闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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私と彼の校舎裏ランデブー

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 私の好きな人はツンデレである。
 高校の風紀委員長でちょっと真面目そうなところがいいなと思って、告白を決意したのだけど。
 校舎裏に呼び出したら、待ち合わせに三十分も早く来ていた彼。
 本当は私も同じくらいに到着していたけど、あえて草陰から見守っていた。だって、面白そうだったから。
 すると彼は、嬉しそうな顔をして鏡ばかり見ていた。
 そして時間ピッタリになったところで、私が背後から声をかけると、彼は飛び上がりそうなくらい驚いて、文句を言った。

「お前! 登場の仕方には気をつけろ! ビックリするだろうが!」

「ごめんなさい、良樹よしきくん。そんなに驚くとは思わなくて」

「それで、話とはなんだ?」

 何かを期待してるくせに、まるで何も知らないとばかりにすっとぼけた顔をする彼。本当は告白するために呼び出したのだけど、私はあえて別のことを言った。

「実は、風紀委員の羽山くんが、私の友達に暴言を吐いたみたいで……」

 とりあえず、実際にあった事件を伝えると、良樹くんはみるみるガッカリした顔になる。私はますます面白くなって、告白そっちのけで相談を続けた。

「あれ以来、私の友達が羽山くんに会うたびにビクビクしているの。見ていて可哀想なので、風紀委員長の良樹くんから謝るよう言ってくれないかな?」

 私が目薬で目をうるうるさせながらお願いすると、良樹くんは真面目に悩んでくれた。でもツンデレなので、素直にハイわかったとは言わなかった。

「どうして俺がそんなことをしないといけないんだ。本当に暴言を言ったかどうかも怪しいな。羽山がそんなことを言うとは思わないが——」

「じゃあ、私の友達は泣き寝入りしないといけないの?」

「羽山が何を言ったのかは知らないが、お前の友達が羽山の言葉を暴言と受け取った以上は、たとえ羽山が悪くなくても暴言になることもあるだろう。だったら、羽山に気をつけるようには言っておいてやろう」

 なんて遠回しな言い方だろう。本当はめちゃくちゃ怒ってるくせに、それを悟らせないくらいのツンである。そして私の友達の話が解決したところで、良樹くんは立ち去ろうとするけど——私は彼を呼び止めた。

「待って、良樹くん。他にもあなたに用事があるの」

「……なんだよ」

 はい、嬉しそうな顔。
 期待しまくっている良樹くんに、私は告白するか考えた後、またもや別の件で彼を振り回すことにした。今回は成績についての話でもするとしよう。

「実は私……」

「お、おう」

「文学部を目指してるのに、なぜか理系ばかり成績よくって」

「は?」

「だから、良樹くんに国語を教えてもらいたいんだけど」

「なんで俺が……国語なんて、得意な友達に教えてもらえばいいだろ」

「私は良樹くんがいいの」

 言って、真剣な顔で良樹くんの目を見る。すると、彼はドキドキしているくせに、そんな風には見せずにツンデレを発動する。
 
「ふん、なんだか知らないが、風紀委員だから助けてやらなくもない」

 これはもう、脈があると思っていいだろう。清々しい笑顔でありがとうと言った私に、彼は意味深な目を向けてきた。甘い雰囲気だしちゃって。
 バレバレの態度だけど、その後も私は全く関係のない用事をお願いした。しかもなんだかんだ十五個ほどお願いしたら、真面目な彼はツンツンしながら聞いてくれたのである。さすがに悪いことをしている気持ちになってきた私は、そろそろ告白しようかと思ったけど。
 やっぱり今日はやめることにした。だって、良樹くんの反応を見るのが楽しいから。

 そして私はことあるごとに校舎裏に良樹くんを呼び出して、相談した。わりとどうでもいいことばかりだったが、それでも良樹くんは真面目に相手をして、ツンツンしながら聞いてくれた。

 そんなある日のことだった。
 いつものように良樹くんを呼び出して校舎裏に向かったら、先客がいた。しかも二人だ。一人は良樹くんで、もう一人は長髪の可愛い女の子だった。
 どうやら、告白の現場に居合わせたようである。ちょっとだけショックを受けた私は、彼らのやりとりを見守った。すると案の定、女の子は良樹くんに切ない顔を向けて訴え始めた。

「好きなの、風紀委員長がっ」

「——そうか」

 そうか、とはなんだろう。私に対してはツンツンするくせに、可愛い女の子に対してこんなに反応が違うなんて。私はこれまで自分に脈があったとばかり思っていたけど、完全に自信をなくしてしまった。もしかしたら、私の独りよがりだったのかもしれない。
 そんなことを思っている間にも、二人は良い雰囲気になる。

「私、風紀委員長になら、何されてもいいの」
 
「……そ、それはちょっと」

 狼狽える良樹くんは、青ざめた顔をしているように見えた。
 けど、きっと嬉しいに違いない。男の子があんなことを言われて、平気なはずないし——などと、頭の中をぐるぐるさせていたら。
 とうとう我慢できなくなった私は草陰から飛び出した。

「ちょっと待ったッ!」

 私が手を出して止めに入ると、驚いた顔をする良樹くんの傍で、女の子は爆笑した。

「あはは、やっと出てきた!」

 そう言って、女の子は長髪のカツラをとる。どこかで見たことがあると思ったら、風紀委員の男の子だった。

「え? あなた、羽山くんだよね? そんな趣味があったの?」

「ち、違うよ! 君がなかなか告白しないからって、良樹から相談を受けて——煽ってみたんだよ」

「なによそれ……」

「だってそうだろう? 毎日、毎日、わざと告白しそうでしない雰囲気を作るなんて、君も人が悪いよね——じゃあ、あとは良樹がどうにかしろよ」

「おい、ちょっと——」

 良樹くんが止めようとしても、まるで無視した羽山くんは楽しそうに去っていった。
 残された良樹くんと私は気まずい雰囲気になる。
 けど、先に口を開いたのは、良樹くんだった。

「お前が、つきあってほしいなら、つきあってやらなくもない」

 ここにきて、まだツンデレを発動する良樹くんである。私は悪いクセが出て、話をそらそうとするけど。

「待った、他の話はあとだ。今は俺とお前の話をしているんだ。それでどうなんだ? お前はどう思ってるんだ?」

 とうとう流されなくなった良樹くんが、珍しく直球で聞いてきた。

「もちろん好きですよ」

「じゃあ、なんでそう言わないんだ?」

「だって、良樹くんを焦らすのが好きなんだもん」

 私が正直に告げると、良樹くんはやれやれといった感じでため息を吐く。そして、私にゆっくりと近づいてきた。
 急に接近してくる良樹くんに、驚いて後退りそうになった私だけど、そんな私の背中をがっちりと掴んで、良樹くんは顔を近づけてきた。
 ぎゅっと目を閉じる私。
 すると、唇ではなく、耳元に声を吹き込まれた。

「焦らすなら、このくらいしないとな」

 そう言って離れていった良樹くんは、「じゃ、手作り弁当を作ったら食わなくもないぞ」と走り去っていった。
 しばらくその場で呆然とする私。

 こうして私は、初めて良樹くんにしてやられたのだった。

 そして次の日。
 私は手作り弁当と嘘を吐いて、市販の弁当を彼に食べさせた。ツンツンしながらも喜んで弁当を食べる彼の姿は本当に見ものだった。
 結局、私は彼が好きなのではなく、彼で遊ぶことが好きなのである。
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