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第十八章 死神への招待状、雪原の狩人たち
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温泉地ユノハナを占拠したエルバニア王国軍の本陣が置かれた旅館『白鷺の館』の一室。
「……また、輸送隊が襲われただと?」
エルバニア軍総大将グラハム・レノックス伯爵の低い声が、部屋の温度をさらに下げる。
「は、はい……。今回は東の街道で、食料と防寒具を積んだ馬車が……。
護衛兵の証言では、『黒い悪魔』が笑いながら去っていったと……」
報告する兵士は震え上がっている。
ここ数日、ルスラーナによる神出鬼没の襲撃が相次いでいた。
彼女は決して深追いはしない。
一撃離脱で物資を奪い、設備を破壊し、そして「恐怖」を植え付けて去っていく。
「おのれ、小娘が……! コバエのように飛び回りおって!」
グラハムは年甲斐もなく怒りを露わにして拳をテーブルに叩きつける。
「山」として動かない戦略をとっている以上、正規軍を小規模に分散させて追わせるのは下策だ。各個撃破されるのが目に見えている。
頭では分かっているが、感情が許さないのだ。
基本的に、グラハムは正面からの堂々たる戦いという「王道」を信条とする武将だ。
大軍を擁して圧倒的数で攻めることこそ「王者の戦い方」だと思っている。
それに対してルスラーナが行っているのは、補給を焼き、食料を奪い、寒空に放置するという「邪道」な、有り体に言えば「嫌がらせ」である。
ましてやルスラーナは、息子と孫たちを沢山殺した張本人なのだ。
憎き敵に対しての復讐心が煮え滾り、理性の蓋で抑え込めなくなるのも当然だろう。
「……グラハムの旦那。正規兵が動けないなら、『専門家』に任せな」
部屋の影から、暗殺者ムギトが声をかける。
「奴は、所詮は個人の武勇で動いている。
ならば、同じく個人の武勇に特化した連中──『冒険者』をぶつけるのが筋ってもんだろ」
「冒険者、か……」
「ああ。あんたが連れてきた従軍冒険者の中に、腕利きのクランがいるだろ?
奴らをけしかけるのさ」
*
ムギトは先ず、冒険者組合のグレイヴェリア支部に足を運んだ。
土地勘のある現地の冒険者を、道案内として雇うためだ
奇しくも、グレイヴェリア支部は、ユノハナの内にあった。
「──断る」
グレイヴェリア支部の長ニコライは、金貨の袋を見るなり即答した。
顔には大きな傷があり、隻眼。
グレイヴェリアでは勇者の証であり、そしてニコライは歴戦の元冒険者だ。
「おいおい、ニコライの旦那よ。
話も聞かずに断るのか?
この金貨の山が見えないのか?
無事な目の視力が悪くなったのかよ?」
「見えるさ。だがあんた、依頼内容は『ルスラーナ皇女の討伐』、もしくは『捜索の道案内』だろ?」
ニコライは、呆れたようにため息をついた。
「悪いことは言わねぇ。やめときな。
あの姫様はな、俺たちグレイヴェリアの冒険者にとっちゃ『歩く災害』なんだよ」
「災害?」
「ああ。ドラゴンだの、古代の魔獣だのと同じカテゴリだ。
俺たちは魔物狩りのプロだが、災害に喧嘩を売る馬鹿はいねぇ。
金貨を積まれても、命あっての物種だ。
……どうしてもと言うなら、『姫様が最近目撃された場所』の情報だけ売ってやる。
あとはアンタらが勝手に死んでくれ」
「……チッ、根性なしどもが」
ムギトは舌打ちして組合を後にする。
だが内心では、
(まあ、そう言うだろうな。俺もそう思うぜ)
と納得していた。
だからこそ、何も知らない「外様」を使うのだ。
*
『白鷺の館』の大広間に、エルバニアが誇る最強の冒険者クラン『巨獣の牙』の面々が集められた。
「ガハハハハ! 任せておけ、グラハム将軍!
