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五章妖精達の森

メスール家に届いた手紙

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「やっぱり怖いわね。夜のめメスール邸は・・・」

 夜中の9時頃。メイド長は夜のメスール邸の外に出ていた。

 理由は今から説明しよう。

 少し前の話。若いメイドが何者かの影を窓越しから見た。留守を任されている以上確認しにいかなければならない。

だが、こんな真っ暗な中が好きな奴なんているはずがなく、メイド長の提案によりじゃんけんで負けた者が見に行ってくるという案を出した。

 言い出しっぺの法則はホラではなく本当にあるのだろうか?じゃんけんの敗者はメイド長だった。

 メイド長は案の定暗闇が苦手だった。30過ぎて情けないと言われることもあるが、怖い物は仕方がない。どう頑張っても馴れる事は難しいのだ。

「確認しにいくのを1人じゃなく2人にすれば良かった・・・」

 今更後悔しても後の祭りという物。幸いにもメイド長の手には剣が握られている。

 もし、不審者がいようものなら斬りつけるのみだ。

 腰を抜かさないかが問題だが。牽制くらいにはなるだろう。

 コウモリの翼の音やフクロウの泣き声しか聞こえてこず、自分以外の足音は聴こえてはこない。

 だが、獣は息を殺し、静かに近づいてくる生き物。警戒を怠らない。

「おや・・・?」

 正門の前に到着したメイド長は鉄製の門に何か挟まっている事に気づく。別に生き物ではないようだ。

 ゆっくりと手を伸ばして謎の物体を掴む。手に取った瞬間、すぐに正体が判明した。

「黒い・・・便箋?」

 真っ黒な便箋だった。ドクロのシールが貼られている。とてもリアルなドクロのシールが。

 とてもじゃないが開ける気にはなれない。メイド長はその手紙を家の中へと持っていく。

「で?誰かいましたか?」

「いえ・・・その代わりにこれが」

 取ってきた真っ黒な便箋を見せる。暗闇で全然気づかなかったが、よく見ると白い文字で文字が書いてあった。

「オノヤマアユム様へ・・・」

「何で歩様に手紙が?」

 彼はこの家の者ではない。なのに何故彼に手紙が?それにこの、悪趣味な便箋。

 嫌な予感しかしない。

「ここから全速力で走ったらエルフ城まで何分程でしょうか?」

「休み無しで30分ですね」

「ちょっと屋敷を留守にします。皆さんはここで良い子にしていて下さい」

「え?メイド長・・・?」

 他のメイド達が止めようとするも時すでに遅し。メイド長の姿はなく、屋敷の入口の扉が開いていた。



 夜10時。城に集まってもらった客人には帰ってもらい本格的な作戦会議を始めた。

「では、これから今後の具体的な行動を決めていきたいと───」

 大臣であるメスールが話し始めた時であった。

 コンコンと会議室の扉がノックされる。メスールは少し嫌そうな顔をしながらもノックしてきた相手の入室を許可した。

「会議中失礼いたします・・・!」

「メイド長!?何故ここに!」

 会議室に現れたのは屋敷で留守番をしているはずのメイド長だった。

城に来るまで走ってきたのだろうか?息が荒い。

「この手紙が屋敷の正門にかけられていました・・・」

 メイド長はメスールに黒い便箋を渡す。メスールは便箋を開かずに外見だけを見る。

「これ、歩君宛の手紙じゃないか!」

「えっ!?」

 なんという事だろうか!めメスールさんの屋敷に届けられた手紙がメスールさん宛ではなく、僕宛とは。

 僕がメスール邸に泊まっている事はこの会議室にいる人とメスール邸のメイドしかいないはず。

「これはいつ頃届いた手紙なのです?」

「恐らくですが、届いたのは8時半だと・・・」

 8時半、今から1時間半前。レジェドが刺されてから1時間後。

 もしかしたらこの手紙は────。

「読んでみましょう」

 歩は椅子から立ちあがり、黒い便箋を開いて読み上げる。リアルなドクロのシールが何とも不気味だ。

『小野山歩が読んでいる事を信じる。もし小野山歩でない者が読んでいたとしたらすぐに小野山歩の元へと持っていけ。我々はマクドスファンクラブ。愛しのマクドス様を殺めたお前を殺す為にこの手紙を貴様に送った。エルフの里を出て西にある悪霊の洞窟に来い。一人でだ。もし一人で来なかった場合、魔術師のメンバーを使い里を破壊する』

 手紙は案の定、脅迫状だった。そして犯人の正体は僕が地獄に落としたマクドスのファン達。

 つまりは僕が原因で今回の事件は起きたのだ。鉛のように重い責任感が僕を襲う。

 自然と会議室に集まっている人達も僕に冷たい目線を向けている気がする。

「僕のせいだ・・・」

「歩、落ち着いて。あなたは悪くない。悪いのはマクドスファンクラブとかいう頭のイカれた連中よ」

 第一、アタシが里帰りしたいなんて言わなければこんな事にはならなかった、とシトラも悲しむ。

「いつか何かをやらかすとは思ってはいたが・・・ついにやりやがったか・・・」

 リズベルも怒りで手が震えている。目もまるで獲物を見つけた虎の如く鋭かった。

「手紙に何て書かれているかは問題ではありません。すぐに殺しにかかりましょう」

 立て掛けていた愛剣を手にとってリズベルは会議室を出ようとする。

「落ち着け!リズベル!」

「ではこのまま歩1人に任せようというのですか!?」

 更に話はヒートアップしていき、ニコラスも立ち上がってリズベルに掴みかからんとする。

「騎士の1番の役目は何だ!?」

 まっすぐとニコラスの顔を見て答える。

「人々を守ることです」

「もし手紙の内容が本当ならば、里が襲われるのだぞ!?知的生物が狂ったら何をしでかすか分からないのは知ってるだろう!?」

「ですが・・・このままでは敵の思惑通りに話が進んでしまう・・・!」

「大丈夫だ。歩君は必ずやってくれる。だって彼は歴史上最も熱い心を持った戦士の魂を受け継いでいるのだから!」

 ニコラスはそう言うと歩に視線を向ける。歩はと言うと決意は決まっているようだ。

 歩は今まで幾度となく魔物と戦ってきた。魔女等とも戦ってきた。今更戦闘で恐怖を感じる事など無い。

「場所を教えて下さい。自分で蒔いた種は自分で絶やさないと」

「歩君、何度も言うが今回の事件は君が悪いのではない。君は寧ろ被害者側なのだぞ?」

「そうかもしれません・・・ですが、僕がこの事件を解決しなければ気がすまないんです」

 どちらにしろ、指名されているのだから行かなければならない。

 剣は持った、覚悟も決めた。その代わりに仲間はいないが、何とかして乗りきってみせる。

「教えて下さい、悪霊の洞窟への道」
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