剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

文字の大きさ
303 / 422
メルリアナへ

302話

しおりを挟む
「うーん……本当に来ないな。ロルフ、獣牙衆ってのがクラリスを狙ってるって話、実はこっちを騙すための嘘だったとか、そういう可能性はないか?」
「何のためにだ? わざわざそんな真似をする必要があるか?」

 街道を進みながら、未だに襲ってくる様子がない獣牙衆の存在を疑問に思ったアランは、近くにいるロルフに尋ねる。
 だが、ロルフにとって獣牙衆が襲ってくるというのは既に決定事項となっているのか、何でそんなことをわざわざ聞く? といったように、疑問を口にする。

「何をするため……普通に考えれば、実は獣牙衆とやらはクラリスに敵対していないけど、獣牙衆が狙っているということで、慎重に行動させるようにするとか? 実際、こうして俺たちを護衛として雇ってるんだし」

 もっとも、アランたちがクラリスたちの護衛をしているのは、実際には獣牙衆云々よりもガリンダミア帝国軍の注意をイルゼンたちに向けないためというのが大きい。
 イルゼンたちが死の瞳についての何かを調べている間、それを可能な限り他の者たちに知らせないように、というのがアランたちがこうしてクラリスたちと行動を共にしている理由だ。
 そういう意味では、獣牙衆の有無というのはあまり関係なかったりするのだが。

「獣牙衆が襲ってくるかどうかは、この際そこまで問題ではない。もし襲ってきたとき、すぐそれに対処出来るかどうかというのが、一番大きな問題だ。……とはいえ、その際の護衛はアランたちに任せることになってしまうんだがな」

 少しだけ悔しそうな様子のロルフ。
 出来れば、クラリスは自分たちだけで守りたかったのだろう。
 だが、裏の街道を進んでいるときに襲ってきた相手に対しても、勝つことは難しかった。
 もしそこでアランたちと一緒になっていなければ、それこそ大量の獣人が襲ってきた夜襲でどうしようもなくなっていただろう。
 実際、その件で自分たちの実力が低い――実際にはそれなりに高く、雲海や黄金の薔薇の探索者が強いだけなのだが――のを克服しようと、休憩時間に探索者たちに訓練をして貰ったりもしている。
 ただし、この戦闘訓練は時間もないので少しでも実戦の勘を養うという意味で模擬戦が主なのだが、獣人たちにとっては一度も勝つことが出来ないという悲惨な状況になっている。
 姫として育てられたクラリスの護衛を任されているだけあって、ロルフたちは自分の力にある程度の自信はあったのだろう。
 実際、アランの目から見てもその辺の冒険者や傭兵、探索者といった面々に勝てるだけの実力はあるように思える。
 しかし、この場合はやはり相手が悪かった。
 ロルフたちの相手をしているのは、雲海や黄金の薔薇という実力者集団なのだから。
 それでも勝てないことを不満に思い、模擬戦を止めるといったような真似をしなかったのは、自分たちがクラリスの護衛にして、最後の盾といった自負があったからだろう。

「アラン、そういう心配はもういらなくなったようよ」

 アランとロルフの会話を聞いていたレオノーラが、笑み浮かべてそう声をかけてくる。
 どういう意味だ? と一瞬疑問を抱いたアランだったが、ロルフとの会話を考えれば、一体何が起きたのかは想像出来る。

「敵か」
「正解。それもこの様子だと結構強い相手ね。多分、獣牙衆じゃない? 私は実際にその獣牙衆を見たことがないから、何とも言えないんだけど」

 そうレオノーラが言うのと同時に、前方から声が聞こえてくる。

「待ってたぜ! 俺が勝ったら、クラリスって嬢ちゃんを置いていって貰うから、そのつもりでいろよ!」

 その叫び声に、アランはロルフに視線を向ける。
 今の声の持ち主が本当に獣牙衆なのか? と。
 アランの印象では、獣牙衆というのは前世でいう特殊部隊のようなものだった。
 実際にロルフたちから聞いた話でも、そんな印象を補強するようなものが大半だったのだから。
 それだけに、まさかこうして正面から堂々と襲ってくるような真似をするとは、思ってもいなかった。
 それこそ、夜に見張りに気が付かれないように野営地に忍び込み、気絶させたクラリスを誰にも見つからずに連れ去る……といったような。
 そんな相手なのかとばかり思っていたのだが、アランにとっては本当に予想外でしかない行動だ。

「一応聞いておくけど、あれが陽動で他の獣牙衆がこっちの隙を窺っているとか、そういうことはないか?」
「どうだろうな。可能性としては十分にあると思う。けど……」

 言葉に迷う様子のロルフ。
 ロルフも獣牙衆について少数精鋭だというのは知っていても、具体的にどのような者たちが集まっているのかといったようなことは知らないのだろう。

「いや、分からない。ただ、この状況で出て来る以上は、姫様を狙ってきた奴だと思うけど」
「そう言われると、多分そうなんだろうな。とはいえ、あの出て来た奴に対してどう対処するかが問題だろうけど……どうするんだ?」

