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被写体の謎
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いつからだろうか。俺が撮る写真にそれが写るようになったのは。
「すみません、写真お願いできますか?」
「——え」
観光地を歩いていると、必ずといっていいほど声をかけられる。だから今日も、橋の上で大学生くらいの女性にスマホを押し付けられて、写真を撮ったのだが。
「はい、撮れました」
俺は撮ってすぐにその場を去ろうと踵を返した。そして二メートルほど進んだところで、背中から悲鳴があがった。おそらく、スマホのカメラに写ってはならない、何かが写っていたのだろう。
俺はその反応を見るのが怖くて、いつも写真を頼まれても、内容を確認するまでもなくその場を離れた。騒ぎに巻き込まれるのはご免だった。
それから俺は何食わぬ顔をして被写体を探した。滝などの自然を撮るのが好きで、土日になるとよく観光地を歩いていた。今回は岩場なので、足元に気をつけながら、観光スポットを探す。目指すは日本の名水にも選ばれた滝だ。そして目的地になんなくたどり着いた俺は、まずは大自然の空気を存分に味わった後、スマホを構える。何かが写っていたとしても、もう驚くことはない。
実をいうと、俺のスマホにある全ての写真には、いつも何かが写っていた。ある時は顔のついた大木。ある時は、タツノオトシゴのような生き物、またある時は不死鳥のごとく赤い炎を背負った鳥だ。何かよくわからないが、どうやら俺は着ぐるみを着た幽霊に好かれているようである。
それがなぜ、幽霊かというと——いつも俺が撮った場所には、人なんていなかったからだ。だから、俺のスマホに写っているのは、輝かしい景色と、着ぐるみを着たお化け……もしくは、コスプレ好きの幽霊だと思うことにしていた。
そして俺は滝を被写体にして、撮って撮って撮りまくった。プロではないので、連写して一番良い写真を選ぶのが好きだ。だが最近は変なものが一緒に写るので、撮った後の写真はあまり見ていない。何も写っていないことを願いながら見ても、結局は写っているので、俺は諦めることにした。かといって、撮るのをやめるつもりもなかった。ここで撮るのをやめたら、いつも写っている何かに負ける気がしたからだ。
そんな風に撮り続けて、十分ほど経った時だった。
俺がスマホを手に前のめりになっていると、ふいに足元が滑る感じがして、そのまま川に落ちた。しかも川の中で頭を強く打った俺は、すぐに立ち上がることができず、深い場所へと流されてゆく。
淡水の奥深くに沈むのがわかる。だが、意識が朦朧として、体を動かすことができなかった。
俺はこのまま死ぬのか、なんて思っていたわけだが。そんな時、何かに引っ張り上げられる感じがした。そして水面まで上昇した俺はどこかに引き摺られるようにして連れて行かれて、そのまま意識を落とした。
次に目覚めた時、俺はその光景を見て飛び起きた。
どうやら俺は、河原に運ばれたようだが。目の前には焚き火があって、顔のついた木や、タツノオトシゴや火の鳥が酒を呑み交わしていた。何がなんだかわからず、俺が声をかけようとすると——それらは俺と目が会うなり飛び上がって散っていった。
残ったのは、酒瓶と焚き火だけだ。だが俺にはわかった。おそらく俺を助けてくれたのは、さっきの得体の知れない何かだと。最初は気持ち悪い程度に思っていた、写真の乱入者も、悪いお化けではないと知ると、なんだか気が楽になった。
だから礼の代わりに、俺はコンビニで買った酒を焚き火のある場所に置いて撮影した。ありがたいことに、今時のスマホは水に濡れても平気なのだ。だから、撮るだけ撮って帰った。
帰り道。水に濡れたまま電車に乗った俺は、ドアにもたれながらスマホを見る。やはりそこには、いつものお化けたちが陽気な姿で酒を煽る姿があった。
それから俺は写真を撮るたびに酒を用意するようになった。
「すみません、写真お願いできますか?」
「——え」
観光地を歩いていると、必ずといっていいほど声をかけられる。だから今日も、橋の上で大学生くらいの女性にスマホを押し付けられて、写真を撮ったのだが。
「はい、撮れました」
俺は撮ってすぐにその場を去ろうと踵を返した。そして二メートルほど進んだところで、背中から悲鳴があがった。おそらく、スマホのカメラに写ってはならない、何かが写っていたのだろう。
俺はその反応を見るのが怖くて、いつも写真を頼まれても、内容を確認するまでもなくその場を離れた。騒ぎに巻き込まれるのはご免だった。
それから俺は何食わぬ顔をして被写体を探した。滝などの自然を撮るのが好きで、土日になるとよく観光地を歩いていた。今回は岩場なので、足元に気をつけながら、観光スポットを探す。目指すは日本の名水にも選ばれた滝だ。そして目的地になんなくたどり着いた俺は、まずは大自然の空気を存分に味わった後、スマホを構える。何かが写っていたとしても、もう驚くことはない。
実をいうと、俺のスマホにある全ての写真には、いつも何かが写っていた。ある時は顔のついた大木。ある時は、タツノオトシゴのような生き物、またある時は不死鳥のごとく赤い炎を背負った鳥だ。何かよくわからないが、どうやら俺は着ぐるみを着た幽霊に好かれているようである。
それがなぜ、幽霊かというと——いつも俺が撮った場所には、人なんていなかったからだ。だから、俺のスマホに写っているのは、輝かしい景色と、着ぐるみを着たお化け……もしくは、コスプレ好きの幽霊だと思うことにしていた。
そして俺は滝を被写体にして、撮って撮って撮りまくった。プロではないので、連写して一番良い写真を選ぶのが好きだ。だが最近は変なものが一緒に写るので、撮った後の写真はあまり見ていない。何も写っていないことを願いながら見ても、結局は写っているので、俺は諦めることにした。かといって、撮るのをやめるつもりもなかった。ここで撮るのをやめたら、いつも写っている何かに負ける気がしたからだ。
そんな風に撮り続けて、十分ほど経った時だった。
俺がスマホを手に前のめりになっていると、ふいに足元が滑る感じがして、そのまま川に落ちた。しかも川の中で頭を強く打った俺は、すぐに立ち上がることができず、深い場所へと流されてゆく。
淡水の奥深くに沈むのがわかる。だが、意識が朦朧として、体を動かすことができなかった。
俺はこのまま死ぬのか、なんて思っていたわけだが。そんな時、何かに引っ張り上げられる感じがした。そして水面まで上昇した俺はどこかに引き摺られるようにして連れて行かれて、そのまま意識を落とした。
次に目覚めた時、俺はその光景を見て飛び起きた。
どうやら俺は、河原に運ばれたようだが。目の前には焚き火があって、顔のついた木や、タツノオトシゴや火の鳥が酒を呑み交わしていた。何がなんだかわからず、俺が声をかけようとすると——それらは俺と目が会うなり飛び上がって散っていった。
残ったのは、酒瓶と焚き火だけだ。だが俺にはわかった。おそらく俺を助けてくれたのは、さっきの得体の知れない何かだと。最初は気持ち悪い程度に思っていた、写真の乱入者も、悪いお化けではないと知ると、なんだか気が楽になった。
だから礼の代わりに、俺はコンビニで買った酒を焚き火のある場所に置いて撮影した。ありがたいことに、今時のスマホは水に濡れても平気なのだ。だから、撮るだけ撮って帰った。
帰り道。水に濡れたまま電車に乗った俺は、ドアにもたれながらスマホを見る。やはりそこには、いつものお化けたちが陽気な姿で酒を煽る姿があった。
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