剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
166 / 422
ザッカラン防衛戦

165話

しおりを挟む
「おっと」

 そう呟きながら、ゼオンは飛んできた攻撃を回避する。
 攻撃をしたのは、地上にいる敵。
 ……正確には、地上から生えている木だ。
 それは、大樹の遺跡の最下層から入手した心核を使い、トレントに変身したケラーノの攻撃。
 木になっている実を投擲して攻撃してきたのだ。
 木の実である以上、命中してもゼオンに被害があるとは思えない。
 だが、トレントになっている実となると、それに当たりたいかと言えば……アランは即座に首を横に振るだろう。
 続けて放たれる木の実。
 いくつも連続して放たれるが、アランはその全てを回避していく。

(これだと回避の訓練にはあまりならないな。……そうなると、もう少し近付くか?)

 現在ゼオンがいるのは、トレントから十メートルほど離れた場所だ。
 心核を得たばかりのケラーノは、まだトレントの能力を完全には使いこなせていない。
 ただし、元々植物に強い興味を持っていたためか、能力を使いこなす熟練度は急速に上がっていた。
 ……とはいえ、最初からゼオンを使いこなしていたアランにそんなことを言われても、皮肉と思われる可能性があったのだが。
 次々に飛んでくる木の実を回避しつつ、アランはゼオンをトレントに向けて近付ける。
 向こうにしても、アランのその行動は予想の範囲内だったらしく……その距離が近付いてきたところで、不意に鞭が振るわれる。
 正確には、それは鞭ではなく木の蔦を使った一撃。
 普通ならそこまで強力な一撃ではないのだろうが、トレントが振るう一撃となれば、話は変わってくる。
 空気を斬り裂きながら振るわれた鞭の一撃を、アランはゼオンを斜めにすることで回避し……不意にウィングバインダーを使って急制動をかける。
 すると、まるでその動きに合わせるかのように、ゼオンの進行方向にあたる地面から土の槍が何本も生み出される。
 正確には、地面に異変に気が付いたアランが、ゼオンを止めたのだが。

「これは、また……っと!」

 動きを止めたゼオンに対し、追い打ちを掛けるように再度地面から土の槍が姿を現す。
 意表を突かれたアランだったが、それでも一度見てしまえばその攻撃を理解することが出来る。
 次々と地面から突き出る土の槍を、ゼオンは空中で自由に動き回りながら回避する。
 トレントにとって不運だったのは、やはり土の槍というのは地面を歩いている相手にこそ最大限に効果を発揮するということだろう。
 もしゼオンが地上を歩いて移動するような移動方法であれば、土の槍の攻撃を回避するのも難しかった。
 だが、ゼオンは基本的に空を飛んでおり、土の槍を放たれてもそれを回避するのは難しい話ではない。
 少なくても、地上を歩いて移動しているときに比べれば、回避出来る可能性は高くなる。

「ほら、いきますよ」

 そう言い、アランはトレントとの間合いを詰めていく。
 相変わらず地面からは土の槍が伸びて、トレントからは何本もの蔦が鞭として振るわれる。
 トレントの身体にゼオンの手が触れれば、それでこの戦いはゼオンの勝ちとなるので、当然のようにそれを知っての出来事だろう。
 ゼオンを操縦しながら、アランは少しだけ不思議な気持ちになる。
 ケラーノとは、当然のように長い付き合いだ。
 そんな中で、今まで何度も模擬戦をしたことがあるが、いつも模擬戦で負けるのはアランだった。
 そんなケラーノに対し、今はこの様子なのだ。
 それだけアランの能力が心核使いとして特化しているということの証明なのだろう。
 もちろん、ケラーノが心核使いになったばかりで、まだ完全にその扱いに慣れていないというのもあるが。
 もしこれで変身したのが、普通に身動きの出来るモンスターであれば、ケラーノももっと簡単に使いこなすことが出来ただろう。
 だが、ケラーノが変身したのはトレントだ。
 自分で好きに移動出来ないだけに、どうしても特殊な使い方が必要となり、植物に強い知識や興味を持つケラーノであっても、すぐに使いこなすという訳にはいかない。
 だからこそ、現在はこうしてアランに付き合ってもらい、訓練をしているのだ。
 地中から飛び出る槍を回避するゼオン。
 次々と連続して放たれる土の槍と、投擲される木の実、振るわれる蔓の鞭。
 だが、アランはそんな攻撃を次々に回避していく。
 ウィングバインダーや機体の各種に装備されたスラスターを次々に回避していく。
 その動きは、アランが生身で行動しているときと比べれば圧倒的にこちらの方が上だ。
 それが、一体どれだけアランの能力が心核使いに傾いているのかということを示している。

「残念でした、と」

 土の槍……ではなく、木の根を地中から飛び出し、最後の抵抗を行うトレント。
 だが、アランはその一撃もウィングバインダーを使ってゼオンの姿勢を斜めにすることで回避し、次の瞬間ゼオンの手はトレントの幹に触れる。
 そうしてトレントは攻撃を止め、模擬戦は終了する。
 アランもまた、ゼオンの動きを止めて地面に着地させた。
 トレントとゼオンは、双方共に心核を解除し……