 アランはレオノーラに尋ねる。
 この部隊の指揮を執っているのがレオノーラである以上、この場合どのように行動するかを決めるのもまた、レオノーラなのだから。

「そうね。誰かを出す必要があるのは間違いないでしょうね。事情を聞くか、もしくは倒すか。……自分が勝ったらといったように言ってるのを考えると、普通に戦うことになると思うけど」
「なら、ロッコーモさんがいいんじゃないか? 取りあえず戦いならあの人に任せておけば、問題はないだろうし」

 もちろん、この一行には戦闘力に長けている者は多い。
 クラリスの護衛という役割を持っているのだから、それも当然だろう。
 そんな中でもアランがロッコーモの名前を上げたのは、やはり戦闘であればロッコーモが頼りになると、そう認識しているためか。
 レオノーラは少し迷ったあとで頷き、近くにいる部下に指示を出す。
 少しだけ自分が出てみたいと思っていたレオノーラだったが、今の自分は指揮官である以上、どうしようもない状況ならともかく、今のこの状況で自分が出るといった行動は出来ないと判断したのだ。
 それ以外にも、ロッコーモではなく黄金の薔薇から誰か出そうかとも考えたのだが、取りあえずはロッコーモだけで十分だろうと判断する。
 レオノーラも、ロッコーモが具体的にどれだけの力を持っているのかは知っているので、この場を任せるには十分だと判断したのだろう。

「さて、どう出るかしらね。獣牙衆のお手並み拝見といこうかしら」

 前方の様子を確認し、一応これが囮であることを考えてクラリスの乗っている馬車の周囲に護衛の者を何人か揃えておくのだった。





「ほう、やっと出て来たかと思えば……お前、強いな」

 アランたち一行の前に立ち塞がっていた熊の獣人が、ロッコーモを見て笑みを浮かべる。
 ただし、それは親しい相手に向ける笑みというよりは、獲物を見つけたからこその好戦的な笑みだ。
 そんな相手の笑みを見て、ロッコーモもまた同じような笑みを浮かべる。

「これでも雲海の中では戦闘を担当してるんだ。弱いと思われちゃ困るな。……しかし、獣牙衆ってのは精鋭だって聞いていたが、まさかこんな真似をするとは思わなかったな」

 からかい混じりに告げる言葉に、獣人の男は獰猛な笑みと共に口を開く。

「俺たちはそれぞれで戦い方や性格が違うからな。こういうときは、やっぱり自分に合ったやり方が一番だろ」

 獣人の男の言葉に、ロッコーモはそういうものかと納得する。
 元々ロッコーモはそこまで頭がよくはない。
 難しいことを考えるのは、イルゼンを始めとした者たちに任せている。
 だかろこそ、この相手がそのようにいうのであればそういうものなのだろうと納得し……長剣を手に、相手を見据える。
 ロッコーモも巨体と呼ぶのに相応しい体格をしているが、相手も熊の獣人というだけあってロッコーモもよりも若干だが大きい。
 そんな二人が向かい合っている姿は、それこそ少し離れた場所で見ている者たちに強い迫力を感じさせる。
 見ている方も雲海や黄金の薔薇の探索者で、その辺の相手に負けないだけの実力は持っているのだが、そんな者たちにして、目を奪われるような迫力。
 そんな緊張感の中、やがて最初に動いたのは熊の獣人だ。
 ロッコーモとの間合いを詰めながら、手にした棍棒を熊の獣人の剛力で思い切り振るう。
 何らかの型といったものではなく、単純に腕力に頼った一撃。
 だが、獣牙衆に選ばれているだけあってか、その一撃は鋭く素早い。
 今まで何人もの相手を……何匹ものモンスターを葬ってきた、強力な一撃。
 そんな一撃は、だがロッコーモの持つ長剣の刃に沿うように受け流された。
 少しでも技量が劣っていれば、棍棒によって長剣の刀身はあっさりと折られていただろう。
 そんな一撃であっても受け流すことが出来るのは、ロッコーモの技量が極めて高いからだ。

「なっ!?」

 獣人の男は、まさか自分の攻撃が受け流されるとは思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべる。
 今までこのような形で攻撃を受け流されたことはなかったのだろう。
 それでもすぐ次の行動に移った辺り、獣牙衆の一員だけのことはあるのだろう。
 棍棒の一撃が受け流され、ロッコーモとの間合いは近い。
 両手で棍棒を握っていた手の片方を放ち、そのままロッコーモに肘打ちを放つ。
 しかし、その肘打ちの一撃はロッコーモに命中することもなく、空中を貫く。

「え?」
「おりゃぁっ!」

 まさか肘打ちの一撃も攻撃が外れるとは思っていなかった獣人の男は、今度こそ驚きで一瞬動きを止め……そんな隙をロッコーモが逃すはずもなく、こちらもまた長剣から離された片手で思い切り獣人の男を殴りつける。

「ぐおっ!」

 ロッコーモの一撃に吹き飛ぶ獣人の男。
 ロッコーモは獣人の男よりも小さいが、それでも放たれた一撃の威力は強力で、獣人の男を吹き飛ばすには十分だった。
 だが……獣人の男も獣牙衆の一員だ。
 この程度の一撃で気絶するようなら、獣牙衆にはなれない。
 自分が吹き飛ばされたのには驚いたが、それでもすぐに起き上がってロッコーモに向かって駆け出すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...