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第六章 湯煙の罠と、死神の裸身
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グレイヴェリア帝国の帝都シュタールグラードへと続く街道の途中。
険しい山々を越えた先に、その場所はあった。
湯治場『ユノハナ』。
地下深くの断層から湧き出る太古の熱水は、豊富なミネラルと鉄分を含み、空気に触れることで独特の赤褐色に染まることから『赤湯』とも呼ばれている。
立ち上る湯煙からは、微かに鉄錆のような香りが漂い、それが鉄と共に生きるグレイヴェリア帝国の将兵たちの心を不思議と落ち着かせるのだ。
戦場という地獄から帰還した彼らにとって、そこはまさに極楽浄土の入り口であった。
「わぁ……! 兄上、見て! 湯気よ、湯気! 温泉の匂いがするわ!」
ルスラーナは愛馬の上で身を乗り出し、目をキラキラと輝かせて、はしゃいだ声を響かせる。
先ほどまで「肉を返せ」と冒険者を虐殺していた死神とは思えないあどけなさだ。
戦場では骸骨面頬の兜に隠されているが、その素顔は銀の髪と褐色の肌が美しい、二十一歳のうら若き娘である。
「ああ、いい眺めだ。戦の煤と血を洗い流すには丁度いい」
隣を行くヴァレンティンもまた、柔らかな表情で妹に頷きかけた。
普段は冷静沈着な賢き皇子、時には非情の決断を下す冷然な将帥だが、ルスラーナにだけは甘く優しい。
「まずは宿に入ろう。
この街一番の老舗旅館『白鷺の館』を貸し切りにしてある。
そこなら、お前の底なしの胃袋を満たすだけの料理も用意できるだろう」
「さすが兄上! 大好き!」
ルスラーナは歓声を上げ、今にも馬から飛び降りて宿へ走っていきそうな勢いだ。
その後ろで、デュランダールが深い、本当に深い溜息をついた。
「ふぅぅ……ようやく、胃の休まる時が来たか」
「お疲れさん、デュラやん」
工兵隊長のランスローネが苦笑しながら、幌馬車を進ませて並びかける。
「デュ、デュラやん?
ドゥラークと呼ばれるよりマシだが、拙者とランスローネ殿はそこまで気さくな間柄だったか?」
「相変わらず堅物なやっちゃなあ。
同舟相救うって云うやろ?
同じルスラーナ隊の仲間やん。
あんたの御先祖様は、もっとフランクな人やったけどなあ」
「まるで拙者の先祖と面識ある様な口ぶり──あ」
デュランダールは気づいた。
ランスローネは、エルフという長命な亜人種と人間との混血。
即ち、若く美しい容姿を保ったまま、人間より遥かに長い時を生きている事を。
「ええ男やったで、ロランドはんは」
ランスローネは扁桃型をした双眸を細めて朗らかな笑みを浮かべる。
一つに束ねた蜂蜜色の髪と白磁の肌は、美貌と相俟って高貴そうな雰囲気を醸し出している。
その翡翠色の瞳の奥には、人間には決して計り知れない、悠久の時を越えた記憶が揺らめいているように見えた。
「な、なんと……! 貴女は、我が先祖と共に……!?」
「ま、昔の話や。
今はただの工兵隊長、あんたの同僚やで。
仲良くしような、デュラやん?」
「は、はい……! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします……!」
デュランダールは馬上で直立不動の敬礼をする。
伝説の勇士を知る生き証人を前に、堅物な騎士としては背筋が伸びざるを得ない。
やがて一行は、一際大きな建物の前で歩みを止めた。
「着いたぞ。ここが今宵の宿、老舗旅館『白鷺の館』だ」
目の前に聳え立つのは、単なる宿屋と呼ぶには巨大すぎる威容だった。
『白鷺の館』は、湯治場ユノハナでも最も格式高い老舗旅館であり、同時に帝国軍の指定保養施設でもある。
総檜造りの豪華絢爛な本館だけでなく、広大な敷地内には無数の別館や兵舎が立ち並び、最大で一万人の将兵を同時収容可能という、要塞のごとき規模を誇っているのだ。
大陸の東の果てにあるという島国『ワ国』の様式を模した本館建築は、石造りの建物が多い帝国において異彩を放っていた。
入り口では、女将や仲居たちが総出で出迎えている。
「ようこそおいでくださいました、ヴァレンティン殿下、ルスラーナ殿下。
勝利の凱旋、心よりお祝い申し上げます」
「うむ。急な来訪ですまないな。
我が兵たちには、別館と大広間を開放してやってくれ」
「承知しております。
ヴァレンティン殿下、ルスラーナ殿下には、当館で最も格の高い、離れの『月の間』をご用意いたしました。
主室の他に、次の間、控えの間とございますので、お付きの方々もゆったりとお過ごしいただけますが……」
女将がチラリと、背後のヴァレンティン親衛隊の騎士たちを見る。
通常なら、護衛も同じ建物──の控えの間に詰めるのが定石だ。
だが、ヴァレンティンは鷹揚に手を振った。
「いや、離れを使うのは私とルスラーナだけでいい。
他の者は本館で休ませてやってくれ。旅の疲れもあるだろうし」
「……殿下、警備はいかがなされますか?」
親衛隊長の騎士が徐ろに口を開いた。
面頬を下ろした兜の下の顔は伺い知れないが、野太く低い声音だ。
親衛隊長の懸念に、ヴァレンティンは隣に立つ妹の肩を抱き寄せた。
「ここに、帝国最強の『死神』がいるのだぞ?
このユノハナに、彼女の守りを突破できる愚か者がいると思うか?」
「……」
「それに、だ。
たまには水入らずで、兄妹の語らいもしたいのでな。
お前たちも、偶には休むがよい」
ヴァレンティンが目を細めて微笑む。
「……承知。
殿下の身辺警護はルスラーナ殿下にお任せし、我々は交代で休息しつつ、離れの外周警備に当たります」
「うむ。頼んだぞ」
こうして、公然と「二人きりの夜」が確約されたのである。
「そういうわけだ、女将」
「畏まりました」
女将は全ての事情を察したのか、恭しくお辞儀する。
「本館の大広間にて、お食事の準備も整っております。
無礼講の宴会をお楽しみ下さい」
その言葉に、ルスラーナが鼻をひくつかせた。
宿の中から漂ってくるのは、香ばしく焼けた肉と、新鮮な野菜の匂い。
戦場では決して嗅ぐことのできない「豊穣」の香りだ。
「兄上、すごい匂いがする!
