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八章 希望の光達

魂よ!叫べ!!

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 怪物ルルドが降り立ったのはワイバーン牧場であった。幸いにも牧場には人やワイバーン、そしてドラゴンは全て牧場主によって逃がされている。

 損害があるとしたら綺麗な緑の草原に地割れが起こるくらいだろう。

 人間なら誰しもが綺麗と言うであろう緑の草原を見た怪物ルルドはまるでゴミ虫を見るような顔をした。

 今の彼にとっては鮮やかな自然や情熱的な生物の愛は鬱陶しい物となっていた。逆に彼は荒廃した街、絶望する民を美しいと捉えている。

 彼はもはや人類の一員ではなくなってしまった。彼の心は最早魔物よりも醜く、哀れであった。

「何だあれっ!?」

「ば、化け物だー!!」

 何だ何だとロマニア王が連れてきた兵士達が様子を見にワイバーン牧場へと訪れる。そこにいるのは人懐こいワイバーンではなく、悲しみを好む絶対的悪であった。

 兵士達は踵を返して逃げようとするが、ルルドが逃がすはずがない。怪物は自分から逃げようとする兵士達をまるで蟻を殺すかのように上から手を勢い良く下ろして兵士達を潰した。

 兵士達は幸いにも即死だった。だが、怪物はそれが気に入らなかった。怪物が見たかったのは人が死ぬ様ではない。人が死ぬまで苦しむ様を見たかったのだ。

「と、父さん・・・?」

 ワイバーン牧場に新たなお客人が現れる。前世の自分のであるプリクルとその他数名の国王であった。

「嗚呼。我が娘よ・・・」

「いやっ───!!」

 娘は自分に対しての恐怖で逃げることもできず、抵抗することもできずに自分の手に捕らえられた。

 このままゆっくりと握りつぶしてやろうか?それとも、兵士達の前で服を脱がせて辱しめてやろうか?それとも───。

「ぶった斬れろぉぉぉぉ!!」

 空から聞き覚えのある声が聞こえてくる。思わず上を見上げてみると、やはりそうだった。歩の仲間の煉獄刀使いだ。

 煉獄刀使いは刃を真っ赤に燃やしながら娘を掴んでいる手を切断しようとするが、3分の1程度しか斬れずに中途半端な所で止まったせいで刀が肉から抜けなくなってしまったようだ。

 煉獄刀使いはすかさず娘に向かって怒鳴るように叫んだ。

「抗えェェェ!!」

 抵抗しろ、自分の力で。そんな思いが込められた重い一言であった。恐怖で放心していたプリクルは我を取り戻すと、自分と亮一に被害が出ること覚悟で雷の魔術で電撃を怪物ルルドに流した。

