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6章
ガリマーロの回想1 ~戦なき地の戦い
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ガリマーロが、まだフィラーロという名で生きていた、夏の日のことだ。
17歳で叙任されて約2年。
フィラーロは同じときに銀狼騎士団員になったジェロードと一緒に川沿いの道を歩いていた。川と森との間を通るその道は、修練が終わったときの、お気に入りの散歩道だった。
「森の中には入るなよ。ならず者たちが潜んでいるからな」
「何度もいうな。心配性だな、ジェロードは」
「苦労してきたから」
ソレイヤールでは、同じときに叙任された者同士を”同刀の絆”と称し、終生変わらぬ友情を保つという。
ジェロードはフィラーロよりも身長が高く、剣の筋も美しかった。修行の手合わせでも、ジェロードを破ることはできなかった。だが、妬みの感情は持ち得ない。なぜなら人柄も清廉で人望も厚く、なにより団長パルトスを父親のように慕っている点が好ましくもあり、誇らしくもあったためだ。
「だろうな。いつか、ジェロードが騎士団長になればいい。俺はその下で働きたい」
風にもてあそばれるジェロードの髪を眺めながら、不意にフェラーロがつぶやく。
「なぜ。おまえが団長になる可能性だってあるだろう」
「太刀筋といい、人望といい、おまえに勝る人間はいない。おまえ以上の人材はないだろう」
するとジェロードは足下の石をひょいと拾った。道の上には木漏れ日とその陰が綾なる文様を描いている。
「次期団長になるのは、メリーサが選んだ男になると思うぞ」
フェラーロは、団長の娘である金髪のメリーサの笑顔を思い浮かべた。
卵型の清楚な顔立ち。編んで流した髪。控えめで気品がある彼女を思うたびに、胸の奥ががうずく。
「だったら、よけいにジェロード以外いないじゃないか」
フィラーロは前年の御前試合を思い出していた。この国の騎士団の中でより選られた騎士が、強さと技を競う場である。ただ強いだけではいけない。戦いぶりが正々堂々としていて、身のこなしが優雅で美しくなければならないのだ。その場で惜しくも優勝は逃したとはいえ、最年少のジェラードの勇姿と名前は多くの人の目と心に焼き付けられたはずだ。
どんなに努力してもジェロードには勝てない。剣技も、男ぶりも、人柄も。メリーサだって、口には出さないが団長だって、ジェロードが彼女を妻に迎えることを望んでいるはずだとフェラーロは信じている。
ジェロードは指で石を弄んでから、軽く川に向かって投げた。
「俺には両親がいない。団長に拾われるまで、いろいろな農家を回って仕事をもらっているだけだった。しかも、神官たちが作り出した木偶の農夫が増えてからは、人手が余るようになってきた。そんなときにパルトス団長と知り合えたのは、幸運だった。そんな俺に比べれば、おまえはメイラル家の人間だ。なにもかもが違う」
今度はフィラーロが足下の石を拾い、川に向かって強く投げた。
「俺は、メイラル家に必要とされなかった人間だ。拾ってもらったのは俺も同じだ」
家柄について指摘されるたびに、フィラーロの鳩尾が重苦しくなる。不愉快な思いがその声にもにじみ出ていた。
「おまえの気持ちはわかるが、だが後ろ盾も力のひとつであることから目を背けるな。その力で間違いなく救える人間もいるのだからな」
「ジェロード……」
フィラーロが掛ける言葉を探していると、向こうから馬の蹄のリズミカルな音が響いてきた。弧を描いて曲がる道の上に現れたのは、ふたりよりも年上の騎士団員だった。
「こんな所にいたのか、探したぞ。緊急招集だ。今すぐ騎士団の詰所に来い」
「何が起こったんですか」
彼のただならぬ様子にジェロードが思わず質問を投げかける。
「それは詰め所で話すが……宣戦布告された。戦が始まる」
ジェロードとフィラーロは顔を見合わせた。
ミッテルスラムトから、不当な要求があったことは知らされている。だが外交によりその火種は消し去られるものだと皆信じていた。ソレイヤールは大地の精の守護を受けた国。これまで戦うことなく、平和な時代を過ごしてこられたからだ。
