剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
167 / 422
ザッカラン防衛戦

166話

しおりを挟む
 待て、と。そう声をかけられたアランとケラーノの二人は、特に動揺した様子もなく足を止め、声をかけてきた相手に視線を向ける。
 向こうが一体何を考えて自分に声をかけてきたのか。
 それは分からなかったが、それでもここで無視をするといったような真似はしない方がいいと、そう判断したのだろう。

「どうかしたかい?」

 アランではなく、ケラーノがそう言葉を返す。
 それは、そう不思議なものではない。
 アランとケラーノでは、明らかにケラーノの方が年上だと見て分かる。
 また、戦士として一定以上の実力があるものあれば、アランとケラーノではどちらが強いのかというのは、容易に理解出来るだろう。
 アランとケラーノに声をかけた男は、覚悟を決めた目で……それこそ、いざとなったら腰の鞘から長剣を引き抜くのを躊躇うことはないといった雰囲気を漂わせながら、口を開く。

「お前たち、ザッカランをまた戦場にするつもりか?」

 それが何を意味しているのかは、明らかだ。
 つまり、ガリンダミア帝国軍がザッカランを奪還しようとして攻めて来たときに、それを撃退するために戦うのかと、そう言っているのだ。
 だが……ケラーノは戸惑った表情を浮かべつつ、言葉を返す。

「それを俺に言われてもな。それを決めるのは、俺達じゃなくてザッカランを占領しているドットリオン王国軍だぞ?」

 ケラーノのその言葉、紛れもない事実だ。
 ケラーノやアランが所属している雲海は、探索者が集まったクランという集団なのだから。
 戦力的に考えれば、それこそその辺の正規軍よりも圧倒的な強さを持ってはいるが、それでも本業は探索者だ。
 そんな雲海に、このザッカランを守るためにガリンダミア帝国軍と戦うかどうかを決める裁量は存在しない。
 少なくても、表向きにはそのようなことになっているのだ。
 ……実際には、ガリンダミア帝国軍がゼオンという、この世界においては規格外の人型機動兵器を持つアランを放っておくようなことは出来ず、何とか捕らえて従わせようという思惑がある以上、雲海としてはガリンダミア帝国軍に大きな被害を与えるのは優先して行うべきことなのだが。
 アランという存在を捕らえるのが、割に合わないと知ればガリンダミア帝国軍も諦める可能性が高い。
 実際には、実力のあるクランであっても、一つ……いや、黄金の薔薇を合わせて二つのクランに一国の軍隊が大きな被害を受けたとして、面子を潰されたと判断し、執拗にアランを狙ってくる可能性も否定は出来ない。
 だが、現在も周辺諸国に侵略しており、戦力がいくらあっても足りないガリンダミア帝国軍にしてみれば、アランを捕らえるために集められる戦力には限りがある。
 ましてや、現在は雲海がザッカランにいると分かっているからいいようなものを、このままではいずれガリンダミア帝国軍の領土内から出ていき、余計に手を出すのが難しくなるかもしれない。
 そうならないためには、今のうちにどうにか雲海を倒してアランを確保する必要があり、そのためには出来るだけ早くザッカランを攻撃する必要がある。
 つまり、戦力の逐次投入といったような、愚策と分かっていてもそれを行わなければならなかったのだ。

「お前たちが協力しなければ、ドットリオン王国軍もザッカランを守れないと判断して撤退するはずだ」
「そう言われてもな。そもそもの問題は、ガリンダミア帝国軍がドットリオン王国の領土に攻め入って来たのが原因なんだぜ? 実際、そのときはザッカランからのも多くの者が傭兵として雇われて参加したんだろう? なのに、その反撃でザッカランが占領されたとたんにそういう風に言うってのは、正直どうなんだ?」
「ぐっ、そ、それは……」

 ケラーノの言葉に、責めていた男が口籠もる。
 実際、ケラーノの言葉は紛れもない真実だったからだ。
 今回のザッカランが占領された件についても、ガリンダミア帝国軍がドットリオン王国を侵略しようとしていなければ、起きることはなかったのだから。
 とはいえ、それを理解した上でもケラーノと話していた男が納得する様子はない。

「ドットリオン王国がガリンダミア帝国に逆らうってのがどういう意味を持ってるのか、分かってるのか!?」

 それは、自分たちの国の方がドットリオン王国よりも上の存在だと思っているからこその言葉。
 だからこそ、ザッカランがドットリオン王国に占領されたということが我慢出来ないのだろう。
 しかし……この場合は、相手が悪かった。

「さぁ、どうなるんだ? というか、どうなっても構わないしな。俺たちはあくまでもドットリオン王国軍に臨時で雇われた探索者であって、何があったらそれこそドットリオン王国でも、ガリンダミア帝国でもない、別の国に行けばいいだけだし」
「そんな無責任な真似をしてもいいと思ってるの!?」

 ケラーノと話していた男の隣にいた女が、金切り声と呼ぶに相応しい声で叫ぶ。
 叫んだのはその女だけだったが、他の者たちも気持ちとしては同じなのだろう。
 そんな真似をするのは卑怯だと、卑劣だと、外道だと、そう次々に叫ぶ。
 しかし、そんな男女に弾劾されているケラーノは、全く気にした様子はない。
 それどころか、呆れの様子すら見せたまま、口を開く。

