剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅

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獣人を率いる者

338話

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 ゴールスに直接会いに行くというクラリスの言葉は、当然のように多くの者に反対される。
 当然だろう。つい昨日クラリスを狙って刺客が送り込まれたばかりなのだから。
 その刺客は結局ジャスパーによって捕らえられたが、護衛をしていた二人は殺されている。
 不幸中の幸いというべきか、庭で気絶させられていた二人は気絶していただけで、殺されてはいなかったが。
 そんな刺客を送ってきたのが、ゴールスだ。
 だというのに、そのゴールスに会いに行くと言って、それが素直に認められるはずもない。

「クラリス様! お考え直し下さい!」

 ロルフがそう叫ぶが、クラリスの意思は変わらない。
 即座に首を横に振り、ロルフの言葉を却下する。

「考え直すわけにはいきません。私は、これから争う相手であるゴールスという相手を知っておかなければならないのです」

 意思の強さを感じさせる言葉でそう告げるクラリスに、二人の話を聞いていたガーウェイはアランに視線を向ける。

「アラン、お前からも何か言ったらどうだ? お前の立場としても、今回の件は許容出来ないだろ?」
「いえ、俺は構いません。……というか、クラリスはそうしたいんだけどと相談してるのではなく、そうすると決めた上で言ってますしね」

 既に結論を出したことを口にしている以上、クラリスの意思を曲げるのは不可能……とまではいかないが、それでもちょとやそっとのことではどうにもならないだろう。
 また、アランは口に出さなかったが、クラリスが何を思ってゴールスに会いに行くのかを決めたのは知っている。
 そうである以上、アランはクラリスの言葉に反対するつもりはなかった。
 ……あるいは、もしレオノーラがここにいなければ、アランも反対した可能性はある。
 だが、レオノーラがいて、ジャスパーがいるのだ。
 そしてガーウェイもいるのだから、護衛という点で心配する必要はなかった。
 それこそ、もしゴールスが襲ってくるようなことがあったら、最悪ビームサーベルを召喚して攻撃をするといった方法もある。
 もっとも、街中でビームサーベルを召喚するような真似をすれば、ゴールスのいる建物はともかく、その周辺にも被害を与える可能性があったが。

「本気か? ……いやまぁ、お前がそこまで強気になれる気持ちも理解出来なくはないけどよ」

 そう言いながら、ガーウェイはレオノーラに視線を向ける。
 その視線は、レオノーラの美貌に目を奪われている……といったようなものではなく、微かな畏怖すら浮かんでいた。
 直接レオノーラの戦いを見た訳ではないが、それでもガーウェイも獣牙衆に所属していた強者だ。
 一目見ただけで、レオノーラが自分よりも強い……それもちょっとやそっとではなく、どれだけの差があるかも分からないほど、圧倒的な実力を持っているというのが分かった。
 自分より強いというだけであれば、ジャスパーもそうだし、獣牙衆の中でも何人かいた。
 それでも、ジャスパーも含めて自分より強くても、それでもいずれは追い越せると思えていたし、戦い方によっては勝てると思っていた。
 だが、レオノーラは明らかに別格だった。
 どうやっても、勝てそうにないとガーウェイは本能で理解してしまっていた。

「そうですね。正直な話、ジャスパーさんがいる時点で向こうが何をしてきても対処出来る自信はありましたけど、レオノーラが来た時点で向こうが何をどうやってもこっちの勝利は確定していると言ってもいいです」
「そこまでか」

 アランのレオノーラに対する絶対的な信頼に思わずといった様子でそう告げるガーウェイだったが、それでもレオノーラという存在を理解すれば納得出来ることではあった。
 もしガーウェイがレオノーラを敵に回したいかと言われれば、ガーウェイは全力で拒否するだろう。
 今のガーウェイは、それこそレオノーラを敵に回したゴールスに哀れみすら抱いてしまう。

「そこまでですよ。レオノーラは黄金の薔薇を実力で率いてきた人物ですから」
「……黄金の薔薇、か」

 ガーウェイは、そこまで探索者については詳しくない。
 ましてや、ガリンダミア帝国では探索者はその多くが軍人に鞍替えすることが多い。
 それはガリンダミア帝国軍の従属国となっているこの国でもそう変わらない。
 もちろん、ガリンダミア帝国と比べれば、多少なりとも探索者の数は多くなっているだろうが。
 そんなガーウェイですら、黄金の薔薇というクランの名前は聞いたことがあった。
 レオノーラの自己紹介のとき、その辺りの情報は公表されている。
 それを知ってはいるが、それでも改めてレオノーラを見れば、色々と思うところがあるのだろう。

「はい。そんなレオノーラがいるんですから、心配はいらないと思いますよ。それに……ここで無理にクラリスを止めようとしても、それこそ言霊を使われてしまいかねないですし」
「……まぁな」

