剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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囚われの姫君?

222話

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「それで? 情報についてはどうなってるの?」

 ダーナとメライナは、十日ぶりに夜に情報交換の時間を持っていた。
 基本的にメライナは、ダーナに指導して貰っているという形になっていたが、メライナの物覚えがよかった――実際に実家でメイドがいなかったので、自分で家事をやっていたので、特に覚えることはそんなになかった――ために、五日ほどでしっかり一人前という扱いになっている。
 とはいえ、実際にはメライナだけで仕事をさせるのではなく、他の新人のメイド……メライナと同様に先輩からの教育が終わった者たちと一緒に仕事をしていた。
 これは、少しでも情報を集めたいメライナにとっては嬉しいことだったが、同時にダーナとの接点が少なくなってしまったのは難点となる。
 そのため、こうして再度夜に会って情報交換をすることになったのだ。
 一応、普段の生活の中でも、ダーナとメライナが接触することは多かった。
 だが、当然そのときは周囲に他の者たちもおり、アラン救出についての詳しいやり取りをする訳にもいかない。
 だからこそ日中に話すときは、当たり障りのない話題が大半となる。
 それでも、ダーナに仕事を教えたのがメライナである以上、ある程度は話す理由があったのは、幸いだったのだろう。
 とはいえ……その間に、アランの情報を得ることが出来たのかというと……

「残念だけど、今のところアランについての情報はないわね」
「頼りない先輩ね」
「……じゃあ、メライナは何か情報を入手出来たの?」

 ダーナのチクリとした反論に、メライナは言葉に詰まる。
 実際、メライナもまたアランについての情報は入手出来ていなかったのだ。

「一応、以前相談したときのように、情報は流してみたんだけどね」
「そうね。それは私もやったわ。そして実際、他のメイドたちもかなり食いついたわ」

 ダーナの言葉は、決して嘘ではない。
 地下牢に他国の美形の王子が捕らえられているという噂は、メイドたちの中ではかなり広まっている。
 帝城の中で働いているメイドは……いや、メイドだからなのか、興味を持つ噂には非常に熱中する。
 特に今回の場合は、地下牢に囚われている美形の王子ということで、多くのメイドがその噂に興味を持ち、その王子の姿を一目でも見ようと、何とか地下牢に入ろうとする者も多かった。
 幸い、メイドの仕事を考えれば地下牢に入るといったことは、そう難しいことではないのだが……

「地下牢、五ヶ所だったわよね? 随分と多いけど」
「侵略して国土を広げてきたのがガリンダミア帝国なんだから、地下牢が多くてもおかしくはないでしょ。……ただ、その五ヶ所全てにそれらしい人がいないのよね」

 もちろん、アランはそれなりに顔立ちが整っているが、美形! と力を込めて言うほどのものではない。
 それでも何らかの手段で地下牢に入ることが出来たメイドたちの話を聞く限り、そこにはアランの姿はない。
 アランを見つけたメイドが、その情報を自分だけで隠しているといった可能性もあったが、メイドたちの様子を見る限りではそのような様子は全くない。
 メライナは探索者として相応の実力を持っているし、ダーナもまた鋼の蜘蛛のレジスタンスとしてしっかり訓練を積んでいる。
 もしメイドが何らかの理由でアランの情報を隠そうとしても、メライナたちならそれを見抜くことが出来るはずだった。
 ……メイドの中に、メライナたちの予想を超える実力――この場合は、嘘を隠す実力――を持っている者であれば、話は別だが。

(ここまで地下牢にアランの情報がないとすると……もしかして、アランがいるのは地下牢じゃない?)

 メイドたちの情報網であっても、アランのいる場所を特定出来ない。
 だとすれば、もしかしたらアランは地下牢以外の場所に囚われているのではないか。
 メライナがそう予想するのは、ある意味で当然だったのだろう。

「ねぇ、一つ聞くけど……この帝城って、地下牢以外に牢屋……いえ、牢屋に限らず誰かを閉じ込めておけるような場所はある?」
「……地下牢以外に? っ!? なるほどね。メライナが何を考えたのかは分かったわ。けど……そうなると、正直なところ難しいわね。閉じ込められそうな場所となると、それこそいくらでも思いつくわ」
「そんなに、この帝城には人を閉じ込められる場所があるの?」
「別に牢屋のようなしっかりとした場所じゃなくても、軟禁するような場所はいくらでも作ることが出来ると思うけど?」
「それは……」

 言われてみれば、ダーナの言葉は間違っていない。
 それこそ、アランを閉じ込めるだけなら容易に外に逃げ出せないような場所……窓の類がないような部屋を用意し、そこに閉じ込めて扉が開かないようにして、その上で見張りか何かを用意すれば、それで十分なのだ。
 アランは間違いなく心核のカロを取り上げられている以上、そのような状況になれば、もうどうしようもなくなってしまう。

「けど、それだと……探すのは不可能に近い……とまでは言わないけど、かなり厳しいんじゃない?」

 メライナは帝城がどれだけの広さを持つのかを思い出しながら……そしてここしばらくの間働いていたことから、その広さを実感しつつ、軽い絶望すら抱きながら呟く。
 だが、そんなメライナと違って、ダーナは笑みを浮かべて首を横に振る。

