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密室に二人きり
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「おはようございます、赤星さん」
「あ、お、おおおおはようございます。鶴城さん」
広告代理店に勤めている私。
朝からエレベーターで乗り合わせたのは、同僚の赤星さんという男性社員だった。仕事が出来ることで有名な赤星さんは、背が高くて筋肉質だから女子の憧れ的存在だけど、私はちょっと苦手だった。
だってこの人、引っ込み思案というかなんというか……スポーツが得意そうな外見とは違って、大人しすぎる人だから。挨拶しても目を合わせずに去ってしまうし、いつもどう接していいのかわからなかった。
そんな赤星さんと、今日は珍しくエレベーターに二人っきりということで、なんだか緊張した。密室に慣れない人と乗り合わせるのって、なんでこうも気まずい感じがするのだろう。
落ち着かない気持ちでひたすら上がってゆく番号を見ていると——ふいに、ガコンと大きく地面が揺れた。かと思えば、エレベーターが止まった。しかも電気が消えて真っ暗になり、私は思わず悲鳴をあげてしまう。
「なに? 何が起きたの?」
「だ、大丈夫ですか? 鶴城さん。ちょっと待ってください、今確認しますから」
それから赤星さんは非常ボタンを押して緊急時のコールセンターと話しあった。どうやら、故障らしいけど、作業員の到着まで三十分ほどかかるらしい。というわけで、強制的に閉じ込められた私たちは、気を紛らわせるために珍しく会話を始めた。
「あの……鶴城さんはこのあと、ミーティングですよね?」
「それが、ちょっと納期が遅れてるから先方にネゴ(※交渉すること)らないといけないんだ」
「ま、またあそこですか」
「そうなのよ。厄介だよね。これで五回目だよ?」
「つ、鶴城さんが綺麗で優しいからって、侮られてるのかも……僕が入りましょうか?」
「そういうの困るよ。私の仕事なんだから。今後のこともあるし、自分のことは自分でやるよ……ていうか、綺麗って……」
「あ、す、すみません。交渉に綺麗なのは関係ないですね」
「そうじゃなくて、私が綺麗とかナイナイ」
「な、何を言ってるんですか! 鶴城さんみたいに綺麗な人は他にいないです! 僕なんて、いつも直視できないのに」
「またまたぁ。新人の村田さんとか、バリキャリの馬野さんならわかるけど、私なんてそこらへんにいる女子だよ」
「そそそそ、そんなことは! 僕は鶴城さんが一番綺麗だと思います!」
「……あ、ありがとう」
赤星さんが全力で持ち上げてくれるので、私が思わず照れていると、赤星さんが私の方に寄ってくる気配がした。
「つ、つつつつつ」
「つ?」
「つるつるつるつるつる」
「うどん?」
「ち、違います! つ、鶴城さん、ぼぼぼぼぼぼぼぼくは! あなたが——」
赤星さんが何かを言いかけたその時、エレベーターの電気が点いた。すると、正面には顔を真っ赤にした赤星さんがいた。そして赤星さんが動揺して口をパクパクしていると、エレベーターの天井部分が開いて、作業員が顔を覗かせた。
「これから修理しますんで、しばらく待ってくださいね」
その言葉に、私が「お願いします」と頭を下げる中、赤星さんはエレベーターの隅に移動すると——なぜか壁にガンガンとおでこをぶつけ始めた。
「ちょ、ちょっと赤星さん⁉︎」
「す、すみません、そっとしておいてください」
なんだかわからないけど、赤星さんが暗い顔をする中、それから十五分ほどでエレベーターが動き出したのだった。
「あ、お、おおおおはようございます。鶴城さん」
広告代理店に勤めている私。
朝からエレベーターで乗り合わせたのは、同僚の赤星さんという男性社員だった。仕事が出来ることで有名な赤星さんは、背が高くて筋肉質だから女子の憧れ的存在だけど、私はちょっと苦手だった。
だってこの人、引っ込み思案というかなんというか……スポーツが得意そうな外見とは違って、大人しすぎる人だから。挨拶しても目を合わせずに去ってしまうし、いつもどう接していいのかわからなかった。
そんな赤星さんと、今日は珍しくエレベーターに二人っきりということで、なんだか緊張した。密室に慣れない人と乗り合わせるのって、なんでこうも気まずい感じがするのだろう。
落ち着かない気持ちでひたすら上がってゆく番号を見ていると——ふいに、ガコンと大きく地面が揺れた。かと思えば、エレベーターが止まった。しかも電気が消えて真っ暗になり、私は思わず悲鳴をあげてしまう。
「なに? 何が起きたの?」
「だ、大丈夫ですか? 鶴城さん。ちょっと待ってください、今確認しますから」
それから赤星さんは非常ボタンを押して緊急時のコールセンターと話しあった。どうやら、故障らしいけど、作業員の到着まで三十分ほどかかるらしい。というわけで、強制的に閉じ込められた私たちは、気を紛らわせるために珍しく会話を始めた。
「あの……鶴城さんはこのあと、ミーティングですよね?」
「それが、ちょっと納期が遅れてるから先方にネゴ(※交渉すること)らないといけないんだ」
「ま、またあそこですか」
「そうなのよ。厄介だよね。これで五回目だよ?」
「つ、鶴城さんが綺麗で優しいからって、侮られてるのかも……僕が入りましょうか?」
「そういうの困るよ。私の仕事なんだから。今後のこともあるし、自分のことは自分でやるよ……ていうか、綺麗って……」
「あ、す、すみません。交渉に綺麗なのは関係ないですね」
「そうじゃなくて、私が綺麗とかナイナイ」
「な、何を言ってるんですか! 鶴城さんみたいに綺麗な人は他にいないです! 僕なんて、いつも直視できないのに」
「またまたぁ。新人の村田さんとか、バリキャリの馬野さんならわかるけど、私なんてそこらへんにいる女子だよ」
「そそそそ、そんなことは! 僕は鶴城さんが一番綺麗だと思います!」
「……あ、ありがとう」
赤星さんが全力で持ち上げてくれるので、私が思わず照れていると、赤星さんが私の方に寄ってくる気配がした。
「つ、つつつつつ」
「つ?」
「つるつるつるつるつる」
「うどん?」
「ち、違います! つ、鶴城さん、ぼぼぼぼぼぼぼぼくは! あなたが——」
赤星さんが何かを言いかけたその時、エレベーターの電気が点いた。すると、正面には顔を真っ赤にした赤星さんがいた。そして赤星さんが動揺して口をパクパクしていると、エレベーターの天井部分が開いて、作業員が顔を覗かせた。
「これから修理しますんで、しばらく待ってくださいね」
その言葉に、私が「お願いします」と頭を下げる中、赤星さんはエレベーターの隅に移動すると——なぜか壁にガンガンとおでこをぶつけ始めた。
「ちょ、ちょっと赤星さん⁉︎」
「す、すみません、そっとしておいてください」
なんだかわからないけど、赤星さんが暗い顔をする中、それから十五分ほどでエレベーターが動き出したのだった。
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