ダントン回想録

大変よくできました

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回想録6

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サロンで大見得を切った後、私はすぐに家に帰り、ペンを取りました。
「明日の私に任せよう」が遂に来たのです。
 
 『  マドモワゼル マルグリット
 愛しのマルグリット
 神の子のようなマルグリット

 私は貴女に会えないこの歯がゆさを手紙に残しました。
 貴女の愛を今度こそ受け止めようと参ります。
 あの情熱の夜をもう一度……。
 私は今すぐにでも貴女の足にキスをしたい。
どうか、この煩悶に耐える私を、もう一度見てください。
 貴女をお慕い申し上げます。

 ダントン・ドラン』
 
 ダメです。全然書けません。先ほどの強い意志を持った私はどこへ行ったのでしょうか。
 私はインクの乾かぬ紙を前に、ペンを置きました。
――明日の私は、今の私より勇敢であるはずなのですから。

 それから、無情にも3ヶ月程月日は流れてしまい、いつの間にか夏が訪れようとしておりました。
 明日の私はついぞ、訪れることはなく、マルグリット嬢と全く会えない日々を過ごしておりました。
 そう、彼女は社交界へ全く出てこなかったのです。
 ――もしかして婚約相手が見つかったのだろうか。
 婚活中だったのなら、尚更です。
しかし、もしそうなのであれば、彼女に恋をした1人の男は、しっかりと祝わないとなりません。

 私宛のダニエル=フランソワ・ド・ラ・トゥール侯爵からの手紙は、貴族達とブラフで勝負していた時のカードよりも重みがありました。
 ラ・トゥール家の現当主であり、マルグリットの父親である超大物人物です。
 挨拶だってまともにした事はありません。

 手紙を受け取った執事も青ざめており、「ご自分で、お父上にかけあう方がよろしいかと……」と小声でいう始末です。
  
 彼の気遣いは、まだ両親にこの手紙が届いたことを知らせていない、それだけです。
 なんとも言えない気の利きようですが、今はそれで充分です。

 金色の蜜蝋に、ザクロの実を咥えギョロリとこちらを見つめるフクロウの紋章…。
 間違いなく本物です。

 震える手で封を切ると、執事は黙って十字を切りました。
私は思わず彼を見ましたが、彼は今にも泣きそうな顔をしておりました。
「さぁ…ダントン様、早く…。」やるなら一思いにやってくれ、と丁寧且つ分かりやすく手紙へそっと手を向けます。

 早く読んで、この家の行く末を教えて欲しいのです。
 私は手紙を広げると、執事も覗き込んできました。

 『  ダントン・ドラン殿

 医師としての貴殿の名は、折に触れ耳にしております。
 ついては、その知見を是非お聞きしたく、
今度、我が家にて設ける私的な晩餐の席へお越しいただきたい。

 本件は、我が家にとって軽々に扱える性質のものではありません。
 貴殿のご立場をもってすれば、その意味をお汲み取りいただけるものと存じます。

 当日は、医師として、また一人の紳士としての見解を期待しております。
お目にかかれることを、楽しみにしております。
                       
                          ダニエル=フランソワ・ド・ラ・トゥール』

 ………………………………………………。

 執事がまた、十字を切り出しました。
 その後、執事が言うには手紙を読み終えた私は白目を向いて後ろへ倒れたそうです。
 
 執事が事の顛末を両親や兄夫婦に伝えると、その日のドラン家はとても静かで、数少ない女中達は少々暇だったそうです。
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