たかがオーガの混血女一人だろう?
俺様の大剣『竜殺し』の錆にしてくれるわ!」
豪快に笑うのは、リーダーのガルガンチュア。
身長二メートルを超える筋肉の巨漢で、背中には身の丈ほどもある巨大な魔剣を背負っている。
「俺に斬れぬものなし」が口癖の、典型的な脳筋アタッカーだ。
「……対象の戦力分析、完了。
噂には尾ひれがついている。所詮は蛮族の剣技。
僕の『高速詠唱』と『弱点解析』の前では、赤子も同然だ」
眼鏡をくいっと上げるのは、魔導士のサイレント。
常に冷静沈着で、無詠唱魔法や多重展開を得意とする「知性派」だ。
「もう、ガルガンチュアもサイレントも慢心はダメよ?
でも大丈夫、私がみんなを守るから!
私の『聖女の結界』は、どんな攻撃も通さない絶対防御だもの!」
白くフリルのついた法衣を纏い、慈愛に満ちた様に見える笑顔を振りまくのは、回復役兼結界師のマリア。
「聖女」と呼ばれ、パーティーのアイドル的存在で、その魔法結界による守りは鉄壁を誇る。
「……フン。正面から当たる必要はない。
俺の『神速』で背後に回り込み、首を掻き切れば終わる話だ」
黒装束に身を包み、二本の短剣を弄ぶのは、盗賊のシャドウ。
目にも止まらぬ速さと、気配を消す隠密スキルの達人だ。
「俺の盾を抜ける攻撃など存在しない。安心しろ」
全身を分厚いフルプレートアーマーで固め、塔のような大盾を持つ重装戦士アイアン。
動く要塞と呼ばれる、鉄壁のタンクだ。
攻撃、魔法、回復、速度、防御。
全てが揃ったSランクパーティー。
彼らは自分たちの勝利を微塵も疑っていなかった。
「へえ、頼もしいねぇ。
期待してるぜ、『英雄』さんたちよ」
ムギトは彼らをおだて上げながら、心の中で冷笑した。
(精々、頑張ってくれよ。
死神皇女の『弱点』を見つけ出すためのな)
*
それから数時間後。
ユノハナ北方の雪原。
『巨獣の牙』の面々は、意気揚々と雪を踏みしめていた。
「……反応あり。前方三百メートル。
単独でこちらに向かってくる個体がいる」
サイレントが魔力探知で告げる。
「ガハハ! 向こうから出向いてくるとは、死に急ぎおって!
アイアン、前に出ろ!
マリア、強化魔法をかけろ!
俺が一撃で粉砕してやる!」
ガルガンチュアが魔剣を抜き放つ。
彼らの視線の先、吹雪の中から、一人の人影が現れた。
毛皮付き黒マントを羽織った黒い甲冑に、ねじれ山羊角の兜に銀灰色の骸骨面頬。
そして巨大な斧槍。
噂通りの、死神の如き黒騎士──ルスラーナだ。
「よう死神! ここが貴様の墓場──」
ガルガンチュアが決め台詞を言おうとした、その瞬間。
ザッ!!
視界が真っ白に染まった。
吹雪ではない。
局所的に発生した、濃密なホワイトアウトだ。
「なっ、なんだ!? 視界が!?」
「……敵の魔法か? 解析不能……!」
それは、ハーフエルフのランスローネによる目くらましの魔法だ。
視界を奪われ、狼狽える冒険者たち。
そこへ、雪の中から白い影が飛び出した。
「グルァァァッ!!」
雪中に潜んでいた狼人ウェアウルフたちだ。
雪原迷彩の毛皮を纏った彼らは、死角から鋭い爪を振るう。
「くっ、雑魚が! 俺の盾は破れんぞ!」
重装戦士アイアンが大盾を構える。
狼人の爪が盾に弾かれ、火花が散る。
「ふん、効かんわ! 所詮は獣……」
アイアンが嘲笑った時、頭上から声が降ってきた。
「獣? なら、これはどう?」
ドゴォォォォンッ!!
