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1-3 アルフレートside

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そこからは最早言葉すら出なかった。関わりのある高位貴族達が寄ってたかってピンク頭の男を所構わず犯す。止めても無駄であるし、何なら決まっているかのように自身もその行為に加わろうと体が勝手に動くのだ。

あり得ない犯罪を堂々と犯す全員の目が淀み声には抑揚が無く、そして犯されている男は諦念の色を浮かべ半笑いで狂乱の宴に身を堕としていた。

一体全体何が起こっているのか見当もつかず、かと言ってこれ以上の醜態も晒す気ははなく、結局ピンク頭の傍を離れるしかなかった。そうなってくると見事に自身の警護を放り出しショーンが帰ってこない。

しかし一つ気付いた。ショーンは命令に背けなかった。ここでよしというまで待機しろ、と言えば疑問も無く了承し後ろ手に腕を組んで仁王立ちして本当によしというまで動かない。主体性はないがあの狂乱に混じるよりはマシだろうと思えた。

そして目覚める様に意識がハッキリしてから一週間もすると、アルフレートは大体の流れを把握し状況を変える為に動き出した。

「ショーン、今からアッテンの元へ行き、アッテンを茶会に誘え」
「承知いたしました」

顔色すら変えずそう答えたショーンの後ろからコソコソと後をつける。アッテンに対しての嗅覚は失われておらず、丁度何処かへ移動しようとしているアッテンを早々に見つけ足早に近づいていく。あからさまに顔を白くしたアッテンと同じ派閥の中位貴族達。まるで悪魔でも目にしたかのような顔で道をあけようとするアッテンの前に、死んだ目をしたままショーンが告げた。

「次回の茶会の件だが、これより一週間後に行う」

勝手に一週間後に設定したらしいショーンがそう告げれば、アッテンが震える様な声を絞りだした。その目には激しい嫌悪感と苦しい恋慕が滲んでいる。

「お断りいたします。では」

ハッキリと断られその場に突っ立ったままのショーンを見遣る事無くアッテンは足早にその場を去った。茶会の際にアルフレートも参加してアッテンに現状を伝えるつもりだったが失敗だった。

「くそ、かなり厳しいな」

その後の行動を伝えてないからか動かないショーンの背から肩を叩けば、ビクリと大げさに体を震わせ剣に手を当て振り向く。

「なんだ…驚かすなよ」
「……ショーン?まさか、意識が戻ったか?」
「は?あ、いや……今のは白昼夢か」

何やらブツブツと不吉な、だとかあり得ない、だとか呟いて顔を青ざめさせている男に僅かな歓喜が芽生える。まさかこんなことくらいで意識が戻るとは思えなかった。しかし現にこうして言葉を崩し表情が戻っている。

「戻ったな」
「はい?ちょっと、今それどころじゃないんだ。最低な白昼夢を見た」
「アッテンに誘いを断られたことか」
「あぁ、あり得な……何で内容分かるんだよ?」
「先ほどの事は夢でもなければ幻でもなく事実で、俺がそれを見て聞いていたからだ」
「は?嘘いうな。いくらお前でも許さんっ」

顔を青ざめさせたまま、主に向けるものとは程遠い殺気染みた視線を投げかけてくる。そんなショーンを鼻で嗤った。

「ショーン、お前このままだとアッテンと結婚できんぞ」
「はぁ?何でだ。婚約者は俺だぞ。まさかお前、俺のマシューに惚れたんじゃないだろうな?確かに俺のマシューは慎ましくて麗しくて全てにおいて完璧だが、いくら王族と言えど手を出せば斬る」
「何故俺がお前のに興味を抱くのだ。欠片も魅力など感じん。イアン以上の者などこの世におらん」
「あぁ?俺に喧嘩を売るのか?アルフレート殿下」

事実を言っただけなのに侮辱されたと捉えたらしいショーンが本気で剣に腕をかけた。それをまた鼻で嗤ってアルフレートは口を開く。

「お前、ピンク頭の男に覚えがないか」
「……ピンクゥ?んなもんは全く身に覚えが……お、ぼえが」

凶悪な顔でアルフレートを睨みつけていたショーンの顔色が段々と青色を通り越して白色に染まっていく。体から力が抜けたのか、大げさに膝をついて涙を流し出したショーンは未だ嘘だなんだとブツブツ呟いている。やはり同じくピンク頭の男の記憶があるらしい。

「なんだこれ……終わりだ……俺は捨てられる……こんな、こんなこと」

アッテンは同年代の中でも一番真面目で社交界の華として既に頭角を現している内の一人である。当然醜聞など今まで一度もなかったし、振舞いに違わず清廉潔白であると知られていた。

鬱陶しく泣き出した男を見て泣く暇があるものかと大きく溜息を吐いた。この男はアッテンが絡むと全くのポンコツになる。アルフレートとはまた少し違った感覚で全ての中心がアッテンであり、アッテンの為に生きているような男なのだ。

「落ち込む前にやる事があるだろう。他にも一緒にいた連中に覚えはないか」
「……薄っすらと、記憶にはある」
「全員婚約者を大事にしていた連中だ。これがどういうことが分かるか?」

少しの間泣きながら目を瞬かせていたショーンはハッとすると表情を引き締めた。

「明らかに操られている」
「あぁ。俺の兄上もな」

アルフレートの兄であるハロルドに至っては相思相愛で常にイチャイチャしていた筈だ。王妃教育が厳しくなってきてからは二人の時間が減ったと不満を口にしていたが、何処からどう見ても相思相愛の二人だった。それがどうだ、自身の記憶の中にピンク頭を犯している映像が残っている。

「あのピンク頭の男を尋問せねばならん」
「近づいて無事でいられるか、というところだが……さすがに殿下に危ない橋を渡らせられないな」
「お前が行くか?」
「一先ず学園内での行動を把握する必要がありそうだと思うけどな」
「そうだな。まずは明日、付いて回ってみるか」

どちらかが危なくなれば、どちらかが半殺しにしてでも正気に戻すしかない。接触は片方ずつにするしかないだろう。

「ちなみにハロルド殿下には話すか?」
「どうするかな。どちらにしても対策を練る必要があるかなら、タイミングを図ろう」

ショーンの時と同じようにして断られれば意識が戻る可能性が高い。もちろん断られない場合は茶会に参加し婚約者に状況を説明する。

行動を決めるとそこからは最早流れ作業だった。
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