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第三章:アイゼン・ガルドの平穏な日々
ハーフエルフ、亡き母を語る
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領主館本館の大広間。
昨日催された宴会の場だが、普段はシャルマーニやその部下たちの食事処、有事の会議の場として使われている。
大広間に置かれた長いテーブルで、ランスローネとロランドとエーリカ、そしてシュミットが朝食を取っていた。
膨れっ面のランスローネはパンを、その向かいに座る、手形で両頬を腫れさせながら仏頂面をしたロランドはスープを、ランスローネの隣に座り、瓶底眼鏡で表情を隠したエーリカは果物を、黙々と口に運ぶ。
「おうおう、昨夜はあんなに熱々だったのに、今朝は寒々じゃねえか、ガッハッハ!」
ロランドの隣に座るシュミットは、朝っぱらから麦酒を煽りながら、気まずい雰囲気を笑い飛ばす。
「ブッ……!」
ロランドは口に含んだスープを危うくランスローネに向けて噴きそうになり、手で口元を覆う。
エーリカは瓶底眼鏡の奥からジト目をロランドに向ける。
「うう、うるさいわクソ親父! さっさと岩山に戻って鉄掘らんかい! 朝から酒臭くて胸焼けするわ!」
ランスローネは長く尖った耳の先まで美貌を真っ赤にして怒鳴るが、豪放磊落なドワーフの親方は「照れるな照れるな、ガハハハ!」と笑って動じない。
「採掘場は弟子たちに任せて大丈夫だ。それより工兵長、俺はお前の手伝いをしてやるのが面白そうだと思ってな」
「うちの?」
「大昇降装置──あんなもんを作るって発想する野郎が、今度は何をやってくれるのか見てみたくなったんだ。さしずめ次は、このアイゼン・ガルドの街を鉄の要塞に作り変えるってとこか?」
「鉄の要塞なー、あんま現実的やないなそれ。鉄は雨風に晒されたら錆びてくるからな。丸太切り出して作った型枠に土やら粘土やらを突き詰めて作った方が雨風にも強いと思うで」
「何だそりゃ? 煉瓦とは違うのか?」
「煉瓦は、土の精霊が暴れて地震起こしたら、崩れてまうからな」
「へー、そうなのか?」
シュミットは初めて聞いたとばかりに目を丸くして、麦酒を呷る。
「凄いですね、ローネさん。よくそんな工法を思いつきますね」
エーリカは瓶底眼鏡越しに憧憬の眼差しをランスローネに向けた。
「これは、うちが考えたんやのうて、母さんが教えてくれんや。うちの母さんは、大陸の東にある、この世界の日の出るところ──はるか東の『イェン』って国まで行ったんや。あそこは、土を固めて山を造るような連中がおるらしい。その知恵を、うちは受け継いでるんや。うちは母さんに、学問とか生きていく術を教えてもらってん」
「……ランスローネ、もしや世界の果てを見ようと旅に出た変わり者のエルフとは、其方の母君なのか?」
話を聞いていたロランドが入ってくる。
「そうやで」
ランスローネは邪険にしたりせず、微笑んで答えた。
「うちの母さん、名はペレグリーネっていうねんけどな。『ええか、ランスローネ。この世界はな、どこまでも続く平らな板やない。大きな、大きな珠なんやで』って、うちとおんなじ色した目を輝かせて語ってくれた。残念ながら死んでまいはったけど、うちはまだ生きてるさかい。いつの日か何処かで、かつて世界が丸いことを証明しようとした聖なる旅人ペレグリーネって聞けたらええなって思ってるわ」
昨日催された宴会の場だが、普段はシャルマーニやその部下たちの食事処、有事の会議の場として使われている。
大広間に置かれた長いテーブルで、ランスローネとロランドとエーリカ、そしてシュミットが朝食を取っていた。
膨れっ面のランスローネはパンを、その向かいに座る、手形で両頬を腫れさせながら仏頂面をしたロランドはスープを、ランスローネの隣に座り、瓶底眼鏡で表情を隠したエーリカは果物を、黙々と口に運ぶ。
「おうおう、昨夜はあんなに熱々だったのに、今朝は寒々じゃねえか、ガッハッハ!」
ロランドの隣に座るシュミットは、朝っぱらから麦酒を煽りながら、気まずい雰囲気を笑い飛ばす。
「ブッ……!」
ロランドは口に含んだスープを危うくランスローネに向けて噴きそうになり、手で口元を覆う。
エーリカは瓶底眼鏡の奥からジト目をロランドに向ける。
「うう、うるさいわクソ親父! さっさと岩山に戻って鉄掘らんかい! 朝から酒臭くて胸焼けするわ!」
ランスローネは長く尖った耳の先まで美貌を真っ赤にして怒鳴るが、豪放磊落なドワーフの親方は「照れるな照れるな、ガハハハ!」と笑って動じない。
「採掘場は弟子たちに任せて大丈夫だ。それより工兵長、俺はお前の手伝いをしてやるのが面白そうだと思ってな」
「うちの?」
「大昇降装置──あんなもんを作るって発想する野郎が、今度は何をやってくれるのか見てみたくなったんだ。さしずめ次は、このアイゼン・ガルドの街を鉄の要塞に作り変えるってとこか?」
「鉄の要塞なー、あんま現実的やないなそれ。鉄は雨風に晒されたら錆びてくるからな。丸太切り出して作った型枠に土やら粘土やらを突き詰めて作った方が雨風にも強いと思うで」
「何だそりゃ? 煉瓦とは違うのか?」
「煉瓦は、土の精霊が暴れて地震起こしたら、崩れてまうからな」
「へー、そうなのか?」
シュミットは初めて聞いたとばかりに目を丸くして、麦酒を呷る。
「凄いですね、ローネさん。よくそんな工法を思いつきますね」
エーリカは瓶底眼鏡越しに憧憬の眼差しをランスローネに向けた。
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「……ランスローネ、もしや世界の果てを見ようと旅に出た変わり者のエルフとは、其方の母君なのか?」
話を聞いていたロランドが入ってくる。
「そうやで」
ランスローネは邪険にしたりせず、微笑んで答えた。
「うちの母さん、名はペレグリーネっていうねんけどな。『ええか、ランスローネ。この世界はな、どこまでも続く平らな板やない。大きな、大きな珠なんやで』って、うちとおんなじ色した目を輝かせて語ってくれた。残念ながら死んでまいはったけど、うちはまだ生きてるさかい。いつの日か何処かで、かつて世界が丸いことを証明しようとした聖なる旅人ペレグリーネって聞けたらええなって思ってるわ」
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