剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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逃避行

259話

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 蜂の人形は、アランが予想していた通り……いや、それ以上にあっさりと撃破された。
 アランですら倒せるような相手なのだから。それも当然だろう。
 それ以外にも、昨日はアランたちにとっても初めて遭遇した敵だったが、今はもう情報を持っている。
 アランたちは昨日特に被害の少ない蜂の人形を地上に持ち帰っており、今日一緒に来た者たちはそれを見ている。
 元々実力がある以上、蜂の人形に苦戦するはずがなかった。
 ……補充が間に合わず、敵の数が昨日よりも少なかったというのも、この場合は影響しているのだろうが。

「さて、取りあえずこれで心配することなく調べることが出来るわね」

 長剣を手に、リアが蜂の人形の残骸を見ながら笑みを浮かべて呟く。
 元々が雲海の中でも最高峰の実力を持つリアだ。
 蜂の人形が多少飛べるからとはいえ、その程度の相手に対処するのは難しいことではない。
 実際にこの戦いでも撃破数ではトップ争いをするほどなのだから。

「母さん、少しはりきりすぎじゃないか?」
「そう? まぁ、最近は戦っていなかったからね。どうしても色々と不満が溜まってたんだからしょうがないないじゃない」
「……うん」

 あっけらかんとストレス解消で戦ったと言われれば、アランとしてもそれに反論は出来ない。
 そういうものなのかと、頷くことしか出来なかったのだ。

(取りあえず、父さんにはもう少し母さんに構ってやるように、それとなく言っておくか)

 ニコラスがリアに構えば、リアのストレスも多少は緩和されるだろう。
 そう思うアランだったが、それを微妙に思うのはやはり自分の両親がイチャつく光景を見るのに微妙な思いがあるからだろう。
 それでも、自分が我慢しなければ妙な騒動になりそうだという予感もあり、アランは我慢することにする。……もしかしたら、来年には自分の弟か妹が生まれるかもしれないと、そう思いながら。
 そんな未来のことは取りあえず頭から追い出して、アランはイルゼンに尋ねる。

「それで、これからどうするんですか?」
「取りあえず、この製造設備を調べてみましょう。出来れば素材の類を色々と入手したいところですが……今は可能な限り身軽でいたいというのも事実なんですよね」

 こうして遺跡の探索を行ってはいるが、現在のアランたちはガリンダミア帝国軍から逃亡している身分だ。
 そうである以上、いざというときに逃げるには身軽な方がいいのは間違いなかった。
 また、大量のお宝を持っている状態で逃げて、それを置いていかなければならなくなったとき……そのお宝は、ガリンダミア帝国軍に奪われることになってしまう。
 そういう意味で、アランもイルゼンの言葉の意味は理解出来た。

「そうなると、どうします?」
「最低限、人形の製造は行わないように出来れば、こちらとしては万々歳といったところですか。……もっとも、この遺跡にも僕たち以外の探索者は本当に少数ですがいます。あの人たちの稼ぐ場所を奪うというのは、正直思うところがない訳ではないのですが」

 モンスターや人形を倒して、稼ぐ。
 そのような探索者がいるのは事実だったが、そのような者たちが稼ぐことが出来る金額はそう多くはない。
 それこそ、本職の探索者という訳ではなく副業の探索者として活動しているのだろう。
 とはいえ、その副業の稼ぎの種をアランたちが現在遺跡に潜っていることで横取りしているのは事実だし、その上に人形の製造施設を止めてしまえば、その探索者たちは人形を倒して素材を入手することも出来なくなる。
 それだけなら、お互いの実力の違いということで納得するのだが、アランたちの場合はすねに傷を持つ身だ。
 そんな探索者たちが何らかの理由でアランたちがガリンダミア帝国軍に追われていることを知れば、この遺跡から追い出すという目的、自分たちの狩り場を奪っているアランたちに対する恨み、もしかしたらガリンダミア帝国軍から報奨金を貰えるかもしれないと、通報する危険もある。
 その辺りの事情を考えれば、やはりこの遺跡を使っていた探索者たちと友好的な関係となっておくのにこしたことはなかった。

「今は、ここを占拠しているということで迷惑料といった扱いで支払っていますが……この先どうなるかは分かりませんしね」

 イルゼンのその言葉に、アランは納得したように頷く。
 そんなアランを見て、イルゼンは満足そうな様子を見せた。
 普通であらば、探索者は自分の実力が全てだとして、他人の能力が低くて稼げないのはその人物が悪いと、そう判断する者も決して少なくはない。
 しかし、自分のことしか考えない者は当然のように他人からもそのように見られることが多い。
 本人の実力が通じるうちは、そのようなことを気にしなくてもいいだろう。
 だが、いざ何かに失敗したときに周囲が助けてくれるかと言えば……それは、難しい。
 もちろん、全く誰も助けてくれないということはないだろうが。
 そういう訳で、イルゼンとしてはアランにそのような探索者になって欲しくなく、だからこそ自分の言葉に納得してくれたことが嬉しかったのだ。
 ……もっとも、アランの場合は本人が探索者として自分は未熟だと理解している。
 心核使いとしては優れた力を持っているが、それに特化している形だというのも、また事実なのだ。