ここ、本当にお肉があるの? 干し肉じゃなくて?」
「ああ、あるとも。
驚いたか? だが、種を明かせば単純な理屈だ」
ヴァレンティンは馬から降り、妹の手を取って部屋までエスコートする。
「このユノハナは、地下を流れる熱水のおかげで、一年を通して地面が凍らない。
それを利用して、地熱で温めた小屋の中で野菜や家畜を育てているのだよ。言わば、天然の温室だ」
客室に入った兄妹は、重い甲冑を脱ぎ、寛いだ浴衣姿に着替えながら語り合う。
「へえぇ……! 温泉って、入るだけじゃないのね!」
「それだけではない。ここは貴族や富豪が湯治に訪れる保養地だ。
金に糸目をつけない客が集まるからこそ、商人たちは南方の珍しい物資や食料を、帝都よりも優先してここに運び込む。
ここは、鉄と雪に閉ざされた我が国グレイヴェリアにおける、数少ない『豊穣の特異点』なのだよ」
ヴァレンティンは、これから運ばれてくるであろう料理を空想して涎を垂らしそうな妹を見て、満足げに頷く。
「つまり、ここなら枯渇した軍の輜重に頼らずとも、金さえ払えばいくらでも美味い飯が食えるということだ。
遠慮はいらん。今日は存分に食って、その美しい体に肉をつけろ」
「兄上、大好き! 一生ついていく!」
ルスラーナは兄に抱きつき頬ずりする。
「ははは。現金な奴め……」
ヴァレンティンは妹の頭を撫で、顎を持ち上げて上を向かせ、唇を重ねた。
そのままゆっくりと倒れて妹と体を重ねるが、浴衣を脱がすことなく、おもむろに唇を離した。
「お楽しみは、後でな……」
ルスラーナは吐息を漏らしつつ、うっとりとした表情で頷く。
やがて、大広間に主要な将兵が集まったところで、宴の幕が開ける。
「ヴァレンティン殿下の、そして我がグレイヴェリア帝国軍の勝利を祝して、ダヴォォオオル!」
ヴァレンティンの筆頭幕僚で参謀長を務める老騎士ヴァイト・クルーガーが音頭を取り、『乾杯』を意味する古語『ダヴォール』を張り上げる。
「「「ダヴォール!!!」」」
浴衣姿のヴァレンティン、ルスラーナ、帝国騎士たちが酒杯を掲げて唱和し、宴会が始まった。
「くあー! 胃に染みるぅ!」
ワ国産の酒──ワ酒を飲み、デュランダールが嬉しそうに目をギュッと瞑る。
「デュラやん、まだ若いくせに、酒飲むと一気にオヤジ臭くなんなー」
ランスローネは洗練された仕草で箸を使って魚の刺身を食べる。
「お酒の飲み過ぎには注意が必要です」
エーリカは浴衣姿だが、瓶底眼鏡は相変わらずだ。
「さ、父上……」
少し離れた席では、ヴァレンティンの幕僚の一人で、ヴァイトの補佐を務める女騎士アリシア・アイゼンが、右目から左頬にかけて大きな剣傷、身体中にも数え切れぬ古傷がある壮年騎士ガルド・アイゼンにお酌をしていた。
親子水入らずの姿もまた、戦場から離れた宴席ならではの光景だ。
「それにしても、ルスラーナ殿下の胃袋はどないなってんねん」
ランスローネは上座の、ヴァレンティンの隣に座るルスラーナを見る。
彼女の後ろには、空になった皿や御膳が幾重にも重なって高く積み上がっていた。
「世界大食い選手権があったら間違いなく優勝しますね」
エーリカは瓶底眼鏡を押す。
「そういえば、伝説の英雄シャルマーニ大帝って、国家間の戦争を武力ではなく大食いで決着することを提唱しはったな」
「──な、なに!?」
ランスローネの述懐を聞いて、デュランダールは我が耳を疑う。
「ば、馬鹿な……我が祖先が仕えし偉大なる覇王が、その様な低俗な発想を!?」
「まー、あの時代って、東方の食文化がガルマニアにまで流れて来る前やから、飯マズでなー、話がお流れになったけど。ご飯が不味かったら、ルスラーナ殿下もあんなに食べれないやろうなー」
ランスローネは腕組みして何度も頷く。
「いや、あの人味関係無いのでは? 骨付き肉を、骨まで食べ切ってますよ」
エーリカは、大きな骨付き肉を、その固い骨ごとバリボリ噛み砕いて飲み込むルスラーナの顎力に感嘆する。
「ルスラーナ殿下の見事な食いっぷりに、ダヴォール!」
したたかに酒に酔った老騎士ヴァイトが酒杯を掲げ、宴会場に「ダヴォール! ダヴォール! ダヴォール!」と連呼が響く。
「ふう……満腹満腹……」
漸く満足したのか、ルスラーナは膨れた腹を叩いて足を崩す。
「これこれ、行儀が悪い。
さあ、風呂にでも入ってくるがよい」
ヴァレンティンは優しく笑う。
「はーい! 行くわよ、ローネ、エーリカ!」
「おっと、大将! 引っ張らんといて!」
「……はわわわ……今度はわたしたちが捕食されました」
ルスラーナはランスローネとエーリカを小脇に抱えて連行していった。
入れ替わるように、デュランダールがヴァレンティンのもとにやって来て酌をする。
「しかし、ヴァレンティン殿下。
ユノハナは聞きしにまさる豊かさですが、これほどの物資があるなら、軍の権限で徴発しては?
さすれば、帝都に帰還せずとも補給の問題は解決ですが……」
「よせ、デュランダール。ここは『聖域』だ。
険しい山に守られ、帝国中の貴族と闇商人が出資している独立地帯。
下手に剣を抜けば、我々は補給の裏ルートを失い、帝都の半分の貴族を敵に回すぞ。
それに──略奪した飯より、買われた飯の方が美味いだろう?
