Dのカルマ

猫目化月

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第8章 ある皇太子の野望

19-4 悪の親玉がお目見えだ

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 ……………………


 …………



「あ、あれ……?」

 かなりの時間が経ったところで、ファブロスが拍子抜けした声を出した。

 ――シーン……。

「な、なぜだ! なぜ何も起こらん! 変われ! えいっ、エイッ」

 冷めた沈黙に焦り、手足をばたつかせたりパタパタと飛び上がったりする姿は、出来すぎた美貌と相まって少し愉快だ。

「お、王子……何か呪文を唱えた方がいいのでは……?」

 見るに見かねた騎士の1人がアドバイスする。

「おおそうか! 確かに魔法といえば呪文だな!」
「おい、この間抜けな状況をどうにか解説しろ」
「知らんわ!」

 納得する王子を前に、デュークが肘で小突くと、こちらも身構えた恥ずかしさからか噛みつくように答えるダークナイト。

「出でよドラゴン!」

 とりあえず両手を前に出し、ありがちな呪文を唱えてみる。

「待て、私がドラゴンになるのだから、出でよは違うような気がするな」

 やはり何も起こらず、考え直す王子。

「ちちんぷいぷい~黒竜にな~れ!」

 違う。

「エロイムエッサイムエロイムエッサイム……」

 絶対違う。

「お、王子! お気を確かに!」
「王子がんばれ!」

 壇上に立ち、必死に黒竜に変身しようとする王子を眺めているうちに、若い兵士たちが拳を固めて小声で応援し出す。

「おい」
「おう」

 ダークナイトの短い呼びかけに、完全に目が座ったデュークがパキパキと拳を鳴らして応える。
 王子が無意味な呪文を唱えている間に、2人は騎士団に向かって疾風はやてのごとく駆け出した。

「殺さねぇよう手加減してやるから、その武器よこせ」
「ぐぁっ!」

 王子の動向に気を取られていた兵士は一歩反応が遅れ、容赦なくこめかみに決まった右ストレートに一撃で悶絶する。
 すかさずその剣を抜き取ったデュークが近くにいた兵に一太刀を浴びせ間合いを取るのと、

「どれ、私も」
「アグゥ!?」

 ダークナイトが人外の跳躍力で後方にいた騎士団長に強烈な跳び蹴りを食らわせるのは同時だった。

「なるほど、さすが騎士団長ともなると良いものを使っているな」

 いきなり蹴り倒され、その上に乗られて踵で昏倒させられた騎士団長は泡を吹き、相手を踏んだまま腰の剣を抜き身で奪ったダークナイトが得心する。

「いきなり大物狙ったなー」
「愚民に大物も小物もあるか。愚民は愚民だ」
「へいへい」

 相変わらずの傲慢発言を軽く受け流す。
 遅れて攻勢に出る騎士団を相手にしながら、デュークは少しばかりダークナイトに対する認識を改めた。

 この男は、口ほど人間を見下してはいない。憎んではいるかもしれないが。

 他の肉食獣に比べ攻撃力に劣る人間が、それを補うため捻りだした知恵の産物である刀剣の価値を知っているのが良い例だ。

 大方の兵士を片付けた後に残ったのは、立ち尽くす黒髪の王族ただ一人。

「くそっ、くそっ……」

 まだ変身しようとあがく皇太子に向かって、真っ先に駆けだしたのはデュークの方だ。
 そこに、慌ただしく増援が駆け込んできた。

「おい! こっちだ! ラドナック隊長、第13部隊ただいま……なっ、これは……!?」
「あれは殿下!?」
「ちっ、増援か! あれは私の獲物だというのに馬鹿の末裔め……!」

 累々と横たわる兵士たちと、なぜかそこにいる王族の姿に驚く増援部隊。
 増えた敵を前に、デュークに先手を取られたダークナイトが舌打ちしながら応戦した。




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