闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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商店街へようこそ

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 俺の住む町には、寂れた商店街がある。近くに複合商業施設があるので、客は皆そちらに流れているが、俺は商店街が好きだった。
 一人暮らしで人と関わることが少ない学生の俺には、人情味溢れる商店街のほうが居心地が良かった。人とコミュニケーションをとることが得意ではない俺も、商店街の人たちとは自然な関係が築けた。といっても、ただの店主と客なのだが。それでも、短いやりとりの間に、優しい声のひとつもかけられると、嬉しくもなるわけだ。それがたとえビジネスライクな関係だとしてもだ。人は人と関らずには生きていけないことを悟った気がした。

 そして今日も、俺は商店街に徒歩でやってくる。魚屋に八百屋、駄菓子屋に金物店もある。これだけ人がいないのに、潰れないのは不思議なくらいだ。だからせめて俺が、買い物をする。そういえばトイレットペーパーが切れていた気がする。
 生活雑貨の店に入った俺は、相変わらず人の好い店主のおばちゃんに、レシートと一緒に何かの券を渡された。十枚もある券を見て俺はおばちゃんに尋ねる。

「これはなんですか? くじ引きの券にしては多くないですか?」

「いつも買ってくれるからサービスだよ。風呂屋の隣でくじ引きやってるから、引いておいで」

 俺は少し胸が躍るような気持ちでくじ引きの券を持って、風呂屋の隣にやってくる。くじ引きを引く人間は、ほとんどいなかった。商店街が本気を出して活気づけようとしているのに、意外とうまくいかないものである。それでも、俺のような人間がいないわけでもなくて、何人かは並んでいた。

「あいよ、次はにいちゃんね。一回だね」

 俺はくじ引きを引く。折り曲げた三角の紙を糊付けしたものだった。それでもこの余興を心から楽しんだ俺は、くじを丁寧に開封する。だが中には何も書かれていなかった。

「何も……書いてない」

「じゃあ、にいちゃんの商品はこれね。持っていきな」

 店員が指差した場所には、小さな人形があった。平安装束を着たオッサンの人形は、誇らしげな顔をしていた。が、俺には人形遊びの趣味はないので、丁重にお断りをしようと思っていたその時だった。人形が憤慨し始めた。

「おい、お主! わしを持っていかんとは何事じゃ!」

「うわ、人形が喋った」

 俺が食い入るように見つめると、人形はやはり誇らしげな顔をしてのけぞってみせた。

「ほら、青年。わしを持っていくがいい」

「嫌だよ」

「なぜじゃ⁉︎ こんなに愛らしいわしを、要らんというのか⁉︎」

 俺はとりあえずその小さなオッサンを無視して立ち去ろうとした。だが、オッサンは俺のトイレットペーパーに飛び乗ってついてきた。

「なんでついてくるんだよ」

「ほっほっほ、お主の城に連れて行け」

 小さなオッサンはいくら払ってもついてきたので、俺は諦めることにした。それから俺のアパートについたところで、オッサンは嬉しそうに声をあげた。

「おお! 新しい城じゃ! 馳走が出るのを待っておるぞ」

 小さなオッサンはさっそく食事を要求した。なんで俺が小さなオッサンを養わないといけないのだろうか。俺は無視してスマホを見ながら寝転がる。カビ臭い部屋の万年床は、俺の唯一のオアシスだった。するとオッサンは気に入らない様子ながらも、俺の布団に入ってくる。

「ほっほう、ここがお主の憩いの場か。ならば、わしもここに住むことにしよう」

 そう言って、布団の奥へと入り込んだオッサンは消えた。しかも小さなオッサンは布団から出てくることはなかった。俺は不思議に思って布団を探るが、どこにもオッサンの姿はない。
 恐ろしくなった俺は、布団を外に干してみた。だがやはり、小さなオッサンの姿はなかった。

 怖くなった俺は、商店街に戻ってくじ引きコーナーに再びやってくる。小さなオッサンの説明を聞こうと思ったのだが、そこにくじ引きコーナーなんてものはなかった。
 どういうことかと思っていた俺だが、さらに驚愕の事実に気づく。商店街のシャッターが全て閉まっているのだ。完全閉店しているようである。どのシャッターにもチラシが貼られていて、閉店したのは本日と書かれていた。

 俺は驚きを通り越して、どんな反応をすれば良いのかわからず、ひとつひとつの店を回った。店主の顔は今も覚えている。俺にはかけがえのない家族のような人たちだった。
 そして俺はなんとなく物悲しい気持ちを引きずりながら、帰宅する。
 すると、部屋には書き置きがあった。枕の上にたどたどしい文字で書かれたメモ。それには「商店街は夢の中に移転します」とあった。
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