兵たちにも、鉄蝗と蔑まれるよりも『人間らしい扱い』を思い出させてやるのも、将の務めだ」
「お、おみそれしました……!」
デュランダールは恐縮して引き下がった。
*
露天風呂の脱衣所。
ルスラーナは勢いよく浴衣を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿になった。
戦場で見せる死神の禍々しさはない。
そこにあるのは、神々しいまでに完成された、女性美の結晶だ。
しなやかで引き締まった筋肉の上に、適度な脂肪が乗った褐色の肌。
豊かな胸の膨らみから、くびれた腰、そして長く伸びた四肢へと続くラインは、芸術品のような曲線を描いている。
無数の敵を屠ってきたその体には、傷一つない。
オーガの血によって、刃を弾く驚異的な防護力、そして多少の傷を瞬時に癒す魔物的な治癒力が、彼女の肌を真珠のように滑らかに保っていた。
「うわぁ……いつ見てもええ体してはるわ、ルスラーナ殿下は」
同じく浴衣を脱いだランスローネが、感嘆の溜息を漏らす。
彼女はエルフの血を引いているため、肢体は細身でスラリとしているが、胸のボリュームはそれなりにあるが、ルスラーナに比べれば慎ましやかだ。
「せやけどエーリカ、あんたも大概やな。
いつも着てるローブの下に、えらい爆弾を隠しとってからに」
「ただの脂肪組織ですの。魔力貯蔵庫としての機能性を重視した」
ランスローネの視線の先には、瓶底眼鏡を外したエーリカの姿があった。
普段の地味なローブ姿からは想像もつかないほど、彼女の体つきは豊満だった。
雪のように白い肌に、たわわに実った果実のような胸。
野暮ったい瓶底眼鏡を外したその素顔は、幼さを残しつつも妖艶な美少女そのものだ。
「ふふっ、二人とも早く! お湯が冷めちゃうわよ!」
ルスラーナがタオル一枚を手に、岩場を駆け抜けていく。
湯気が立ち込める先には、広大な岩風呂が広がっていた。
並々と湛えられた湯は、鉄分を含んで赤褐色に濁り、まるで大地の血液のようだ。
ルスラーナは行儀悪く、湯飛沫と音を立てて豪快にお湯へと飛び込んだ。
「ぷはぁーっ! 極楽ぅ~!」
ザバッと赤湯から顔を出し、濡れた銀髪をかき上げる。
褐色の肌に赤い湯滴が伝う様は、戦場で返り血を浴びた姿を連想させるが、今の彼女の表情はただ無邪気なだけだ。
「ああ……この鉄の匂い。落ち着くわね」
「ほんまですねえ。硫黄の臭いより、こっちの方が性に合いますわ」
「同感ですぅ」
遅れて入ってきたランスローネとエーリカも、肩までお湯に浸かって脱力する。
鉄錆の香りが、戦いに明け暮れる彼女たちの神経を優しく撫でるようだった。
「……失礼しますえ、大将」
不意に、ランスローネが背後からルスラーナに忍び寄り、その豊かな双丘をむんずと手で包み込んだ。
「ひゃっ!? な、なにするのよローネ!」
「じっとしてて。測定中や」
ランスローネは真剣な顔で、しかしその手つきは女に慣れた熟年男みたいでいやらしく、ルスラーナの胸から腰のくびれ、お尻へと手を這わせていく。
「ふむふむ、身長172、上から96、60、93といったところかいな。
大陸最高の服装設計家ワコル・ゴルデンカノンが定めた、女性の最も美しいとされる体型基準に当てはめると、その枠内からははみ出てるけど、ええ体してますやんか」
「……お前、長生きし過ぎて品性が劣化してない?」
ルスラーナはジト目で自身の部下を見下ろす。
ワコル・ゴルデンカノン。
数百年前に存在したとされる伝説のデザイナーだが、その名を知る者など今では歴史学者くらいのものだ。
「……ローネさんって、偶に下衆化しますよねー」
エーリカが呆れたように呟くが、ランスローネはどこ吹く風だ。
「褒め言葉として受け取っておくわ。
それにしても大将、あれだけ食べて、ようこんなけしからん体型を維持できますなあ。
こっちはちょっと油断したらすぐ脇腹につくっちゅうのに。
やっぱり、あれですか? オーガの血ってやつ?」
「あぁ、それについては兄上が言ってたけど……私はオーガの血を引いてるじゃない?
だから食べた分だけ超加速で古い細胞が死滅して再生するんだって」
「つまり、『超高速細胞置換』。
常人の数十倍の速度で全身の組織が入れ替わっている、ということですね」
エーリカが冷静に解説を加える。
「その異常なサイクルを維持するために、大量のタンパク質とカロリー──つまり燃料が常に必要になる。燃費が悪いのは当然です」
「へえぇ……。そのピチピチお肌は、毎日新品ってわけかいな。そら羨ましいこっちゃ」
ランスローネが納得したように頷く。
そう、ルスラーナの強さの源泉であり、最大の弱点。
それは異常なまでの代謝速度と再生能力だ。
彼女の体は、文字通り常に生まれ変わり続けているのである。
「ピチピチお肌といえば、ローネも私より遥かに歳上なのに瑞々しいじゃない。
エルフ種族特有の神秘ね。
これは、身分を問わず女としては羨ましい限りだわよ」
「きゃははっ、ちょっ、くすぐったいってっ」
ルスラーナは先ほどのお返しとばかりランスローネの体を弄る。
「エルフ種は、空気中のマナ──即ち魔法の力の根源を取り込んで体内の『命脈』に吸着させ、その摩耗を防ぐ特性があります。
いわば、常に全身を内側から高濃度のマナで保護し、時の流れによる劣化を遮断しているようなものです。
だから、ほとんど食べなくても老けないし、太らない。
ローネさんは、エルフ種と人間との混血児。
種族特性の恩恵を受けているのは当然です」
エーリカは魔法術士として学んだ膨大な知識の一端を披露する。
「うわ、なにそれズルい!
