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最高の贈り物
こういった辺境と呼ばれる土地は、足元の舗装や装飾も華美ではないと思われがちが、そうではなかった。
大街道から右に折れてこの城まで通じる街道は、すべて岩石、大理石を砕いたものを混ぜこんだコンクリートと
素焼きのレンガで馬車二台が往来できるほど広く作られていた。
車専用の車道があり、わだちもそれ専用に深く掘り下げられていた。
その左右には人が行き来するための歩道が整備され、約四キロごとに、兵が立っていて、その近くには詰め所が見えていた。
主要な街道の分かれ道にはそれ以上に兵が置かれ、馬舎も見えたから、有事の際には城へとそれを走らせるのだろう。
この辺境伯領に入ってから目にした兵たちは、誰もが鋭い視線と鍛え抜かれた体躯、規律ある動きをしていて、辺境伯の管理が隅々にまで至っているのがよく分かる。
一週間ほど前に目にした光景を思い出しながら、場所を三階にある自室の書斎に移動して私は二度ほど、その一枚の紙に目を通し、悩んでいた。
「殿下を廃嫡させた。大神官と組み、分神殿への神官の増員を決定した。王都から辺境伯領への本神殿機能の移動を陛下に認めさせた。私の宣言通り、これから女神教は同じ女神を崇める獣人族の国々との和平を目的として、辺境伯領を本拠地とし‥‥‥」
はあ、と本日数度目の重いため息を口から漏れ出してしまう。
「聖女様を、辺境伯領の領主として、管理権限を委譲する。これによって‥‥‥グレイスター辺境伯領は、女神ラフィネ様の名を冠する、ラフィネ聖教国とその名を改めて独立自治区となることになりました。なお、このことは、周辺各国も同意の上のことであり‥‥‥」
あーもう、勘弁してくださいと、心が叫んでおります。
グレイスター辺境伯は、そのもてるすべての力を総動員して、私のためだけに動いてくれたのだから。
その本意が、女神ラフィネのためなのか。
それとも、彼と同じく信徒たちのためなのかは、計り知れない。
どちらにせよ形の上では、私のため。という言葉を彼は使いたいらしい。
なぜかというと、文面の最後に。
「我が敬愛する地上で最上であり、最良の女性のためにこの報告を捧げる」
なんて、どうみても恋文のような文言を挿れていたからだ。
これをどう受け取れと‥‥‥赤面に継ぐ赤面で、頭が茹で上がってしまって、なんだか生きている心地がしなかった。
彼が、そんな想いを私に抱いてくれていたなんて、と。
現実を受け止めきれないでいた。
この後。
もう一度彼を私の屋敷に誘って、夕食を一緒にしてみようと思うのだけれど。
男性とそういったお付き合いがあるのは、あの元殿下とだけ。
婚約破棄をされて、ほんの少しの時間をおいただけで、男性を夕食に誘うのは‥‥‥不貞だろうか?
はしたないだろうか?
「聖女様! 何をぼうっとなされているのですか。こんな時は勢いですよ、勢い! 早くお誘いしなければ、あちらにその気がなかったと思われてしまいますよ!」
と、私の心の動揺を気にすることもなく、リーレがそう言って彼に誘いの手紙を書けと、紙とペンを押し付けてくる。
「それよりもほら、早くそこに署名をして頂きませんと! 日付がどんどん遠ざかってしまいます」
「……分かっているわよ。でもなに、この書類。発行年月日が、あの日になってる」
目の前に置かれたもう一枚の書類。
それは国王陛下と、関連する重臣や大神官などの連盟が為されたもので。
正式な、こちらからの『婚約破棄申し立て書』だった。
これに署名さえしてしまえば、私から元殿下に対して、婚約破棄をしたことになる。
それも、彼からあの屈辱を受けたあの日に、だ。
どうやら王太子殿下を廃嫡し、生涯にわたって幽閉するには、これくらいの建前が必要、と。
そういうことらしい。
「これって、公文書偽造罪に問われないのかしら……」
「聖女様!」
「はいはい」
そう言い、サラサラ、と。
自分の名前を所定の場所に署名する。
これで正式な婚約破棄は成立‥‥‥したのかな?
