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3章 潜入せよ、不信と獣の領地

46話 熟成された裏切り

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「フフフ・・・ハハハハ!!悪魔たちよ!まだ、私をからかいたいようだな!だが、もう無理だ!私はしかと見た!我が、夫がお前達に殺されたのをな!!」

「見たのは、私の服とペンダントをした犬のビーストマンの死体でしょう?顔は確認したのですか?」

「していない!だが、夫があのペンダントを外すはずがない!決してな!!」

「ふ~~ん・・・あのペンダントは私の28歳の誕生日に貰ったプレゼントだった。プレゼントと一緒に君の私への愛が敷き詰めるように書かれたバースデーカードも貰ったっけ?」

 アダムさんの指と指の間には、一枚のカードが挟まっている。遠目で文字が何とか読めたのだが、内容は、アダムさんへの愛を情熱的に書いたものだった。

 イヴ領主も見えたようで、顔を赤らめる事はせず、真っ青にする。ここで、本物だと確信したようだ。どうやら、彼女が見たアダムさんの遺体は、偽装された誰かだったらしい。

「まさか、本物と偽物の区別すらつかないだなんて・・・君の私への愛はその程度だったのか・・・」

「だって、顔はあんなにもぐちゃぐちゃで、服装は一緒で・・・」

「だからって、間違って良い理由にはならないんじゃないかな?ましてや、何年も付き添ってきた愛する夫をね」

 精神的ダメージを喰らっているようで、イヴ領主は握っていた斧を落とし、後退していく。あからさまに戦意を失っているのに、アダムさんは、イヴ領主への精神攻撃を止めない。

「更に!君は既に取返しの付かない事をしてしまった!!夫が、怒り狂った民衆に殺されたと勘違いし、手をかけてしまった!人間は道具ではない!れっきとした生き物だ!元通りに戻す事は出来ないぞ?どうする?」

「あ、ああ・・・・あああああああああああああああ!!」

 両手で髪を搔きむしり、絶望の雄叫びを上げる。外れたタガが、アダムによって元に戻され、罪悪感が押し寄せてきたのだろう。何十人も、殺した。しかも、何の罪のない自分が守るべき領民達を。その苦しみは、僕では到底理解できない。できたとしても、したくない。

「なんで・・・」

「何でこんな事をしたのかだって?何言ってるの、君がした事でしょ?」

「促したのはアダムじゃない!!何で?ねぇ、何で同族にこんな事ができるの!?」

 アダムさんがやった事は、今の所死の偽装のみ。だが、このような事態になると分かってやった悪意ある行動。それが、イブ領主には理解できなかった。

 けど、僕は薄々と理解できていた。彼がここまでビーストマンに対して非人道的な事が出来る理由。それは、彼がではないからだ。

「おっと、そういえば私の本当の姿を見せていなかったね。お見せしよう、変身解除」

 アダムさんの体が黒一色に染まり、アイスキャンディーのように溶け始める。ビーストマンに相応しい逞しい体はどんどん小さくなっていき、僕とそこまで変わらない背丈にまで落ち着く。

 謎の泥のような物は地面に落ちると同時に消え、中から薄ピンク色の肌と一対のツノを生やした別の種族が現れた。

「どうも初めまして!!アダム・シフォンヌ改め、スネイク・ウィーマン!魔族だ!!よろしく頼むよ?」

 やはり、魔族だったようだ。
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