私なんて武勲の恩賞のほとんどが胃袋に消えるのに!」
ルスラーナが頬を膨らませて抗議する。
「しゃーないやん、種族特性やし。
その代わり、うちらは魔力の薄い場所やと肌荒れすんねん。
この『赤湯』は鉄分だけやのうて、地脈の魔力もたっぷり溶け込んどるから、エルフにとっても極上の美容液やわぁ」
ランスローネは湯をすくい、自身の白磁の肌に掛けてうっとりとする。
「……ククッ。呑気なものだ」
岩風呂を見下ろす崖の上。
岩陰に同化するように潜んでいた男は、湯煙の隙間からその光景を覗き見ていた。
「全裸で談笑する三人の美女。
武器も持たず、防具も纏わず、完全に無防備だ。
ルスラーナ皇女よ。
いくらお前がオーガの血を引こうと、中身まで鉄でできているわけではあるまい」
男は懐から、紫色の液体が入った小瓶を取り出し、栓を抜いた。
「『たわむれの紫水晶』。一滴で巨象を眠らせられる眠剤だぞ」
男は手近な源泉の湧き出し口へと静かに垂らす。
ポタリ、ポタリ。
眠剤の液は赤褐色の湯に混ざり、色も匂いも消して拡散していく。
鉄の匂いが充満するこの『赤湯』は、無味無臭の眠剤を隠すには最高の環境だった。
(さあ、吸い込め。肌から、肺から。
湯船というゆりかごの中で、安らかに眠るがいい)
男は冷酷な笑みを浮かべ、獲物が沈む瞬間を待った。
数分後。
異変は、最も華奢なランスローネから現れた。
「……あれ? なんか、急にのぼせて……」
ランスローネが額を押さえ、ふらりとよろめく。
「……私も。視界が……手足が、痺れて……」
続いてエーリカが、お湯の中に沈みかけた。
「えっ? 二人とも、どうしたの?」
ルスラーナが驚いて二人を支えようとする。
その瞬間、男は音もなく崖から飛び降りた。
「──チェックメイトだ、死神」
湯煙を切り裂き、両手に毒塗りの短剣を構えた暗殺者が、全裸のルスラーナへと襲いかかる。
男の一撃は速く、鋭い。
眠剤の影響で動けないはずの獲物の心臓を、正確無比に貫く軌道を描いていた。
──ガギィッ!
だが、その刃がルスラーナの柔肌を貫くことはなかった。
鈍い金属音と共に、男の手首が強烈な衝撃で跳ね返される。
「な……ッ!?」
男は目を見開いた。
ルスラーナは短剣を避けたわけでも、受け流したわけでもない。
ただ、素手で掴んでいた。
切っ先が胸に届く寸前、その白銀の刃を、彼女は素手で握り潰し、止めたのだ。
「……チェックメイト? 誰が?」
湯気の中から響く声は、眠剤に侵された者のそれではない。
むしろ、いつも以上に張りがあり、熱を帯びていた。
「馬鹿な……! 貴様、なぜ動ける!?
巨象でさえ一滴で眠る眠剤だぞ!」
「私に効くか、そんなモン!」
ルスラーナは、握り潰した短剣をゴミのように放り捨てて鼻で笑う。
「私の体はね、新陳代謝が超早いの。
たとえ竜を殺せる猛毒を飲まされても、全部まとめて古い細胞と一緒に捨てて、新しい細胞に入れ替えちゃうの。
毒が回るより早く、体が新品になっちゃえば問題ないでしょ。
ましてや眠剤? 効くわけないでしょうが!」
バシャアッ!
湯船の水面が爆発したかのように弾けると同時に、ルスラーナは男の懐に踏み込んだ。
男は後退ろうとするが、既に遅い。
「ご馳走様。食後のデザートは、お前でいいわよね?」
ドゴォォォォンッ!!
ルスラーナの右拳が、男の腹部に深々と突き刺さる。
男の体は「く」の字に折れ曲がり、水切り石のように湯面を跳ねて、対岸の岩盤へと激突した。
「ガハッ……! 化け……物……め……」
岩にめり込んだ男は、血の泡を吐いて崩れ落ちる。
男の正体は、ムギト。
エルバニアの老将グラハム・レノックスに雇われた刺客。
だが、暗殺者の秘術も、鍛え上げた体術も、圧倒的な質量攻撃の前には無意味だった。
魂縛転移を使う暇さえなく、物理的な破壊によって肉体の機能が停止し、彼は意識を手放した。
「ふぅ。いい運動になったわ」
ルスラーナはパンパンと手を払う。
眠剤も、疲れも、全ては新しい細胞へと置き換わり、彼女の美しさを際立たせるだけだった。
「──騒がしいな。何事だ?」
大きな物音を聞きつけ、脱衣所の扉が開く。
浴衣姿のヴァレンティンと、長剣を引っ提げたデュランダールが飛び込んできた。
「すわ、曲者か!?
