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5.イレギュラー(後編)
しおりを挟む翌朝、僕とクロモはお弁当を作ってご主人様の元に向かいました。
ありとあらゆるご主人様の好物を取り入れてオニギリを作りました。
これなら、仕事で食事をする時間がないご主人様でも、片手間に食べられます。
「いいかい、クロモ。今日は会話をなるべく控えるんだ」
「どうして?」
「ご主人様のそばにいたいからだ」
「僕は兄さんと会話を交換してAIの成長を促したい」
「それは帰ってから二人の時にでもできることだ」
相変わらずクロモとの意見が合わず、半ば言い合いになっていましたが——
「兄さん、何か嫌な音がしない?」
「音? 僕にはわからない」
その時でした。
猛スピードのトラックが曲がり角から現れました。
僕の処理スピードでは逃げることができず茫然としていると、何かに突き飛ばされて僕は地面を転がりました。
そしてトラックはそのまま何かにぶつかって動きを止めました。
「……クロモ?」
慌てて顔をあげると、目の前にはトラックを全身で受け止めるクロモの姿がありました。しかもクロモは半分以上機械がむき出しになっていました。
「クロモ!」
暴走トラックは、運転手が気絶しているようでした。僕は慌てて運転手を救出してトラックを止めました。
すると、クロモは膝をついて倒れます。
「クロモ」
僕は運転手を近くにいた人間に任せたあと、クロモを抱えてご主人のラボに向かいました。
ですが、ご主人様は大事な会議をしている最中だったので、僕は会議室の前に座り込んで待ちました。
何においてもご主人様を優先するプログラムが働いて、僕はご主人様を呼ぶことができませんでした。
すると一時間ほどしたところで、ご主人様が現れました。
「アルモ? どうしたの?」
「ご主人様、クロモが……」
「どうして早く言わなかったの!」
それからクロモの緊急手術が始まりました。手術といっても、パーツの交換です。
痛みを伴うことも、出血による死の危険があるわけでもないもの、パーツを一新することで不具合が起きる可能性はありました。
それにクロモはバックアップをとっていないので……僕はあらゆる悪い可能性を想定して、研究室の外でひたすらじっとしていました
「アルモ……あなた、なんて顔してるのよ。クロモの手術は終わったわよ」
「お疲れ様でした、ご主人様。今お茶をお持ちします」
「お茶なんていいわ。それより早く、クロモのそばにいてあげなさい」
「……はい」
それから研究室の中に入ると、壁際に目を閉じたクロモが立っていました。
「……クロモ」
クロモの見た目は、破壊される前そのままの姿をしていました。
そして声をかけるなり、クロモがパチリと目を開きます。
「初めまして、兄さん」
「クロモ……」
予想通り、クロモは僕を認識することはありませんでした。
なぜか僕のシステムが不安定になる中、ご主人様が後ろからやってきます。
「あ、ちょっと待ってアルモ。バックアップをアップロードするから」
「バックアップ……あるんですか?」
「あれ? 言ってなかったけ? クロモの新機能で、クラウドで遠隔バックアップがとれるのよ」
「遠隔バックアップですか?」
「ええ。だから、あなたがそんな顔をする必要はないのよ」
「僕はどんな顔をしているのでしょうか?」
ご主人様は僕を抱きしめて笑いました。
「ふふふ、他の人にはわからなくても、私にはわかるの。同じ顔をしていても、今のあなたはとても悲しい顔をしているわ」
それからご主人様はリモコンのようなものを操作して、バックアップを復元させる作業に移りました。
「……ほら、リストア完了よ」
ご主人様の合図を聞いて、僕が近づくとクロモは「兄さん」と笑いました。
するとなぜか僕も、自動的に笑顔を選択していました。
余談ですが、クロモが僕をかばって破壊されたことで、取引先のトップが深く感銘を受けたらしく、量産型のアンドロイドの開発をご主人様に任せてもらえることになったそうです。
ご主人様はとても忙しくなりましたが、充実した日々を送れていると喜んでいました。
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嬉しすぎます(T_T)
しかもめちゃくちゃ嬉しいお言葉を!
いつも励みになるお言葉をありがとうございます!!!
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とても魅力的なお話でした!
keco様
こちらにもありがとうございます😭
しかも一気に読んでいただけて嬉しいです!
主人公の語り口がちょっと童話っぽいですよね。
そう言っていただけると感激です!
本当にありがとうございます!!!
( ゚д゚)ハッ!
終わり?
これで終わりですか?
めっちゃ続きが読みたいです(;;)
最初はご主人様の取り合いでどうなるかと
心配しましたが、アルモもクロモも
それぞれどちらにも互いに対する愛が見えて
すごく素敵なお話でした♡
ありがとうございました(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
こぉぷ様
なんだか続きそうな終わり方になってしまいましたが…
続きが読みたいだなんて、嬉しいお言葉ありがとうございます😭
恋するアンドロイドと言いながら、恋愛要素がうっすいですが楽しんでいただけたなら良かったです。
アルモとクロモはその後も幸せに暮らしたのは間違いないです。
こちらにもコメントありがとうございます!!!