「あのなぁ、お前たちが知ってるかどうかは話からねえが、元々探査者ってのはどこの国にも所属していねえんだぞ? それを前提として、そういう職業が許されてるんだ。それは大樹の遺跡があるザッカランに住んでるんだから、分かるんじゃねえのか?」

 国に所属していないということは、何かあったときに国が守ってくれないということでもある。
 もちろん、ギルドで仕事を受けたり、遺跡から得た物やモンスターの素材、魔石といった諸々を売ったときにはそこから税金が徴収されているので、最低限のサービス――何かあったら警備兵の詰め所に行く等――は受けられるのだが。

「それは……と、とにかく、お前たちがザッカランから出て行けば、ドットリオン王国の連中もザッカランを守ろうとはしなくなるはずだ!」

 男が叫んだ内容は事実でもあった。
 ザッカランを攻略するときに雲海や黄金の薔薇が協力し、その圧倒的な戦力のおかげで占領に成功したのは事実。
 現在もザッカランを守るために、ドットリオン王国軍の援軍がやって来てはいるが、それでも雲海や黄金の薔薇の戦力に期待が寄せられているのは間違いないのだから。
 とはいえ、ケラーノとしてはその言葉に素直に頷く訳にはいかない。
 アランの一件もあるので、アランに手を出せばどれだけの被害を受けるかというのを、ガリンダミア帝国軍……正式には国の上層部や皇帝といった者達にもその辺を刻み込む必要があった。
 もっとも、侵略国家としての面子もあるの以上、そう簡単に諦めるような真似をするとは、ケラーノにもアランにも思えなかったが。

「その辺は俺が考えることじゃないな。俺たちは個人で動いている訳じゃなくて、あくまでも探索者の集団のクランなんだから。そうである以上、俺たちの方針を決めるのは、イルゼンさんだ」
「それでも、心核使い二人が主張すれば、その発言に力はあるだろ!」
「さて、どうだろうな」

 男の言葉にそう誤魔化すケラーノ。
 ただ、心核使いだから発言力があるというのは、一般的に考えれば間違いではない。
 だが……それはあくまでも一般的な話だ。
 何にでも例外はある。
 たとえば、黄金の薔薇。
 黄金の薔薇を率いているレオノーラは心核使いだが、アランと一緒に心核を入手する前には、当然のように心核使いではなかった。
 だが、黄金の薔薇を率いているのはあくまでもレオノーラであり、黄金の薔薇の心核使いのジャスオアーは他の者よりも発言力は高かったが、それでも大した違いはない。
 雲海もまた黄金の薔薇とは違った意味で、心核使いだからといって高い発言力がある訳ではなかった。
 探索者が集まってはいるものの、基本的に雲海全部が一つの家族といったような繋がりである以上、その辺は当然なのだろうが。

「ともあれ、俺達は特にイルゼンさんの判断に従うだけだ。それよりも、そろそろいいか? 腹も減ったし、ザッカランに戻って何か食いたいんだけどな」
「お前っ! 俺たちとの話よりも自分の空腹が優先するというのか!」

 ケラーノの言葉に怒ったのか、男は腰の鞘に……そこに収まった長剣に手を伸ばす。
 だが……その長剣を抜くよりも前に、ケラーノが鋭い視線を向けて口を開く。

「その武器を抜いた瞬間、お前は明確に俺の敵となる。そうなった場合、俺は自分の身を守るためにも容赦しないし、他の面々に対しても同様の対処をする。それを分かった上で、武器を抜くのなら抜け」
「ぐっ……」

 武器を持っているということは、男も多少は自分の技量に自信があるのだろう。
 実際に城壁からそう離れていないとはいえ、ザッカランから出ているのだから。
 だが……それでも、多少腕に自信があっても腕利きの探索者のケラーノを前にしては、その実力が効果を発揮するかと言われれば、難しいだろう。
 男もそれが分かっているからこそ、長剣を抜くような真似はしない。……いや、出来ない。
 今の状況でそのような真似をすれば、それこそ本当に自分を敵だと認識して攻撃されると、そう理解したのだろう。

「それでいい。ここで迂闊な真似をしなければ、俺たちはただ自分たちの意見を口にしただけ。それだけですむからな」
「……おのれ……」

 武器を抜くまでもなく、あっさりと動きを封じられたことが屈辱なのか、男の口からは押し殺したかのような声が漏れ出る。
 特に強く屈辱を感じているのは、やはりケラーノとアランがドットリオン王国軍に協力しているからか。
 探索者であっても、自分たちよりも下に見ている存在に協力しているということは、到底許せるものではないのだろう。
 だが、悔しく思っても……それでも、今の状況では何が出来る訳ではない。
 ここで攻撃をすれば、明らかに自分たちは敵と判断され……ケラーノが口にしていたように、ほぼ間違いなく殺されてしまうだろう。
 そう分かっている以上、男やその仲間たちはザッカランに戻っていく二人の背中を睨み付けるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...