Dのカルマ

猫目化月

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第9章 楽園の蛇

22-4 失うわけにはいかなかった

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 確信を持った声に、霧が晴れるように何かが呼び覚まされた。

 それは、精神の構成だ。

 驚くほど心が静まり、肉体という器に収まっているはずの魂がまるで宇宙と等価であるかのように無限の広がりを見せる。

 精神世界アストラルサイド物質世界マテリアルサイド。それは薄紙を一枚めくった先に平行に広がる表裏一体の世界であり、全く別の構造で存在する同一の世界である。

 魔法とは魔方陣により物質世界から精神世界に干渉する法則。
 行使者の精神が描いたものを、精神世界から引きずり出し物質世界に具現化させる力。

 デュークは、何もない虚無の世界に、光の網の目を思い浮かべた。

 それは魂を捕らえる罪深き檻。精神世界に還ろうとする道を塞ぎ、ことわりに反し物質世界へ押し留めようとする法則。
  まるで初めから知っていたかのように、その法則を解き、物質世界への道を目指す。

「精界と物界に我が在る。此処に道が在る。精物を司る在る者に伏して長い奉る。いにしえ法則ことわりに則り、今此処に扉を開くことを許し給え!」

 右掌を顔の前にかざし、『扉』である魔方陣に呪文を呼びかける。

 掌が熱くなる。音なき音を立て魔方陣が広がり、聖堂を覆うカルマの結界を更に覆い尽くしていく。

「カルマ! クソ兄貴のことは任せろ!!」

 結界が完成したのを確信し、聞こえるように叫ぶ。

 白竜は答えなかったが、神秘的な銀と鮮やかな蒼の瞳が一瞬デュークを捕らえた。
 すぐに、デュークの結界と重なるように展開されていた光の網が掻き消える。

(この生き物が、俺のもんだって?)

 背筋が寒くなった。
 全身が総毛立つこの感覚は、嫌悪や恐怖といった類のものではない。

 例えようもないほどの高揚感だった。

 あの美しく、強い獣を支配する悦びに、快感に、浚われそうになる己の理性を自覚する。
 まるで、己こそが選ばれた何者かであるかのような――

(こりゃあ……ヤバイぞ)

 己の中の醜い感情が蠢くのを自覚し、思わず口元を抑える。

 ――この自制こそが、ディーを得た者に等しく訪れる業なのかもしれない。

「何だ? アレは……」

 己の気の迷いを打ち消すように、ディーから目を逸らしたデュークは、高台から見える遙か先の空の異変に気付いた。

 雲一つ無い晴天の壁紙に、黒い小さな染みのようなものが点在する。

 遠い先まで見渡せる天候だからこそ気付けた黒い点の集団は、徐々に大きくなっていく。
 恐るべき速度だった。それは――
  
 ドラゴンの大群だ。





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