銀狼騎士団は、王立ではあったが、守護対象は市民であった。そのため詰め所および兵舎はベルヴィール宮ではなく、ボレムの町はずれにあった。石造りの門を抜け、詰め所に入ると、すでに待機していた団長パルトスが振り向いた。
「これで全員揃ったな」
「遅れて申し訳ありません」
フィラーロとジェロードは胸に手を置いて敬礼をし、整列している騎士たちの列の後ろに回り込んだ。
「では国王陛下の宣下を申し伝える」
パルトスが左手に持っていた巻き紙を捧げると、ざわついていた詰め所の中が静まりかえった。
「『ソレイヤール臣民に申し伝える。余は、ここにミッテルスラムトとの戦いを宣言する。各騎士団ならびに兵士たちよ。余は国土を守り、国民を守護し、ソレイヤールを未来につなぐために力を尽くそう。諸君たちも余と共に、敵を打ち破り、ソレイヤールに平和を確立することを望む。ソレイヤール国王・レルニリウス』」
沈黙の室内に、息をのむ音が重なる。
不戦の地、ソレイヤールが発した事実上初の開戦宣言である。動揺が広がるのも無理はなかった。戦いのための訓練は積んできたが、実戦経験がない騎士たちである。専任の兵士は存在しない。これから農民や町民から徴兵されることになるだろう。
「以上が陛下の宣下だ。これからは私の思いを伝えよう。私は団員をすべて息子だと思っている。諸君たちが私を親と思わなくてもいい。だが、それでも私は息子だと思う。だから皆、生きて帰れ。それが私の望みだ」
団長の言葉で、当惑していた空気はなぎ払われた。祖国を守り、愛する者を守り続けるためにも、生き抜こう。フィラーロの胸は熱くなった。
「婦人には、心底惚れろ。守りたい婦人がいないようなやつに、国は守れない。命がけで守りたい相手ができたとき、人は強くなれる。窮地に陥ったときでも、自然に身体が動くものだからな」
フィラーロは、団長の口癖を改めてかみしめた。
団長パルトスは厳しくも愛情深い男だ。新しい鎧に身を固め、国王の名代である団長が捧げる剣身を肩に受けた叙任の儀のときから、父親のように、いや本当の父親以上に慕ってきた人物である。
愛する者を守るための戦い。フィラーロの目はごく自然に、いるはずのないメリーサの姿を探し求めていた。そしてジェロードを見つけたところで視線を止めた。
ジェロードのほおは紅潮していた。
「きっと、守る」
誰を、という言葉が省かれていたが、ジェロードの思いは理解したつもりだった。生きて帰ったら、きっとメリーサはジェロードを選ぶだろう。自分の胸はかきむしられるように痛むだろうが、それでいい。それがいいのだ、と思っていた。
銀狼騎士団は、王都ボレムの民衆を守護するために設立された騎士団である。目下のところ、国境付近で戦いがあったという報告は受けているが、応援要請はまだ確認できていない。そのため、開戦の宣下を受け取ってからも銀狼騎士団は王都で待機をすることになっていた。
そんなある日。初めての戦いに備えるフィラーロは、自分に与えられた兵舎の部屋で、武具を整えていた。ソレイヤールは特に防具が優れていると、フィラーロは思う。楯は魔法で強化された木製なので、軽くて強い。紋章には銀狼騎士団を表す鎧と狼が描かれている。これならどんな弓でも防ぐことができるだろう。問題は鎧である。ソレイヤールの騎士は、華麗な身のこなしを求められる。そのため、鎧の板金は高度な技術力で薄く引き延ばされており、軽量ではあるが、耐久性には疑問があった。
武運を祈るような気持ちでフィラーロは鎧を布で無心に磨く。と、不意に扉が開いた。
顔を上げると同時に、神官の法衣姿のレオーニスが大股で部屋に入ってきた。
「兄上、なぜここに」
「父上からの伝言だ。おまえは戦に出るな」
いつも通り、一方的に伝えただけで部屋を出ようとする兄に、フィラーロは背後から断言した。
「そういうわけにはいきません。私の任務は銀狼騎士団の命を受けてのこと。神官とは関係ないはずです。それに父上だって、私の騎士団入りは反対しなかったはずですが」
「戦争が起こるとは思っていなかった。単なる誤算だ」
抑揚のないレオーニスの言葉は、フィラーロを余計にいらだたせた。
