君と出逢って

美珠

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3巻

3-3

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 足早に目的の部屋へ向かうと、追って来た彼に顔をのぞき込まれた。

「純奈さん、言ってくれないとわかりません」
「大丈夫です。これは私の中で消化しないといけないことなので」

 部屋の前に着き、カードキーを差し込む。なのに、何度繰り返してもドアが開かない。

「もう、なんで?」

 すると、カードキーを持つ手に貴嶺が手を添える。

「引き抜くのが早いからです」

 次の瞬間、いとも簡単にドアが開いた。
 どんな時も、旦那様は冷静である。純奈が不機嫌だろうがなんだろうが、いつも。
 そう思うと、なんだか悔しい気分になる。
 無言で部屋の中に入った。後から入ってきた貴嶺を見上げて、やっぱり彼はイケメンだとぼんやり思う。これからも彼の傍にいるために頑張ると決めたけど、なんの取りもない自分が本当にこの人の支えになどなれるのだろうか。
 やることはわかっていても、自信を無くしている純奈は上手うまく頭の中の整理ができないでいた。

「純奈さん、すみませんでした」
「……何がですか?」
「古橋さんのことも、俺があなたにした、いろいろなことについてもです」

 もしかしたら古橋から何か聞いたのかもしれない。でも、貴嶺は純奈に何もしていない。

「貴嶺さんが謝ることないです。私が一方的に貴嶺さんを責めたので。むしろ、謝るのは私の方です」

 嫌な女に成り下がっている今の純奈は、もう本当に自分のことが嫌いだと思う。ここまで自分を嫌いになるのは久しぶりだった。

「パーティーに出席するのは、嫌だったのでしょう?」
「そのことはもういいんです。これからは、パーティーがあれば、一緒に行きます」

 純奈は手にしていたクラッチバッグをテーブルに置き、窮屈なパンプスを脱いだ。

「俺は……あなたがいないと支障をきたすなんて、心無いことを言ってしまいました」

 そう言って、貴嶺は視線を落とす。

「貴嶺さんに対して怒っているわけじゃないんです。ただ、自分が恥ずかしいというか……。外交官の奥さんなのに、いつまでも語学がからっきしなんて。甘えていた自分に落ち込んでいるんです」

 そう、単に気持ちの整理がついていないだけ。これから一体どれくらい頑張らなくてはいけないのか。マイナスからスタートする自分に、つい途方に暮れてしまう。

「でも、頑張ります。貴嶺さんみたいに七ヶ国語は無理ですけど、せめて英語くらいはしっかり話せるようになります。貴嶺さんが連れていて、恥ずかしくない奥さんになりますから」
「俺は、恥ずかしいなんて思ったことはありません」

 貴嶺の目が純奈の全身をじっと見ている。途端に今日の恰好が恥ずかしくなって、無意識に胸の前で手を組む。

「今日のパーティーも楽しみでした。仕事中に不謹慎とは思いましたが、綺麗に着飾ったあなたと、デートしているような気持ちになっていたので……」

 楽しみにしていたなんて知らない。旦那様は口下手くちべただと自分で言うけど、本当にそうだ。
 貴嶺が歩み寄り、そっと純奈の腕に触れる。胸の前で組んでいた手をゆっくりと解かれ、両手をつながれた。

「すみません。やっぱり上手うまく言えない。でも俺は、何があろうとあなたのことが好きです」

 何度貴嶺に好きと言われただろう。不変の言葉なのに、凄く胸に響く。

「俺の人生は、あなたがいないと成り立たない。あなたがいてこその、人生です」

 純奈が一人で日本に帰った時、電話でそう言われた。でも面と向かってだと、嬉しくて心が震える。

「あなたが役に立っていないなんてことはありません。今日も、隣にいてくれるだけで凄く心強かった」

 そうして口元に笑みを浮かべた貴嶺は、純奈の身体を引き寄せる。

「やっぱり、一番悪いのは俺です。口下手で、仕事ばかりしていつも家にいなくて。あなたは、こんな俺について来てくれたのに」

 純奈を抱きしめ、背を撫でる。

「純奈さんには、いつも感謝しています」

 こんなに優しい言葉を言ってくれる旦那様は他にいないと思う。自然とあふれる涙を、貴嶺がそっとぬぐってくれた。

「大丈夫です。すみません、泣いたりして……」

 貴嶺は首を振った。彼は本当に優しい。だからといって、いつまでもその優しさに甘え続けていてはダメなのだ。純奈は純奈で、ちゃんと一人でいろいろとできるようにならなくては。そう思って、貴嶺の腕から抜け出そうとすると、彼は一層強く純奈を抱きしめてきた。

「俺の腕をこばまないでください」

 頬を撫でながら、いつの間にか間近から顔をのぞき込まれる。

「綺麗だ」
「……そんなこと……涙で化粧がにじんで、きっとパンダに……」
「いいえ、綺麗です」

 貴嶺がきっぱりと純奈の目を見つめて言う。

「今日はずっとドキドキしてました。あなたに」

 大きな手が純奈の鎖骨に触れ、胸まで手をわせる。

「あなたの胸をこんなふうに強調したのは、古橋さんでしょう? あまりに魅力的だから、パーティーの間中、気が気じゃなかったです」

 旦那様の言動は、時々本当に外国人みたいだ。綺麗だとか、魅力的だとか、日本人が言わないようなことを平気で言う。そんな貴嶺の手が明確な意思を持って胸に触れてきて、純奈は慌ててその手を握って止める。