上空から落下してきたルスラーナの斧槍が、アイアンの大盾を直撃した。
「絶対防御」を謳った魔法金属の盾は、ビスケットのように粉々に砕け散り、その下のアイアンごと雪に埋まった。
「ガハッ……!?」
「ア、アイアンが一撃で!?」
仲間たちが絶句する中、ルスラーナは雪煙の中から悠然と立ち上がる。
「盾が壊れちゃった。脆いわねぇ」
「おのれェェ! よくもアイアンを!
死ね! 『神速連撃』!」
盗賊シャドウが姿を消し、超高速でルスラーナの背後に回る。
目にも止まらぬ速さで、首を刈り取る必殺の一撃。
ガシッ。
「……え?」
シャドウの手首が、空中で止まった。
ルスラーナが、背中を見せたまま、ノールックでシャドウの手首を掴んでいたのだ。
「遅い。
蚊が止まって見えるわよ」
バキッ!
「ぎゃあぁぁぁッ!!」
手首をへし折られ、シャドウが転げ回る。
「ひ、ひぃぃッ! くるな、化け物!
聖なる光よ、我らを守りたまえ! 『聖女の聖域』!」
聖女マリアが悲鳴を上げて結界を展開する。
黄金色の光のドームが彼らを包み込む。
あらゆる物理・魔法攻撃を無効化する最強の結界──のはずだった。
「あー、邪魔」
パリンッ。
ルスラーナが斧槍の石突で軽く突くと、聖なる結界はガラス細工のように呆気なく砕け散った。
「う、嘘……私の結界が……!」
「解析不能! エネルギー値が測定限界を突破している!」
サイレントが叫ぶが──
「うるさいわよ、メガネ猿!」
ルスラーナの裏拳が彼の顔面を捉え、眼鏡ごと吹き飛ばした。
「ば、馬鹿な……!
俺たちはSランクだぞ! 選ばれた英雄だぞ!
くらえ! 奥義『天覇・竜王斬』!!」
最後の一人となったリーダー、ガルガンチュアが、全身全霊の魔力を込めて魔剣を振り下ろす。
岩をも両断する必殺の一撃。
「……名前がダサい」
ガキンッ!!
ルスラーナは斧槍で受け止めるどころか、振るわれた魔剣の腹を素手で叩いた。
横からの衝撃に耐えきれず、伝説の魔剣は真ん中からポッキリと折れた。
「あ……あ……俺の、ドラゴン・スレイヤーが……」
「はい、おしまい。
弱すぎてつまんないわね!」
ルスラーナは、へたり込んだガルガンチュアの頭を踏みつけた。
*
数十分後。
「うう……寒い……」
「返して……私のローブ……」
雪原には、身ぐるみを剥がされ、下着一枚にされた『巨獣の牙』の面々が転がっていた。
武器も防具も、金目のものは全て奪われている。
「へえ、いい鉄使ってるじゃない。
これならヒュティームが喜んで溶かして、いい農具にしてくれるわ」
ルスラーナは奪った魔剣や聖鎧をソリに積み込み、ニコニコと笑っている。
「あんたたち、命があるだけ感謝しなさいよ。
運が良ければ、春まで生き残れるかもね?」
「……あ、悪魔だ……」
ガルガンチュアが涙を流して呟く。
彼らのプライドは、この極寒の雪原で完全に粉砕された。
Sランクのスキルも、伝説の装備も、圧倒的な「個」の暴力の前には、子供のお遊戯でしかなかったのだ。
「さあ、帰るわよ。
今日の夕飯、楽しみだわ!」
ルスラーナは戦利品満載のソリに乗り込み、悠々と去っていく。
その背中を見送りながら、遠くから観察していたムギトは、深く深く溜息をついた。
「……やっぱダメか。
あの『巨獣の牙』たちが束になっても、掠り傷すら負わせられもしねぇとはな。
こりゃあ、もっとエゲツない手を考えねぇと、俺の命が危ねえぞ」
最強の冒険者たちは、ただの「資源運搬係」として処理された。