 言霊を使われれば、ガーウェイたちにはどうしようもない。
 そうである以上、最終的にクラリスがここまで決意を決めている以上、反対しても意味はないのだ。
 とはいえ、クラリスもそう簡単に言霊を使うような真似はしない。
 言葉だけで相手を好きなように動かせる言霊は、大きな力だ。
 大きな力だけに、そう勝手に使うといったような真似は出来ない。
 そのような真似をすれば、最悪クラリスが言霊の力を理由として周囲の者達に危機感を与える可能性があった。

(もっとも、クラリスが自分の一族を率いるということなら、畏怖されるというのは悪いことじゃないかもしれないけど)

 クラリスの外見は、可愛らしい容姿というのは事実だが、そのような人物に一族の全てを任せるとなると、相手がまだ子供だけに不安を感じる者も多いだろう。
 そうである以上、畏怖されるだけの実力を持っていると示すのは、悪い話ではない。
 ただし、畏怖と恐怖は違う。
 あまりに言霊という力を乱発しすぎて、それこそ敵であっても味方であっても躊躇するようなことなく力を使うといった真似をすれば、クラリスが抱かれる気持ちは畏怖ではなく恐怖になるだろう。

(まぁ、それは俺も人のことはいえないけど)

 アランもまた、言霊とは違った意味でゼオンという強大な力を持っている。
 いや、言霊はあくまでも言葉を聞いた者だけに強制力を与えるという意味では力の届く範囲は狭いが、ゼオンの場合はアランがその気になれば、それこそ単機で村や街……場合によっては都市であっても破壊することが出来るだけの力を持っている。
 そう思えば、寧ろ危険度という点ではクラリスよりもアランの方が上だろう。

「とにかく、これは決定事項です。誰が何と言おうと意見を変えるつもりはありません」

 アランがガーウェイと話したり、ゼオンについて改めて考えている間にも、クラリスやギジュ、ロルフたちとの話は続いていた。
 だが、クラリスがそう断言してしまえば、ギジュやロルフたちも翻意させるような真似は出来ない。

「……」

 そんな中、ロルフがアランに向けて助けを求めるような視線を向けてくる。
 クラリスがアランを兄のように慕っているのは、誰もが知っている。
 そうである以上、もしかしてアランがゴールスに会いに行くのを止めるように言えば、もしかしたら……そう思っての行動だろう。
 だが、アランはそんなロルフの視線に対し、首を横に振る。
 今この状況でアランが何を言っても、クラリスが話を聞くとは思えない。
 何よりも、昨日の夜にクラリスと話して、それで考えを変えるとは到底思えなかったからだ。

「では、そういう訳で……話は決まりましたね。ゴールスに会いに行きましょう」
「え……その、姫様。会いに行くのはいいとして、約束も何もなしに行くんですか?」
「ええ。もし約束を取り付けようとした場合、向こうは何か妙な真似をしかねません。それなら、そのような準備をするよりも前に、直接会いに行けばいいのです」
「いいのですって……でも、それで会ってくれますか?」

 先程までは、クラリスをゴールスに会わせないようにしようと考えていたはずのロルフだったが、それでもクラリスの言葉に思わずといった様子で突っ込んでしまうのは、その性格ゆえだろう。

「問題ないでしょう。私が会いに行ったのに、会おうともしなかった。それはつまり、私から逃げたということですから。ゴールスの立場を考えれば、そのような噂……いえ、事実を広められるのは、困るはずです」
「でも……」

 クラリスの言葉に、そう口にしたのはレオノーラ。
 まさか、自分の味方……とはとてもいえないが、少なくてもこの件にかんしてだけは協力してると思っていたレオノーラがこの状況で何かを言ってくるというのは、クラリスにとっても驚きだったのだろう。
 少し戸惑った様子で、レオノーラに視線を向ける。

「何か?」
「いえ、ゴールスがこの状況で会わないと逃げだと思われるというのは、分かるわ。けど、会った場合はクラリスの言霊で何かをされると考えるんじゃない?」
「そうですよ! そのような状況で、ゴールスが姫様に会うとは思えません!」

 ロルフがここぞばかりに叫ぶ。
 先程は約束もないのに云々と言っていたが、一瞬にして言ってる言葉が変わる。
 とはいえ、レオノーラが言ってることは真実でもある。
 実際にゴールスを何とかするのなら、それこそ暗殺者を送るといったような真似をしなくても、クラリスの言霊を使えば、それでいいのだから。
 クラリスを知っている者であれば、そのような真似をするとは思わない。
 だが、それはあくまでもクラリスを知っている者であればの話だ。
 ゴールスはクラリスについて、当然のように情報は持ってるだろうが、それはあくまでもクラリスの能力にかんしてであって、その性格については、そう知らない。
 それを思えば、やはり今回の一件で素直に会うとはレオノーラには思えなかった。

「そう、ですね。……私が言霊を使わないと言っても、向こうがそれを信じるとは思えませんし」
「というか、ゴールスの性格を考えると、自分ならやるからクラリスもやると、そう考えてそうだけどな」

 アランの言葉に、クラリスはどうするべきか迷うのだった。
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