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第三章 死神と冷徹なる貴公子
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グラハムの剛弓から放たれた太矢は、ルスラーナを討ち取るには至らなかったが、その一瞬の隙は、死神の鎌から獲物を逃がすには十分だった。
「お、親父ぃ! 助かったぁ……!」
グルテンは情けない声を上げながら、這々の体で後方へと逃げ出した。
「チッ、逃したか……!」
ルスラーナが舌打ちをした直後、ヒュンヒュンと風を切る音が周囲を満たした。
エルバニア軍が誇る両翼の長弓兵部隊が、一斉射撃を開始したのだ。
ランスローネの召喚した風の精霊ドゥーフ・ヴェトラの加護は、氷の橋の上空のみであった。
グラハムがルスラーナに射掛けた太矢が、それを気づかせたのだ。
天を黒く染める矢の雨が、突出したルスラーナたち重騎兵部隊へと降り注ぐ。
「ぐあっ!」
「馬が、馬がやられた!」
いかに重装甲を誇るグレイヴェリアの精鋭といえど、これだけの密度で矢を浴びせられれば無傷では済まない。
特に、甲冑の装甲の薄い関節部や、馬の脚を射抜かれた騎士たちが次々と転倒していく。
さらに、グラハムの指図でエルバニア軍の陣形変化が完了した。
凹陣形の両翼──右翼将軍デュラムと、左翼将軍セモリナが率いる重装歩兵部隊が、まるで巨大な万力のように左右から迫り、ルスラーナたちを包囲圧殺しようと動き出している。
(この状況、かなりヤバいわ!)
ルスラーナは兜の中で歯噛みする。
重騎兵の真価は、その質量と速度による『点』での突破力にあるのだ。
だが、足を止められ、三方向から包囲されて乱戦になれば、小回りの利かない重騎兵はただの鉄の的でしかない。
軍議で眠気に襲われ話を聞いていなかったり、叔父の公爵を煽って愚弄する向こう見ずなルスラーナだが、こと戦闘に関しては機を見るに敏だ。
(勢いは削がれたわ。これ以上の深入りは全滅を招く!)
瞬時に戦況を判断したルスラーナは、斧槍を旋回させて飛来する矢を払い落としながら叫んだ。
「全騎、反転! 一度下がるぞ!
これより再集結し、態勢を立て直す!」
橋頭堡の確保は困難。
ならば一度退き、再度突撃の機を窺うのが兵法の定石。
ルスラーナは手綱を引いて青毛の馬を翻し、渡ってきた氷の橋へと向かおうとした。
──だが。
「……はあ?」
その光景を見たルスラーナは、あまりの事態に思考を停止させた。
退路であるはずの氷の橋が、味方の軍勢で埋め尽くされていたのだ。
「進めぇ! 進まんかぁぁぁ!
グレイヴェリアの栄光は、このゴーマン・オブ・グレイヴェリアのものぞぉぉぉ!」
鼻水を垂らし、顔を真っ赤にしたゴーマン公爵が、装飾過多な剣を振り回して絶叫していた。
その後ろには、右翼のヴォルグ伯爵率いる歩兵隊、左翼のゼノ男爵率いる歩兵隊、さらにはアイザック卿とロザリア女伯爵が指揮する両翼端の軽騎兵隊までもが、我先にと氷の橋へ殺到しているではないか。
(あのゴーマメ! 全軍で渡ってきた──兄上の指図!?)
賢明な兄皇子が功を焦ったのか、事態は最悪だった。
狭い氷の橋の上で、進もうとする後続部隊と、退こうとするルスラーナ率いる先陣部隊が鉢合わせになれば、身動きが取れなくなる。
そこへエルバニアの矢の雨が降り注げば、まさに地獄絵図だ。
「どけ! どかんかルスラーナ!
儂が先陣大将だあ!
