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ストーカー
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私には気になる人がいる。同じマンションの隣の部屋に住む村中隆さん。写真家でいつも被写体を探して歩いているのをよく見かけた。
だけど気になると言っても、決して好意を持つという意味ではなくて。気づけば盗撮されているような、そんな気がして怖かった。それに私が失くした櫛を、いつの間にか持っている彼を見かけた。
これはもう、ストーカー確定だろう。
長身で素敵な笑顔の人だから、ついつい立ち話とかしてしまうけど、実は私のことを密かに狙っているのだとしたら、今後は接し方にも気をつけないといけない。
今日は会社が休みなので、私はベランダのベンチで昼寝をしていた。秋の光が気持ちよくて、うとうとしていたら、フラッシュのようなチカチカした光に目が覚めた。怖くなった私は、膝に愛猫を乗せる。マンチカンのルナは私の膝で丸くなる。そして気づいたら、再びフラッシュが焚かれる感じがして、私は部屋に入ることにした。
その後も執拗な目で追いかけてくる隆さんを見かけた。普段はあんなに優しい人なのに、私を追いかける時の目は、常軌を逸しているような気がした。でもついて来ないで、とも言えなかった。彼がもしストーカーだとしたら、関係を遮断することで何をしでかすかわからないからだ。だから私は普通に生活しているふりをしながらも、彼の目から逃れるように背中を向ける日々が続いた。
そんなある日のことだった。
「あの、今田さん」
インターホンに出たら、隆さんの姿があった。私は出るかどうか悩んだ挙句、ドアにチェーンをつけたまま顔を出した。
すると、隆さんは相変わらず屈託のない笑顔で話しかけてくる。
「こんにちは、あの……今日はお暇ですか?」
とうとうこの日がやってきてしまった。彼はきっと、強硬手段に出るつもりなのだろう。私を部屋に連れていき、熱いキッスの一つでもお見舞いするつもりなのだ。
私はもちろん、彼を拒絶することにした。
「ごめんなさい。今日は愛猫をトリミングしないといけないから」
「トリミング、ですか? ご自宅でなさるんですか?」
「ええ。私、実はそういうの得意ですから。人間の髪を切るのも得意なんですけどね」
あら、うっかり自慢しちゃったわ。すると、隆さんはしきりに自分の髪を気にして言った。
「なら、俺のもお願いできませんか?」
「……え」
「実は、人見知りで……でも、今田さんなら大丈夫だから」
「……でも」
「五万払います」
「喜んで」
いけない。お金に釣られてOKしてしまったわ。最近、愛猫グッズにお金をかけすぎて、金欠だったのよね。ちょうどいいカモ……じゃない、練習相手だわ。
それから私は隆さんの部屋に行く約束をした。何かあった時のために、警備会社の人が駆けつけてくれるアプリもスマホに入れてあるので、大丈夫だとは思うけど。それでも、男の人の部屋に一人で乗り込むのはちょっとだけ緊張した。
「どうぞ、粗茶ですが」
リビングに通された私は、まず紅茶を出された。とても香りの良いお茶だった。もしかしたら、これに睡眠薬とか入っているかも……と思うと、飲めそうになかった。そして私がハサミを用意すると、隆さんは「準備してくる」と言って、リビングを出ていった。
髪を切るのに、なんの準備だろうと思っていたけど。私は気にせず待つことにした。
けど、隆さんは十分すぎても現れることはなかった。気になった私は、隆さんを探しに、リビングを出た。呼びに行くくらいいいわよね?
廊下を歩くうち、明かりが漏れる部屋を見つけた。ドアが少しだけ開いた部屋。
そこに隆さんがいるのかと思い、部屋を覗いた私は、驚きの声を上げた。
なぜならその部屋には、一面写真が貼られていたからだ。しかも全ての写真に私が写っていた。これはもう、ストーカー確定だった。
そして私が逃げようと振り返った時、無表情の隆さんが立ちはだかった。
「見ましたね」
「隆さん……これは」
「私の愛は伝わったでしょうか」
「そんな! でも私は——」
ああ、これから私は何をされるのだろうか。などと、胸を高鳴らせ——いや、恐怖していると、彼は私が失くしたブラシを持って言った。
「それじゃあ、トリミングお願いします」
「え?」
「だから、トリミングですよ」
「なんで?」
「いや、なんでじゃないですよ。お願いしたから来てくれたんでしょう?」
「でもこの状況ですよ? 私をストーカーしていたことがバレて、はいトリミングっておかしくないですか?」
「ストーカー? なんのことですか?」
「だって、こんなに私の写真がいっぱい。それにそのブラシはうちのですよね?」
「は? 何言ってるんですか。僕が撮ったのは今田さんちのマンチカンちゃんですよ。それにこのブラシは良さそうだったから買っただけで」
「……え?」
言われて気づく。壁一面に貼られている写真の被写体が、猫であることに。話によると、彼は猫専門の写真家なのだそうだ。
そして彼の足元から、ハチワレ柄の雑種猫が現れる。猫は私を見て、小さく鳴いた。
「その猫ちゃんは……?」
