偽りの愛など必要ありません。さっさと消えてください。

秋津冴

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伯爵令息

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 子供たちを手を取り合い、陽が翳ったことにより丁度良い心地よさになった外気を楽しもうと、一階のテラスで食事をした。
 庭に青々と生い茂る腰の低さ程度のプラタナスの葉が、先の方から黄色に色を変える季節だ。
 秋が来ようとしていた。
 そして時間は少ない。

 子供達をやってきた家庭教師に任せると、ミリアはこれからなぜあんなことが起こるのか、濃いコーヒーを淹れさせて、ゆっくりと考えた。
 それは思考することを止めていた牢屋の中ではできないことだった。
 最も地下のあの部屋の中では、まともな食事も与えられず暴力も続いたために栄養不足で考えることすらつらかったのだが。
 援交の肉体ある今なら、まだどうにかなる気がした。

「あの女が誰かを突き止めよう。多分それが一番早いわ」

 どう考えてもこの半年の間で会ったことのない相手。
 伯爵令息ジョージについて考えるのは馬鹿げている行為だった。
 しかし誰があの女について知っているだろうか。
 地下に閉じ込められた翌日。
 食事は水を運んできた家人たちに聞いても、誰も知らないと首を振って答えた。
 初めて見る相手だと、ミリアの惨状を嘆きながら、そう教えてくれた。

「……あれは嘘じゃない。あの子達はみんな知らなかった。ならどこで出会ったの……」

 男爵の書斎に移動し、いつも通り公務という名の奉仕活動を始めた。
 まがりなりにも、男爵は貴族だ。
 妻ですら知らない女をいきなり後妻に迎えることは、そうそう容易いものではない。
 その程度のことは、世情に疎いミリアでも知っていた。
 結婚した時に互いに誓約を交わしたし、契約書類も教会と貴族を管理する、貴族院に送付した。
 それは今でも効力を持っているはずだ。
 前世ならばともかく、離婚にすら至っていない今なら、それは確実にあるはずだった。

「あの女……子供達とあれほど親しく?」

 母親がいきなり亡くなったという翌日から子供達の嬉しそうな声が、はしゃぐ声が庭から聞こえてきた。
 そんなことは普通ありえるのだろうか。
 あの時気づかなかった当たり前の疑問が次々と、脳裏に湧いてくる。
 それと同時に働くことのなかった頭が、清水を湧き出すかように解答を導こうとしていた。

「騙された? いいえ、違う。ベッキーたちは私の事情に気づいて知っていた」

 夫婦それぞれの両親たちが、そんな異常な状態を許すだろうか。
 それはないだろう……何より伯爵家の仕事はなっていない。
 男爵家の上司に当たる伯爵は、部下である男爵を管理しなければならない。
 そうなると妻の不貞を理由にいきなり離婚をし、新しい女を家に入れて、安穏と時を過ごすことなんて、出来るはずがなかった。
 誰かが味方をしたのだ。それもとても強力な力を持つ誰か。
 それはつまり――。

「親は子供のために最善の方法を尽くさなければならない」

 自らの息子であるジョージのために伯爵は男爵家を、切って捨てたのだ。
 そこまでは理解が及んだ。
 そして見えなかった糸がなんとなく繋がった気がした。
 犯人とまではいかないかもしれない。そんな目星はまだ着いてない。
 ただ、あの女。
 名前すらも教えてくれなかったあの女。
 彼女の容姿は……近所だということもあり、教会で幾度か言葉を交わしたあの青年。
 伯爵令息ジョージによく似ていた。
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