剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
165 / 422
ザッカラン防衛戦

164話

しおりを挟む
 アランとレオノーラがデート――そう言えば本人たちは否定するだろうが――をしてから数日。
 アランの姿は、大樹の遺跡にあった。
 とはいえ、地上一階部分にだったが。
 地下八階以降の、アランたち以外にとっては未踏破だった砂漠のある場所は、何だかんだとまだ多くの者が到達してはいない。
 ……それは、少数ではあるが地下八階に到達した者がいるということでもあるのだが。
 大樹の遺跡が攻略されたということで、さらには地下二十階に存在する大樹の素材が売りに出されたことで多くの探索者がザッカランに集まってきていたが、それはまさに玉石混淆といった感じだった。
 玉は地下八階に到達したような探索者たちだし、石は数日前にアランとレオノーラが遭遇した酔っ払った探索者といったところか。
 もっとも、その探索者であっても素面ではアランよりも強いのは間違いないのだが。

「アランさん、この野菜は採っても大丈夫ですか?」

 アランとそう年齢の変わらない……それこそ、探索者になったばかりといった男が、目の前に生えている植物を見ながら、そう尋ねる。
 とはいえ、実際にはアランは物心がついたときから雲海の探索者として活動してきたので、探索者歴として考えればかなり長いのだが。
 それに比べると、アランに尋ねてきた男の方は正真正銘探索者になったばかりなのは間違いなかった。

「ああ。その野菜はそこまで高くはないけど、それでも色んな料理に使われるから、基本的に買い取りされないということはない。採れるだけ採っていった方がいい」

 男の手にしている野菜は、イメージ的にはタマネギのような野菜だ。
 アランが口にしたように色々な料理に使うことが出来るうえ、それなりに日持ちもする野菜だ。
 自分たちで使ってもいいし、ギルドで売ってもいいし、自分で直接どこかの店に持っていって売ってもいい。
 そんな便利な野菜なのは、間違いなかった。

「そうなんですか。いや、アランさんを雇うことが出来てよかったです。でないと、その辺についても分からなかったでしょうし」

 それは正直どうなんだ? と、そうアランも思わないことはない。
 いくら探索者になったばかりだとしても、やはり普段から使う野菜についてくらいは知っていて当然だろうと、そんな意識がアランにはあった。
 そもそも、自分が生活する上で料理とかをする必要もあるのだし。
 ……そう思うのは、あくまでもアランだからだろう。
 小さい頃から雲海で行動していたアランは、当然のように料理の類もそれなりにやる。
 あくまでもそれなりであって、極上の料理を作れるといったようなことではないのだが。
 男が手にしている野菜を使って料理をすることも、珍しくはない。

「アーランだっけ? お前は自分で料理をしたりしないのか?」
「え? あ、うーん。……やっぱり面倒ですし、外食のことが多いですね。それに仕事が終わったあとで自炊をするのは厳しいですし。金額的にも、ちょっと……」

 そう言われれば、アランとしても納得出来てしまう。
 アランの場合は、雲海というクランが存在する。
 だからこそ、料理をするときは他の者たちのよりは早く仕事を終わったりといったようなことが出来た。
 だが、それはあくまでもクランだからだ。
 しかし、今回アランが護衛兼案内をしてるアーランのように、ソロの……それも探索者になったばかりの者にしてみれば、金がかかると分かっていても外食の方が時間の節約としてもいいのだろう。
 また、外食をしていれば他の探索者と友好的な関係になることも多く、上手く行けばその相手とクランを組むことも可能になるかもしれない。
 ……何より、自炊というのはある程度の知識がある者がやれば節約になるが、その手の知識がない者が自炊をしようとすれば、それこそ外食以上に高額になってもおかしくはない。
 アランも全てを自分でやるといったようなことになれば、何だかんだと高くなりそうな気がしていた。

「最初はどうしてもそうなるかもな。けど、探索者として活動していくのなら……いや、別に探索者じゃなくても、料理ってのは出来た方が色々と助かるぞ。遺跡に向かうのにも数日かかる場合があるし、遺跡の探索でも深い場所だと数日かかるのは珍しくないし」

 そう告げるアランの口調は、どこか嬉しげな色がある。
 雲海の中でアランは一番の末っ子のような状況にある。
 能力的に決して高くはないのがその理由だ。
 そんなアランにとって、自分が上の立場で人に教えることが出来るというのは、かなり珍しい体験なのだろう。
 今回の仕事はイルゼンから勧められた仕事だったのだが、やってよかったとしみじみと思う。
 ……とはいえ、アランにとってこの仕事が本当に面白いものかと言われれば、微妙なところだが。

(ザッカランに近付いてるガリンダミア帝国軍の件……本当に今は俺が何もしなくてもいいのか? いやまぁ、俺に何が出来るかって言われれば、微妙なところだけど)

