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鍵が繋ぐ世界
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突然の訃報だった。
大好きな母が亡くなった。それも過労だろうと言われた。看護師をしていた母は、旅行に行きたいと言いながら、もう何年も休まずに働いて、命を落としてしまった。
母が亡くなったことで、祖母と二人きりになった私は、一週間ほど会社を休んだ。遺品整理やさまざまな手続きをしないといけないからだ。
そして祖母に助けられながらも、なんとか落ち着きを取り戻したある日のことだった。
祖母が私にとある鍵を差し出した。
「何これ……?」
リビングでコーヒーを飲みながら仕事をしていた私も、たいがい仕事中毒だと思うが。そんな私を窘めるかのように、祖母は言った。
「あなたも休む時はちゃんと休むんですよ。これはひかりが残したものよ。あなたが持っていなさい」
「遺品ってまだあったんだ……わかった」
「じゃあ、私はこれから出かけるから、夕飯までには帰るわね」
「うん」
私は祖母から受け取った、なんの変哲もない鍵を眺める。アンティーク調の鍵は、なんの鍵かはわからなかった。もしかしたら、ただの飾りかもしれないけど、私は悪戯心をくすぐられて、なんとなくリビングのドアに差し込んだ。
すると、ピッタリハマった鍵は自分から回転して、カチリと音が鳴った。ひとりでに動いた鍵に驚いた私は、しばらく呆けていたけど。そのうち我に返って、おそるおそるリビングのドアを開いた。
その直後、私は驚愕に見開く。
なぜなら開いたドアの向こう側には、玄関ではない景色が広がっていたからだ。
私はドアに近づいて、下を覗き込む。下界には、コンクリートの足場——えん堤があり、両脇からとんでもない量の水が溢れ出していた。どうやらダムのようだった。
「なんでダム?」
私は怖くなって、ドアを閉める。
そして震える手で鍵穴から鍵を抜き取った。
「まさか……この鍵が?」
恐ろしい結論に辿り着いた私は、再び鍵をドアの鍵穴に差し込んだ。するとまた、カチリと音が鳴って鍵が回った。
そしてドアが開いた時、向こう側にあったのは砂浜だった。今は冬だが、夏のような強い日差しの海に、私は呆気にとられる。
これは間違いなく、鍵のせいだと思った。
「すごい。どこに繋がるかわかならい鍵なんだ?」
それから私は、何度も鍵を回した。ある時は、世界のどこかにある山。ある時は、世界遺産の岩山……行ったことのない場所ばかりが現れて、私は胸が躍った。
ただ、残念なのは、ドアの向こう側にはいけないようで。ただ、見ていることしかできなかった。それでも楽しかった。まるで行ったことのない場所に行っているようだった。
「……加代、起きなさい加代」
「……う」
気づくと、夜になっていた。外出から帰ってきた祖母に起こされて、寝ていたことに気づいた私は、慌ててリビングのソファから起き上がる。その手には、例の鍵を握りしめていた。
そして鍵のことが気になった私は、祖母に聞いてみることにした。
「あの、おばあちゃん。この鍵って、いったいなんなの?」
「鍵? ああ、ひかりの遺品ね。それは、収納ケースの鍵よ」
「収納ケース?」
「ええ。あの子の部屋に、四角いプラスチックの収納があるから、開けてみるといいわ」
言われて、居ても立ってもいられなくなった私は、母の部屋にある収納ケースを探した。すると、一メートルほどのプラスチックケースがあって、そこには小さな鍵穴があった。
私は迷わず鍵を差し込んで開けてみる。
中には古いスケッチブックがいくつか入っていた。
「なんだ……本当に収納ケースの鍵だったんだ」
私は何気なくスケッチブックをめくった。
途端に、驚きに見開いた。
スケッチブックに色鉛筆で描かれていた景色、それは私が先ほどドアから見た景色だった。
そしてスケッチブックの他にはパンフレットもたくさん入っていて、どうやら観光地で描いた絵や、旅に関連するグッズを集めていたようだった。
「お母さん……こんなにたくさん旅行したんだね」
私は色とりどりの絵を見て、少しだけ悲しくなった。母はこんなに旅が好きだったというのに、何年も働いてばかりで旅行に行けなかったのは、どれだけ寂しかっただろう。
だから私は決めた。母の続きを描くことを。
それから定期的に有給を取った私は、スケッチブックに色鉛筆で絵を足す旅に出たのだった。
ちなみに鍵はあれ以来、リビングを別の場所に繋ぐことはなかった。