「この製造設備を調べて下さい。何か手掛かりになるようなものがあったら、僕を呼ぶように。それなりにこういうのには詳しいので。それと、何人かは人形が待機している部屋に行って、僕たちが来た以外の遺跡に繋がっている場所を見つけて下さい。こっちは、すぐに見つかるでしょう」

 人形たちが待機している場所から他の遺跡に繋がっている場所は、当然のように隠し扉のようなものに塞がれている訳ではない。
 そうである以上、それなりに広い場所だったが、その通路を見つけるのはそんなに難しくはないはずだった。

(それにしても、これって仮にも古代魔法文明の遺産……いや、こうやって普通に動いてるのを見れば、まだ生きてる設備だろ? イルゼンさん、何でこういうのに対する知識を持ってるんだろうな。いやまぁ、イルゼンさんだからって言われれば納得してしまうけど)

 アランにとって、イルゼンというのはある意味で理不尽な存在だった。
 ……それでも異常に感じないのは、それ以上に理不尽な存在が多数いるからだろう。
 アランの母親のリアとか。

「アラン、ちょっといい?」

 製造設備の様子を見ていたアランだったが、レオノーラに呼び止められる。

「どうした? 何か見つけたのか? ……けど、そういう場合は俺じゃなくてイルゼンさんに声をかけてくれ」
「いえ、違うわ。それより、イルゼンについて聞きたいんだけど……何でイルゼンは、この製造設備をどうにか出来るの?」

 レオノーラの口から出たのは、つい先程アランも抱いた疑問。
 やはりアランだけではなく、レオノーラから見てもイルゼンの知識は疑問だったのだろう。

「さぁ? その辺はもう……イルゼンさんだからってことで、俺は納得してるけどな。別にそんなにおかしくはないと思うし」
「あのね……まぁ、いいわ。その様子だとアランもイルゼンが何でこういうのに詳しいのかも知らないみたいだし」
「それは否定しない。ただ、イルゼンさんがその辺りの知識を持っているからって、それで俺が困る訳じゃないしな。むしろ、こうして助かってるんだから不満はないぞ」
「……そうね」

 アラン言葉に、レオノーラは何故か若干の呆れと共にそう呟く。
 そんなレオノーラに対し、微妙に思うところがったアランだったが、今の状況で何を言っても無駄だと判断したのかそれ以上は何も言わない。

「それで、レオノーラはこの製造設備を見て、何か見つけたか?」
「残念ながら、今のところそれらしいのは見つかっていないわ。いえ、何か怪しいと思えるような場所はあるんだけど、その数が多くて。スイッチとかレバーとか、適当に手を出せばどうなるかわからないもの。ベルトコンべア的な存在なんだから、上手くいけば止まると思うけど」

 ベルトコンベアといったようなことを知っているのは、レオノーラが以前アランの人生を見ることが出来たからだろう。
 そのおかげで、アランの知ってることは大抵レオノーラも知っていた。
 アランとレオノーラの二人は、お互いに顔を見合わせてどうやればこの設備を止められるのかといった具合に迷う。

「本当にどうしようもなくなれば、やっぱり壊すってのが最善なんだろうけどな」
「そうね、それは否定しないわ。けど……そうなったら、少し勿体ないと思わない?」
「それは……まぁ」

 アランもこの設備の価値は十分に理解出来る以上、レオノーラの言葉は否定しないで設備を止める方法を探し……

「ピ!」

 不意にアランの心核のカロがそんな鳴き声を発する。

「カロ? どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ピ! ピピ!」

 カロは自我の類は持っているが、あくまでも心核だ。
 自分の意思で自由に動き回るといったようなことは出来ない。
 そうである以上、たとえカロが何かを見つけても、それが何なのかというのはアランが見つける必要があった。

(この製造設備の近くでこんな風に鳴き声を上げるんだから、普通に考えればやっぱりこっちに関係することだよな? ……具体的になんなのかというのは、ちょっと分からないけど)

 そんな疑問を抱きつつ、アランはカロの鳴き声を聞きながら手を上下左右に動かす。
 その動きの中でカロの鳴き声が大きくなる方を探し続け……

「これか」
「ピ!」

 アランの言葉に、カロはその通りと鳴き声を上げる。
 とはいえ、目の前にあるのは制御装置らしきものではあると同時に、具体的にそれをどうすればいいのかが、アランには分からない。

「こっち……かしら?」

 レオノーラもアランと共に制御装置と思しき場所を色々と触って調べ……

「あ」

 レオノーラがそんな声を出し、アランもそちらに視線を向けると、制御装置らしき場所が開き、そこには緑の石……宝石とは違う、奇妙な石が設置されていたのだった。
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