雪原には、敗者たちの啜り泣きだけが寒々と響いていた。
「……また、輸送隊が襲われただと?」
エルバニア軍総大将グラハム・レノックス伯爵の低い声が、部屋の温度をさらに下げる。
「は、はい……。今回は東の街道で、食料と防寒具を積んだ馬車が……。
護衛兵の証言では、『黒い悪魔』が笑いながら去っていったと……」
報告する兵士は震え上がっている。
ここ数日、ルスラーナによる神出鬼没の襲撃が相次いでいた。
彼女は決して深追いはしない。
一撃離脱で物資を奪い、設備を破壊し、そして「恐怖」を植え付けて去っていく。
「おのれ、小娘が……! コバエのように飛び回りおって!」
グラハムは年甲斐もなく怒りを露わにして拳をテーブルに叩きつける。
「山」として動かない戦略をとっている以上、正規軍を小規模に分散させて追わせるのは下策だ。各個撃破されるのが目に見えている。
頭では分かっているが、感情が許さないのだ。
基本的に、グラハムは正面からの堂々たる戦いという「王道」を信条とする武将だ。
大軍を擁して圧倒的数で攻めることこそ「王者の戦い方」だと思っている。
それに対してルスラーナが行っているのは、補給を焼き、食料を奪い、寒空に放置するという「邪道」な、有り体に言えば「嫌がらせ」である。
ましてやルスラーナは、息子と孫たちを沢山殺した張本人なのだ。
憎き敵に対しての復讐心が煮え滾り、理性の蓋で抑え込めなくなるのも当然だろう。
「……グラハムの旦那。正規兵が動けないなら、『専門家』に任せな」
部屋の影から、暗殺者ムギトが声をかける。
「奴は、所詮は個人の武勇で動いている。
ならば、同じく個人の武勇に特化した連中──『冒険者』をぶつけるのが筋ってもんだろ」
「冒険者、か……」
「ああ。あんたが連れてきた従軍冒険者の中に、腕利きのクランがいるだろ?
奴らをけしかけるのさ」
*
ムギトは先ず、冒険者組合のグレイヴェリア支部に足を運んだ。
土地勘のある現地の冒険者を、道案内として雇うためだ
奇しくも、グレイヴェリア支部は、ユノハナの内にあった。
「──断る」
グレイヴェリア支部の長ニコライは、金貨の袋を見るなり即答した。
顔には大きな傷があり、隻眼。
グレイヴェリアでは勇者の証であり、そしてニコライは歴戦の元冒険者だ。
「おいおい、ニコライの旦那よ。
話も聞かずに断るのか?
この金貨の山が見えないのか?
無事な目の視力が悪くなったのかよ?」
「見えるさ。だがあんた、依頼内容は『ルスラーナ皇女の討伐』、もしくは『捜索の道案内』だろ?」
ニコライは、呆れたようにため息をついた。
「悪いことは言わねぇ。やめときな。
あの姫様はな、俺たちグレイヴェリアの冒険者にとっちゃ『歩く災害』なんだよ」
「災害?」
「ああ。ドラゴンだの、古代の魔獣だのと同じカテゴリだ。
俺たちは魔物狩りのプロだが、災害に喧嘩を売る馬鹿はいねぇ。
金貨を積まれても、命あっての物種だ。
……どうしてもと言うなら、『姫様が最近目撃された場所』の情報だけ売ってやる。
あとはアンタらが勝手に死んでくれ」
「……チッ、根性なしどもが」
ムギトは舌打ちして組合を後にする。
だが内心では、
(まあ、そう言うだろうな。俺もそう思うぜ)
と納得していた。
だからこそ、何も知らない「外様」を使うのだ。
*
『白鷺の館』の大広間に、エルバニアが誇る最強の冒険者クラン『巨獣の牙』の面々が集められた。
「ガハハハハ! 任せておけ、グラハム将軍!
たかがオーガの混血女一人だろう?
