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55.遅れて知る気持ち
しおりを挟む拓未くんの言った通りだった。
大迫くんが私に告白したのには、理由があって。
ただ、拓未くんに言われても大したダメージはなかったけど、大迫くん本人の口から聞くと、ものすごくショックだった。
そんな私の内心を知ってか知らずか、大迫くんは淡々とリアンさんに言った。
「先代の大魔法使いが死に際に言ったんだ。鏡を探せって。先代が大事に使っていた鏡が、人間に生まれ変わっているから、その子を探して願いをかけろって言われたんだ」
「大魔法使いが使っていた……鏡?」
「そうだよ。結菜の前世は先代が使っていた鏡なんだ」
「それで、鏡の……魔女?」
「うん。よく喋る魔法の鏡だったって、先代が言ってた。でも、結菜に会った時、すぐにわかったよ」
「公園で会った時のこと?」
「うん。だって、先代から鏡の話についてよく聞いていたから。それに俺は大魔法使いの複製品だから、直感でわかったし」
「まだ信じられないけど……仮に私が鏡だったとして。大迫くんは鏡を探しだして……何を願うつもりだったの?」
「……」
私がひそかに汗を握りながら訊ねると、大迫くんは一呼吸して答えた。
「鏡の力で俺を消してほしいんだ」
「消すって……まさか」
「殺してほしい」
「……どうしてそんなこと……」
私が狼狽えていると、大迫くんは泣きそうになりながら説明した。
「先代の大魔法使いは暴走する自分の力を止めるために、俺というコピーを作ったんだ。けど、俺は大魔法使いのコピーだから、いつか俺も暴走することがわかって……俺を消せる存在を探していたんだ」
「どうして大迫くんが暴走するってわかるの?」
「先代には未来を視る力があったんだ」
「未来を?」
「そう、先代が言ったんだ」
「それで……私に告白した理由っていうのは?」
「先代に呪いをかけられたんだ。俺を倒せるのは、俺の花嫁になった者だけだって……」
「は、はなよめ!? ちょっと待って、なんでそんな呪いを?」
「俺も、先代の意図はよくわからないけど……いくつか呪いをかけられたんだ。攻撃魔法を使えば、大事な人が遠ざかる呪いとか……」
「やっぱり……信じられないよ。そんなおかしな話」
「でも、本当なんだ。俺には結菜しかいなくて……」
「大迫くんが求めてるのは、私じゃなくて、鏡でしょ?」
「俺が必要としているのは結菜だよ」
「私を好きだなんて……よく言えたよね」
「え?」
「気持ちがないのに付き合えるはずがないよ」
「結菜?」
「悪いけど、私は大迫くんとは付き合えないし、花嫁なんてもってのほかだよ」
「でも、このままだと俺の力が暴走して被害が……」
「私には無理だよ」
泣きたい気持ちを我慢して吐き出すと、私はそれ以上何も言わずにその場を去った。
——大迫くんは私のこと、好きじゃなかったんだ。
大迫くんは正しいことをしたいのかもしれない……けど、私は利用されるのを受け入れられるほど、できた人間にはなれなかった。
「ひどい、ひどいよ……大迫くん。どうして告白する前に言ってくれなかったの? 付き合ってしまえば、どうにでもなるって思ったの?」
あとになって、自分が傷ついていることに気づいた。
涙で視界が揺れる中、私は顔を伏せて歩いていたけど……その時だった。
「結菜?」
顔を上げると、真紀先輩が立っていた。
「どうしたんだ? 結菜」
「う、うぅ……」
「いったい何があった? それとも誰かに何かされたのか?」
さすがに大迫くんの話は言えなくて、ゆっくりとかぶりを振ると、そんな私を真紀先輩は抱きしめた。
「……先輩」
「もしかして、大迫くんか?」
「……」
「何があったんだ?」
私が黙っていると、頭をなでられる感触があった。
優しい手だった。
「何があったか知らないが、無理はするなよ。結菜はすぐ我慢するからな」
「……」
「やっぱり、大迫くんと付き合うのはやめた方がいい」
「……」
「それとも俺と付き合うか? 俺なら、こんな風に泣かせたりしないぞ」
冗談でも、真紀先輩の言葉は嬉しかった。
けど……先輩は本気だった。
抱きしめられる腕から先輩の想いが伝わってくる。
「結菜を見つけたのは俺の方が先なのに、大迫くんはずるいやつだ」
「……先輩?」
力強く抱きしめられて、私は慌てて離れようとするけど、先輩は離してくれなくて。
私が動揺していると、先輩はさらに告げる。
「結菜、どこにも行かないでくれよ。ついこの間までは、俺だけの結菜だったのに」
「は、離してください、先輩」
血の気が引くのを感じた。力いっぱい抱きしめられて、ようやく先輩の気持ちに気づくなんて。
それからなんとか先輩の腕から逃げ出した私は、先輩と距離をとった。
「どうして逃げるんだ?」
先輩がなんだか怖い。大迫くんに抱きしめられた時はそんなこと思わなかったのに……そこで初めて気づいた。
——ああ、私は大迫くんのことが本当に好きなんだ。
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