ルスラーナ殿下、ご無事です──ぶフォッ!?」
先頭で飛び込んだデュランダールは、その光景を見て盛大に鼻血を吹き出し、硬直した。
湯煙の中、岩場にめり込んだ男の死体と、気絶した二人の美女。
そして中央には、全裸で仁王立ちし、勝ち誇ったような笑顔を向けるうら若き姫君の姿。
「ああ、兄上。ドゥラーク。
変な男が入ってきたから、ちょっと懲らしめてやったわ」
隠そうともしない堂々たる裸身の、圧倒的な肢体美。
「め、目が……! 刺激が強すぎます……!」
デュランダールは手で顔を覆い、その場に崩れ落ちた。
一方、ヴァレンティンは平然とした顔で岩場の男を一瞥し、状況を瞬時に理解する。
「……なるほどな。最も無防備な瞬間を狙ったか。
だが、相手が悪かったな。我が妹は、素手で竜を殴り殺せる、正真正銘の化け物なのだぞ」
彼は倒れているランスローネとエーリカに視線を移す。
「二人は無事なのか?」
「ん? 眠剤で眠らされてるだけよ。そのうち目を覚ますわ」
「そうか。では、掃除は親衛隊に任せて、お前は部屋でゆっくりと休むがいい。
では、後でな……」
「ふふん♪」
ルスラーナは上機嫌で鼻歌を歌う。
最強の皇女にとって、暗殺者の襲撃など、温泉の余興にもならない些細な出来事だったのだ。
そしてルスラーナは、部屋で愛する兄と二人っきりで情熱的な時を過ごす。
湯治場ユノハナの夜は、こうして更けていったのであった。
険しい山々を越えた先に、その場所はあった。
湯治場『ユノハナ』。
地下深くの断層から湧き出る太古の熱水は、豊富なミネラルと鉄分を含み、空気に触れることで独特の赤褐色に染まることから『赤湯』とも呼ばれている。
立ち上る湯煙からは、微かに鉄錆のような香りが漂い、それが鉄と共に生きるグレイヴェリア帝国の将兵たちの心を不思議と落ち着かせるのだ。
戦場という地獄から帰還した彼らにとって、そこはまさに極楽浄土の入り口であった。
「わぁ……! 兄上、見て! 湯気よ、湯気! 温泉の匂いがするわ!」
ルスラーナは愛馬の上で身を乗り出し、目をキラキラと輝かせて、はしゃいだ声を響かせる。
先ほどまで「肉を返せ」と冒険者を虐殺していた死神とは思えないあどけなさだ。
戦場では骸骨面頬の兜に隠されているが、その素顔は銀の髪と褐色の肌が美しい、二十一歳のうら若き娘である。
「ああ、いい眺めだ。戦の煤と血を洗い流すには丁度いい」
隣を行くヴァレンティンもまた、柔らかな表情で妹に頷きかけた。
普段は冷静沈着な賢き皇子、時には非情の決断を下す冷然な将帥だが、ルスラーナにだけは甘く優しい。
「まずは宿に入ろう。
この街一番の老舗旅館『白鷺の館』を貸し切りにしてある。
そこなら、お前の底なしの胃袋を満たすだけの料理も用意できるだろう」
「さすが兄上! 大好き!」
ルスラーナは歓声を上げ、今にも馬から飛び降りて宿へ走っていきそうな勢いだ。
その後ろで、デュランダールが深い、本当に深い溜息をついた。
「ふぅぅ……ようやく、胃の休まる時が来たか」
「お疲れさん、デュラやん」
工兵隊長のランスローネが苦笑しながら、幌馬車を進ませて並びかける。
「デュ、デュラやん?
ドゥラークと呼ばれるよりマシだが、拙者とランスローネ殿はそこまで気さくな間柄だったか?」
「相変わらず堅物なやっちゃなあ。
同舟相救うって云うやろ?
同じルスラーナ隊の仲間やん。
あんたの御先祖様は、もっとフランクな人やったけどなあ」
「まるで拙者の先祖と面識ある様な口ぶり──あ」
デュランダールは気づいた。
ランスローネは、エルフという長命な亜人種と人間との混血。
即ち、若く美しい容姿を保ったまま、人間より遥かに長い時を生きている事を。
「ええ男やったで、ロランドはんは」
ランスローネは扁桃型をした双眸を細めて朗らかな笑みを浮かべる。
一つに束ねた蜂蜜色の髪と白磁の肌は、美貌と相俟って高貴そうな雰囲気を醸し出している。
その翡翠色の瞳の奥には、人間には決して計り知れない、悠久の時を越えた記憶が揺らめいているように見えた。
「な、なんと……! 貴女は、我が先祖と共に……!?」
「ま、昔の話や。
今はただの工兵隊長、あんたの同僚やで。
仲良くしような、デュラやん?」
「は、はい……! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします……!」
デュランダールは馬上で直立不動の敬礼をする。
伝説の勇士を知る生き証人を前に、堅物な騎士としては背筋が伸びざるを得ない。
やがて一行は、一際大きな建物の前で歩みを止めた。
「着いたぞ。ここが今宵の宿、老舗旅館『白鷺の館』だ」
目の前に聳え立つのは、単なる宿屋と呼ぶには巨大すぎる威容だった。
『白鷺の館』は、湯治場ユノハナでも最も格式高い老舗旅館であり、同時に帝国軍の指定保養施設でもある。
総檜造りの豪華絢爛な本館だけでなく、広大な敷地内には無数の別館や兵舎が立ち並び、最大で一万人の将兵を同時収容可能という、要塞のごとき規模を誇っているのだ。
大陸の東の果てにあるという島国『ワ国』の様式を模した本館建築は、石造りの建物が多い帝国において異彩を放っていた。
入り口では、女将や仲居たちが総出で出迎えている。
「ようこそおいでくださいました、ヴァレンティン殿下、ルスラーナ殿下。
勝利の凱旋、心よりお祝い申し上げます」
「うむ。急な来訪ですまないな。
我が兵たちには、別館と大広間を開放してやってくれ」
「承知しております。
ヴァレンティン殿下、ルスラーナ殿下には、当館で最も格の高い、離れの『月の間』をご用意いたしました。
主室の他に、次の間、控えの間とございますので、お付きの方々もゆったりとお過ごしいただけますが……」
女将がチラリと、背後のヴァレンティン親衛隊の騎士たちを見る。
通常なら、護衛も同じ建物──の控えの間に詰めるのが定石だ。
だが、ヴァレンティンは鷹揚に手を振った。
「いや、離れを使うのは私とルスラーナだけでいい。
他の者は本館で休ませてやってくれ。旅の疲れもあるだろうし」
「……殿下、警備はいかがなされますか?」
親衛隊長の騎士が徐ろに口を開いた。
面頬を下ろした兜の下の顔は伺い知れないが、野太く低い声音だ。
親衛隊長の懸念に、ヴァレンティンは隣に立つ妹の肩を抱き寄せた。
「ここに、帝国最強の『死神』がいるのだぞ?
このユノハナに、彼女の守りを突破できる愚か者がいると思うか?」
「……」
「それに、だ。
たまには水入らずで、兄妹の語らいもしたいのでな。
お前たちも、偶には休むがよい」
ヴァレンティンが目を細めて微笑む。
「……承知。
殿下の身辺警護はルスラーナ殿下にお任せし、我々は交代で休息しつつ、離れの外周警備に当たります」
「うむ。頼んだぞ」
こうして、公然と「二人きりの夜」が確約されたのである。
「そういうわけだ、女将」
「畏まりました」
女将は全ての事情を察したのか、恭しくお辞儀する。
「本館の大広間にて、お食事の準備も整っております。
無礼講の宴会をお楽しみ下さい」
その言葉に、ルスラーナが鼻をひくつかせた。
宿の中から漂ってくるのは、香ばしく焼けた肉と、新鮮な野菜の匂い。
戦場では決して嗅ぐことのできない「豊穣」の香りだ。
「兄上、すごい匂いがする!