「神官になれなかった不名誉な息子のままでいるより、武勲を立てた騎士のほうが、いやいっそ国のために戦って戦死したほうが、父上にとってまだ体面が保てるのではないでしょうか」
「私は忙しい。おまえとくだらん話をする暇はない。母上の願いだ。それだけ言っておく」
レオーニスは靴音を響かせ、ドアを閉めもしないで出て行った。
「あなたの言うことは聞きません。私には守りたい人がいる。ひとりの人を生涯かけて守る。それができなければ、ほかの人も守れません。それが騎士の務めです」
フィラーロは叫んだが、誰もいない廊下の向こうからの返事はなかった。
それからしばし時が流れ、今度は静かに扉を叩く音が聞こえた。
細めに扉を開けると、外にジェロードが立っていた。脇に書物を抱えている。
「どうした?」
「気になることがあってな。本を持ってきた。おまえに読んでもらって、どう思うか聞かせてもらいたい」
さりげなく差し出された本を、フィラーロは両手で受け取った。
「かまわんが、なにが気になるんだ?」
「我が国の戦の歴史だ。聞いたことがあるか?」
「そういえば……ないな。とにかくそれを読んでみるよ。また明日話そう。消灯の時間までに少しでも読んでおきたいからな」
ジェロードはなにかを言いたそうだったが、とにかく議論をするにはその書物を読まなければならない。フィラーロは軽く右手を挙げ、パラパラと書物をめくった。
「ん……?」
ベッドに腰をかけたフィラーロは、明かりを引き寄せて文字を追った。戦いの歴史とジェロードは言っていたが、書物のタイトルは『諸国歴訪記』であり、内容はソレイヤールの商人が口伝えで書かせた、ミッテルスラムトやノルデスラムト、エステスラムトなど北方の国々の話である。
「間違えたのかな?」
だが、読んで欲しいと言われた以上、本のページをめくり続けるしかない。これまで国名しか知らなかった、ミッテルスラムトやノルデスラムトの国々の人々の暮らしが、楯商人の目を通して語られている。
『ノルデスラムトの騎士階級の者たちは、理由あって自国の楯に拘泥する。しかし、北方諸国との国境を警護する兵士、特に傭兵の間では、軽く丈夫なソレイヤールの楯は値打ち物として取引が行われる。ノルデスラムトの長く厳しい冬、警護や戦闘の折には、鉄の盾による自損事故が散見されるためである』
「ノルデスラムトには、傭兵という生き方があるのだな……」
さらに先を読もうとしたとき、消灯の鐘の音が流れてきた。フィラーロはそっと灯を消し、眠りについた。
次の朝、ジェロードはフィラーロの姿を見つけると、走り寄ってきた。
「本はどうだった」
「なかなか面白かったが、戦というより楯の商人の話だったぞ」
ジェロードは驚いた顔で、フィラーロから本を受け取った。
「そうか、すまん、間違えたようだ。今度はちゃんと正しい本を渡す」
ジェラードははにかんだ笑顔を向けた。
「ああ。待ってる」
フィラーロは軽く答えたが、その本が届けられることはなかった。
その日のうちに、国境付近の村、カイヤンスに敵軍が攻め入り、占拠されたことが、神官を通して伝えられたためである。
その通知は、王都ボレムに大きな衝撃をもたらした。
「なぜ?」
「ソレイヤールは大地の精に守られた国ではなかったのか?」
「カイヤンスの騎士たちはなにをしていたのだ?」
「大地の精よ、我らをお守りください!」
人々の叫びが町にあふれた。未来永劫守られると信じていたソレイヤールへの侵攻と国境の町カイヤンスの陥落は、空が落ちてきたと同じ程度の衝撃であった。
銀狼騎士団は、カイヤンスに向かう街道を騎馬で北上した。追走するのは、ボレムの兵士たち、それから馬車に乗った救護班の神官たちである。途中、麦の畑が広がる平原からボレム方面に逃げる避難民が街道をのろのろと歩く。歩くのがやっとの人々は機敏に馬をよけられず、進行は難渋を極めた。神官たちの馬車はほとんど立ち往生して進めない。
「どうなんだ、村の様子は」
パルトスはひらりと馬を下り、その中の男に尋ねた。だが、男の話はまったく要領を得ない。
「だんな、あいつらは、悪魔です」
「どんな連中なんだ」
「悪魔みたいなことをしやがるんです。あんなものは、見たこともありません」