 現在のアランが出来るとすれば、それこそゼオンに変身して城壁の修理や増築に使う資材を運ぶといったようなことや……もしくは、空を飛べるというのを利用して上空から周囲を偵察し、ガリンダミア帝国軍の存在を察知すること。
 ……もしくは、近付いてくるガリンダミア帝国軍を先制攻撃で一気に撃破することか。

(けど、それは止められてるんだよな。……俺が攻撃するのが一番手っ取り早いと思うんだけど。まぁ、イルゼンさんのことだから、間違いなく何かを企んでるんだろうけど)

 ガリンダミア帝国軍を率いてるのが誰なのかというのは、アランにも分からない。
 ただ、出来れば前回とは違う相手だといいというのが、正直なところだった。
 何しろ、指揮官が有能だった関係でゼオンの奇襲は最初こそ効果を上げたものの、最終的には完全に無効化……とまではいかなかったが、それでも被害を押さえられるようになったのだ。
 突然の襲撃でそのようなことだったのだから、前回と同じ指揮官がしっかりとゼオンの能力を知った今なら、間違いなくもっと有効な対処法を考えてきてもおかしくはない。
 ……だからこそ、アランも現在の自分が一体何を出来るのかと、そう疑問に思うのだが。

「アランさん、どうしました?」
「あ、いや。何でもない。……けど、この時期に、よくザッカランまで来るつもりになったな」
「何とかして、金を稼ぐ必要があったから。危険だというのは分かってるんですけどね」

 少しだけ暗い表情で告げる男。
 金が欲しいというその様子から、何らかの事情があるというのはアランにも理解は出来た。
 だが、それについて深く追求する気はない。
 今は依頼ということで男と一緒にいるアランだったが、この依頼が終わればその関係性は絶たれる。
 であれば、ここで無理に関わる必要はないだろうと、そう判断したためだ。
 これが雲海や黄金の薔薇の者たちであれば、アランもそのままには出来ず、話を聞くような真似はしていただろうが。

「そうか。なら、もう少し稼げる場所に行くか。ほら、こっちだ」

 アランが出来るのは、そうやってもう少し高く買い取ってくれる野菜や果物のある場所を案内するだけだ。
 とはいえ、そんなアランの態度は男にとっても嬉しいものだ。
 男の方にもアランには全てを話せないが、色々と事情がある。
 そうである以上、少しでも高く売れる野菜や果物の類は、是非知りたいところだったのだから。

「この果実は高く売れる。けど、皮に傷を与えると、それだけで味に影響が出るから、収穫するときもそうだけど、ザッカランまで持ち帰るときも慎重にする必要がある」
「それは……大変そうですね」
「だろうな。正直、かなり面倒な果実だ。ただ、だからこそ無傷でザッカランまで持っていけば、高く売れるんだよ」

 地下にすら潜らない、地上の一階部分で誰でも収穫は出来る果実だ。
 当然のように普通ならそんなに高くはないのだが、傷を付けると味が落ちるこの果実の場合は、取り扱いが面倒なこともあって、相応に高く売れる。
 かなり神経質に扱わないといけないのだが、幸いアランを雇った探索者はその辺についての才能も相応にあるようで、問題なく果実を採取出来たらしい。

「これは……出来れば布とかに包んだ方がいいんですかね?」
「傷を付けないという意味では、そっちの方がいいかもしれないな。ただ、慎重に運ぶとなると、敵と戦うときには気をつける必要があるけど」
「それは……」

 アランの指摘に、男は言葉に詰まる。
 戦いのときに果実に気を遣いながら動くといった真似をした場合、ただでさえ探索者となったばかりの男にしてみれば、まともに戦えるかどうかと、そう思ってもおかしくはない。

「一人だと難しいから、ポーターの類を探してきた方がいいかもしれないな」

 荷物持ちのポーターは、当然のように荷物を持つという行為においては高い技術を持つ。
 素人、それに探索者や冒険者になったばかりの者にしてみれば、荷物を持つ技術? と馬鹿にする者もいる。
 だが、中堅くらいの実力を持つ者になれば、ポーターの重要性を理解する者も多い。
 実際、雲海や黄金の薔薇にも専門のポーターとして働いている者はいるのだから。
 そのような者たちにしてみれば、傷を付けないように果実を持っていくというのは難しい話ではなかった。

「ポーターですか。そうですね。出来れば、もっと実力に自信がついたら雇いたいと思います。今はまず、自分の稼ぐ分だけで精一杯ですから」
「腕の立つポーターがいれば、この果実とかももっと大量に持って帰れるんだが?」
「ぐ……」

 痛いところを突かれたといった様子で、男が呻く。
 実際、ポーターがいれば多数の果実を持って帰ることが出来て、収入が増える可能性は高い。
 ……もっとも、その場合は腕のいいポーターを探す必要があったが。
 ポーターに技術がある以上、当然のようにその技術には上手い下手がある。
 だからこそ、しっかりとした技術を持つポーターを選ぶ必要があった。
 そして、探索者になったばかりの男は、その目利きに自信がないのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...