下賤の者の腹から生まれた貴様ごときに、手柄を独り占めされてたまるかぁぁっ!」
ゴーマン公爵は、勝利は目前だと錯覚していた。
ルスラーナが敵陣を食い破ったのを見て、「このままでは一番美味しいところを憎きルスラーナに持っていかれる」という焦燥と嫉妬に駆られ、総指揮官ヴァレンティン皇子を差し置いて全部隊に突撃を命じたのだ。
そして、ヴォルグ伯爵やゼノ男爵といった他の指揮官たちも、「公爵閣下が全軍突撃を命じられたぞ!」「遅れるな、功績を挙げろ!」と、その場の空気に流されてしまったのである。
「うちらは総大将の本陣まで後退すんで。
仕事は十分に果たしたさかいにな」
ランスローネ率いる工兵隊は同行せず、後退を続けた。
敵前で重騎兵隊の渡河支援という危険な任務を完了させた以上は、生き残って恩賞を受け取る権利を持ち帰るだけだと判断したからだ。
(退路は塞がれた……だったら!)
ルスラーナの決断は速かった。
退く場所がないのなら、進むしかない。
だが、正面の敵本陣は防備が厚く、このまま立ち止まれば包囲される。
ならば──
「後ろのドゥラークどもは放っておけ!
我らはこのまま右へ旋回し、敵の右翼側面を食い破るぞ!」
ルスラーナは率先して敵右翼部隊へと馬首を向けて駆けた。
「は、はいッ! 全騎、ルスラーナ殿下に続けぇ!」
デュランダールが復唱し、重騎兵部隊が動き出す。
側面を突かれる形となったエルバニア右翼の重装歩兵たちを、ルスラーナは斧槍で薙ぎ倒しながら驀進する。
ゴーマン公爵に扇動されたグレイヴェリア兵たちが橋を渡り、泥沼の乱戦と化した。
ルスラーナたちはそれを避け、戦場を右へ右へと食い破りながら移動し続ける。
一方、川の対岸。グレイヴェリア軍本陣。
総大将ヴァレンティン皇子は、目の前で起きている信じがたい光景に、いつもの柔和な笑みを消していた。
「……おい、参謀長。
私は、総攻撃の命令を出した覚えはないのだが?」
「は、はい、もちろんでございます殿下!」
ヴァレンティン皇子の幕僚筆頭を務める老騎士ヴァイト・クルーガーが苦虫を噛み潰したように顔の皺を濃くする。
「あれは……その、ゴーマン公爵閣下が独断で……」
幕僚の一人でヴァイトの補佐をする女騎士アリシア・アイゼンが、青ざめた顔で報告する。
ゴーマン公爵が「ルスラーナに手柄を独占させるな」と喚き立て、それに煽られた各部隊長たちが、命令違反も顧みずになだれ込んだのだと。
「……ドゥラークどもめ」
ヴァレンティンは静かに吐き捨てた。
ルスラーナが頻繁に口にする、古語で『馬鹿』を意味するこの言葉は、実は兄であるヴァレンティンの口癖が移ったものであった。
計算された陣形は乱れ崩壊し、全軍が狭い渡河点に密集するという、戦術的に最も危険な状態に陥っている。
(今すぐ退却の銅鑼を鳴らすか?
いや、今それをすれば、橋の上で恐慌状態が起きる。そうなれば、敵の思う壺だ。
だが、逆に見れば、グレイヴェリア軍の主戦力が敵陣になだれ込んでいるのも事実。
このまま勢いに任せて、数で押し切れば、あるいは──)
ヴァレンティンが、撤退か、それともこのまま全面攻勢による強行突破か、決断を逡巡していた、その時だった。
「ご、報告しますッ!!」
一人の伝令兵が、転がるように本陣へ駆け込んできた。
その背中には矢が突き刺さり、全身が血まみれである。
「後方の野営地より急報!
て、敵襲! 敵襲ですッ!!」
「なんだと!?」
幕僚たちが色めき立つ。
「敵騎兵、およそ一千五百!
我が軍の後方より出現し、現在、野営地の輜重部隊を蹂躙中!
味方は総崩れです!
敵は……敵はこちらへ向かってきますッ!」
「馬鹿な、どこから湧いた!? 索敵は完璧だったはずだ!」
ヴァレンティンは思わず叫びつつ、即座に理解した。
(エルバニアの将、グラハム・レノックス。
奴め、最初から、この局面を狙っていたのだな!