わからないものを説明できるはずがない。パルトスは男を放し、また馬に飛び乗った。
ようやく丘の上に天然の要塞のように広がるカイヤンスの町が遠目に見えた。が、同時に、その空に狼煙のようにあがっている煙も認めざるを得なかった。
「畜生! 火を放ちやがった」
パルトスが歯ぎしりの音とともに吐き出した。
「急ぎましょう。まだ救えるかもしれません」
ジェロードが馬を駆ると、のろのろと歩いていた避難民たちが慌てて道を空けた。
一歩先に行ったジェロードをフィラーロが追いかけると、さらに町に近づいたところで、退却する騎士団や兵士と遭遇した。カイヤンスの石英騎士団と思われる男たちは、凍り付いたような目をして歩いている。手に刀はなく、楯もない。
「おい、いったい何があった!?」
「わからない。遠くから、やられた」
「弓か?」
「違う。見えないほど小さい何かだ。だが当たると死ぬ」
「敵兵は? まだ村にいるのか? 占拠したのか?」
「引き返した。なぜかわからんが、ミッテルスラムトの方に向かっていった」
ジェロードは男たちに救護班の馬車の位置を指し示すと、再びカイヤンスの村を目指して、つづら折りの坂道を馬で駆けた。
村の入り口で、ふたりは様子をうかがった。
低い丘の頂上を這うように築かれた石造りの村は、天然の要塞と呼んでも差し支えなかった。だが今は家の扉は壊され、壁は煤で黒ずんでいた。そして何より、村の中に醜悪な臭いが充満している。鼻をつくような刺激的な臭いが強い。その中に、覚えがある生臭さも漂う。狩った獲物を捌いたときの、血の臭いを連想するような……。周囲を見回したフィラーロの胃が、瞬時に締め付けられた。
家の奥、折り重なって倒れている村人の姿。生死を確認するべきだと思いながら、一歩も身体が動かない。
「残念だが、彼らは手遅れだ。あとで埋葬を頼むしかない」
「敵兵はまだ残っているだろうか」
「わからん。気を抜くな」
ジェロードに支えられ、フィラーロは歩き始めた。逃げ遅れた婦人や老人の亡骸に手を合わせながら、生存者を探す。ミッテルスラムト兵の姿は見えなかった。すでに総員退却したのだろう。
村の中心の広場に行けば、積み上げられて火を放たれたと思われる扉やテーブルや椅子の残骸が無残な姿をさらしていた。
「くそ、やりたい放題やりやがって」
フィラーロが低くうなると、ジェロードが耳に口を近づけた。
「静かに、向こうに誰かいる」
ジェロードが指さす向こうには、扉を破壊された石造りの家があった。中から何かを壊すような、大きな音が聞こえてくる。
敵か、生存者の村人か。どちらの可能性も考え、ふたりはゆっくりと歩いた。そっと家に近づき、すでにただの切り取られた穴になっている戸口から、家の中をのぞく。
そこにいたのは、鎧の上に見たこともない紋章付き外套を着ている兵士であった。初めて目にするミッテルスラムト兵だ。その男は、フィラーロが見たこともない長い棒状の物体を肩に背負い、家の中を物色しているようだった。
捕まえて、捕虜にする。その想いを込めてジェロードと顔を見合わせ、うなずき合う。男が長持ちの中をのぞいたその機会を捉え、走り出そうとしたときだ。
「ジェロード! フィラーロ! そこにいるのか!?」
騎士団の誰かが発した声で、ミッテルスラムト兵が顔を向けた。
「動くな、仲間が来ている。おとなしく投降すれば、命は奪わないと約束する」
ジェロードが説得するが、男は慌てて肩から棒をおろし、棒を地面に立て、細い枝のようなもので、何かを先に押し込んだ。不意に、その棒の先をジェロードに向ける。不吉な予感が身体を走り、フィラーロは自分でも意識しないうちに、ジェロードに体当たりをしていた。
刹那――
棒が雷鳴のような音を発し、火を噴いた。同時にフィラーロの左肩に激烈な衝撃が走り、彼の身体は弾けるように床に倒れた。立ち上がろうとすると、肩から腕にかけた部位が痺れて動けない。倒れ込んだ顔の前では血の染みが広がってきていた。
「フィラーロ!」
ジェロードがフィラーロにかがみ込んだと同時に、銀狼騎士団のひとりが家の中に走り込んだ。
「その棒に気をつけろ!」
