中で1番忙しい時期です。
義姉も準備で忙しいのか、最近は何も言ってきません。義姉に替わり、私は生まれたばかりの2番目の甥っ子と、1番上の甥っ子の面倒を見る機会がしばしばありました。
特に1番上の甥っ子に字や数を教える事もしており、教える事は、存外悪くないと感じました。どうやら私には教えることに才能はあったようです。
そんな傍らで、友とも言えぬ貴族と手紙のやり取りはありましたが、あまり良いものではありませんでした。
突飛な投資の計画話や経営話は、私が読む突飛な医療論文よりやっかいなものでした。
Je ne puis accepter.(受け入れることはできません)
と書くようなもんなら、返事が来ることはありません。
しかし、マルグリット嬢の紹介で得たコネクションは、社交シーズンが始まるまできちんとしておりました。
この質の違いは彼女がしっかりした出自だからなのでしょう。
たとえ魔女だ、落ちぶれた貴族と言われても侯爵は侯爵なのです。
やはり彼女という人物そのものが、私の様な取るに足らぬ人間であっても、決して見下すことなく対等に接してくれたのです。
そんなこともあり、私には細々ではありますが、医師として病気を見てほしいと仕事をもらえるようにもなりました。
私は貴族相手にお金を稼ぐ様になる事ができたのです。
友を持つとはまさに宝物を持つに等しいと、ようやく理解しました。
今度は子育てに忙しいのか、私が医者として働く様になったからか、義姉は何も言わなくなってきましたが、早く家を出て欲しいという視線は変わりません。
私の逃げ場所はまだまだサロンや社交界のようです。
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