我らグレイヴェリア軍が川を渡り、前掛かりになった瞬間を。
そして、本陣の手薄な背後を突く機会を。
おそらくは、森か谷に伏せていた別働隊を、大きく迂回させて送り込んだのだろう。
私の、負けか──)
ヴァレンティンの手元に残っているのは、直属の重騎兵一千と歩兵二千のみ。
しかも、その目は前方の戦況に釘付けで、背後は完全に無防備だ。
野営地の方角から、黒い煙が上がり始める。
輜重兵たちの悲鳴と、新たな敵の蹄の音が、風に乗って聞こえてきた。
前門には堅牢なるエルバニア本隊。後門には奇襲の騎兵部隊。
そして主力部隊は、命令違反の暴走により、川の向こうで泥沼に嵌まり込んでいる。
グレイヴェリア帝国軍は今、絶体絶命の危機に瀕していた。
「──ルスラーナ殿下、あれを!」
泥沼の乱戦の中、斧槍を振るっていたルスラーナは、騎士デュランダールが指差す方角を見やり、兜の下で目を見開いた。
川の向こう、グレイヴェリア軍本陣の後方から、どす黒い煙が上がっている。
(兄上──!?)
兄の危機か。
常に冷静沈着な兄が、後れを取ったというのか。
動揺が、ルスラーナの意識に一瞬の空白を生んだ。
死地において、その隙は致命的だった。
「──グッ!?」
死角から飛びかかってきたエルバニアの歩兵に組み付かれ、ルスラーナは馬上から引き摺り下ろされた。
受け身を取って泥の中に着地するが、視界が泥水で遮られる。
「今じゃあ!」
「重騎兵は甲冑が重くて一人じゃ起き上がれない筈じゃあ!」
「「「「おおおおおッ」」」」
勝機と見たエルバニア兵たちが十数人、群がり寄り、倒れたルスラーナの上に折り重なるようにして伸し掛かる。
剣で隙間を刺そうとする者、手足を押さえつける者。
通常ならば、これで終わりだ。
だが──彼らが相手にしていたのは、常識の範疇にいる騎士ではない。
「──舐めん、なぁぁぁぁッ!!」
ドォォォォォンッ!
次の瞬間、中心で爆発が起きたかのように、群がっていた兵士たちが四方八方へと吹き飛ばされた。
甲冑の重量などものともしない、爆発的な膂力による力任せの跳ね除けだ。
泥飛沫と共に立ち上がった漆黒の騎士は、鬼神の如きオーラを噴き上げている。
「デトゥーフ! 来いッ!」
ルスラーナが呼ぶと、主を案じて近くで暴れていた愛馬──青毛の『デトゥーフ』が嘶きながら駆け寄る。
彼女は鎧の重さを感じさせない軽快な動作で飛び乗った。
「ルスラーナ殿下、ご無事で!」
デュランダールがエルバニア兵を切り散らしながら、駆け寄ってくる。
「問題ないわ! それより──」
ルスラーナの視線は、再び川向こうの本陣へ向く。
今すぐ取って返し、兄の元へ駆けつけたい。
だが、退路である橋は未だゴーマン公爵たちの軍勢で埋まり、機能不全に陥っている。
(今戻ろうとすれば、混乱に拍車をかけるだけ……)
それに何より、ルスラーナは思い出したのだ。
兄ヴァレンティンが、常に側近として抱えている『彼ら』の存在を。
(兄上の身は、いちおう私の部下たち──あの無口で不気味な連中──選りすぐりの親衛隊騎士が守っている。
あいつらが、そう簡単に兄上の死を許すはずがない)
ならば、妹である自分がなすべきことは、おめおめと戻ることではない。
兄と部下たちを信じて、目の前の敵を食い破ることのみ。
「このまま敵右翼を蹂躙するわよ!」
「はッ、承知!」
迷いを捨てたルスラーナの斧槍が唸りを上げる。
彼女は重騎兵隊を率いて、エルバニア軍右翼の中枢へと喰らいついた。
「この陣の主将はお前か!」
乱戦の中、ひときわ豪華な甲冑を纏い、周囲に指示を飛ばしている巨漢の将を見つけた。
先ほど逃したグルテンによく似た容姿の屈強な戦士──エルバニア軍右翼将軍、グラハムの次男デュラムだ。
「チョルニボフの黒姫か! 部下たちの仇、討たせてもらう!」
デュラムは剛剣を構えて迎え撃つが、力量差は歴然としていた。
「遅いわッ!」
交差した一瞬。
ルスラーナの斧槍がデュラムの剣ごと首を刎ね飛ばす。
宙を舞う将軍の首。