だがジェロードが叫んだときには、騎士団の槍持ちがミッテルスラムト兵に突進していった。体当たりされた兵士の棒は沈黙したまま、倒れていく男の足下に落ちた。
17歳で叙任されて約2年。
フィラーロは同じときに銀狼騎士団員になったジェロードと一緒に川沿いの道を歩いていた。川と森との間を通るその道は、修練が終わったときの、お気に入りの散歩道だった。
「森の中には入るなよ。ならず者たちが潜んでいるからな」
「何度もいうな。心配性だな、ジェロードは」
「苦労してきたから」
ソレイヤールでは、同じときに叙任された者同士を”同刀の絆”と称し、終生変わらぬ友情を保つという。
ジェロードはフィラーロよりも身長が高く、剣の筋も美しかった。修行の手合わせでも、ジェロードを破ることはできなかった。だが、妬みの感情は持ち得ない。なぜなら人柄も清廉で人望も厚く、なにより団長パルトスを父親のように慕っている点が好ましくもあり、誇らしくもあったためだ。
「だろうな。いつか、ジェロードが騎士団長になればいい。俺はその下で働きたい」
風にもてあそばれるジェロードの髪を眺めながら、不意にフェラーロがつぶやく。
「なぜ。おまえが団長になる可能性だってあるだろう」
「太刀筋といい、人望といい、おまえに勝る人間はいない。おまえ以上の人材はないだろう」
するとジェロードは足下の石をひょいと拾った。道の上には木漏れ日とその陰が綾なる文様を描いている。
「次期団長になるのは、メリーサが選んだ男になると思うぞ」
フェラーロは、団長の娘である金髪のメリーサの笑顔を思い浮かべた。
卵型の清楚な顔立ち。編んで流した髪。控えめで気品がある彼女を思うたびに、胸の奥ががうずく。
「だったら、よけいにジェロード以外いないじゃないか」
フィラーロは前年の御前試合を思い出していた。この国の騎士団の中でより選られた騎士が、強さと技を競う場である。ただ強いだけではいけない。戦いぶりが正々堂々としていて、身のこなしが優雅で美しくなければならないのだ。その場で惜しくも優勝は逃したとはいえ、最年少のジェラードの勇姿と名前は多くの人の目と心に焼き付けられたはずだ。
どんなに努力してもジェロードには勝てない。剣技も、男ぶりも、人柄も。メリーサだって、口には出さないが団長だって、ジェロードが彼女を妻に迎えることを望んでいるはずだとフェラーロは信じている。
ジェロードは指で石を弄んでから、軽く川に向かって投げた。
「俺には両親がいない。団長に拾われるまで、いろいろな農家を回って仕事をもらっているだけだった。しかも、神官たちが作り出した木偶の農夫が増えてからは、人手が余るようになってきた。そんなときにパルトス団長と知り合えたのは、幸運だった。そんな俺に比べれば、おまえはメイラル家の人間だ。なにもかもが違う」
今度はフィラーロが足下の石を拾い、川に向かって強く投げた。
「俺は、メイラル家に必要とされなかった人間だ。拾ってもらったのは俺も同じだ」
家柄について指摘されるたびに、フィラーロの鳩尾が重苦しくなる。不愉快な思いがその声にもにじみ出ていた。
「おまえの気持ちはわかるが、だが後ろ盾も力のひとつであることから目を背けるな。その力で間違いなく救える人間もいるのだからな」
「ジェロード……」
フィラーロが掛ける言葉を探していると、向こうから馬の蹄のリズミカルな音が響いてきた。弧を描いて曲がる道の上に現れたのは、ふたりよりも年上の騎士団員だった。
「こんな所にいたのか、探したぞ。緊急招集だ。今すぐ騎士団の詰所に来い」
「何が起こったんですか」
彼のただならぬ様子にジェロードが思わず質問を投げかける。
「それは詰め所で話すが……宣戦布告された。戦が始まる」
ジェロードとフィラーロは顔を見合わせた。
ミッテルスラムトから、不当な要求があったことは知らされている。だが外交によりその火種は消し去られるものだと皆信じていた。ソレイヤールは大地の精の守護を受けた国。これまで戦うことなく、平和な時代を過ごしてこられたからだ。
銀狼騎士団は、王立ではあったが、守護対象は市民であった。そのため詰め所および兵舎はベルヴィール宮ではなく、ボレムの町はずれにあった。石造りの門を抜け、詰め所に入ると、すでに待機していた団長パルトスが振り向いた。