「どういうこと?」
「聞いた情報によると、助けようとしているアランは、強さこそそこまでじゃないけど、それなりに強いんでしょ? だとすると、そういう人が万が一暴れても大丈夫な場所に閉じ込めるはずよ。そんな場所となれば、候補はそこまで多くはないわ」

 ダーナのその言葉に、メライナは嬉しそうな表情を浮かべるが……次にダーナの口から出た言葉を聞くと、厳しい表情を浮かべる。

「ただし、帝城の広さを考えると、そういう部屋はいくつもあるでしょうし、メイドとして働いている私であっても知らない場所はある可能性は否定出来ないわ」
「それは……でも、何の手掛かりがないままよりは、随分と捜索範囲が狭まったんじゃない?」

 それは、半ば無理矢理にでも自分を鼓舞しようとしてメライナが口にした言葉だったが、あながち的外れという訳でもない。

「そうね。メイドたちに、今度はその辺で情報を流してみた方が……いえ、それより、私よりも上の地位にいる人なら、その辺りの情報は持っていてもおかしくはないと思うんだけど」
「じゃあ、頼める?」
「……そう言われても、難しいわよ。まさか、いきなりそういう部屋がないか知りませんか? なんて、聞く訳にもいかないでしょう?」

 アランの一件がある以上、そのようなことを聞こうものなら、確実に怪しまれる。
 いや、怪しまれる程度ですめばいいが、最悪の場合は尋問をされる可能性すらあった。
 アランの救出に力を貸すとはいえ、ダーナはあくまでも鋼の蜘蛛に所属するレジスタンスだ。
 そうである以上、多少ならともかく、自分が大きな危険に陥ることを考えると、そこまでしようというつもりは一切なかった。
 そして、それはメライナもまた同様だ。
 いや、メライナの場合はアランの能力を自分の目で見ているし、レオノーラがアランを助けようとしているのを知ってるので、出来るだけアランを救出しようと思っているのだが。
 ……何より、帝城に侵入するということが決まったときに、レオノーラから直々に何とかアランを助け出して欲しいと言われているし、アランの両親たるニコラスとリアの二人からも、よろしくお願いしますと頭を下げられている。
 そのようなことがあった以上、メライナとしては可能な限りアランを助けたいと思っているが、それでも自分の危険とどちらを選ぶかと言われれば、自分の身の安全に決まっている。
 両親に恵まれなかったメライナとしては、息子を心配するニコラスとリアを悲しませるという真似は可能な限りしたくないと、そう思ってはいたが。

「そうなると、上に聞くのは止めた方がいいわね」
「ええ。……それと、分かってるとは思うけど、上の方から何か探りを入れてきても、それに乗るような真似はしないでね」

 ダーナの言葉は、メイドの中にも上からの指示で怪しい者がいないのかを探っている者がいる……というような様子だった。
 実際にそのような者がいるというのは、メライナも予想出来る。
 何しろ、メイドということであれば帝城の大半の部分に自由に出入り出来るのだから。
 何らかの情報を入手するような真似も、当然のように出来た。
 ……ただ、この場合メイドが監視しているのは、どちらかと言えば同じメイドではなく、城で怪しげな動きをしている侵入者といった者達なのだろうが。

「とにかく、牢屋以外でどこか怪しい場所がないか。どうにかして情報を集める必要があるわね。疑われないようにして」
「そうね。けど、そういう場所は当然のように近付くのに許可が必要だったりするから、迂闊に近付くようなことをした場合、メイドであっても問答無用で捕まるわよ?」
「それは……ダーナであっても?」

 帝城に来たばかりの自分はともかく、すでに数年メイドとして仕えているダーナなら、もし見つかっても誤魔化せるのではないか。
 そんな思いでメライナは尋ねたのだが、ダーナがそれを許容するはずがない。
 そもそも、メライナの手伝いはするが、ダーナは自分に……そして鋼の蜘蛛に危険が及ぶような真似は、するつもりがなかった。

「悪いけど、他のメイドたちに情報を流すのなら手伝ってもいいけど、私は自分が動くつもりはないわよ。組織が協力しているとはいえ、見ず知らずの人を助けるために、そこまでの危険は冒せないし」
「そう」

 その言葉に、メライナは納得するしかない。
 もし自分がダーナと同じ立場であれば、それこそ同じ選択をするだろうと思えたからだ。
 ……いや、むしろ、レオノーラに何らかの被害が及ぶ可能性を考えれば、今のダーナほどに相手に協力するといった真似が出来るかどうか、それもまた疑問だった。

「分かったわ。じゃあ、取りあえず地下牢のときと同じくメイドたちに情報を流してみましょう。地下牢にはいなかったから、どこかの部屋に軟禁されている……といった流れにすれば、どうにかなるでしょうし」

 メライナの提案に、同僚のメイドを危険に巻き込むことになるかもしれないと思いながらも、ダーナは頷くのだった。
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