それを見た側近の若き戦士たちが、絶叫した。
「親父殿ぉ!」
「おじい様、お父様がぁ!」
デュラムの息子や娘、孫たちが、涙を流しながら死兵となってルスラーナに挑みかかる。
だが、戦場において慈悲は死と同義だ。
「邪魔よッ!」
ルスラーナは表情一つ変えず、襲い来る『家族の絆』を、ただの『敵兵』として悉く屠り去った。
若い命が、次々と泥に沈んでいく。
「し、死神じゃあ!」
「本物のチョルニボフじゃあ! 関わったら一族根絶やしにされるぞぉ!」
指揮官であるデュラムのみならず、その一族までもが瞬く間に全滅した光景を目の当たりにし、エルバニア軍右翼の兵たちの心は完全に折れた。
彼らは武器を捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ崩れる。
ほっと息をつく間もなく、ヒュンッという風切り音がルスラーナの耳を打つ。
彼女は反射的に斧槍を振り上げ、飛来した太矢を空中で叩き落とした。
痺れる腕を振るい、エルバニア軍本陣を睨みつける。
「くっそ、ムカつくわね! またあのハゲか!」
そのハゲ──本陣の丘に立つグラハム・レノックスは、次男デュラムとその子供たちの戦死の報告を聞き、番えていた二の矢を静かに下ろした。
その顔には、深い悲哀が刻まれている。
「デュラムよ、孫たちよ……。
お前たちは、死ぬならば戦場でと常々云っていたが……儂より先に死ぬとは、なんと親不孝者たちが……!」
グラハムは天を仰ぎ、短く目を瞑った。
だが、次に目を開いた時、そこには私情を排した冷徹な将軍の瞳があった。
右翼は崩壊。左翼も支えきれない。
頼みの綱であった別働隊の奇襲も、どうやら失敗したようだ。向こう岸の煙が消えつつある。
(引き際じゃな)
これ以上の戦闘継続は、一族の全滅を意味する。
次善策は、既に施してある。
主君エルバニア国王には、万一自分が敗れた場合に備えて、兵二十万の動員をしておき、直ぐに巻き返せる様と上奏してあるのだ。
グレイヴェリア軍が調子に乗って追撃侵攻して来ても、一兵たりとも生かしては返さない。
「全軍、退却!
殿は儂が務める! 生き残った者は走れ!」
グラハムの号令により、エルバニア軍は撤退を開始した。
ルスラーナは斧槍を大地に突き立て、馬上で兜を脱いで銀髪を風に靡かせながら息をつく。
「追いますか、ルスラーナ殿下?」
全身返り血塗れのデュランダールが馬を寄せてくる。
何かと苦言小言諫言してくる小煩い男だが、いざ戦場では頼りになる戦友だ。
「どうせ、あのハゲがただで退却する筈ないわ──手痛いしっぺ返し食らうのは、ゴーマメやドゥラークどもでいいわ」
ルスラーナは鼻で笑うとマントの下から疲労回復効果のある水薬の小瓶を出して口を付ける。
一方、奇襲を受けたグレイヴェリア軍本陣。
そこには、異様な光景が広がっていた。
後背から襲いかかったエルバニア騎兵一千五百。
彼らは、本陣を守るわずか三百の重騎兵──ヴァレンティン直属親衛隊によって、一方的に虐殺されていたのだ。
親衛隊の騎士たちは、一言も発しない。
黒鉄の面頬付き兜で顔を隠し、まるで機械のように正確無比な剣技で、数に勝る敵を次々と斬り伏せていく。
「な、なんだこいつらは……化け物か!?」
「斬っても倒れないぞ!」
エルバニア兵の悲鳴が響く。
親衛隊の一人が槍で貫かれても、痛みを感じていないかのように前進し、槍を突き出した敵兵の首を剣で飛ばす。
それは戦闘というより、作業に近かった。
やがて、一千五百の敵兵は死屍累々と化し、動く者は一人もいなくなった。
「……ご苦労」
血の海の中、返り血ひとつ浴びていないヴァレンティン皇子が、静かに言葉をかける。
三百の親衛隊は、無言のまま主君に向かって一斉に跪いた。
その光景は、神々しくもあり、同時に底知れぬ不気味さを漂わせていた。
こうして、二つの戦場での勝利をもって、アルバの野の会戦はグレイヴェリア帝国軍の勝利に終わった。
残されたのは、無数の死体と、風邪と興奮で倒れ伏したゴーマン公爵のいびきだけであった。