「これで全員揃ったな」
「遅れて申し訳ありません」
フィラーロとジェロードは胸に手を置いて敬礼をし、整列している騎士たちの列の後ろに回り込んだ。
「では国王陛下の宣下を申し伝える」
パルトスが左手に持っていた巻き紙を捧げると、ざわついていた詰め所の中が静まりかえった。
「『ソレイヤール臣民に申し伝える。余は、ここにミッテルスラムトとの戦いを宣言する。各騎士団ならびに兵士たちよ。余は国土を守り、国民を守護し、ソレイヤールを未来につなぐために力を尽くそう。諸君たちも余と共に、敵を打ち破り、ソレイヤールに平和を確立することを望む。ソレイヤール国王・レルニリウス』」
沈黙の室内に、息をのむ音が重なる。
不戦の地、ソレイヤールが発した事実上初の開戦宣言である。動揺が広がるのも無理はなかった。戦いのための訓練は積んできたが、実戦経験がない騎士たちである。専任の兵士は存在しない。これから農民や町民から徴兵されることになるだろう。
「以上が陛下の宣下だ。これからは私の思いを伝えよう。私は団員をすべて息子だと思っている。諸君たちが私を親と思わなくてもいい。だが、それでも私は息子だと思う。だから皆、生きて帰れ。それが私の望みだ」
団長の言葉で、当惑していた空気はなぎ払われた。祖国を守り、愛する者を守り続けるためにも、生き抜こう。フィラーロの胸は熱くなった。
「婦人には、心底惚れろ。守りたい婦人がいないようなやつに、国は守れない。命がけで守りたい相手ができたとき、人は強くなれる。窮地に陥ったときでも、自然に身体が動くものだからな」
フィラーロは、団長の口癖を改めてかみしめた。
団長パルトスは厳しくも愛情深い男だ。新しい鎧に身を固め、国王の名代である団長が捧げる剣身を肩に受けた叙任の儀のときから、父親のように、いや本当の父親以上に慕ってきた人物である。
愛する者を守るための戦い。フィラーロの目はごく自然に、いるはずのないメリーサの姿を探し求めていた。そしてジェロードを見つけたところで視線を止めた。
ジェロードのほおは紅潮していた。
「きっと、守る」
誰を、という言葉が省かれていたが、ジェロードの思いは理解したつもりだった。生きて帰ったら、きっとメリーサはジェロードを選ぶだろう。自分の胸はかきむしられるように痛むだろうが、それでいい。それがいいのだ、と思っていた。
銀狼騎士団は、王都ボレムの民衆を守護するために設立された騎士団である。目下のところ、国境付近で戦いがあったという報告は受けているが、応援要請はまだ確認できていない。そのため、開戦の宣下を受け取ってからも銀狼騎士団は王都で待機をすることになっていた。
そんなある日。初めての戦いに備えるフィラーロは、自分に与えられた兵舎の部屋で、武具を整えていた。ソレイヤールは特に防具が優れていると、フィラーロは思う。楯は魔法で強化された木製なので、軽くて強い。紋章には銀狼騎士団を表す鎧と狼が描かれている。これならどんな弓でも防ぐことができるだろう。問題は鎧である。ソレイヤールの騎士は、華麗な身のこなしを求められる。そのため、鎧の板金は高度な技術力で薄く引き延ばされており、軽量ではあるが、耐久性には疑問があった。
武運を祈るような気持ちでフィラーロは鎧を布で無心に磨く。と、不意に扉が開いた。
顔を上げると同時に、神官の法衣姿のレオーニスが大股で部屋に入ってきた。
「兄上、なぜここに」
「父上からの伝言だ。おまえは戦に出るな」
いつも通り、一方的に伝えただけで部屋を出ようとする兄に、フィラーロは背後から断言した。
「そういうわけにはいきません。私の任務は銀狼騎士団の命を受けてのこと。神官とは関係ないはずです。それに父上だって、私の騎士団入りは反対しなかったはずですが」
「戦争が起こるとは思っていなかった。単なる誤算だ」
抑揚のないレオーニスの言葉は、フィラーロを余計にいらだたせた。
「神官になれなかった不名誉な息子のままでいるより、武勲を立てた騎士のほうが、いやいっそ国のために戦って戦死したほうが、父上にとってまだ体面が保てるのではないでしょうか」
「私は忙しい。おまえとくだらん話をする暇はない。母上の願いだ。それだけ言っておく」