いや、したのだ。
辺境伯様とその他の方々には、後程、厚くお礼申し上げることにします。
とにかく‥‥‥書類の発行年月日は、あの最悪の日のものだから、記憶だけは変えれないけれど。
私は、心の中でこう叫んだのだった。
本日は、絶好の婚約破棄日和です、と。
大街道から右に折れてこの城まで通じる街道は、すべて岩石、大理石を砕いたものを混ぜこんだコンクリートと
素焼きのレンガで馬車二台が往来できるほど広く作られていた。
車専用の車道があり、わだちもそれ専用に深く掘り下げられていた。
その左右には人が行き来するための歩道が整備され、約四キロごとに、兵が立っていて、その近くには詰め所が見えていた。
主要な街道の分かれ道にはそれ以上に兵が置かれ、馬舎も見えたから、有事の際には城へとそれを走らせるのだろう。
この辺境伯領に入ってから目にした兵たちは、誰もが鋭い視線と鍛え抜かれた体躯、規律ある動きをしていて、辺境伯の管理が隅々にまで至っているのがよく分かる。
一週間ほど前に目にした光景を思い出しながら、場所を三階にある自室の書斎に移動して私は二度ほど、その一枚の紙に目を通し、悩んでいた。
「殿下を廃嫡させた。大神官と組み、分神殿への神官の増員を決定した。王都から辺境伯領への本神殿機能の移動を陛下に認めさせた。私の宣言通り、これから女神教は同じ女神を崇める獣人族の国々との和平を目的として、辺境伯領を本拠地とし‥‥‥」
はあ、と本日数度目の重いため息を口から漏れ出してしまう。
「聖女様を、辺境伯領の領主として、管理権限を委譲する。これによって‥‥‥グレイスター辺境伯領は、女神ラフィネ様の名を冠する、ラフィネ聖教国とその名を改めて独立自治区となることになりました。なお、このことは、周辺各国も同意の上のことであり‥‥‥」
あーもう、勘弁してくださいと、心が叫んでおります。
グレイスター辺境伯は、そのもてるすべての力を総動員して、私のためだけに動いてくれたのだから。
その本意が、女神ラフィネのためなのか。
それとも、彼と同じく信徒たちのためなのかは、計り知れない。
どちらにせよ形の上では、私のため。という言葉を彼は使いたいらしい。
なぜかというと、文面の最後に。
「我が敬愛する地上で最上であり、最良の女性のためにこの報告を捧げる」
なんて、どうみても恋文のような文言を挿れていたからだ。
これをどう受け取れと‥‥‥赤面に継ぐ赤面で、頭が茹で上がってしまって、なんだか生きている心地がしなかった。
彼が、そんな想いを私に抱いてくれていたなんて、と。
現実を受け止めきれないでいた。
この後。
もう一度彼を私の屋敷に誘って、夕食を一緒にしてみようと思うのだけれど。
男性とそういったお付き合いがあるのは、あの元殿下とだけ。
婚約破棄をされて、ほんの少しの時間をおいただけで、男性を夕食に誘うのは‥‥‥不貞だろうか?
はしたないだろうか?
「聖女様! 何をぼうっとなされているのですか。こんな時は勢いですよ、勢い! 早くお誘いしなければ、あちらにその気がなかったと思われてしまいますよ!」
と、私の心の動揺を気にすることもなく、リーレがそう言って彼に誘いの手紙を書けと、紙とペンを押し付けてくる。
「それよりもほら、早くそこに署名をして頂きませんと! 日付がどんどん遠ざかってしまいます」
「……分かっているわよ。でもなに、この書類。発行年月日が、あの日になってる」
目の前に置かれたもう一枚の書類。
それは国王陛下と、関連する重臣や大神官などの連盟が為されたもので。
正式な、こちらからの『婚約破棄申し立て書』だった。
これに署名さえしてしまえば、私から元殿下に対して、婚約破棄をしたことになる。
それも、彼からあの屈辱を受けたあの日に、だ。
どうやら王太子殿下を廃嫡し、生涯にわたって幽閉するには、これくらいの建前が必要、と。
そういうことらしい。
「これって、公文書偽造罪に問われないのかしら……」
「聖女様!」
「はいはい」
そう言い、サラサラ、と。
自分の名前を所定の場所に署名する。
これで正式な婚約破棄は成立‥‥‥したのかな?
いや、したのだ。
辺境伯様とその他の方々には、後程、厚くお礼申し上げることにします。
とにかく‥‥‥書類の発行年月日は、あの最悪の日のものだから、記憶だけは変えれないけれど。
私は、心の中でこう叫んだのだった。
本日は、絶好の婚約破棄日和です、と。
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