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友達だった
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私の友達——ルイは帽子が好きだ。
いつも可愛いワンピースやクラシカルなチュニックに、猫のニット帽やベレー帽、キャップを合わせてくる。私も真似して帽子をかぶってみたけど、ルイのようにお洒落には着こなせなかった。
長い髪も凝った編み方にしてるから、街を歩くとそれだけで注目の的だった。顔だって可愛い。全体的に色素の薄い顔は、パーツが整っていて、そこいらのモデルよりも綺麗な顔をしていた。同じ高校生とは思えない貫禄だし。
ルイとは学校は違うけど、バイト先が同じで仲良くなった。
バイト仲間の中には、完璧すぎるルイに対してひがむ子もいるけど、どんな相手にも堂々としている彼女は、人生何周目? って感じで、カッコイイ。何が言いたいかって、ルイは私の自慢の友達なのである。
「ねぇ、カナデ。今日はどこに行くの?」
今日はオフショルダーのワンピースにハンチング帽を合わせた彼女が聞いてくる。私も頑張ってフリルのついたシャツとスカートを着ているけど、どこかダサい感じがする。お洒落な彼女と並ぶと、どうしても比べてしまう自分がいる。それは仕方のないことである。
けど、私は劣等感や不満を胸の奥に押し込んで、笑顔を作った。
駅前で待ち合わせた私たちは、どこに行くのかも決めてなかったけど、でも今日はどうしても行きたいところがあった。
「お腹も空いたし、先にランチしない? 本屋さんの近くに綺麗なレストランがあるんだ」
とても魅力的な提案のつもりだった。けど、彼女は急に顔を曇らせて、震える声で言った。
「……そのレストランってもしかして、『花咲』っていうレストラン?」
「そうだよ」
「お昼は、他のところにしよう。『花咲』って敷居の高い和食料理店だよね?」
「大丈夫だよ、Tシャツにジーンズとかじゃなければ、基本何も言われないよ。先週初めて行ったんだけど、すごく美味しかったんだ。これはルイも連れて行かなきゃって」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、でも……」
「大丈夫だよ! ほら、行こう! 私が二人分予約してあるから! 今日は私の奢りだよ」
「ちょっと、カナデ!」
私は無理やりルイの手を引っ張って、レストランまでの道のりを走る。後ろから、何度も何度も声をかけられたけど、のらりくらりとかわした。
ちょっとお高いレストランを選んだのには理由があった。
もうすぐルイの誕生日なのだ。
だから私は、出来たばかりのレストランにルイを連れて行った。そしてルイの少し怯えたような反応を気にしながらも、扉をくぐる。
中は水族館のような水槽に囲まれていて、少し暗い照明だけど、シンプルな近代的スタイルの内装だった。私は入り口にいたスタッフに声をかけて、予約のことを伝える。すると、スタッフはまず上着と帽子を預かると言った。
ドレスコードはないけど、上着や帽子は脱がないといけないらしい。それを聞いた瞬間、ルイがビクリと肩を揺らした。
「どうしたの? ルイ。帽子脱ぎなよ」
「きょ、今日は無理」
「どうして? ここまで来たら、もう入るしかないよ」
なかなか帽子を脱がないルイに対して、痺れを切らした私は思わずルイから帽子を取り上げる。すると、大きな悲鳴が轟いた。
叫んだのはルイだった。
私は何がなんだかわからず、狼狽えていたけど——そのうち、ルイの頭にあるそれに気づく。珍しくストレートの髪をおろしていたルイの頭には、小さな二つのツノがあった。
「……ルイ?」
声をかけると、ルイは震えた声で「サヨナラ」とだけ言って、その場を飛び出した。
世の中、何が地雷になるかわからないものである。
残された私は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
それでも次の日には会えると信じていたので、その日はレストランの予約をキャンセルして帰った。
けど、私は甘かった。
それからルイはメッセージに返信もしてくれず、バイト先にも来ることはなかった。
大切な友達を失ったのは、無理やり帽子をはぎとった私の責任だった。
