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第五話 王族弄り
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(やれやれ、まともな罪状を示せずに、いきなり婚約を破棄する、ですか。お粗末、どこまでも愚かな殿下。こんな中途半端な断罪をしては、周囲も納得しませんのに)
だが、これは宣言でも告白でもなく、決定的な通告だ。
反論は許されず、いわば王命に近い。
質問をするだけでも、下手をすれば罪人に処されてしまう。
イライザは否定の声を上げようとして、ぐっと自分を抑え込んだ。
いま異論を唱えることは相手の優位を確立してしまう。
「謹んでお受けいたします。王命に準ずると申されるのであれば、陛下も我が公爵家の当主たる父も……下知をいただくでしょうから」
「いい心がけだ、この魔性の女が! 顔を上げろ、白々しく俯いたところで、お前の罪は消えない」
「はい、殿下。……魔性の女、とはどういうことでございましょうか? 先ほども売女、悪女、とさまざまな言われようでしたが、罪を知らなければ己を恥じることもできません」
「おいおい、イライザ。お前はいつから動物になった?」
「は?」
吐き捨てるように、忌まわしい何かを排除するかのようにエレンは叫んだ。
いや、人間も動物だが?
心で軽く毒づいてやる。
遠くからこちらに向けてくる講師たちの姿がイライザの目に映った。終わりは近そうだ。
「この半年間、お前は先に名を挙げた男性たちと、このローザを通して交際を重ねていたことは、すでに明らかになっている」
「どのような場で、どのような動機から、どのような交際でございましょうか?」
「がっ、学院、の。行事を通じて、イライザ様はわたしに各方々と連絡を取るように……命じられました。そのあとは、馬車や生徒会室、ある時は商会の個室にて。密会の日時、状況、誰とおられたかも。もっと多く事実があります」
おおっ、と聞き入っていた群衆がざわついた。
だけど誰もが愚か者ではなくて、その中から幾つかの質問が飛ぶ。
「どうしてローザ嬢はそんなことを知っているんだ?」
「命じられて密会を設定したなら、ローザ嬢にだって責任はあるのではないでしょうか?」
「このような場で追及されるべき事柄とも思えません。事は重大で王家の問題です……法に準じた形で罪を問われるのが適法ではないでしょうか、殿下」
下級生、上級生、果ては駆け付けた講師たちからの助言、質問が飛び交い、場は一気に過熱する。
(まあ、皆様意地悪な。ここを切り抜けられなければ、殿下は王位には就けませんわね)
思わず悪意に満ちた笑みがこぼれそうになるイライザだった。
「いや、これは王命だ! 何の文句上がる?」
「王命であれば、正しき書状がなくては効力を為さないのでは?」
「王命の執行には裁判官と近衛騎士の立ち合いが執行に必要な条件ですが。王国法をご存知でしょうか、殿下?」
矢継ぎ早に繰り出される質問たち。
王族は確かに校則に縛られないが、その権力を違法に振りかざして好き勝手をしていいという理由には至らない。
法学部の生徒たちが面白そうに、失礼に当たらないよう気を配りながら、王子と確証があるというローザを責め立てる。
だが、これは宣言でも告白でもなく、決定的な通告だ。
反論は許されず、いわば王命に近い。
質問をするだけでも、下手をすれば罪人に処されてしまう。
イライザは否定の声を上げようとして、ぐっと自分を抑え込んだ。
いま異論を唱えることは相手の優位を確立してしまう。
「謹んでお受けいたします。王命に準ずると申されるのであれば、陛下も我が公爵家の当主たる父も……下知をいただくでしょうから」
「いい心がけだ、この魔性の女が! 顔を上げろ、白々しく俯いたところで、お前の罪は消えない」
「はい、殿下。……魔性の女、とはどういうことでございましょうか? 先ほども売女、悪女、とさまざまな言われようでしたが、罪を知らなければ己を恥じることもできません」
「おいおい、イライザ。お前はいつから動物になった?」
「は?」
吐き捨てるように、忌まわしい何かを排除するかのようにエレンは叫んだ。
いや、人間も動物だが?
心で軽く毒づいてやる。
遠くからこちらに向けてくる講師たちの姿がイライザの目に映った。終わりは近そうだ。
「この半年間、お前は先に名を挙げた男性たちと、このローザを通して交際を重ねていたことは、すでに明らかになっている」
「どのような場で、どのような動機から、どのような交際でございましょうか?」
「がっ、学院、の。行事を通じて、イライザ様はわたしに各方々と連絡を取るように……命じられました。そのあとは、馬車や生徒会室、ある時は商会の個室にて。密会の日時、状況、誰とおられたかも。もっと多く事実があります」
おおっ、と聞き入っていた群衆がざわついた。
だけど誰もが愚か者ではなくて、その中から幾つかの質問が飛ぶ。
「どうしてローザ嬢はそんなことを知っているんだ?」
「命じられて密会を設定したなら、ローザ嬢にだって責任はあるのではないでしょうか?」
「このような場で追及されるべき事柄とも思えません。事は重大で王家の問題です……法に準じた形で罪を問われるのが適法ではないでしょうか、殿下」
下級生、上級生、果ては駆け付けた講師たちからの助言、質問が飛び交い、場は一気に過熱する。
(まあ、皆様意地悪な。ここを切り抜けられなければ、殿下は王位には就けませんわね)
思わず悪意に満ちた笑みがこぼれそうになるイライザだった。
「いや、これは王命だ! 何の文句上がる?」
「王命であれば、正しき書状がなくては効力を為さないのでは?」
「王命の執行には裁判官と近衛騎士の立ち合いが執行に必要な条件ですが。王国法をご存知でしょうか、殿下?」
矢継ぎ早に繰り出される質問たち。
王族は確かに校則に縛られないが、その権力を違法に振りかざして好き勝手をしていいという理由には至らない。
法学部の生徒たちが面白そうに、失礼に当たらないよう気を配りながら、王子と確証があるというローザを責め立てる。
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