ここ、本当にお肉があるの? 干し肉じゃなくて?」
「ああ、あるとも。
驚いたか? だが、種を明かせば単純な理屈だ」
ヴァレンティンは馬から降り、妹の手を取って部屋までエスコートする。
「このユノハナは、地下を流れる熱水のおかげで、一年を通して地面が凍らない。
それを利用して、地熱で温めた小屋の中で野菜や家畜を育てているのだよ。言わば、天然の温室だ」
客室に入った兄妹は、重い甲冑を脱ぎ、寛いだ浴衣姿に着替えながら語り合う。
「へえぇ……! 温泉って、入るだけじゃないのね!」
「それだけではない。ここは貴族や富豪が湯治に訪れる保養地だ。
金に糸目をつけない客が集まるからこそ、商人たちは南方の珍しい物資や食料を、帝都よりも優先してここに運び込む。
ここは、鉄と雪に閉ざされた我が国グレイヴェリアにおける、数少ない『豊穣の特異点』なのだよ」
ヴァレンティンは、これから運ばれてくるであろう料理を空想して涎を垂らしそうな妹を見て、満足げに頷く。
「つまり、ここなら枯渇した軍の輜重に頼らずとも、金さえ払えばいくらでも美味い飯が食えるということだ。
遠慮はいらん。今日は存分に食って、その美しい体に肉をつけろ」
「兄上、大好き! 一生ついていく!」
ルスラーナは兄に抱きつき頬ずりする。
「ははは。現金な奴め……」
ヴァレンティンは妹の頭を撫で、顎を持ち上げて上を向かせ、唇を重ねた。
そのままゆっくりと倒れて妹と体を重ねるが、浴衣を脱がすことなく、おもむろに唇を離した。
「お楽しみは、後でな……」
ルスラーナは吐息を漏らしつつ、うっとりとした表情で頷く。
やがて、大広間に主要な将兵が集まったところで、宴の幕が開ける。
「ヴァレンティン殿下の、そして我がグレイヴェリア帝国軍の勝利を祝して、ダヴォォオオル!」
ヴァレンティンの筆頭幕僚で参謀長を務める老騎士ヴァイト・クルーガーが音頭を取り、『乾杯』を意味する古語『ダヴォール』を張り上げる。
「「「ダヴォール!!!」」」
浴衣姿のヴァレンティン、ルスラーナ、帝国騎士たちが酒杯を掲げて唱和し、宴会が始まった。
「くあー! 胃に染みるぅ!」
ワ国産の酒──ワ酒を飲み、デュランダールが嬉しそうに目をギュッと瞑る。
「デュラやん、まだ若いくせに、酒飲むと一気にオヤジ臭くなんなー」
ランスローネは洗練された仕草で箸を使って魚の刺身を食べる。
「お酒の飲み過ぎには注意が必要です」
エーリカは浴衣姿だが、瓶底眼鏡は相変わらずだ。
「さ、父上……」
少し離れた席では、ヴァレンティンの幕僚の一人で、ヴァイトの補佐を務める女騎士アリシア・アイゼンが、右目から左頬にかけて大きな剣傷、身体中にも数え切れぬ古傷がある壮年騎士ガルド・アイゼンにお酌をしていた。
親子水入らずの姿もまた、戦場から離れた宴席ならではの光景だ。
「それにしても、ルスラーナ殿下の胃袋はどないなってんねん」
ランスローネは上座の、ヴァレンティンの隣に座るルスラーナを見る。
彼女の後ろには、空になった皿や御膳が幾重にも重なって高く積み上がっていた。
「世界大食い選手権があったら間違いなく優勝しますね」
エーリカは瓶底眼鏡を押す。
「そういえば、伝説の英雄シャルマーニ大帝って、国家間の戦争を武力ではなく大食いで決着することを提唱しはったな」
「──な、なに!?」
ランスローネの述懐を聞いて、デュランダールは我が耳を疑う。
「ば、馬鹿な……我が祖先が仕えし偉大なる覇王が、その様な低俗な発想を!?」
「まー、あの時代って、東方の食文化がガルマニアにまで流れて来る前やから、飯マズでなー、話がお流れになったけど。ご飯が不味かったら、ルスラーナ殿下もあんなに食べれないやろうなー」
ランスローネは腕組みして何度も頷く。
「いや、あの人味関係無いのでは? 骨付き肉を、骨まで食べ切ってますよ」
エーリカは、大きな骨付き肉を、その固い骨ごとバリボリ噛み砕いて飲み込むルスラーナの顎力に感嘆する。
「ルスラーナ殿下の見事な食いっぷりに、ダヴォール!」
したたかに酒に酔った老騎士ヴァイトが酒杯を掲げ、宴会場に「ダヴォール! ダヴォール! ダヴォール!」と連呼が響く。
「ふう……満腹満腹……」
漸く満足したのか、ルスラーナは膨れた腹を叩いて足を崩す。
「これこれ、行儀が悪い。
さあ、風呂にでも入ってくるがよい」
ヴァレンティンは優しく笑う。
「はーい! 行くわよ、ローネ、エーリカ!」
「おっと、大将! 引っ張らんといて!」
「……はわわわ……今度はわたしたちが捕食されました」
ルスラーナはランスローネとエーリカを小脇に抱えて連行していった。
入れ替わるように、デュランダールがヴァレンティンのもとにやって来て酌をする。
「しかし、ヴァレンティン殿下。
ユノハナは聞きしにまさる豊かさですが、これほどの物資があるなら、軍の権限で徴発しては?
さすれば、帝都に帰還せずとも補給の問題は解決ですが……」
「よせ、デュランダール。ここは『聖域』だ。
険しい山に守られ、帝国中の貴族と闇商人が出資している独立地帯。
下手に剣を抜けば、我々は補給の裏ルートを失い、帝都の半分の貴族を敵に回すぞ。
それに──略奪した飯より、買われた飯の方が美味いだろう?