ルイの頭にあったあのツノの正体が何かはわからないけど——ただ、私の失敗は、大人になっても深い傷となって、いつまでも残ったのだった。
いつも可愛いワンピースやクラシカルなチュニックに、猫のニット帽やベレー帽、キャップを合わせてくる。私も真似して帽子をかぶってみたけど、ルイのようにお洒落には着こなせなかった。
長い髪も凝った編み方にしてるから、街を歩くとそれだけで注目の的だった。顔だって可愛い。全体的に色素の薄い顔は、パーツが整っていて、そこいらのモデルよりも綺麗な顔をしていた。同じ高校生とは思えない貫禄だし。
ルイとは学校は違うけど、バイト先が同じで仲良くなった。
バイト仲間の中には、完璧すぎるルイに対してひがむ子もいるけど、どんな相手にも堂々としている彼女は、人生何周目? って感じで、カッコイイ。何が言いたいかって、ルイは私の自慢の友達なのである。
「ねぇ、カナデ。今日はどこに行くの?」
今日はオフショルダーのワンピースにハンチング帽を合わせた彼女が聞いてくる。私も頑張ってフリルのついたシャツとスカートを着ているけど、どこかダサい感じがする。お洒落な彼女と並ぶと、どうしても比べてしまう自分がいる。それは仕方のないことである。
けど、私は劣等感や不満を胸の奥に押し込んで、笑顔を作った。
駅前で待ち合わせた私たちは、どこに行くのかも決めてなかったけど、でも今日はどうしても行きたいところがあった。
「お腹も空いたし、先にランチしない? 本屋さんの近くに綺麗なレストランがあるんだ」
とても魅力的な提案のつもりだった。けど、彼女は急に顔を曇らせて、震える声で言った。
「……そのレストランってもしかして、『花咲』っていうレストラン?」
「そうだよ」
「お昼は、他のところにしよう。『花咲』って敷居の高い和食料理店だよね?」
「大丈夫だよ、Tシャツにジーンズとかじゃなければ、基本何も言われないよ。先週初めて行ったんだけど、すごく美味しかったんだ。これはルイも連れて行かなきゃって」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、でも……」
「大丈夫だよ! ほら、行こう! 私が二人分予約してあるから! 今日は私の奢りだよ」
「ちょっと、カナデ!」
私は無理やりルイの手を引っ張って、レストランまでの道のりを走る。後ろから、何度も何度も声をかけられたけど、のらりくらりとかわした。
ちょっとお高いレストランを選んだのには理由があった。
もうすぐルイの誕生日なのだ。
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中は水族館のような水槽に囲まれていて、少し暗い照明だけど、シンプルな近代的スタイルの内装だった。私は入り口にいたスタッフに声をかけて、予約のことを伝える。すると、スタッフはまず上着と帽子を預かると言った。
ドレスコードはないけど、上着や帽子は脱がないといけないらしい。それを聞いた瞬間、ルイがビクリと肩を揺らした。
「どうしたの? ルイ。帽子脱ぎなよ」
「きょ、今日は無理」
「どうして? ここまで来たら、もう入るしかないよ」
なかなか帽子を脱がないルイに対して、痺れを切らした私は思わずルイから帽子を取り上げる。すると、大きな悲鳴が轟いた。
叫んだのはルイだった。
私は何がなんだかわからず、狼狽えていたけど——そのうち、ルイの頭にあるそれに気づく。珍しくストレートの髪をおろしていたルイの頭には、小さな二つのツノがあった。
「……ルイ?」
声をかけると、ルイは震えた声で「サヨナラ」とだけ言って、その場を飛び出した。
世の中、何が地雷になるかわからないものである。
残された私は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
それでも次の日には会えると信じていたので、その日はレストランの予約をキャンセルして帰った。
けど、私は甘かった。
それからルイはメッセージに返信もしてくれず、バイト先にも来ることはなかった。
大切な友達を失ったのは、無理やり帽子をはぎとった私の責任だった。
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