「うちの猫、人見知りがすごいんですよね。でも、今田さんなら大丈夫かと思って。トリミングをお願いしたんです」
「ああ、そういうこと」
ようやく彼の行動の意味がわかった私は、その後、普通にトリミングして帰ったのだった。
…………なんとなく残念。
だけど気になると言っても、決して好意を持つという意味ではなくて。気づけば盗撮されているような、そんな気がして怖かった。それに私が失くした櫛を、いつの間にか持っている彼を見かけた。
これはもう、ストーカー確定だろう。
長身で素敵な笑顔の人だから、ついつい立ち話とかしてしまうけど、実は私のことを密かに狙っているのだとしたら、今後は接し方にも気をつけないといけない。
今日は会社が休みなので、私はベランダのベンチで昼寝をしていた。秋の光が気持ちよくて、うとうとしていたら、フラッシュのようなチカチカした光に目が覚めた。怖くなった私は、膝に愛猫を乗せる。マンチカンのルナは私の膝で丸くなる。そして気づいたら、再びフラッシュが焚かれる感じがして、私は部屋に入ることにした。
その後も執拗な目で追いかけてくる隆さんを見かけた。普段はあんなに優しい人なのに、私を追いかける時の目は、常軌を逸しているような気がした。でもついて来ないで、とも言えなかった。彼がもしストーカーだとしたら、関係を遮断することで何をしでかすかわからないからだ。だから私は普通に生活しているふりをしながらも、彼の目から逃れるように背中を向ける日々が続いた。
そんなある日のことだった。
「あの、今田さん」
インターホンに出たら、隆さんの姿があった。私は出るかどうか悩んだ挙句、ドアにチェーンをつけたまま顔を出した。
すると、隆さんは相変わらず屈託のない笑顔で話しかけてくる。
「こんにちは、あの……今日はお暇ですか?」
とうとうこの日がやってきてしまった。彼はきっと、強硬手段に出るつもりなのだろう。私を部屋に連れていき、熱いキッスの一つでもお見舞いするつもりなのだ。
私はもちろん、彼を拒絶することにした。
「ごめんなさい。今日は愛猫をトリミングしないといけないから」
「トリミング、ですか? ご自宅でなさるんですか?」
「ええ。私、実はそういうの得意ですから。人間の髪を切るのも得意なんですけどね」
あら、うっかり自慢しちゃったわ。すると、隆さんはしきりに自分の髪を気にして言った。
「なら、俺のもお願いできませんか?」
「……え」
「実は、人見知りで……でも、今田さんなら大丈夫だから」
「……でも」
「五万払います」
「喜んで」
いけない。お金に釣られてOKしてしまったわ。最近、愛猫グッズにお金をかけすぎて、金欠だったのよね。ちょうどいいカモ……じゃない、練習相手だわ。
それから私は隆さんの部屋に行く約束をした。何かあった時のために、警備会社の人が駆けつけてくれるアプリもスマホに入れてあるので、大丈夫だとは思うけど。それでも、男の人の部屋に一人で乗り込むのはちょっとだけ緊張した。
「どうぞ、粗茶ですが」
リビングに通された私は、まず紅茶を出された。とても香りの良いお茶だった。もしかしたら、これに睡眠薬とか入っているかも……と思うと、飲めそうになかった。そして私がハサミを用意すると、隆さんは「準備してくる」と言って、リビングを出ていった。
髪を切るのに、なんの準備だろうと思っていたけど。私は気にせず待つことにした。
けど、隆さんは十分すぎても現れることはなかった。気になった私は、隆さんを探しに、リビングを出た。呼びに行くくらいいいわよね?
廊下を歩くうち、明かりが漏れる部屋を見つけた。ドアが少しだけ開いた部屋。
そこに隆さんがいるのかと思い、部屋を覗いた私は、驚きの声を上げた。
なぜならその部屋には、一面写真が貼られていたからだ。しかも全ての写真に私が写っていた。これはもう、ストーカー確定だった。
そして私が逃げようと振り返った時、無表情の隆さんが立ちはだかった。
「見ましたね」
「隆さん……これは」
「私の愛は伝わったでしょうか」
「そんな! でも私は——」
ああ、これから私は何をされるのだろうか。などと、胸を高鳴らせ——いや、恐怖していると、彼は私が失くしたブラシを持って言った。
「それじゃあ、トリミングお願いします」
「え?」
「だから、トリミングですよ」
「なんで?」
「いや、なんでじゃないですよ。お願いしたから来てくれたんでしょう?」
「でもこの状況ですよ? 私をストーカーしていたことがバレて、はいトリミングっておかしくないですか?」
「ストーカー? なんのことですか?」
「だって、こんなに私の写真がいっぱい。それにそのブラシはうちのですよね?」
「は? 何言ってるんですか。僕が撮ったのは今田さんちのマンチカンちゃんですよ。それにこのブラシは良さそうだったから買っただけで」
「……え?」
言われて気づく。壁一面に貼られている写真の被写体が、猫であることに。話によると、彼は猫専門の写真家なのだそうだ。
そして彼の足元から、ハチワレ柄の雑種猫が現れる。猫は私を見て、小さく鳴いた。
「その猫ちゃんは……?」
「うちの猫、人見知りがすごいんですよね。でも、今田さんなら大丈夫かと思って。トリミングをお願いしたんです」
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