「お、親父ぃ! 助かったぁ……!」
グルテンは情けない声を上げながら、這々の体で後方へと逃げ出した。
「チッ、逃したか……!」
ルスラーナが舌打ちをした直後、ヒュンヒュンと風を切る音が周囲を満たした。
エルバニア軍が誇る両翼の長弓兵部隊が、一斉射撃を開始したのだ。
ランスローネの召喚した風の精霊ドゥーフ・ヴェトラの加護は、氷の橋の上空のみであった。
グラハムがルスラーナに射掛けた太矢が、それを気づかせたのだ。
天を黒く染める矢の雨が、突出したルスラーナたち重騎兵部隊へと降り注ぐ。
「ぐあっ!」
「馬が、馬がやられた!」
いかに重装甲を誇るグレイヴェリアの精鋭といえど、これだけの密度で矢を浴びせられれば無傷では済まない。
特に、甲冑の装甲の薄い関節部や、馬の脚を射抜かれた騎士たちが次々と転倒していく。
さらに、グラハムの指図でエルバニア軍の陣形変化が完了した。
凹陣形の両翼──右翼将軍デュラムと、左翼将軍セモリナが率いる重装歩兵部隊が、まるで巨大な万力のように左右から迫り、ルスラーナたちを包囲圧殺しようと動き出している。
(この状況、かなりヤバいわ!)
ルスラーナは兜の中で歯噛みする。
重騎兵の真価は、その質量と速度による『点』での突破力にあるのだ。
だが、足を止められ、三方向から包囲されて乱戦になれば、小回りの利かない重騎兵はただの鉄の的でしかない。
軍議で眠気に襲われ話を聞いていなかったり、叔父の公爵を煽って愚弄する向こう見ずなルスラーナだが、こと戦闘に関しては機を見るに敏だ。
(勢いは削がれたわ。これ以上の深入りは全滅を招く!)
瞬時に戦況を判断したルスラーナは、斧槍を旋回させて飛来する矢を払い落としながら叫んだ。
「全騎、反転! 一度下がるぞ!
これより再集結し、態勢を立て直す!」
橋頭堡の確保は困難。
ならば一度退き、再度突撃の機を窺うのが兵法の定石。
ルスラーナは手綱を引いて青毛の馬を翻し、渡ってきた氷の橋へと向かおうとした。
──だが。
「……はあ?」
その光景を見たルスラーナは、あまりの事態に思考を停止させた。
退路であるはずの氷の橋が、味方の軍勢で埋め尽くされていたのだ。
「進めぇ! 進まんかぁぁぁ!
グレイヴェリアの栄光は、このゴーマン・オブ・グレイヴェリアのものぞぉぉぉ!」
鼻水を垂らし、顔を真っ赤にしたゴーマン公爵が、装飾過多な剣を振り回して絶叫していた。
その後ろには、右翼のヴォルグ伯爵率いる歩兵隊、左翼のゼノ男爵率いる歩兵隊、さらにはアイザック卿とロザリア女伯爵が指揮する両翼端の軽騎兵隊までもが、我先にと氷の橋へ殺到しているではないか。
(あのゴーマメ! 全軍で渡ってきた──兄上の指図!?)
賢明な兄皇子が功を焦ったのか、事態は最悪だった。
狭い氷の橋の上で、進もうとする後続部隊と、退こうとするルスラーナ率いる先陣部隊が鉢合わせになれば、身動きが取れなくなる。
そこへエルバニアの矢の雨が降り注げば、まさに地獄絵図だ。
「どけ! どかんかルスラーナ!
儂が先陣大将だあ!
下賤の者の腹から生まれた貴様ごときに、手柄を独り占めされてたまるかぁぁっ!」
ゴーマン公爵は、勝利は目前だと錯覚していた。
ルスラーナが敵陣を食い破ったのを見て、「このままでは一番美味しいところを憎きルスラーナに持っていかれる」という焦燥と嫉妬に駆られ、総指揮官ヴァレンティン皇子を差し置いて全部隊に突撃を命じたのだ。
そして、ヴォルグ伯爵やゼノ男爵といった他の指揮官たちも、「公爵閣下が全軍突撃を命じられたぞ!」「遅れるな、功績を挙げろ!」と、その場の空気に流されてしまったのである。
「うちらは総大将の本陣まで後退すんで。
仕事は十分に果たしたさかいにな」
ランスローネ率いる工兵隊は同行せず、後退を続けた。
敵前で重騎兵隊の渡河支援という危険な任務を完了させた以上は、生き残って恩賞を受け取る権利を持ち帰るだけだと判断したからだ。
(退路は塞がれた……だったら!)