俺様の大剣『竜殺し』の錆にしてくれるわ!」
豪快に笑うのは、リーダーのガルガンチュア。
身長二メートルを超える筋肉の巨漢で、背中には身の丈ほどもある巨大な魔剣を背負っている。
「俺に斬れぬものなし」が口癖の、典型的な脳筋アタッカーだ。
「……対象の戦力分析、完了。
噂には尾ひれがついている。所詮は蛮族の剣技。
僕の『高速詠唱』と『弱点解析』の前では、赤子も同然だ」
眼鏡をくいっと上げるのは、魔導士のサイレント。
常に冷静沈着で、無詠唱魔法や多重展開を得意とする「知性派」だ。
「もう、ガルガンチュアもサイレントも慢心はダメよ?
でも大丈夫、私がみんなを守るから!
私の『聖女の結界』は、どんな攻撃も通さない絶対防御だもの!」
白くフリルのついた法衣を纏い、慈愛に満ちた様に見える笑顔を振りまくのは、回復役兼結界師のマリア。
「聖女」と呼ばれ、パーティーのアイドル的存在で、その魔法結界による守りは鉄壁を誇る。
「……フン。正面から当たる必要はない。
俺の『神速』で背後に回り込み、首を掻き切れば終わる話だ」
黒装束に身を包み、二本の短剣を弄ぶのは、盗賊のシャドウ。
目にも止まらぬ速さと、気配を消す隠密スキルの達人だ。
「俺の盾を抜ける攻撃など存在しない。安心しろ」
全身を分厚いフルプレートアーマーで固め、塔のような大盾を持つ重装戦士アイアン。
動く要塞と呼ばれる、鉄壁のタンクだ。
攻撃、魔法、回復、速度、防御。
全てが揃ったSランクパーティー。
彼らは自分たちの勝利を微塵も疑っていなかった。
「へえ、頼もしいねぇ。
期待してるぜ、『英雄』さんたちよ」
ムギトは彼らをおだて上げながら、心の中で冷笑した。
(精々、頑張ってくれよ。
死神皇女の『弱点』を見つけ出すためのな)
*
それから数時間後。
ユノハナ北方の雪原。
『巨獣の牙』の面々は、意気揚々と雪を踏みしめていた。
「……反応あり。前方三百メートル。
単独でこちらに向かってくる個体がいる」
サイレントが魔力探知で告げる。
「ガハハ! 向こうから出向いてくるとは、死に急ぎおって!
アイアン、前に出ろ!
マリア、強化魔法をかけろ!
俺が一撃で粉砕してやる!」
ガルガンチュアが魔剣を抜き放つ。
彼らの視線の先、吹雪の中から、一人の人影が現れた。
毛皮付き黒マントを羽織った黒い甲冑に、ねじれ山羊角の兜に銀灰色の骸骨面頬。
そして巨大な斧槍。
噂通りの、死神の如き黒騎士──ルスラーナだ。
「よう死神! ここが貴様の墓場──」
ガルガンチュアが決め台詞を言おうとした、その瞬間。
ザッ!!
視界が真っ白に染まった。
吹雪ではない。
局所的に発生した、濃密なホワイトアウトだ。
「なっ、なんだ!? 視界が!?」
「……敵の魔法か? 解析不能……!」
それは、ハーフエルフのランスローネによる目くらましの魔法だ。
視界を奪われ、狼狽える冒険者たち。
そこへ、雪の中から白い影が飛び出した。
「グルァァァッ!!」
雪中に潜んでいた狼人ウェアウルフたちだ。
雪原迷彩の毛皮を纏った彼らは、死角から鋭い爪を振るう。
「くっ、雑魚が! 俺の盾は破れんぞ!」
重装戦士アイアンが大盾を構える。
狼人の爪が盾に弾かれ、火花が散る。
「ふん、効かんわ! 所詮は獣……」
アイアンが嘲笑った時、頭上から声が降ってきた。
「獣? なら、これはどう?」
ドゴォォォォンッ!!
