その乾いた青春は

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恋に落ちない殺人未遂

恋に落ちない殺人未遂〈中〉

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 「納得いかない!」

 雛は事故が事故であると証明されたことがとても気に入らないらしく、1年3組の教室を出てからそればかり言っている。

 「だから、お前が納得いかなくても、事実事故なんだからしょうがないだろ」

 「むー」

 と、雛は膨れたかと思うと、ふと気がついたように顔を上げた。

 「あ、ちょっと寄るとこよっていい?」

 「どこにいくんだ?」

 雛はへっへーと笑って口に出した。

 「ミステリー研究会」

 第2章:ミステリー研究会の事情

 「たのもー」

 1年3組のドアを開けたときのように元気よくあけた。

 ドアの向こうには女子高生が一人たたずんでいた。……なんかデジャヴだ。

 「あれ?雛ちゃん?どうしたの?」

 「やっほー!沙羅っち!遊びにきたよ!あ、こっちは優くんだよー」

 と二人は知り合いのようで、自然な流れで雑談にうつり、そしてあの事故の話になった。

 「なるほどねーたしかに怪しい」

 「でしょー!絶対にこれは密室トリックだよ!」

 「み、密室ではないと思うけど…」

 沙羅という少女は苦笑いをして、話を続けた。

 「でも、その話おかしいね」

 彼女の言葉に雛は案の定飛びついた。
 いや、俺でさえ気になる言葉だった。

 「え!?どこかおかしいとこあった?」

 「うん、っていうか、現場行ってないの?いい?現場百回!基本だよ!」

 それは刑事の考え方では…。

 そして彼女は部屋に飾ってあった花瓶を持って窓際に移動する。

 ガラッと窓を開けて花瓶を窓際に置いた。

 「この学校で、物が窓から落ちるなんて、あまりかんがえられないんだよ」

 「どういうことだ?」

 俺はつい口を挟んでしまう。

 「あれれー?優くん実は興味津々?」

 案の定雛がからかってくる。
 本当にうるさい。

 「まぁ、見てて」

 彼女は花瓶を窓に向かってスライドさせていく。

 「あ!」

 コツンと、花瓶は窓の縁に当たって止まった。

 「ね?この学校の窓って縁に出っ張りがあって物が落ちにくくなってるんだよ」

 「……でも落ちにくいだけで」

 「地震でも起きれば別ですが自然に落ちることはないと思います。つまりこれは」

 そして彼女は恥じらいもせず人差し指を立てて、まるで小説の中の探偵のようにこういった。

 「事件です」





 ピリリリっと、突然彼女の携帯が鳴った。

 「おや、ボーイフレンド(仮)から呼び出しだ」

 なんだそのスマホアプリみたいな名前は。

 「あ、沙羅ちゃんまだあの人諦めてなかったんだー」

 「いや、まぁ、諦めてっていうか、うん」

 彼女は頬を染めてもじもじと話す。

 なるほど、想い人か。

 「まぁ、付き合える可能性は薄いけどね」

 「へー、あれ?前にひさしぶりに話せたんじゃなかったけ?」

 「いや、そうなんだけど、あまりロマンチックな話じゃなかったし…色々複雑なの」

 「ふーん」

 雛はバッと立ち上がる。

 「とりあえず、沙羅ちゃんありがとー!この事件は必ず私達が解決するよ!」

 「俺も含まれてるのか」

 「ふふ、頑張ってね。じゃ、私も行くね」

 そう言って、彼女はミステリー研究会の部屋から出て行ってしまう。

 「じゃ、これから事情聴取だー!」

 雛の目はギラギラしている。
 …これは止めても無駄だ。そう、なんとなく思いながら、部屋を出る雛を追った。
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