鉄騎の破城槌 麗しき工兵は戦場に橋を架ける

米ちゃん

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第二章:丸太と魔法と、覇道の軍道

ハーフエルフ、親方を動かす

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 やがて、丸太小屋の一つ、道具を直すための鍛冶場小屋の前に、荒くれ者の鉱夫や職人や歩荷たちが集まった。
「みんな、集まってくれてありがとさん!
 うちはランスローネ。
 シャルマーニ殿下に命じられて、この『ヴェリアの心臓』で採れた鉄を、アイゼン・ガルドに運ぶための『道』を作りに来たんや!」
 ランスローネはそこで言葉を区切り、集まった一同を見渡す。
 皆、胡散臭い者を見る冷ややかまなざしをランスローネに向けていた。
 しかし彼女はそんな視線と空気に臆さず話を続ける。
「みんな、あの石段を見て!
 あれは、うちが歩荷さんたちのために、土の精霊魔法で作ったんや!」
 ランスローネが革鎧の胸板を張ってドヤ顔で言うと、一同はおおーと声を上げる。
「でも、シャルマーニ殿下が求めてるのは、馬車が並んで二台、全速で走れるくらいの道や!
 時間と日にちかけたら出来る──けど、それを三日で作れってうちは命じられた!
 流石に三日で、この谷底からアイゼン・ガルド迄の要求通りの道を作るのは無理や!
 けど、うちはそれを可能にする方法を思いついたんや!」
「── 可能にする方法だと? おい小娘、まさか魔法で全部解決しようなんて甘い考えじゃねえだろうな?」
 人だかりを割って前に出たのは、岩のようにがっしりとした体型の男だった。
 身長は、ランスローネの胸元ほどしかない。しかし、その肩幅は彼女の倍はあり、地面まで届きそうな立派な髭を幾つもの革紐で束ねている。
「この『ヴェリアの心臓』を仕切る鍛冶親方のシュミットだ。亜人種族ドワーフだが、シャルマーニ殿下の信任を得ている──頑固一徹だから怒らせるなよ」
 ロランドがランスローネに小声で耳打ちする。
 無骨な指で髭をしごきながら、シュミットは地響きのような声で鼻を鳴らす。
「道を作るってのはな、魔法で岩をちょいと動かせば済む話じゃねえ。馬車を通すには地盤を固め、勾配を均し、排水も考えなきゃならねえ。それをたった三日でなんて、寝言は寝て言え!」
「ひいぃっ!」
 ズシリと腹に響く迫力ある声に、エーリカは怯えて身を縮こませる。
(ええ声してんなあ……鍛冶親方より合唱団で歌手やってた方が儲かるで)
 だがランスローネは怯えない。
​「せやから、律儀に『道』を作るのはやめるんや!」
 ランスローネの宣言に、その場が静まり返る。
「作るのは、道やない。この絶壁を垂直に繋ぐ『大昇降装置』や!」
​「……大昇降装置だぁ?」
 シュミットが眉根を寄せる。
「馬車を、丸ごと吊り上げるんや。岩山の頂上に巨大な滑車を設置して、そこから一気にこの谷底まで荷箱を降ろす。道を作って長々と走るより、垂直に上げ下げした方が何倍も速い。これこそ、最短で最強の『物流』やと思わへん?
 材料は、丸太とロープ、後は、補強の鉄の金具や!
 だから、みんなで作るのを手伝ってほしいんや!」
 ランスローネの言葉に、場がざわめく。
 だが、すぐにシュミットの否定的な声が上がった。
「馬鹿を言え! 丸太とロープで、鉄を満載した馬車を吊るしてみろ、重みで即座に粉っ端微塵だ!」
「そこを、うちの設計とエーリカの魔法で補強するんや!」
 ランスローネがエーリカの背中を叩くと、エーリカは「ひゃぅっ」と情けない声を出しながらも、瓶底眼鏡の奥の瞳を輝かせた。
​ しかし、シュミットをはじめとする鉱夫たちはまだ疑わしげだ。
 現場を知らぬ小娘が何を言っているという偏見に凝り固まっているのだ。
 その重苦しい沈黙を切り裂いたのは、一歩前に出たロランドの、厳かな鎧の音だった。
​「……ヴェリアの鉄打ちたちよ、聞け。拙者はシャルマーニ殿下の騎士、ロランドだ。シャルマーニ殿下は、貴公らの血の滲むような労働を誰よりも案じておられる。
 だからこそ、拙者と、このランスローネとエーリカをここに遣わしたのだ!
 この計画は、ただの夢物語ではない。我らの未来を、この深い谷底から引き上げるための大動脈だ。諸君、どうか力を貸してほしい。今夜一晩、我らと共に、この『ヴェリアの心臓』を動かすための腕たる昇降機の製作を手伝ってくれまいか!」
 ロランドは一同を射抜くような鋭い眼差しで、だが深く、静かに頭を下げた。
​ 騎士が、自分たちのような現場の男に頭を下げている。
 その事実に、鉱夫たちの顔つきが変わった。
 しばしの沈黙。
 やがて、シュミットが鼻を鳴らし、巨大な金槌を肩に担ぎ直した。
「……へっ、ロランドの小僧よ。俺らドワーフよりも堅物なお前さんにそこまで言われちゃあ、無下にもできねえな。おい野郎ども、聞いたか! 今夜は寝る間もねえぞ! 丸太を切り出せ、炉を最大まで焚き付けろ! 大昇降装置、作ってやろうじゃねえか!」
​「うぉおおお!」
 地響きのような喚声が上がり、静まり返っていた谷底が熱気に包まれた。
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