闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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太郎の怪奇ファイル

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 オカルト研究同好会の田中太郎は、怪異や都市伝説が大好きである。

 きっかけは桜の木だった。死体が埋まっているという都市伝説を聞いて、友達と桜の木の下を掘った。
 しかも偶然骨を発掘して、ニュースになったのである。
 偶然かもしれないが、その時は仏様が見つけてほしくなったのかもしれないと解釈した。

 それからだった。あらゆる怪異や都市伝説に意味があると思い始めたのは。
 そして怪異や都市伝説にぶつかるたび、その超常現象の謎を、太郎は解き明かしたのである。

 たとえば猫又。近所に猫のお化けが出ると聞いて夜道を探った。すると、現れたのは猫の獣人だった。
 猫のお化けではなかったのである。
 人間に怖がられることを悲しく思っていた獣人と対話できたことで、地球の生き物図鑑に新しい種族が加わった。
 世紀の大発見だった。

 そしてまたある時は、図書館にいると言われる、トイレの花子さんを調査していたところ、宇宙人の子供を発見した。
 トイレのウォシュレットがあまりにも気持ち良すぎて、トイレから出られなくなったという。なので、太郎は自宅の要らなくなったウォシュレットを宇宙人にプレゼントした。
 そこから宇宙人との和平が成立したことで、太郎は平和の使者と呼ばれるようにもなった。
 
 そんな感じで、オカルトと言えば田中太郎の名が出る、そんな世の中になったある日のことだった。
 夜な夜な悪魔召喚の儀式が繰り返されている部屋があると聞いて、太郎はいつものように出動した。
 
 悪魔召喚など、倫理的にも問題がある儀式を止めるために乱入したのである。
 そして悪魔召喚の儀式には、小さな女の子が生贄いけにえとして用意されていた。

「なんだこれ、子供を生贄にするとか、間違ってるし!」

 いつになく怒った太郎は、女の子が殺される前に救おうとした。
 大勢の大人が、なんの為にそんなことをするのか。考える暇もなく襲い掛かってくる大人たちに、太郎も容赦はしなかった。

「こんな時のための催涙スプレーだ!」

 太郎はスプレーを撒いて大人たちを混乱に陥れた。バタバタと倒れていく大人を見て、もう悪魔召喚の儀式は無効になったかと思った——その時だった。

「我を召喚したのは誰ぞ」

 黒い翼を背負った人間が魔法陣の上に現れた。どうやら、悪魔召喚の儀式が成功してしまったようだった。
 太郎は悪魔にお帰りいただくために魔法陣を消そうとするが、血で描かれた魔法陣は消えなかった。
 そして太郎が困惑する中、悪魔は言った。
 
「お前の名はなんだ、人間」

「え? 僕? 僕は田中太郎ですが」

「ふふ、よくぞ言ったな。お前が名を差し出したことで契約は成立だ」

「え? なんですって!? 僕はこれからどうなってしまうんですか?」

「ふふふ、お前はこれから我に『あるもの』を差し出さなくてはならぬ」

「あるもの?」

「そうだ。それは——」

「待ちなさい!」

 悪魔が何か言いかけたその時、生贄にされそうになっていた少女が、口を挟んだ。
 少女は頭についていたリボンを掲げると、魔法少女に変身した。

「あなたの目論みはわかっているのよ、アクマーン」

「お前、魔法少女テンシーだったのか!」 

「そうよ! 人間に悪いことをする子はお仕置きなんだからっ」

「ぐはっ」

 少女は魔法のステッキで悪魔を殴りつけた。
 しかも殴って殴って殴って痛めつけたあげく、アクマーンと名乗った悪魔っぽいものはメソメソし始める。

 見かねた太郎は、魔法少女を止めた。

「ちょっと待ってください、テンシーさん。そのアクマーンさん、ちょっと可哀想じゃないですか?」

「何を言うのよ、怪奇バスターで有名な太郎くん。この子は人間と悪い取引きをしようとしていたのよ!」

「でも、暴力で解決しても、悪意しか生まれません。ねぇ、アクマーンさん、よければ話を聞かせていただけませんか? どんな取引きを持ちかけようとしていたのですか?」

 太郎が訊ねると、年齢も性別も不詳なアクマーンは目を潤ませながら太郎に縋りついた。

「……実は、我が住んでいる田舎は……なにもないのだ。だから、我が悪魔界の作物を提供する代わりに、人間のスマホという娯楽をいただきたいと思ったんだ」

 アクマーンの切実な願いに、テンシーはショックを受ける。
 アクマーンの見た目があまりにも悪役なせいで、誤解していたのである。
 テンシーは心から謝罪した。

「ごめんなさい、アクマーン。あなたは悪魔界の文明開花を目指していたのね。いつも問答無用で殴っていた私が間違っていたわ」

 こうして悪魔界との橋渡しが成功した太郎は、またもや人間界に喜びをもたらした。悪魔界のマジウマみかんが世に流通するようになったのだ。世の中に美味しい果物が増えて、人々はみな太郎に感謝したという。

「良かった。みんな、喜んでいるね。やっぱり、何事も対話だよね」

 がんばれ太郎、負けるな太郎。
 太郎の怪奇日記は続くのであった。
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