ルスラーナの決断は速かった。
退く場所がないのなら、進むしかない。
だが、正面の敵本陣は防備が厚く、このまま立ち止まれば包囲される。
ならば──
「後ろのドゥラークどもは放っておけ!
我らはこのまま右へ旋回し、敵の右翼側面を食い破るぞ!」
ルスラーナは率先して敵右翼部隊へと馬首を向けて駆けた。
「は、はいッ! 全騎、ルスラーナ殿下に続けぇ!」
デュランダールが復唱し、重騎兵部隊が動き出す。
側面を突かれる形となったエルバニア右翼の重装歩兵たちを、ルスラーナは斧槍で薙ぎ倒しながら驀進する。
ゴーマン公爵に扇動されたグレイヴェリア兵たちが橋を渡り、泥沼の乱戦と化した。
ルスラーナたちはそれを避け、戦場を右へ右へと食い破りながら移動し続ける。
一方、川の対岸。グレイヴェリア軍本陣。
総大将ヴァレンティン皇子は、目の前で起きている信じがたい光景に、いつもの柔和な笑みを消していた。
「……おい、参謀長。
私は、総攻撃の命令を出した覚えはないのだが?」
「は、はい、もちろんでございます殿下!」
ヴァレンティン皇子の幕僚筆頭を務める老騎士ヴァイト・クルーガーが苦虫を噛み潰したように顔の皺を濃くする。
「あれは……その、ゴーマン公爵閣下が独断で……」
幕僚の一人でヴァイトの補佐をする女騎士アリシア・アイゼンが、青ざめた顔で報告する。
ゴーマン公爵が「ルスラーナに手柄を独占させるな」と喚き立て、それに煽られた各部隊長たちが、命令違反も顧みずになだれ込んだのだと。
「……ドゥラークどもめ」
ヴァレンティンは静かに吐き捨てた。
ルスラーナが頻繁に口にする、古語で『馬鹿』を意味するこの言葉は、実は兄であるヴァレンティンの口癖が移ったものであった。
計算された陣形は乱れ崩壊し、全軍が狭い渡河点に密集するという、戦術的に最も危険な状態に陥っている。
(今すぐ退却の銅鑼を鳴らすか?
いや、今それをすれば、橋の上で恐慌状態が起きる。そうなれば、敵の思う壺だ。
だが、逆に見れば、グレイヴェリア軍の主戦力が敵陣になだれ込んでいるのも事実。
このまま勢いに任せて、数で押し切れば、あるいは──)
ヴァレンティンが、撤退か、それともこのまま全面攻勢による強行突破か、決断を逡巡していた、その時だった。
「ご、報告しますッ!!」
一人の伝令兵が、転がるように本陣へ駆け込んできた。
その背中には矢が突き刺さり、全身が血まみれである。
「後方の野営地より急報!
て、敵襲! 敵襲ですッ!!」
「なんだと!?」
幕僚たちが色めき立つ。
「敵騎兵、およそ一千五百!
我が軍の後方より出現し、現在、野営地の輜重部隊を蹂躙中!
味方は総崩れです!
敵は……敵はこちらへ向かってきますッ!」
「馬鹿な、どこから湧いた!? 索敵は完璧だったはずだ!」
ヴァレンティンは思わず叫びつつ、即座に理解した。
(エルバニアの将、グラハム・レノックス。
奴め、最初から、この局面を狙っていたのだな!