上空から落下してきたルスラーナの斧槍が、アイアンの大盾を直撃した。
「絶対防御」を謳った魔法金属の盾は、ビスケットのように粉々に砕け散り、その下のアイアンごと雪に埋まった。
「ガハッ……!?」
「ア、アイアンが一撃で!?」
仲間たちが絶句する中、ルスラーナは雪煙の中から悠然と立ち上がる。
「盾が壊れちゃった。脆いわねぇ」
「おのれェェ! よくもアイアンを!
死ね! 『神速連撃』!」
盗賊シャドウが姿を消し、超高速でルスラーナの背後に回る。
目にも止まらぬ速さで、首を刈り取る必殺の一撃。
ガシッ。
「……え?」
シャドウの手首が、空中で止まった。
ルスラーナが、背中を見せたまま、ノールックでシャドウの手首を掴んでいたのだ。
「遅い。
蚊が止まって見えるわよ」
バキッ!
「ぎゃあぁぁぁッ!!」
手首をへし折られ、シャドウが転げ回る。
「ひ、ひぃぃッ! くるな、化け物!
聖なる光よ、我らを守りたまえ! 『聖女の聖域』!」
聖女マリアが悲鳴を上げて結界を展開する。
黄金色の光のドームが彼らを包み込む。
あらゆる物理・魔法攻撃を無効化する最強の結界──のはずだった。
「あー、邪魔」
パリンッ。
ルスラーナが斧槍の石突で軽く突くと、聖なる結界はガラス細工のように呆気なく砕け散った。
「う、嘘……私の結界が……!」
「解析不能! エネルギー値が測定限界を突破している!」
サイレントが叫ぶが──
「うるさいわよ、メガネ猿!」
ルスラーナの裏拳が彼の顔面を捉え、眼鏡ごと吹き飛ばした。
「ば、馬鹿な……!
俺たちはSランクだぞ! 選ばれた英雄だぞ!
くらえ! 奥義『天覇・竜王斬』!!」
最後の一人となったリーダー、ガルガンチュアが、全身全霊の魔力を込めて魔剣を振り下ろす。
岩をも両断する必殺の一撃。
「……名前がダサい」
ガキンッ!!
ルスラーナは斧槍で受け止めるどころか、振るわれた魔剣の腹を素手で叩いた。
横からの衝撃に耐えきれず、伝説の魔剣は真ん中からポッキリと折れた。
「あ……あ……俺の、ドラゴン・スレイヤーが……」
「はい、おしまい。
弱すぎてつまんないわね!」
ルスラーナは、へたり込んだガルガンチュアの頭を踏みつけた。
*
数十分後。
「うう……寒い……」
「返して……私のローブ……」
雪原には、身ぐるみを剥がされ、下着一枚にされた『巨獣の牙』の面々が転がっていた。
武器も防具も、金目のものは全て奪われている。
「へえ、いい鉄使ってるじゃない。
これならヒュティームが喜んで溶かして、いい農具にしてくれるわ」
ルスラーナは奪った魔剣や聖鎧をソリに積み込み、ニコニコと笑っている。
「あんたたち、命があるだけ感謝しなさいよ。
運が良ければ、春まで生き残れるかもね?」
「……あ、悪魔だ……」
ガルガンチュアが涙を流して呟く。
彼らのプライドは、この極寒の雪原で完全に粉砕された。
Sランクのスキルも、伝説の装備も、圧倒的な「個」の暴力の前には、子供のお遊戯でしかなかったのだ。
「さあ、帰るわよ。
今日の夕飯、楽しみだわ!」
ルスラーナは戦利品満載のソリに乗り込み、悠々と去っていく。
その背中を見送りながら、遠くから観察していたムギトは、深く深く溜息をついた。
「……やっぱダメか。
あの『巨獣の牙』たちが束になっても、掠り傷すら負わせられもしねぇとはな。
こりゃあ、もっとエゲツない手を考えねぇと、俺の命が危ねえぞ」
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