Dのカルマ

猫目化月

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第8章 ある皇太子の野望

19-3 悪の親玉がお目見えだ

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「殿下――このような場に、おひとりで!」
「独りではない」

 祭壇の手前、壇上に現れたのは、金色の紗綾の長衣マントを羽織った男だった。 

 漆黒の髪に白い肌。長い前髪の下に覗く鋭い左眼は、紅玉を嵌め込んだような美しい色をしていた。
 1人ではない、と言うが、見える範囲にはその男以外誰もいない。

「殿下だと……?」
「兄さん……!」

 殿下と呼ばれた黒髪の男を見上げるデュークの隣で、カルマが顔色を変えた。
 急に弟が出てきたのは、己の器を乗っ取った張本人を前にして、一瞬にして沸点を振り切りかけた兄の激情を察し、咄嗟に深層に押し込めて人格を入れ替えたのだろう。

「返して下さい! それは兄の身体です!」
「待て、カルマ!」

 駆け寄ろうとしたカルマをデュークが引き留める。
 同時に、騎士団の銃兵隊が、銀髪の青年に揃って銃口を向けた。

「無礼者! ここにおわすはファブロス=ルカ=アルテナ=クロンヌドーレ様、アルテナ帝国第一王位継承者であられるぞ!」
「こいつが……ファブロス皇太子……」

 デュークが呻いた。
 彼が、ダークナイトの器を奪った竜使いドラグーンだと言うのか。

 曖昧模糊とした記憶の片隅に、その姿が蘇る。
 目の前の男は、夢で対峙した、見たこともないはずのダークナイトの姿そのままだった。

 ――あれは本当に夢だったのだろうか。それとも、

(生まれる前の記憶――?)

 だが皇太子は、眉一つ動かさず、恐ろしく整った顔をカルマに向けた。

「何を言っている? 貴様のような兄弟を持った覚えはない」
「出てくるなカルマ! お前じゃ役に立たん!」

 胸を押さえ、銀髪プラチナブロンドの青年の顔が憎々しげに豹変する。兄の方だ。

 酷い言い草だが、弟の方が戦闘に適さないという点では事実だ。
 だが、奪われた身体をのうのうと使う憎い相手を前に、冷静でいられるとは思えない兄の方もまた、別の意味で心配だった。

 しかし力づくで浮上してきた兄の魂の前に、完全に沈んだらしい弟の人格が再び表に現れることはなかった。

「黒き竜の魂か――白き竜の器の中で生きながらえるとは、しぶといヤツめ」

 相手の正体を察し、皇太子が嗤う。

「青き髪の英雄と白きディーの首座――フン、我が器の覚醒には相応しい生け贄よ」

 器の覚醒――それは。

「私の魂に成り代わり、黒竜を覚醒させるつもりか!?」
「そんなことが出来るのか……?」

 デュークの疑問に、皇太子を睨みつけたままダークナイトが答える。

「私は知らん。だがもとより人の扱う魔法などに興味はないから、あったとしても把握していないということもある。現代に伝わる魔法は全てシグルド時代に完成されたと言われているが……」
「その多くは度重なる戦乱により失われたんだろう? アルテナの皇太子が、こんな奇っ怪な術を知っているのはどういう了見だ」

 魔法に詳しくないという竜の王が答えられるとも思えない疑問だったが、ダメ元で聞いてみる。ダークナイトは漠然と答えた。

「ディアドラの時代に完成した魔法則――その全てが記された書が1つだけ存在する」

 口にして、はっと気付いたように顔を上げる。

「『シグルド魔法大全』――だがあれはもう人間界には存在しないはずだ。現存するものはたった1つ……まさか……」

 不敵に笑う皇太子の姿を睨みつける。

「アルカ……!」

 ダークナイトが呟いたその名には、聞き覚えがあった。
 それが何かを思い出す前に、アルテナの皇太子は大きく両腕を広げ、祭壇の前で謡うように声を上げた。

「見るがいい。そして打ち震えろ凡人共! さあ、我が器、気高き黒き竜よ! 今目覚め、我が魂の前に屈するがいい!」
「何だと!?」
「竜だって?!」

 状況を見守っていた騎士団がざわめく。
 ダークナイトも歯ぎしりした。

「まさか、こんなところで……!」


 黒竜降臨――!




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