我らグレイヴェリア軍が川を渡り、前掛かりになった瞬間を。
そして、本陣の手薄な背後を突く機会を。
おそらくは、森か谷に伏せていた別働隊を、大きく迂回させて送り込んだのだろう。
私の、負けか──)
ヴァレンティンの手元に残っているのは、直属の重騎兵一千と歩兵二千のみ。
しかも、その目は前方の戦況に釘付けで、背後は完全に無防備だ。
野営地の方角から、黒い煙が上がり始める。
輜重兵たちの悲鳴と、新たな敵の蹄の音が、風に乗って聞こえてきた。
前門には堅牢なるエルバニア本隊。後門には奇襲の騎兵部隊。
そして主力部隊は、命令違反の暴走により、川の向こうで泥沼に嵌まり込んでいる。
グレイヴェリア帝国軍は今、絶体絶命の危機に瀕していた。
「──ルスラーナ殿下、あれを!」
泥沼の乱戦の中、斧槍を振るっていたルスラーナは、騎士デュランダールが指差す方角を見やり、兜の下で目を見開いた。
川の向こう、グレイヴェリア軍本陣の後方から、どす黒い煙が上がっている。
(兄上──!?)
兄の危機か。
常に冷静沈着な兄が、後れを取ったというのか。
動揺が、ルスラーナの意識に一瞬の空白を生んだ。
死地において、その隙は致命的だった。
「──グッ!?」
死角から飛びかかってきたエルバニアの歩兵に組み付かれ、ルスラーナは馬上から引き摺り下ろされた。
受け身を取って泥の中に着地するが、視界が泥水で遮られる。
「今じゃあ!」
「重騎兵は甲冑が重くて一人じゃ起き上がれない筈じゃあ!」
「「「「おおおおおッ」」」」
勝機と見たエルバニア兵たちが十数人、群がり寄り、倒れたルスラーナの上に折り重なるようにして伸し掛かる。
剣で隙間を刺そうとする者、手足を押さえつける者。
通常ならば、これで終わりだ。
だが──彼らが相手にしていたのは、常識の範疇にいる騎士ではない。
「──舐めん、なぁぁぁぁッ!!」
ドォォォォォンッ!
次の瞬間、中心で爆発が起きたかのように、群がっていた兵士たちが四方八方へと吹き飛ばされた。
甲冑の重量などものともしない、爆発的な膂力による力任せの跳ね除けだ。
泥飛沫と共に立ち上がった漆黒の騎士は、鬼神の如きオーラを噴き上げている。
「デトゥーフ! 来いッ!」
ルスラーナが呼ぶと、主を案じて近くで暴れていた愛馬──青毛の『デトゥーフ』が嘶きながら駆け寄る。
彼女は鎧の重さを感じさせない軽快な動作で飛び乗った。
「ルスラーナ殿下、ご無事で!」
デュランダールがエルバニア兵を切り散らしながら、駆け寄ってくる。
「問題ないわ! それより──」
ルスラーナの視線は、再び川向こうの本陣へ向く。
今すぐ取って返し、兄の元へ駆けつけたい。
だが、退路である橋は未だゴーマン公爵たちの軍勢で埋まり、機能不全に陥っている。
(今戻ろうとすれば、混乱に拍車をかけるだけ……)
それに何より、ルスラーナは思い出したのだ。
兄ヴァレンティンが、常に側近として抱えている『彼ら』の存在を。
(兄上の身は、いちおう私の部下たち──あの無口で不気味な連中──選りすぐりの親衛隊騎士が守っている。
あいつらが、そう簡単に兄上の死を許すはずがない)
ならば、妹である自分がなすべきことは、おめおめと戻ることではない。
兄と部下たちを信じて、目の前の敵を食い破ることのみ。
「このまま敵右翼を蹂躙するわよ!」
「はッ、承知!」
迷いを捨てたルスラーナの斧槍が唸りを上げる。
彼女は重騎兵隊を率いて、エルバニア軍右翼の中枢へと喰らいついた。
「この陣の主将はお前か!」
乱戦の中、ひときわ豪華な甲冑を纏い、周囲に指示を飛ばしている巨漢の将を見つけた。
先ほど逃したグルテンによく似た容姿の屈強な戦士──エルバニア軍右翼将軍、グラハムの次男デュラムだ。
「チョルニボフの黒姫か! 部下たちの仇、討たせてもらう!」
デュラムは剛剣を構えて迎え撃つが、力量差は歴然としていた。
「遅いわッ!」
交差した一瞬。
ルスラーナの斧槍がデュラムの剣ごと首を刎ね飛ばす。
宙を舞う将軍の首。
それを見た側近の若き戦士たちが、絶叫した。