レオーニスは靴音を響かせ、ドアを閉めもしないで出て行った。
「あなたの言うことは聞きません。私には守りたい人がいる。ひとりの人を生涯かけて守る。それができなければ、ほかの人も守れません。それが騎士の務めです」
フィラーロは叫んだが、誰もいない廊下の向こうからの返事はなかった。
それからしばし時が流れ、今度は静かに扉を叩く音が聞こえた。
細めに扉を開けると、外にジェロードが立っていた。脇に書物を抱えている。
「どうした?」
「気になることがあってな。本を持ってきた。おまえに読んでもらって、どう思うか聞かせてもらいたい」
さりげなく差し出された本を、フィラーロは両手で受け取った。
「かまわんが、なにが気になるんだ?」
「我が国の戦の歴史だ。聞いたことがあるか?」
「そういえば……ないな。とにかくそれを読んでみるよ。また明日話そう。消灯の時間までに少しでも読んでおきたいからな」
ジェロードはなにかを言いたそうだったが、とにかく議論をするにはその書物を読まなければならない。フィラーロは軽く右手を挙げ、パラパラと書物をめくった。
「ん……?」
ベッドに腰をかけたフィラーロは、明かりを引き寄せて文字を追った。戦いの歴史とジェロードは言っていたが、書物のタイトルは『諸国歴訪記』であり、内容はソレイヤールの商人が口伝えで書かせた、ミッテルスラムトやノルデスラムト、エステスラムトなど北方の国々の話である。
「間違えたのかな?」
だが、読んで欲しいと言われた以上、本のページをめくり続けるしかない。これまで国名しか知らなかった、ミッテルスラムトやノルデスラムトの国々の人々の暮らしが、楯商人の目を通して語られている。
『ノルデスラムトの騎士階級の者たちは、理由あって自国の楯に拘泥する。しかし、北方諸国との国境を警護する兵士、特に傭兵の間では、軽く丈夫なソレイヤールの楯は値打ち物として取引が行われる。ノルデスラムトの長く厳しい冬、警護や戦闘の折には、鉄の盾による自損事故が散見されるためである』
「ノルデスラムトには、傭兵という生き方があるのだな……」
さらに先を読もうとしたとき、消灯の鐘の音が流れてきた。フィラーロはそっと灯を消し、眠りについた。
次の朝、ジェロードはフィラーロの姿を見つけると、走り寄ってきた。
「本はどうだった」
「なかなか面白かったが、戦というより楯の商人の話だったぞ」
ジェロードは驚いた顔で、フィラーロから本を受け取った。
「そうか、すまん、間違えたようだ。今度はちゃんと正しい本を渡す」
ジェラードははにかんだ笑顔を向けた。
「ああ。待ってる」
フィラーロは軽く答えたが、その本が届けられることはなかった。
その日のうちに、国境付近の村、カイヤンスに敵軍が攻め入り、占拠されたことが、神官を通して伝えられたためである。
その通知は、王都ボレムに大きな衝撃をもたらした。
「なぜ?」
「ソレイヤールは大地の精に守られた国ではなかったのか?」
「カイヤンスの騎士たちはなにをしていたのだ?」
「大地の精よ、我らをお守りください!」
人々の叫びが町にあふれた。未来永劫守られると信じていたソレイヤールへの侵攻と国境の町カイヤンスの陥落は、空が落ちてきたと同じ程度の衝撃であった。
銀狼騎士団は、カイヤンスに向かう街道を騎馬で北上した。追走するのは、ボレムの兵士たち、それから馬車に乗った救護班の神官たちである。途中、麦の畑が広がる平原からボレム方面に逃げる避難民が街道をのろのろと歩く。歩くのがやっとの人々は機敏に馬をよけられず、進行は難渋を極めた。神官たちの馬車はほとんど立ち往生して進めない。
「どうなんだ、村の様子は」
パルトスはひらりと馬を下り、その中の男に尋ねた。だが、男の話はまったく要領を得ない。
「だんな、あいつらは、悪魔です」
「どんな連中なんだ」
「悪魔みたいなことをしやがるんです。あんなものは、見たこともありません」
わからないものを説明できるはずがない。パルトスは男を放し、また馬に飛び乗った。
ようやく丘の上に天然の要塞のように広がるカイヤンスの町が遠目に見えた。が、同時に、その空に狼煙のようにあがっている煙も認めざるを得なかった。
