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4. 略奪
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それから、リーリエは頻繁に王宮へと出かけていくようになった。
アレクシスとの仲を深めているのだろう。
いずれ紹介されるまで、クリスタは歯噛みして待つことしかできない。
(絶対、絶対王太子も私のものにしてみせるわ)
そう思いはするものの、元々交流があったらしい美しい姉から、どうやって王太子の心を奪えばいいのだろうか。
最悪、奪えなくてもいい。この縁談がダメになりさえすれば。
せめて、醜聞となるようなリーリエの欠点が見つかれば……。
クリスタは、リーリエがいない間にこっそり部屋に忍び込み、姉の縁談を壊すきっかけになりそうなものを探した。
初めの数回は何も収穫がなかったが、たまたま手に取った紙の束に、クリスタの求めるものは有った。
「魅了の術……」
特定の異性を自分に夢中にさせる術。
リーリエが別の魔術を研究している中で、偶然発見したらしい。
ただ、おそらく特定の星並びの日にしか成功しないであろうことと、気の遠くなるような周期に一度しかないこと、その日が差し迫っており、危険な術のためその日が過ぎてから発表することがメモ書きとして残してあった。
これだ、これしかない。
幸い自分も魔力持ちである。まともに魔術を使ったことはないが、幸い丁寧に手順が記してあるため、これなら素人のクリスタにも行うことができるだろう。
「待ってて、お姉様」
王太子は呪いを無効化する魔導具を身に着けているらしいが、ダメで元々だ。
何もやらないよりずっといい。
そうしてクリスタは、魅了の術を成功させたのだった。
◆◆◆
アレクシスは優しく、良い恋人だった。
顔を合わせれば心の底から嬉しそうな顔をし、どんな我儘も聞いてくれた。
ただ、不満がないわけではない。
「僕は本当はずっと君と一緒になりたかったんだ。隣国のフランシーヌ姫とは殆ど顔も合わせたこともなかったし……。だから、こうして君と一緒にいられて本当に嬉しいんだよ」
「私もよ、アレクシス様」
「ああ――愛してるよ。本当に、心の底から。あの時から、ずっと君に心奪われたままなんだ」
「あの時?」
「初めてあった時のことだよ。ほら、王宮の夜会で……。呪い無効のブローチが上手く動作しなくて、必死に我慢していた僕に気づいて、そっと解呪してくれたよね。美しくて、本当に女神のようだった」
「アレクシス様……」
こうして、存在しない思い出を語るのだ。
おそらくはリーリエとの出来事なのだろう。
この様子から見ると、王太子は心底姉に惚れていたようだ。
それも今は、クリスタのものだが。
「君のためならなんでもするよ、僕にどうして欲しいか教えて欲しいな」
「ありがとうございます、アレクシス様」
クリスタはアレクシスに微笑んだ。
整ってはいるが、華のある顔立ちではない。
キラキラと光る金の瞳は美しいが、それは眉目秀麗な第二王子も共通して持っているものだった。
(どうせなら、第二王子のほうが良かったかも)
王宮に出入りするようになったことで、第二王子のディートリヒとも頻繁に顔を合わせるようになった。
噂で聞いていた通りの美しい王子を初めて見かけた時、クリスタは思わず目を見開いた。
サラサラとした銀の髪に黄金の瞳を持つディートリヒは、絵本から出てきたような理想の王子様そのものだった。
それ以来、なんとかディートリヒに近づこうとしていてはいるものの、タイミングが合わないのかまだ直接言葉を交わすことはできないでいる。
魅了の術はもう使えないが、近づきさえすれば、ディートリヒと仲良くなることもきっとできる筈だ。
一方リーリエの方はというと、あれから部屋に引きこもって殆ど出てこなくなってしまった。
悔しがる顔をクリスタに見られたくないのだろう。
公爵はそもそもリーリエにはさほど興味はなさそうだし、クリスタの母はリーリエを目の敵にしていたので、これを機にリーリエを公爵家から追い出そうと考えているようだ。