 あまりに強力な電撃に怪物ルルドは思わずプリクルを掴む手を緩めてしまう。亮一は強引に怪物ルルドの手から刃を引き抜くと、地面に降り立った。

「あ、ありがとう・・・あなたが来てくれなかったら今頃私・・・」

「どういたしまして。それにしてもナイス判断だ・・・身体は痺れるけど」

 当然であるが怪物ルルドに掴まれていたプリクルと肉に挟まって刀が抜けなかった亮一はダメージを受けていた。自分の魔術で傷を負うの具体例である。

 プリクルはすかさず自分の身体に治療魔術を放って身体を動けるようにすると、動けない亮一に治療魔術をかけて立ち上がらせる。

「効くなー!流石超一流!!」

「ありがとう。で、でも何で亮一が空から降ってきたの・・・?」

「実はな、アイツが魔王城破壊しちゃって」

「えっ!?」

 プリクルは慌てて空を見上げる。無い。自分が前まで住んでいた我が家がない。

「信じられない・・・そういえば歩達は!?」

「そろそろ降りてくる───ほら、来たぜ」

 急降下して降りてきた亮一は違い、歩達はふわりふわりと天使の羽が生えたメリアにしがみついて降りてきた。

「亮一、プリクル。大丈夫だったか!?」

「この通りよ!」

「亮一のお陰で助かったわ。それよりも父さんは何であんな姿に───」

 生まれ変わった時点で見る影もなかったが、異形の姿になることで更に見る影がなくなってしまった。

 歩は魔王城であったことを全て話す。プリクルは頭が混乱しながらも何とか理解することに成功する。

「じゃあ、何?今の父さんは誰にも傷つけられないわけ?」

「・・・1つだけ策がある」

「もしかしてあなたがラグドさんから借りた勇者の力?」

 コクリと歩は頷く。

「使いこなせるの・・・?」

「根本は理解できた。後は実践あるのみだ・・・」

「無計画ね・・・分かったわ。私が貴方達を援護してあげる」

 プリクルは立ち上がって、地面に落ちた自分の杖を手に取る。

「わ、私もやります・・・」

「もちのロンで私も」

 メリアと葵も杖を構える。

「王様方はすぐにこの場から逃げて兵士達に牧場には近づかないように伝えてください」

「わ、分かった。頑張ってくれたまえ」

 王達は歩達に激励を送ると、馬に跨がってさっそうとワイバーン牧場から出ていった。

「今何人いる・・・?」

「8人かな?」

「いいや、私達を入れて11人よ」

「「「「「ッ───!?」」」」」

 急いで後ろを振り返るとそこには実に頼れる人物3人が立っていた。

「お祖母ちゃん・・・」

「歩・・・よく頑張りましたね。ここからは私も加わります」

「ニコラスさんまで・・・!!」

「老いた身ではあるが、援護ぐらいはできるだろう!」

「マーブル・・・」

「兄さん、腰痛めてるの?ニコラス旧王!兄さんに治療魔術を!!」

 ワイバーン牧場に新たに現れたのはマリー、ニコラス、マーブルの3人であった。

「き、貴様らはぁぁぁ!!」

「久しぶりね、魔王。随分と惨めな姿になったわね」

「心だけじゃなく、身体も人間じゃなくなったか・・・最初からだったが、救いようがないな」

「老い耄れが・・・死ねっ!!」

 周囲に黒い霧が撒かれる。鮮やかな緑色をしていた草原は不気味な紫色へと変色し、青かった空は鉛色へと変わる。

「やはり我はこの色の方が落ち着く・・・」

「そこは人それぞれだから何も否定はしないけど、何だこの霧は?」

「この霧か?この霧はな・・・?」

 足下の霧の奥、何か光っている。自分の所だけではない。周りも光っている。

「更に強い魔物を呼び出す為だよ・・・!!」

 光っているのは魔術陣だった。魔術陣から多種多様な魔物が這い出てくる。這い出てきた魔物は地面にたちこもる黒い霧を吸うと、苦しみ始めた。

「お、おい。苦しんでるじゃないか!!」

「ククッ、これからだ」

 しばらく魔物達は苦しむと、何事もなかったかのように立ち上がって歩達に襲いかかってきた。獅子丸の異常な反射神経によって噛まれる前に上顎から上を斬られたが、司令塔である脳を失ってもなお魔物の遺骸は蠢いていた。

 切り取られた頭部を見ると、額に紋様が刻まれている。召喚された時にはこんな物はなかったはずだが、まさか───。

「どうだ?凄いだろう?この霧は魔物の生命力を底上げする霧の魔術。編み出すのに半年かかった魔術だぞ?」

「趣味の悪い魔術だな!亮一!リズベルさん!この魔物達は俺に任せてください!!」

「アタシも雑魚処理に手伝うわ。何たって矢が効かないものね。あの怪物」

「大量の敵に狙撃手は頼もしい・・・感謝する!」

 獅子丸は作業の如く魔物達の首を刈っていく。正しい斬り方により、獅子丸の刀はまったく派毀れしていない。

 シトラの毒の矢は意外と効くようだ。刺さってもしばらくは襲ってくるが、毒が回って死ぬ。

「歩、マジックポーションはいかが?」

「一本頼む」

 先程のドラゴブレイクでかなり魔力を使い果たしてしまっている。後日副作用がとんでもないが背に腹は変えられない。

「うぉおおお!!魔力がみなぎってくるぅ!!」

「じゃあ、私は3人の筋力増加を───『ビルドアップ』『スピードアップ』」

 歩、亮一、リズベルの腕と足の筋肉が一時的ではあるが増幅する。

「小娘の魔術の補助が入った程度で勝てると思うな!!」

「だーれが小娘だってコノヤロー。だったら見せてやりましょう。私の究極魔術を」

 魔力源に全集中を注ぐ。葵から放たれるただならぬ空気にその場にいる皆が一瞬振り向いた。

「君・・・まさか・・・!!」

ニコラスは葵が何をしでかそうとしているのか察知したようだ。彼女を補助するように自分の魔力を少しだけ分け与えてあげる。

「こんなにもらって良いの・・・?」

 ニコラスは何も答えず、口角を少し上げてコクリと頷く。葵はニコラスからもらった魔力も全て今から放とうとしている魔術に注いだ。

「炎に、氷に、光に、闇に、毒に、雷・・・」

 6個の属性の魔術が1つに交わる。それは今は亡きルドルフから叩き込まれた最高の魔術───『シックスエレメンツ』。

 その名の通り6個の属性を兼ね備えた魔術だ。だが、葵はそれだけでは終わらなかった。この戦いが始まる1ヶ月前。亮一や歩、獅子丸達が鍛練していたように葵も魔術を極めていた。