もしかしたら世界各地を旅をしたのは、夢だったのかもしれない。それでも、母の思い出を見ることができて、私は嬉しかった。
大好きな母が亡くなった。それも過労だろうと言われた。看護師をしていた母は、旅行に行きたいと言いながら、もう何年も休まずに働いて、命を落としてしまった。
母が亡くなったことで、祖母と二人きりになった私は、一週間ほど会社を休んだ。遺品整理やさまざまな手続きをしないといけないからだ。
そして祖母に助けられながらも、なんとか落ち着きを取り戻したある日のことだった。
祖母が私にとある鍵を差し出した。
「何これ……?」
リビングでコーヒーを飲みながら仕事をしていた私も、たいがい仕事中毒だと思うが。そんな私を窘めるかのように、祖母は言った。
「あなたも休む時はちゃんと休むんですよ。これはひかりが残したものよ。あなたが持っていなさい」
「遺品ってまだあったんだ……わかった」
「じゃあ、私はこれから出かけるから、夕飯までには帰るわね」
「うん」
私は祖母から受け取った、なんの変哲もない鍵を眺める。アンティーク調の鍵は、なんの鍵かはわからなかった。もしかしたら、ただの飾りかもしれないけど、私は悪戯心をくすぐられて、なんとなくリビングのドアに差し込んだ。
すると、ピッタリハマった鍵は自分から回転して、カチリと音が鳴った。ひとりでに動いた鍵に驚いた私は、しばらく呆けていたけど。そのうち我に返って、おそるおそるリビングのドアを開いた。
その直後、私は驚愕に見開く。
なぜなら開いたドアの向こう側には、玄関ではない景色が広がっていたからだ。
私はドアに近づいて、下を覗き込む。下界には、コンクリートの足場——えん堤があり、両脇からとんでもない量の水が溢れ出していた。どうやらダムのようだった。
「なんでダム?」
私は怖くなって、ドアを閉める。
そして震える手で鍵穴から鍵を抜き取った。
「まさか……この鍵が?」
恐ろしい結論に辿り着いた私は、再び鍵をドアの鍵穴に差し込んだ。するとまた、カチリと音が鳴って鍵が回った。
そしてドアが開いた時、向こう側にあったのは砂浜だった。今は冬だが、夏のような強い日差しの海に、私は呆気にとられる。
これは間違いなく、鍵のせいだと思った。
「すごい。どこに繋がるかわかならい鍵なんだ?」
それから私は、何度も鍵を回した。ある時は、世界のどこかにある山。ある時は、世界遺産の岩山……行ったことのない場所ばかりが現れて、私は胸が躍った。
ただ、残念なのは、ドアの向こう側にはいけないようで。ただ、見ていることしかできなかった。それでも楽しかった。まるで行ったことのない場所に行っているようだった。
「……加代、起きなさい加代」
「……う」
気づくと、夜になっていた。外出から帰ってきた祖母に起こされて、寝ていたことに気づいた私は、慌ててリビングのソファから起き上がる。その手には、例の鍵を握りしめていた。
そして鍵のことが気になった私は、祖母に聞いてみることにした。
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「鍵? ああ、ひかりの遺品ね。それは、収納ケースの鍵よ」
「収納ケース?」
「ええ。あの子の部屋に、四角いプラスチックの収納があるから、開けてみるといいわ」
言われて、居ても立ってもいられなくなった私は、母の部屋にある収納ケースを探した。すると、一メートルほどのプラスチックケースがあって、そこには小さな鍵穴があった。
私は迷わず鍵を差し込んで開けてみる。
中には古いスケッチブックがいくつか入っていた。
「なんだ……本当に収納ケースの鍵だったんだ」
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途端に、驚きに見開いた。
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そしてスケッチブックの他にはパンフレットもたくさん入っていて、どうやら観光地で描いた絵や、旅に関連するグッズを集めていたようだった。
「お母さん……こんなにたくさん旅行したんだね」
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だから私は決めた。母の続きを描くことを。
それから定期的に有給を取った私は、スケッチブックに色鉛筆で絵を足す旅に出たのだった。
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