守宮の会談絵草紙

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守宮の会談絵草紙 第四話「臥身香炉」

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ふふふ、皆様、ようこそおいでくださいました。

このヤモリ、世の隙間を這いずり集めた物語をお届けするストーリーテラーでございます。

本日お話しするのは、4話目、臥身香炉の物語。

臥身香炉とは、神秘の煙をまとい、縁ある者を夢で結ぶ古の器。

されど、その力には禁忌が伴い、三度を超える試みは恐ろしき代償を呼ぶと伝えられております。

まだ成仏まで96話残っておりますが、どうぞ、奇妙な世界に身を委ねてくださいませ。




【臥身香炉】



第一章:一度目の夢

新宿の雑踏を抜け、路地の奥に佇む古びた雑居ビル。

その最上階、薄暗い一室に「魔女」が住むという噂を耳にした神崎雅人は、半信半疑ながらも足を運んだ。

恋に疲れ果て、運命の女性など存在しないと諦めかけていた彼にとって、それは最後の希望だった。

部屋に足を踏み入れると、仄かに甘い香りが鼻をつく。

中央に置かれた古めかしい香炉から立ち上る煙が、薄闇に揺らめいていた。

魔女は老女とも若女ともつかぬ不思議な微笑を浮かべ、静かに告げた。

「臥身香炉は、縁ある女性を夢で示す。ただし、三度しか会えぬ。彼女の手がかりを掴め。それを逃せば、永遠に失う。」

雅人は香炉の前に横たわり、煙を吸い込んだ。

意識が溶けるように落ち、夢が始まる。

そこに現れたのは、名も知らぬ女だった。

長い黒髪が月光に揺れ、切なげな瞳が彼を見つめる。

彼女は無言で微笑み、手を差し伸べた。だが、触れる直前、夢は霧のように消えた。

目覚めた雅人の胸には、彼女の面影が焼き付いていた。

しかし、名前も居場所もわからぬまま、ただ心臓の鼓動だけが熱く響いていた。



第二章:二度目の夢

一週間後、雅人は再び魔女の元を訪れた。

最初の夢が忘れられず、彼女の手がかりを掴みたいという衝動に突き動かされていた。

魔女は変わらぬ微笑で迎え入れ、香炉に新たな毒物をくべた。

「二度目だ。気をつけなさい。残りは一度だけ。」

再び夢の中、彼女は現れた。今度は薄暗い森の小道に立っていた。

彼女の唇が動くが、声は届かない。

雅人は必死に近づこうとしたが、足元は泥のように重く、彼女の姿はまたもや霞んだ。

目覚めたとき、彼の手には一本の赤いリボンが握られていた。

夢の名残か、現実のものか――確かめる術はなかった。

魔女の目は、まるで彼の心を見透かすように鋭かった。

「次が最後だよ。」その声には、どこか冷ややかな響きがあった。



第三章:三度目の夢

三度目の訪問。雅人の心は焦燥に支配されていた。

彼女の手がかりを掴めなければ、すべてが無に帰す。

香炉の煙はこれまで以上に濃く、部屋を満たす異様な甘さに息が詰まりそうだった。

魔女の声が低く響く。「三度目だ。約束の最後。失敗すれば、彼女は永遠に消える。」

夢の中、彼女は古い洋館の窓辺に立っていた。

彼女の瞳は悲しみに満ち、雅人に何かを訴えているようだった。

彼は必死に彼女に呼びかけたが、声は届かず、彼女の姿はガラスのように砕け散った。

目覚めたとき、雅人の頬には涙が流れていた。

だが、彼女の名前も居場所も、依然として掴めなかった。魔女は静かに首を振った。

「三度が終わった。もう香炉は使えぬ。」

その言葉に、雅人の胸は鉛のように重くなった。

だが、彼女への想いは消えず、むしろ燃え上がるばかりだった。



第四章:禁忌の四度目

約束を破る恐怖を知りながら、雅人は四度目の来店を決意した。

彼女を失うことへの恐怖が、魔女の警告を上回ったのだ。

雑居ビルの階段は異様に冷たく、足音が不気味に反響する。

部屋に足を踏み入れると、魔女の微笑はこれまでと異なり、どこか底知れぬ闇を孕んでいた。

「約束を違えるのか。」

魔女の声は、まるで凍てつく風のように鋭かった。

「何も、恐ろしいことなどない。ただし、代償は払わねばならぬ。」

香炉の煙は今まで以上に濃密で、雅人の意識を瞬時に飲み込んだ。

夢の中、彼女はいた。

だが、彼女の姿は歪み、瞳は虚ろで、まるで生気を失った人形のようだった。

彼女が口を開くと、声ではなく、黒い煙が溢れ出した。

「なぜ、約束を破った?」

その囁きは、雅人の心を切り裂いた。

目覚めたとき、部屋は静寂に包まれていた。

魔女の姿はなく、香炉だけが冷たく光っていた。

雅人の手には、彼女の赤いリボンが握られていたが、それは血のように濡れていた。

彼の背後で、かすかな笑い声が響く。

魔女の声か、それとも――。

雅人は知っていた。四度目の夢は、夢では済まないことを。





ふふふ、皆様、いかがでございましたでしょうか。

このヤモリ、世の隙間を這いずり集めた物語の幕を、そっと閉じさせていただきます。

4話目を終え、残りは96話。次もまた、皆様を不思議な世界へお連れいたします。では、ごきげんよう。






『ケツメド!!毒味役長屋絵草紙』、カクヨムにて本編完結済み。現在は外伝を連載中です。 時代劇×毒味役×人情ドラマに興味がある方、ぜひ覗いてみてください。




https://kakuyomu.jp/works/16818792437372915626


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