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第四話 真紅の泥棒猫
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視界に移りこんでくるのは黒髪にハシバミ色の瞳が美しいエレンと、真紅の泥棒猫だった。
どこか余裕のない二人の瞳には、短く少年のようにカットしたブロンドの美しいショートヘアーの少女が背を向けて立っている。
青い苔色の瞳は、自分でも驚くほど透き通って見えた。
感情を無にしたような、そんな透明度だ。
(確かに、こんな目で見つめられたら、己の罪を知る人間はいたたまれなくなるでしょうね)
なんとなく二人が怯えるようにして立ち尽くす事情が、理解できた気がした。
「わっ、わたしは確かな確証を証明できます、わ……イライザ様」
ローザがひるむエレンの手をつかみ、ぐいっと胸元に引き寄せる。
まさか……?
この女、その本性はまさかの泥棒猫? なんて思ってしまう。
真紅の悪女。自分ではそうと理解していない、周囲を惑わす魔性の女……の卵。これから数多くの男性を惑わし、浮名を流していくのだろう。
「まさか、聡明な殿下ともあろうお方が、そのようなたった一人の証言で、王命によって成立した公爵家と王家との約束。婚約を破棄しようと?」
「あ、いや……」
お粗末な返事が彼の口の端に漏れる。
群衆をかき分けてその場に引き出されたローザは、場のどよめきに興奮したのか、ちょっとだけ頬に朱が差していた。
多分、こういった場に立つことすら経験が少ないのだろう。
なんてつまらない。そう思うと、心に余裕が生まれる。
はあ、と盛大な失望交じりのため息が生まれて、人々の息遣いのなかに埋もれていく。
「一人ではない。彼女の発言をもとにして、慎重な捜査を行った! その結果をいま伝えている」
「それならば、私的な制裁はこの学院では禁じられておりますが……」
だからだろうか。
イライザは彼の発言をある程度、余裕をもって聞き入れることができた。
と、変なところを心で褒めてしまう自分を、イライザはダメね、としかった。
今はそんな点などどうでもいい。
だが、生まれながらにして王族の彼は、人身を欺き掌握することにかけては、天性の素質を持っていた。いずれ王になり、政治を掌握するだろう未来を共に見れると思っていたのに……。その願いはどうやら叶わないようだ。
「王族は学院の定めるこっ、校則に……縛られない、です……」
と、弱気な進言がなされた。
ローザによるものだ。
「その通りだぞ、ローザ嬢! だからこそ、俺はいまここで婚約を破棄する! それを命じる正当性がある!」
「そうですわ、殿下、が。こう申されるのです、から。王命に等しいと……思われます」
ローザは意を決したように、エレンの後に続いた。
どこか余裕のない二人の瞳には、短く少年のようにカットしたブロンドの美しいショートヘアーの少女が背を向けて立っている。
青い苔色の瞳は、自分でも驚くほど透き通って見えた。
感情を無にしたような、そんな透明度だ。
(確かに、こんな目で見つめられたら、己の罪を知る人間はいたたまれなくなるでしょうね)
なんとなく二人が怯えるようにして立ち尽くす事情が、理解できた気がした。
「わっ、わたしは確かな確証を証明できます、わ……イライザ様」
ローザがひるむエレンの手をつかみ、ぐいっと胸元に引き寄せる。
まさか……?
この女、その本性はまさかの泥棒猫? なんて思ってしまう。
真紅の悪女。自分ではそうと理解していない、周囲を惑わす魔性の女……の卵。これから数多くの男性を惑わし、浮名を流していくのだろう。
「まさか、聡明な殿下ともあろうお方が、そのようなたった一人の証言で、王命によって成立した公爵家と王家との約束。婚約を破棄しようと?」
「あ、いや……」
お粗末な返事が彼の口の端に漏れる。
群衆をかき分けてその場に引き出されたローザは、場のどよめきに興奮したのか、ちょっとだけ頬に朱が差していた。
多分、こういった場に立つことすら経験が少ないのだろう。
なんてつまらない。そう思うと、心に余裕が生まれる。
はあ、と盛大な失望交じりのため息が生まれて、人々の息遣いのなかに埋もれていく。
「一人ではない。彼女の発言をもとにして、慎重な捜査を行った! その結果をいま伝えている」
「それならば、私的な制裁はこの学院では禁じられておりますが……」
だからだろうか。
イライザは彼の発言をある程度、余裕をもって聞き入れることができた。
と、変なところを心で褒めてしまう自分を、イライザはダメね、としかった。
今はそんな点などどうでもいい。
だが、生まれながらにして王族の彼は、人身を欺き掌握することにかけては、天性の素質を持っていた。いずれ王になり、政治を掌握するだろう未来を共に見れると思っていたのに……。その願いはどうやら叶わないようだ。
「王族は学院の定めるこっ、校則に……縛られない、です……」
と、弱気な進言がなされた。
ローザによるものだ。
「その通りだぞ、ローザ嬢! だからこそ、俺はいまここで婚約を破棄する! それを命じる正当性がある!」
「そうですわ、殿下、が。こう申されるのです、から。王命に等しいと……思われます」
ローザは意を決したように、エレンの後に続いた。
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