お飾りの側妃となりまして

秋津冴

文字の大きさ
3 / 30

3

しおりを挟む
 最後に殻を破って出てきたおチビちゃんは、コロコロと自分から転がって、まるまると太っていて、羽毛はまだ生えているようで生えていない。
 まるで、大型犬の子供がそこにいるような感じで。
 とても愛くるしくてこれを愛でないというのは、本当にもったいないとしか、言いようがない。
 ただ一つ犬の子供と違う点は、母親の高温に達したドラゴンブレスを受けても平気なところ。
 金属のヤスリのようにザリザリとしたその舌先でなめられても、平然としているところだ。

 さすがにあの舌先で舐められたら、私の頬は、血で染まる事だろう。
 紅の体毛、緑の瞳。
 炎龍とも種族の端に連なるレジーは、大森林の緑を集めたようなその瞳で、じろっと私に視線を移す。
 もう触ってもいいよ、とそんな合図らしい。
 ゴロンゴロンと寝転がりながら、同じ場所をぐるぐる回っている子供に、そっと手を差し伸べる。
 気をつけないと、その口でパクンっと手を噛まれてしまうから、慎重に幼竜に触れてみた。
 
「暖かい‥‥‥。この子、珍しく青いのね」
「フっ」

 そうだ、と言うかのようにレジーが鼻を鳴らす。
 これまで彼女が産んできた幼竜たちは、どれもだいたいオレンジ色か朱色のまんなか。ときたま土色の羽毛で生まれてくる子供もいる。
 だけど、こんな空の青のように真っ青な子供を見たことはなかった。
 父親の血統が初めて色濃く出たということだろうか。
 私は、簡易的な柵で間仕切りのされた隣の房をそっと見やる。
 そこにはレジーの夫である、飛竜の雄がいた。
 彼の名をフィン、という。

 フィンはレジーがどこからか連れてきた夫で、彼のことを私たちはよく知らない。
 私たち‥‥‥竜を操り、大陸の他の国から新参者と呼ばれる、新興のフィラー帝国。
 それが、我が祖国にして、私の祖母が統治するこの国の名前。
 帝国はひい御爺様が興し、まだ歴史は百年少しと浅い。
 周囲には歴史の古いテイラー王国や、我が国と王国を呑み込んで大陸統一を目指すボッソ公国も存在する。
 そんなことを考えてしまったら、途端に現実に引き戻された。

「あーもう、お前たちは可愛いねえー。本当に可愛い」
「お嬢様。皇后陛下がお呼びです」
「……そう」

 声の抑揚が下がる。
 私の口調が変わったことにレジーが反応する。
 妻の反応を見て、夫のフィンもまた、こちらは心配そうに見下ろしていた。
 大丈夫だからね、と竜たちに返事をする。
 おばあ様からの呼び出し。
 それは私にとって分かっていたことだけれども、現実になって欲しくなかったこと。

 どうやら、レジーの子供たちに触れ合える機会は、今日で最後みたい。
 またね、と竜たちに声を掛けてから、竜舎を後にする。
 寂しそうに喉を鳴らす彼女たちには、もしかしたらこれが最後の別れになると分かっていたのかもしれなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

契約婚しますか?

翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。 ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。 どちらを選んでも援助等はしませんけどね。 こっちも好きにさせて頂きます。 初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)

殿下の御心のままに。

cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。 アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。 「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。 激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。 身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。 その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。 「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」 ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。 ※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。 ※シリアスな話っぽいですが気のせいです。 ※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください  (基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません) ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

処理中です...