「はぁ、はぁ、はぁ……いやー、厳しいな」

 トレントの変身を解除したケラーノは、荒い息を吐く。
 それでも十秒程で息を整えることが出来ている辺り、腕利きの探索者だということの証明だった。

「トレントの場合は、自分で動くことが出来ない以上、余計に厳しそうですよね。……正直なところ、やっぱり自分で動けないってのは色々と大変そうですが」
「あー、そうだな。ただ、個人的にはトレントってのは、そこまで悪い訳じゃないんだけどな」
「そうなんですか?」

 ケラーノの言葉に、アランは不思議そうな表情を浮かべる。
 自分の意思で動けない……いや、枝の類を動かすことは出来るが、大元の移動が出来ないというのは、アランにしてみればかなり不便なように思えた。
 とはいえ、それはあくまでもアランがそう思うだけであって、実際にトレントに変身しているケラーノにしてみれば、そこまで気にする必要はないことなのだろう。
 この辺は、やはりケラーノが植物に対して強い興味を抱いているから、ということなのだろう。

「ああ。トレントになっているときは、かなり充実感がある。……それ以外に消耗もあるけど」
「トレントなら、それこそ木の根で地面から魔力なり、水分なり、栄養なりを吸収してそうですけどね」

 あくまでもアランの印象ではあるが、植物だけに地中から水分を吸収するのは普通に出来るような気がしたのだ。
 そんなアランの問いに、ケラーノは首を横に振る。

「今は出来ないな。……もちろん、将来的にはそのように出来るかもしれないが」
「できるだけ早くそうなるといいですね」
「ああ。その件については、別に俺だけでどうにかなるから、一人で練習を重ねるよ。今回みたいにアランに協力してもらわないと出来ないとか、そんなこともないだろうし」

 ケラーノのその言葉に、アランはなるほどと納得する。
 実際にケラーノが言ってるように、自分だけで出来る訓練があるのなら、自分だけでやった方がいい。

「じゃあ、どうします? 一度ザッカランに戻りますか?」
「あー……そうだな。トレントに慣れるのなら、別にザッカランの中でも出来るし。……迂闊に外にいれば、モンスターに襲撃される可能性もあるから、訓練は中でやるよ」

 トレントに変身出来るなら、一人で訓練をするのは街中でも可能だ。
 そういう意味で、トレントというのは非常に特殊だと言ってもいいだろう。
 もちろん、そそれはあくまでも訓練が出来るというだけであって、実際に訓練を行うかどうかというのは、また別の話だ。

「そうですね。じゃあ、そろそろザッカランに戻りましょうか。……と言いたいところなんですが……」
「ああ、連中な」

 アランの言葉に、ケラーノは頷く。
 その視線の先にいるのは、数人の男女だ。
 探索者、冒険者、傭兵のどれなのかは、アランにも分からない。
 だが、その視線の中には友好的な色はなく、憎悪に近い色がある。

(ガリンダミア帝国軍の奴か? いや、けどもしそうだとしても、そこまであからさまにするか?)

 自分たちを敵と思っているのは、納得出来ない訳でもない。
 ザッカランを占領する際に戦ったとき、当然のようにザッカラン側にも死者は出た。
 ……いや、ザッカランが負けた以上、ザッカラン側の方にかなり死者は多い。
 そうなれば、当然の話だがアランたちを憎む者もいる。
 そして、そんな憎いアランたちが大樹の遺跡を攻略したということで、ザッカランでは英雄視されている。
 憎んでいる者にしてみれば、とてもではないが許容出来ないことだろう。
 アランとケラーノの視線の先にいる者たちは、そのような相手ではないかと、そうアランは考えたのだ。
 ケラーノに視線を向けてみるが、そちらでも同じような視線を数人の男女に向けていた。

「取りあえず、行きませんか? 向こうがどういう対応をするのかは分かりませんけど、こっちもいざとなったら相応の対応をとればいいんですし。……もっとも、そうなればケラーノさん任せになりそうですけど」

 ゼオンに乗ってもいいのならともかく、生身での戦いとなればアランは決して強くはない。
 そうである以上、もし向こうが一流……もしくは一流半程度の実力があるのなら、それこそアランとしては自分だけで手に負えるとは思えない。
 だからこそ、そうなれば探索者としては一流の技量を持つケラーノに任せるしかなかった。

「そうだな。……向こうが何を考えてるのかは分からねえが、こっちに手を出してくるのなら、相応の対応をするしかないか」

 ケラーノもアランが生身での戦いでは実力を発揮出来ないというのは知っている。
 また、雲海の探索者としても末っ子のような思いを懐いている。
 そんなアランに危害を加えようとするのなら、当然のように守るという思いがケラーノの中にはあった。
 そうして二人は、ザッカランに向かって歩き出す。
 すると、当然のようにアランたちを見ている男女たちに近づき……だが、結局何もないまますれ違う。
 面倒臭いことにならなくてよかった。
 そうアランが思った瞬間……

「待てよ」

 すれ違った中にいた一人の男から、そんな声をかけられるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...