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飴売りの謎
しおりを挟む「さて、これから皆さんに話しますは、奇妙な井戸の話!
なんでも吸い込むその井戸は、腹が空いちゃ、鳥でも桶でも飲みこんだ。
しかしこれは呪われているわけではない。
皆さん、この井戸の謎が解けますかい?」
小さな公園にいたのは、古風な語り口の飴売りだった。
琥珀に輝く蝶の飴細工を手に、軽快な呼び込み。
横には、公園に似つかわしくない古い井戸がある。
泥臭い子供たちは、いっせいに遊具で遊ぶのをやめる。
子供の良い反応に、飴売りはにやりと笑った。
「井戸の謎が解けた人には飴を特別安く分けてやろう。わかったら、おれの耳にこっそり言いな」
飴売りの声で子供たちがいっせいに群がった。
列を作った子供たちの一番先で、飴売りが叫ぶ。
「おお、正解だ!」
子供たちは飴売りに続々と耳打ちし、飴を手にしていった。
誰一人として答えを間違えるものはおらず、もれなく飴を買っている。
全ての子供たちが正解と言われていた。
「——おっちゃん、皆違う答えなのに、なんで当たりなんだ?」
子供たちが答え合わせをしたらしい。
飴売りが純粋な目に包まれる。
「みぃんな正解だったんだよ。飴が安く買えて良かったな」
商売上手な飴売りは人の好さそうな顔で笑う。
すると子供たちは嬉しそうにうなずいた。
しかし、
「あたしだけ、飴もらってないよ。どうしてあたしだけ飴くれないの?」
一人だけ悲しい声の子供がいた。
他の誰よりも綺麗な身なりをした少女は懸命に訴えるが、飴売りはまるで無視をする。
他の子供たちは嬉しそうに飴を食べながら、囁きあっていた。
少女は仲間外れに耐え切れず、公園を飛び出す。
その顔は真っ赤で、今にも泣き崩れてしまいそうだった。
————ああ、悪いことをした。
————悪いことをした。
公園にぶっきらぼうな男の声が響く。
二時間経って、飴を買えなかった少女が再び公園にやってくる。
母親らしき女性も一緒だった。
「まあ、どこにいるのかしら、飴売りさん」
「ここに来ていたの。綺麗な蝶の飴を売ってたんだよ」
「もう去ってしまったのね。残念だったわね」
「私にだけ売ってくれなかったの」
「そういえば、お母さんも小さい頃、ここで飴を買えなかったことがあるのよ。どうしてかしらね」
母親は宥めるように娘の肩に手をおく。
親子は残念そうに去っていった。
誰もいない公園で、
————悪いことをした、悪いことをした。
再び嘆く声。
なんでも吸い込むその井戸は、思い出さえも吸い込んだ。
幸せな記憶ほど色鮮やかに憶えている井戸。
公園が寂しくなる度、井戸は楽しかったその思い出を見せてあげた。
そして飴売りが来た思い出が、他のどの思い出よりも好きだった。
————悪いことをした、悪いことをした。
公園は申し訳なさそうに鳴いた。
井戸は慰めるように、別の記憶を開いてあげた。
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