お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 今回の実験的な計画に採用されたのは、商船ではなく、一般的な石船と呼ばれる、砕石運搬船だ。
 木造のいかだのような構造で、その中央が左右に海面へと開閉するようになっている。

 その上に船体が沈まないようにしながら、規定の重量まで、魔石の端材を積みこんで海中に投棄する仕組みだ。

「あの船の底は重さで抜けないのですか?」

 素人ながらの質問をしたら、船の船長が面白おかしく、教えてくれた。
「あのそこには、あらかじめ魔石から漏れ出る魔力をもとめて、食いしん坊な水の精霊たちがまとわりついておりますので。そいつらを結界で固定して、目的の海域まできたら、結界を解除する」
「ああ、なるほど」
「底板になっている鉄板が曲がったり、折れたりしない限りは、大丈夫なんですよ」

 船長はこんな魔石廃材の海洋投棄をもう、二十年も手掛けているという。
 熟練の職人の仕事を見ているようで、わたしはさすがだな、と唸った。

「その船に竜はやってこない?」
「見ての通り」

 港でこれから出て行こうとしている、まだ廃材を搭載していない船を、彼は指差した。
 その船は全長五十メートルほどあり、わたしが知る竜たちよりも二回りは大きい。

 彼らはよほどのことがなければ、自分より大きい相手に立ち向かうことはない。
 危険な道を選ばなくても、食事をえる方法がちゃんとわかっているからだ。

 もしかしたら帝国で人の作った竜舎に住み、人を乗せて運ぶ代わりに、毎日の食事というのも彼らの考え出した食事を得るための方法の一つかもしれないけど……?

「竜は自分よりも大きい相手に立ち向かうないから」
「王妃様、よくご存知でいらっしゃいますね。子供を連れているとか、危険が迫っているとかでもない限り、そういったことはあまりないでしょう」

 そうなると今回の竜の話になってくる。
 彼の意見を聞いてみたくなった。

「一昨日からばらまいていただいてますこの廃材ですが、効果のほどはいかに?」
「うーん。まだ現れませんね。何といういうか、こう」
「はい?」
「増えた気がするのですよ」
「は? 増えた、とは?」

 もしかして、若い竜を迎えに仲間の竜がやってきたのだろうか?
 砕石運搬船の船長はこれから暇だという。

 その案内に従い、船を見回っていたら、また難問が出てきた気がした。

「私も長く、二十年ほどこの仕事をやっていますので、竜の見た目から年齢というのがだんだんと推察できるなってきました。これまでいたやつはまだまだ若い。生まれて数年、くらいですかね?」
「わたしもそう持ってきました」
「これは奇遇です、王妃様。どうしてそんなお考えに?」

 わたしは半島の鉱山がある方を指差す。
 そこから運ばれてくる廃材を今回、目のまえにある船に積み込んで、海中に投下する作業が始まろうとしていた。

「わたしは帝国の出身ですから、竜の出産に立ち会ったこともあります。もう何回も子供を抱いたことも」
「それは珍しい! そんな話はなかなか聞きませんね。耳にするだけでも貴重な体験になる」
「そんな大したことではありません。冬になると竜は大陸の西側へと移動します。人がたどり着けない険しい場所で、彼らは産卵するといわれています」
「それなのに帝国では、竜を飼育している、と?」
「まあ、それは今回の話ではありません。産卵するためには、公国を通り越して、さらに西へと下る必要があります。でもそれは、若い竜が単独で行うには難しいはず。仲間の案内が必要だと思います」

 今回、騒動を起こしている竜は仲間からはぐれたのではないか、と。それが私の持論だったりする。
 年長の竜が幼い竜を迎えにきてくれているなら、これほどありがたいことはない。

 さっさと魔石の廃材を食べて体力をつけ、西へと向かって欲しいものだ……と思っていたら。

「船長! 先に海に出て、投棄し終わった船が戻ろうとしたら」

 若い水夫が報告に来た。
 あれ、また何か問題発生?

「竜たちが船の周りをやたら泳いでまわるので、船を動かせないとか、連絡が入りましたよ!」
「またかよ! で、何匹いる?」
「背びれの数から、三頭はいるみたいです」

 おやおや、これは一大事だ。
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