闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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ラストプレッシャー

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 俺は警視庁のテロ対策部隊に三十年ほど所属している小波さざなみ欣太ごんた。いわゆる爆発物処理班というやつだが——今まで数々の荒波を乗り越えてきた俺が、またもや危機に直面していた。

 目の前にあるのは、配線だらけのクラシカルな爆弾。付属の時計が残り八分を示している。さっさと処理しなければ空港がドカンだが、最後の難関を突破できずにいた。

「おやっさん、この赤と青の線……どちらがフェイクだと思いますか?」

 俺が処理に困っていると、新米の田辺たなべが尋ねた。
 爆弾は順調に処理していたのだが、最後に二つの配線だけが残っていた。どちらかがフェイクで、どちらかが本物だろう。どちらかを切れば爆弾は止まるだろうが、処理を誤れば……一巻の終わりだ。

「上司をおやっさん言うな。田辺はどっちだと思う? 赤と青」

「こういう時、好きな人の好きな色とか選ぶといいみたいですよね」

「アニメの見過ぎだ。それに好きな人がいない場合はどうすればいいんだ?」

「静脈と動脈と考えたら、安全なのは青ですかね」

「なんの話だ」

「ほら、おやっさん。早くしないと爆発しますよ」

「早くしようにも、わからないから困ってるんだろうが! 見てわかるだろう」

「じゃあ、好きな人は紫が好きなんで、紫いきましょうか」

「青と赤だろうが⁉︎  それに、お前の好きな人なんて知らんわ」

「事務の末広さんです」

「……御年六十五歳の……なかなか渋い趣味だな」

「おやっさんにお似合いですよね?」

「なんの話をしとるんだ⁉︎ お前の好きな人じゃないのか⁉︎」

「何言ってるんですか。俺と末広さんだったら、お婆ちゃんと孫でしょ? おかしなこと言うなぁ」

「おかしいのはお前だ! 好きな人と言ったら、お前の好きな人だろ」

「残り三分ですよ。どうするんですか?」

「お前のせいだろう⁉︎ もう、余計なことは考えずに切るぞ」

「短い人生でした」

「縁起の悪いことを言うな!」

「じゃあ、どっちが正しいかわかってるんですか?」

「……青、かな?」

「なんでですか?」

「……空が青いから」

「今日、曇りですよ」

「うるさい! 俺は青が好きなんだ!」

「あ、逆ギレした。本当にどうするんですか」

「切るしかないだろう」

「一つ思ったんですが——」

「ああ、あと三十秒! もうダメだ!」

 処理がわからず、恐ろしくなった俺は、目を閉じてニッパーを握った。そしてブツリと線が切れた感触を手に感じると同時に、時計がピーと音を鳴らした。

「あ、成功か」

「おやっさんすごい!」

 手を叩く田辺の後ろから、他の班員たちも拍手をする。どうやら、間一髪のところで、大事には至らなかったようだった。

「結局、おやっさんはどちらを選んだんですか?」

「いや、見てないからわからん」

「……最低ですね」

「だったら、お前が代われよ⁉︎」

「結果オーライですね」

 俺はホッとしながら爆弾の線に目をやる。すると、青と赤どちらも切っていた。

「ああ、なるほど。正しい線を切ってオフにしてしまえば、フェイクが失敗の線だったとしても動かなくなりますもんね」

 田辺も俺の後ろから覗き込みながら頷く。
 ちなみに俺は翌日、異動させられたのだった。


(※フィクションです)
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