「畜生! 火を放ちやがった」
パルトスが歯ぎしりの音とともに吐き出した。
「急ぎましょう。まだ救えるかもしれません」
ジェロードが馬を駆ると、のろのろと歩いていた避難民たちが慌てて道を空けた。
一歩先に行ったジェロードをフィラーロが追いかけると、さらに町に近づいたところで、退却する騎士団や兵士と遭遇した。カイヤンスの石英騎士団と思われる男たちは、凍り付いたような目をして歩いている。手に刀はなく、楯もない。
「おい、いったい何があった!?」
「わからない。遠くから、やられた」
「弓か?」
「違う。見えないほど小さい何かだ。だが当たると死ぬ」
「敵兵は? まだ村にいるのか? 占拠したのか?」
「引き返した。なぜかわからんが、ミッテルスラムトの方に向かっていった」
ジェロードは男たちに救護班の馬車の位置を指し示すと、再びカイヤンスの村を目指して、つづら折りの坂道を馬で駆けた。
村の入り口で、ふたりは様子をうかがった。
低い丘の頂上を這うように築かれた石造りの村は、天然の要塞と呼んでも差し支えなかった。だが今は家の扉は壊され、壁は煤で黒ずんでいた。そして何より、村の中に醜悪な臭いが充満している。鼻をつくような刺激的な臭いが強い。その中に、覚えがある生臭さも漂う。狩った獲物を捌いたときの、血の臭いを連想するような……。周囲を見回したフィラーロの胃が、瞬時に締め付けられた。
家の奥、折り重なって倒れている村人の姿。生死を確認するべきだと思いながら、一歩も身体が動かない。
「残念だが、彼らは手遅れだ。あとで埋葬を頼むしかない」
「敵兵はまだ残っているだろうか」
「わからん。気を抜くな」
ジェロードに支えられ、フィラーロは歩き始めた。逃げ遅れた婦人や老人の亡骸に手を合わせながら、生存者を探す。ミッテルスラムト兵の姿は見えなかった。すでに総員退却したのだろう。
村の中心の広場に行けば、積み上げられて火を放たれたと思われる扉やテーブルや椅子の残骸が無残な姿をさらしていた。
「くそ、やりたい放題やりやがって」
フィラーロが低くうなると、ジェロードが耳に口を近づけた。
「静かに、向こうに誰かいる」
ジェロードが指さす向こうには、扉を破壊された石造りの家があった。中から何かを壊すような、大きな音が聞こえてくる。
敵か、生存者の村人か。どちらの可能性も考え、ふたりはゆっくりと歩いた。そっと家に近づき、すでにただの切り取られた穴になっている戸口から、家の中をのぞく。
そこにいたのは、鎧の上に見たこともない紋章付き外套を着ている兵士であった。初めて目にするミッテルスラムト兵だ。その男は、フィラーロが見たこともない長い棒状の物体を肩に背負い、家の中を物色しているようだった。
捕まえて、捕虜にする。その想いを込めてジェロードと顔を見合わせ、うなずき合う。男が長持ちの中をのぞいたその機会を捉え、走り出そうとしたときだ。
「ジェロード! フィラーロ! そこにいるのか!?」
騎士団の誰かが発した声で、ミッテルスラムト兵が顔を向けた。
「動くな、仲間が来ている。おとなしく投降すれば、命は奪わないと約束する」
ジェロードが説得するが、男は慌てて肩から棒をおろし、棒を地面に立て、細い枝のようなもので、何かを先に押し込んだ。不意に、その棒の先をジェロードに向ける。不吉な予感が身体を走り、フィラーロは自分でも意識しないうちに、ジェロードに体当たりをしていた。
刹那――
棒が雷鳴のような音を発し、火を噴いた。同時にフィラーロの左肩に激烈な衝撃が走り、彼の身体は弾けるように床に倒れた。立ち上がろうとすると、肩から腕にかけた部位が痺れて動けない。倒れ込んだ顔の前では血の染みが広がってきていた。
「フィラーロ!」
ジェロードがフィラーロにかがみ込んだと同時に、銀狼騎士団のひとりが家の中に走り込んだ。
「その棒に気をつけろ!」
だがジェロードが叫んだときには、騎士団の槍持ちがミッテルスラムト兵に突進していった。体当たりされた兵士の棒は沈黙したまま、倒れていく男の足下に落ちた。
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