「親父殿ぉ!」
「おじい様、お父様がぁ!」
デュラムの息子や娘、孫たちが、涙を流しながら死兵となってルスラーナに挑みかかる。
だが、戦場において慈悲は死と同義だ。
「邪魔よッ!」
ルスラーナは表情一つ変えず、襲い来る『家族の絆』を、ただの『敵兵』として悉く屠り去った。
若い命が、次々と泥に沈んでいく。
「し、死神じゃあ!」
「本物のチョルニボフじゃあ! 関わったら一族根絶やしにされるぞぉ!」
指揮官であるデュラムのみならず、その一族までもが瞬く間に全滅した光景を目の当たりにし、エルバニア軍右翼の兵たちの心は完全に折れた。
彼らは武器を捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ崩れる。
ほっと息をつく間もなく、ヒュンッという風切り音がルスラーナの耳を打つ。
彼女は反射的に斧槍を振り上げ、飛来した太矢を空中で叩き落とした。
痺れる腕を振るい、エルバニア軍本陣を睨みつける。
「くっそ、ムカつくわね! またあのハゲか!」
そのハゲ──本陣の丘に立つグラハム・レノックスは、次男デュラムとその子供たちの戦死の報告を聞き、番えていた二の矢を静かに下ろした。
その顔には、深い悲哀が刻まれている。
「デュラムよ、孫たちよ……。
お前たちは、死ぬならば戦場でと常々云っていたが……儂より先に死ぬとは、なんと親不孝者たちが……!」
グラハムは天を仰ぎ、短く目を瞑った。
だが、次に目を開いた時、そこには私情を排した冷徹な将軍の瞳があった。
右翼は崩壊。左翼も支えきれない。
頼みの綱であった別働隊の奇襲も、どうやら失敗したようだ。向こう岸の煙が消えつつある。
(引き際じゃな)
これ以上の戦闘継続は、一族の全滅を意味する。
次善策は、既に施してある。
主君エルバニア国王には、万一自分が敗れた場合に備えて、兵二十万の動員をしておき、直ぐに巻き返せる様と上奏してあるのだ。
グレイヴェリア軍が調子に乗って追撃侵攻して来ても、一兵たりとも生かしては返さない。
「全軍、退却!
殿は儂が務める! 生き残った者は走れ!」
グラハムの号令により、エルバニア軍は撤退を開始した。
ルスラーナは斧槍を大地に突き立て、馬上で兜を脱いで銀髪を風に靡かせながら息をつく。
「追いますか、ルスラーナ殿下?」
全身返り血塗れのデュランダールが馬を寄せてくる。
何かと苦言小言諫言してくる小煩い男だが、いざ戦場では頼りになる戦友だ。
「どうせ、あのハゲがただで退却する筈ないわ──手痛いしっぺ返し食らうのは、ゴーマメやドゥラークどもでいいわ」
ルスラーナは鼻で笑うとマントの下から疲労回復効果のある水薬の小瓶を出して口を付ける。
一方、奇襲を受けたグレイヴェリア軍本陣。
そこには、異様な光景が広がっていた。
後背から襲いかかったエルバニア騎兵一千五百。
彼らは、本陣を守るわずか三百の重騎兵──ヴァレンティン直属親衛隊によって、一方的に虐殺されていたのだ。
親衛隊の騎士たちは、一言も発しない。
黒鉄の面頬付き兜で顔を隠し、まるで機械のように正確無比な剣技で、数に勝る敵を次々と斬り伏せていく。
「な、なんだこいつらは……化け物か!?」
「斬っても倒れないぞ!」
エルバニア兵の悲鳴が響く。
親衛隊の一人が槍で貫かれても、痛みを感じていないかのように前進し、槍を突き出した敵兵の首を剣で飛ばす。
それは戦闘というより、作業に近かった。
やがて、一千五百の敵兵は死屍累々と化し、動く者は一人もいなくなった。
「……ご苦労」
血の海の中、返り血ひとつ浴びていないヴァレンティン皇子が、静かに言葉をかける。
三百の親衛隊は、無言のまま主君に向かって一斉に跪いた。
その光景は、神々しくもあり、同時に底知れぬ不気味さを漂わせていた。
こうして、二つの戦場での勝利をもって、アルバの野の会戦はグレイヴェリア帝国軍の勝利に終わった。
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