兵たちにも、鉄蝗と蔑まれるよりも『人間らしい扱い』を思い出させてやるのも、将の務めだ」
「お、おみそれしました……!」
デュランダールは恐縮して引き下がった。
*
露天風呂の脱衣所。
ルスラーナは勢いよく浴衣を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿になった。
戦場で見せる死神の禍々しさはない。
そこにあるのは、神々しいまでに完成された、女性美の結晶だ。
しなやかで引き締まった筋肉の上に、適度な脂肪が乗った褐色の肌。
豊かな胸の膨らみから、くびれた腰、そして長く伸びた四肢へと続くラインは、芸術品のような曲線を描いている。
無数の敵を屠ってきたその体には、傷一つない。
オーガの血によって、刃を弾く驚異的な防護力、そして多少の傷を瞬時に癒す魔物的な治癒力が、彼女の肌を真珠のように滑らかに保っていた。
「うわぁ……いつ見てもええ体してはるわ、ルスラーナ殿下は」
同じく浴衣を脱いだランスローネが、感嘆の溜息を漏らす。
彼女はエルフの血を引いているため、肢体は細身でスラリとしているが、胸のボリュームはそれなりにあるが、ルスラーナに比べれば慎ましやかだ。
「せやけどエーリカ、あんたも大概やな。
いつも着てるローブの下に、えらい爆弾を隠しとってからに」
「ただの脂肪組織ですの。魔力貯蔵庫としての機能性を重視した」
ランスローネの視線の先には、瓶底眼鏡を外したエーリカの姿があった。
普段の地味なローブ姿からは想像もつかないほど、彼女の体つきは豊満だった。
雪のように白い肌に、たわわに実った果実のような胸。
野暮ったい瓶底眼鏡を外したその素顔は、幼さを残しつつも妖艶な美少女そのものだ。
「ふふっ、二人とも早く! お湯が冷めちゃうわよ!」
ルスラーナがタオル一枚を手に、岩場を駆け抜けていく。
湯気が立ち込める先には、広大な岩風呂が広がっていた。
並々と湛えられた湯は、鉄分を含んで赤褐色に濁り、まるで大地の血液のようだ。
ルスラーナは行儀悪く、湯飛沫と音を立てて豪快にお湯へと飛び込んだ。
「ぷはぁーっ! 極楽ぅ~!」
ザバッと赤湯から顔を出し、濡れた銀髪をかき上げる。
褐色の肌に赤い湯滴が伝う様は、戦場で返り血を浴びた姿を連想させるが、今の彼女の表情はただ無邪気なだけだ。
「ああ……この鉄の匂い。落ち着くわね」
「ほんまですねえ。硫黄の臭いより、こっちの方が性に合いますわ」
「同感ですぅ」
遅れて入ってきたランスローネとエーリカも、肩までお湯に浸かって脱力する。
鉄錆の香りが、戦いに明け暮れる彼女たちの神経を優しく撫でるようだった。
「……失礼しますえ、大将」
不意に、ランスローネが背後からルスラーナに忍び寄り、その豊かな双丘をむんずと手で包み込んだ。
「ひゃっ!? な、なにするのよローネ!」
「じっとしてて。測定中や」
ランスローネは真剣な顔で、しかしその手つきは女に慣れた熟年男みたいでいやらしく、ルスラーナの胸から腰のくびれ、お尻へと手を這わせていく。
「ふむふむ、身長172、上から96、60、93といったところかいな。
大陸最高の服装設計家ワコル・ゴルデンカノンが定めた、女性の最も美しいとされる体型基準に当てはめると、その枠内からははみ出てるけど、ええ体してますやんか」
「……お前、長生きし過ぎて品性が劣化してない?」
ルスラーナはジト目で自身の部下を見下ろす。
ワコル・ゴルデンカノン。
数百年前に存在したとされる伝説のデザイナーだが、その名を知る者など今では歴史学者くらいのものだ。
「……ローネさんって、偶に下衆化しますよねー」
エーリカが呆れたように呟くが、ランスローネはどこ吹く風だ。
「褒め言葉として受け取っておくわ。
それにしても大将、あれだけ食べて、ようこんなけしからん体型を維持できますなあ。
こっちはちょっと油断したらすぐ脇腹につくっちゅうのに。
やっぱり、あれですか? オーガの血ってやつ?」
「あぁ、それについては兄上が言ってたけど……私はオーガの血を引いてるじゃない?
だから食べた分だけ超加速で古い細胞が死滅して再生するんだって」
「つまり、『超高速細胞置換』。
常人の数十倍の速度で全身の組織が入れ替わっている、ということですね」
エーリカが冷静に解説を加える。
「その異常なサイクルを維持するために、大量のタンパク質とカロリー──つまり燃料が常に必要になる。燃費が悪いのは当然です」
「へえぇ……。そのピチピチお肌は、毎日新品ってわけかいな。そら羨ましいこっちゃ」
ランスローネが納得したように頷く。
そう、ルスラーナの強さの源泉であり、最大の弱点。
それは異常なまでの代謝速度と再生能力だ。
彼女の体は、文字通り常に生まれ変わり続けているのである。
「ピチピチお肌といえば、ローネも私より遥かに歳上なのに瑞々しいじゃない。
エルフ種族特有の神秘ね。
これは、身分を問わず女としては羨ましい限りだわよ」
「きゃははっ、ちょっ、くすぐったいってっ」
ルスラーナは先ほどのお返しとばかりランスローネの体を弄る。
「エルフ種は、空気中のマナ──即ち魔法の力の根源を取り込んで体内の『命脈』に吸着させ、その摩耗を防ぐ特性があります。
いわば、常に全身を内側から高濃度のマナで保護し、時の流れによる劣化を遮断しているようなものです。
だから、ほとんど食べなくても老けないし、太らない。
ローネさんは、エルフ種と人間との混血児。
種族特性の恩恵を受けているのは当然です」
エーリカは魔法術士として学んだ膨大な知識の一端を披露する。
「うわ、なにそれズルい!