(お姉様には、そばにいて私を支えて貰わないといけないから、追い出すのは阻止しないとな)
クリスタは幸せだった。
アレクシスとの仲を深めているのだろう。
いずれ紹介されるまで、クリスタは歯噛みして待つことしかできない。
(絶対、絶対王太子も私のものにしてみせるわ)
そう思いはするものの、元々交流があったらしい美しい姉から、どうやって王太子の心を奪えばいいのだろうか。
最悪、奪えなくてもいい。この縁談がダメになりさえすれば。
せめて、醜聞となるようなリーリエの欠点が見つかれば……。
クリスタは、リーリエがいない間にこっそり部屋に忍び込み、姉の縁談を壊すきっかけになりそうなものを探した。
初めの数回は何も収穫がなかったが、たまたま手に取った紙の束に、クリスタの求めるものは有った。
「魅了の術……」
特定の異性を自分に夢中にさせる術。
リーリエが別の魔術を研究している中で、偶然発見したらしい。
ただ、おそらく特定の星並びの日にしか成功しないであろうことと、気の遠くなるような周期に一度しかないこと、その日が差し迫っており、危険な術のためその日が過ぎてから発表することがメモ書きとして残してあった。
これだ、これしかない。
幸い自分も魔力持ちである。まともに魔術を使ったことはないが、幸い丁寧に手順が記してあるため、これなら素人のクリスタにも行うことができるだろう。
「待ってて、お姉様」
王太子は呪いを無効化する魔導具を身に着けているらしいが、ダメで元々だ。
何もやらないよりずっといい。
そうしてクリスタは、魅了の術を成功させたのだった。
◆◆◆
アレクシスは優しく、良い恋人だった。
顔を合わせれば心の底から嬉しそうな顔をし、どんな我儘も聞いてくれた。
ただ、不満がないわけではない。
「僕は本当はずっと君と一緒になりたかったんだ。隣国のフランシーヌ姫とは殆ど顔も合わせたこともなかったし……。だから、こうして君と一緒にいられて本当に嬉しいんだよ」
「私もよ、アレクシス様」
「ああ――愛してるよ。本当に、心の底から。あの時から、ずっと君に心奪われたままなんだ」
「あの時?」
「初めてあった時のことだよ。ほら、王宮の夜会で……。呪い無効のブローチが上手く動作しなくて、必死に我慢していた僕に気づいて、そっと解呪してくれたよね。美しくて、本当に女神のようだった」
「アレクシス様……」
こうして、存在しない思い出を語るのだ。
おそらくはリーリエとの出来事なのだろう。
この様子から見ると、王太子は心底姉に惚れていたようだ。
それも今は、クリスタのものだが。
「君のためならなんでもするよ、僕にどうして欲しいか教えて欲しいな」
「ありがとうございます、アレクシス様」
クリスタはアレクシスに微笑んだ。
整ってはいるが、華のある顔立ちではない。
キラキラと光る金の瞳は美しいが、それは眉目秀麗な第二王子も共通して持っているものだった。
(どうせなら、第二王子のほうが良かったかも)
王宮に出入りするようになったことで、第二王子のディートリヒとも頻繁に顔を合わせるようになった。
噂で聞いていた通りの美しい王子を初めて見かけた時、クリスタは思わず目を見開いた。
サラサラとした銀の髪に黄金の瞳を持つディートリヒは、絵本から出てきたような理想の王子様そのものだった。
それ以来、なんとかディートリヒに近づこうとしていてはいるものの、タイミングが合わないのかまだ直接言葉を交わすことはできないでいる。
魅了の術はもう使えないが、近づきさえすれば、ディートリヒと仲良くなることもきっとできる筈だ。
一方リーリエの方はというと、あれから部屋に引きこもって殆ど出てこなくなってしまった。
悔しがる顔をクリスタに見られたくないのだろう。
公爵はそもそもリーリエにはさほど興味はなさそうだし、クリスタの母はリーリエを目の敵にしていたので、これを機にリーリエを公爵家から追い出そうと考えているようだ。
(お姉様には、そばにいて私を支えて貰わないといけないから、追い出すのは阻止しないとな)
クリスタは幸せだった。
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