「更に岩に、草も追加・・・」

 そしてその鍛練の末に2つの属性の魔術も混ぜ合わせることに成功したのだ。シックスエレメンツに更に岩と草が交わり、新たな魔術『エイトエレメンツ』がここに誕生する。

「な、なんだそれは!!見たことがない!8の魔術を混ぜ合わせる等───そんな魔術があってたまるか!!」

「それができちゃったんだよ。だって、私天才だから。じゃ、遠慮なくいかせてもらうよ───『エイトエレメンツ』!!」

 8の属性を兼ね備えた究極に限りなく近い魔術が怪物ルルドに向かって放たれる。

 その威力は触れていない地面を抉るほどであった。更に速度も尋常ではない為、巨体な上に素早さが落ちている怪物ルルドには避けきれない代物であった。

 まさに何でもありを実現したような魔術が怪物ルルドの巨体にクリティカルヒットする。

 ルルドは一気に襲ってくる熱さ、冷たさ、痺れ、苦しみ、物理を全て受けた。

「あ・・・が・・・」

 全てを受けた怪物ルルドは未だに倒れはしなかったが、巨大な目が白目を向いている。今の渾身の一撃で気絶することに成功したようだ。

 全ての魔術を使いきった葵はその場に仰向けとなって倒れる。

「もー無理です。後は皆さんよろしくお願いします」

 言われなくっても分かっている。葵が全魔力を使って掴んでくれた刹那の時間。決して無駄にはしない。

 歩は身体の全臓器、全筋肉。そして、魂に集中を注ぐ。集中している間の無防備な歩は亮一が死守する。その隙にリズベルはマリーとメリアに向けて指示を送った。

「天の鎖でアイツを拘束してくれー!!」

 天の鎖は邪悪なる物に真の効果を発揮する。そのことを前から知っていたようだ。マリーとメリアは拒否するわけがなく、神に祈り、気絶する怪物ルルドに向けて天の鎖を放つ。

 天の鎖は意思を持っているかのように怪物ルルドの腕や足を拘束した。

「・・・な、何だ・・・・はっ!し、しまった!!」

 目が覚めた時にはもう遅い。怪物ルルドは完全に拘束されて手も足も出ない状態であった。

「手足を使えなくして勝てたと思うな!!」

 怪物ルルドは口を大きく開くと、怪物となって手に入れたのだろうか?火炎放射をマリーとメリアに向けて発射した。

「させねえよっ!!」

 火炎放射に真っ向から向かっていったのは亮一であった。亮一は煉獄刀を構えて飛び込んでいき、その刃に火炎放射の炎を吸収させる。

「すげぇや!さっきの炎の玉ぐらいの熱さがありやがる!!」

 火炎放射は長く続けることが出来ずに僅か30秒で止んでしまう。もうその時には亮一の煉獄刀の刃は史上最高に炎を吸収した状態となっていた。

 亮一はニヤリと厭らしく笑うと、強化された足で飛びあがり、拘束された怪物ルルドの脳天の上に飛ぶと、煉獄刀に溜め込まれた炎を一気に解放して全長3mはあるだろう巨大な炎の筒を怪物ルルドの脳天に思い切りぶつけた。

「うごっ───!!」

 炎の筒には多少であるが、亮一の魔力がこもっていた為、一時的に物理化し、怪物ルルドの頭に大きなダメージを与えた。

「斬るのがダメなら叩く!これ戦いの常識だから」

「お、おのれ・・・許さん!」

 怪物ルルドの怒りと共に、辺りに不気味な強い風が流れ始める。怪物ルルドの魔力によるものであった。

「我を侮辱したことをあの世で後悔するが良い───」

 巨大な禍々しい玉が怪物ルルドの頭上に一瞬にして完成する。怪物ルルドが今有する魔力で作り出された闇の玉。全長は10mは下らない。

 だが、怪物ルルドの魔力はこの程度ではないはず。これは彼が弱ってきている証拠だ。

「後悔するのはお前の方だ!ルルド───!!」

 草原に若々しい青年の声が響く。歩の声であった。怪物ルルドは歩の方を向くが、何かが違うことにはすぐに気づいた。

「そ、その力は───ラグドの・・・!!」

 歩の身体を包んでいたのはカオスモードではなく、本来選ばれし魂しか持ち得ていない勇者の力であった。

 勇者の力は黄金色に輝き、歩に力を与える。

「ありがとうよルルド。お前さんのお陰で何が悪いのか掴めたわ」

「おのれ・・・!!させるかぁぁぁ!!」

 怪物ルルドはせめてもの抵抗として頭上に浮く禍々しい玉を放つ。だが、勇者の力に守られた歩にルルドは傷1つつけることが出来ず、爆散した。

「今度こそさよならだ───『シャインブレード』」

 ラグドがかつて使っていた最高火力を持つ奥義。勇者の力を多く含んだ剣技が怪物ルルドの巨体に無慈悲に衝突する。

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 いくら鋼のような強固な肉体を手に入れたとしても身体を大きく損傷した怪物ルルドには耐えかない物であった。

「おのれ!おのれおのれおのれおのれ!!ラグドめぇーーー!!」

 最後にルルドはかつて敗北した勇者の名を叫びながら勇者の力と共に消えていった。
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