私なんて武勲の恩賞のほとんどが胃袋に消えるのに!」
ルスラーナが頬を膨らませて抗議する。
「しゃーないやん、種族特性やし。
その代わり、うちらは魔力の薄い場所やと肌荒れすんねん。
この『赤湯』は鉄分だけやのうて、地脈の魔力もたっぷり溶け込んどるから、エルフにとっても極上の美容液やわぁ」
ランスローネは湯をすくい、自身の白磁の肌に掛けてうっとりとする。
「……ククッ。呑気なものだ」
岩風呂を見下ろす崖の上。
岩陰に同化するように潜んでいた男は、湯煙の隙間からその光景を覗き見ていた。
「全裸で談笑する三人の美女。
武器も持たず、防具も纏わず、完全に無防備だ。
ルスラーナ皇女よ。
いくらお前がオーガの血を引こうと、中身まで鉄でできているわけではあるまい」
男は懐から、紫色の液体が入った小瓶を取り出し、栓を抜いた。
「『たわむれの紫水晶』。一滴で巨象を眠らせられる眠剤だぞ」
男は手近な源泉の湧き出し口へと静かに垂らす。
ポタリ、ポタリ。
眠剤の液は赤褐色の湯に混ざり、色も匂いも消して拡散していく。
鉄の匂いが充満するこの『赤湯』は、無味無臭の眠剤を隠すには最高の環境だった。
(さあ、吸い込め。肌から、肺から。
湯船というゆりかごの中で、安らかに眠るがいい)
男は冷酷な笑みを浮かべ、獲物が沈む瞬間を待った。
数分後。
異変は、最も華奢なランスローネから現れた。
「……あれ? なんか、急にのぼせて……」
ランスローネが額を押さえ、ふらりとよろめく。
「……私も。視界が……手足が、痺れて……」
続いてエーリカが、お湯の中に沈みかけた。
「えっ? 二人とも、どうしたの?」
ルスラーナが驚いて二人を支えようとする。
その瞬間、男は音もなく崖から飛び降りた。
「──チェックメイトだ、死神」
湯煙を切り裂き、両手に毒塗りの短剣を構えた暗殺者が、全裸のルスラーナへと襲いかかる。
男の一撃は速く、鋭い。
眠剤の影響で動けないはずの獲物の心臓を、正確無比に貫く軌道を描いていた。
──ガギィッ!
だが、その刃がルスラーナの柔肌を貫くことはなかった。
鈍い金属音と共に、男の手首が強烈な衝撃で跳ね返される。
「な……ッ!?」
男は目を見開いた。
ルスラーナは短剣を避けたわけでも、受け流したわけでもない。
ただ、素手で掴んでいた。
切っ先が胸に届く寸前、その白銀の刃を、彼女は素手で握り潰し、止めたのだ。
「……チェックメイト? 誰が?」
湯気の中から響く声は、眠剤に侵された者のそれではない。
むしろ、いつも以上に張りがあり、熱を帯びていた。
「馬鹿な……! 貴様、なぜ動ける!?
巨象でさえ一滴で眠る眠剤だぞ!」
「私に効くか、そんなモン!」
ルスラーナは、握り潰した短剣をゴミのように放り捨てて鼻で笑う。
「私の体はね、新陳代謝が超早いの。
たとえ竜を殺せる猛毒を飲まされても、全部まとめて古い細胞と一緒に捨てて、新しい細胞に入れ替えちゃうの。
毒が回るより早く、体が新品になっちゃえば問題ないでしょ。
ましてや眠剤? 効くわけないでしょうが!」
バシャアッ!
湯船の水面が爆発したかのように弾けると同時に、ルスラーナは男の懐に踏み込んだ。
男は後退ろうとするが、既に遅い。
「ご馳走様。食後のデザートは、お前でいいわよね?」
ドゴォォォォンッ!!
ルスラーナの右拳が、男の腹部に深々と突き刺さる。
男の体は「く」の字に折れ曲がり、水切り石のように湯面を跳ねて、対岸の岩盤へと激突した。
「ガハッ……! 化け……物……め……」
岩にめり込んだ男は、血の泡を吐いて崩れ落ちる。
男の正体は、ムギト。
エルバニアの老将グラハム・レノックスに雇われた刺客。
だが、暗殺者の秘術も、鍛え上げた体術も、圧倒的な質量攻撃の前には無意味だった。
魂縛転移を使う暇さえなく、物理的な破壊によって肉体の機能が停止し、彼は意識を手放した。
「ふぅ。いい運動になったわ」
ルスラーナはパンパンと手を払う。
眠剤も、疲れも、全ては新しい細胞へと置き換わり、彼女の美しさを際立たせるだけだった。
「──騒がしいな。何事だ?」
大きな物音を聞きつけ、脱衣所の扉が開く。
浴衣姿のヴァレンティンと、長剣を引っ提げたデュランダールが飛び込んできた。
「すわ、曲者か!?
ルスラーナ殿下、ご無事です──ぶフォッ!?」
先頭で飛び込んだデュランダールは、その光景を見て盛大に鼻血を吹き出し、硬直した。
湯煙の中、岩場にめり込んだ男の死体と、気絶した二人の美女。
そして中央には、全裸で仁王立ちし、勝ち誇ったような笑顔を向けるうら若き姫君の姿。
「ああ、兄上。ドゥラーク。
変な男が入ってきたから、ちょっと懲らしめてやったわ」
隠そうともしない堂々たる裸身の、圧倒的な肢体美。
「め、目が……! 刺激が強すぎます……!」
デュランダールは手で顔を覆い、その場に崩れ落ちた。
一方、ヴァレンティンは平然とした顔で岩場の男を一瞥し、状況を瞬時に理解する。
「……なるほどな。最も無防備な瞬間を狙ったか。
だが、相手が悪かったな。我が妹は、素手で竜を殴り殺せる、正真正銘の化け物なのだぞ」
彼は倒れているランスローネとエーリカに視線を移す。
「二人は無事なのか?」
「ん? 眠剤で眠らされてるだけよ。そのうち目を覚ますわ」
「そうか。では、掃除は親衛隊に任せて、お前は部屋でゆっくりと休むがいい。
では、後でな……」
「ふふん♪」
ルスラーナは上機嫌で鼻歌を歌う。
最強の皇女にとって、暗殺者の襲撃など、温泉の余興にもならない些細な出来事だったのだ。
そしてルスラーナは、部屋で愛する兄と二人っきりで情熱的な時を過ごす。
湯治場ユノハナの夜は、こうして更けていったのであった。
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