「私、しないって、言った……」

 そう言いながらも、貴嶺に触れられてドキドキしている純奈がいる。
 さらに、貴嶺の唇が音を立てて耳の後ろや頬にキスをしてきた。

「純奈、好きです」

 心に染みてくる貴嶺の言葉に、純奈はおずおずと顔を上げた。目が合うと、貴嶺は口元に笑みを浮かべ、純奈の頬を両手で包む。

「あなただけです。俺を支えて、愛してくれるのは」

 絶対にそんなことはないはずだ。純奈はダメダメで、些細ささいなことでキレたりした。でも、貴嶺の目に嘘はなく、純奈を真摯しんしに見つめている。

「貴嶺さんは、本当に私でいいんですか?」
「いつも言っているでしょう? 純奈がいい、と」

 貴嶺が純奈の手を取り、自分の頬へ導く。その後彼は、純奈の手のひらや手首にキスをした。

「俺は出会った時から、あなたじゃないとだめなんです」

 手首に唇を押し当てじっと純奈を見つめていた貴嶺は、赤い舌をのぞかせてそこをめる。手首から手のひらまで舌をわせたかと思うと、純奈の中指の爪を甘く噛んだ。
 その瞬間、身体の内側がうずくような感覚を覚えて、純奈は小さく息を吐く。

「あなたが欲しい」

 その言葉にドクンと心臓が騒ぎ、身体中に熱が回っていくのを感じた。
 純奈は熱い息を吐きながら、無言で彼のネクタイの結び目に指を伸ばす。

「早く、解いてください」

 耳元でささやかれ、純奈は震える指でネクタイを解いた。導かれるように上着のボタンを外し、ジレのボタンに手をかける。
 すると、待ちきれないみたいに貴嶺が唇を重ねてきた。触れるだけのキスを繰り返し、それがだんだんと深いキスになっていく。

「ふ……ぁ」
「手を止めないで、そのまま脱がせてください」

 キスの合間に貴嶺が言う。でも、指先が震えて上手うまくボタンが外せない。ようやくジレのボタンを外し終えると、今度はシャツのボタンに手が導かれた。

「外して」

 お腹の底が、ドクン、と音を立てる。純奈を見つめる貴嶺の目に、熱がこもっているのを感じてたまらない気持ちになった。
 ウエストからシャツを引っ張り出し、ボタンを外していく。そんな純奈のあごを持ち上げ唇を開かせた貴嶺は、舌をからめるキスを再開した。

「は……っん」

 キスをしながらボタンを外すのは、純奈には至難しなんわざで。それでもなんとかボタンを全て外し、最後に首にかかったままのネクタイを引き抜いた。

「上手ですよ、純奈さん」

 ほどよく筋肉のついたキレイな上半身があらわになり、純奈の心臓が今まで以上に高鳴る。

「ベルトも外してください、スラックスのボタンも」

 そう言って純奈の腰を引き寄せ、背中を撫で上げられた。その手の動きに身体が震え甘い声が出る。

「あ……っ」

 純奈の背中を撫でる手がドレスのファスナーを下ろし、直接肌に触れてきた。その手の熱さに、ため息がれる。

「下着、着けていなかったんですね」
「ブラを着けると、ドレスから見える、ので」

 改めて指摘されると顔が熱くなる。

「……ニップルシールを、貼ってます」

 その間にも、純奈は貴嶺のベルトを外し、スラックスのボタンを外した。貴嶺は純奈の背を撫でながら、ドレスの胸元をずらし、胸に貼っているシールをじっと見る。

「ったく、あのオバサン……」

 腰をさらに引き寄せられた。すでに貴嶺が反応しているのがわかり、どうしようもなくドキドキしてしまう。これからすることを考えると、特に。

「今後は、下着を着けられないようなドレスは着ないでください」

 なんだか急に怒ったような口調になった貴嶺に、純奈は首をかしげる。

「でも貴嶺さん、このドレスについては、何も言いませんでしたよ?」

 貴嶺は今日、ドレスを着た純奈に何も言わなかった。だから純奈は、恥ずかしくてもこのドレスを着ていたのだ。

「正直に言えば、胸が開き過ぎです。そんなにエロく仕上げなくてもいいんです」

 淡々とした言葉には、やけに感情がこもっていた。その様子が可笑おかしくて、純奈は貴嶺の胸に頬を寄せる。

「あなたがエロくなるのは、俺の前だけでいい」

 そう言いながら、貴嶺はドレスを純奈の肩から外し、一気に脱がせてしまう。あっという間のことで止める間もなかった。

「これ、外しますよ?」

 ニップルシールを貴嶺の指がゆっくりと外す。シールなので外す時少し痛かったりするのだが、なぜかそのピリッとした感じが、純奈を感じさせた。

「……っ!」
「痛いですか?」

 首を振ると、微かに笑った貴嶺が耳元に唇を寄せる。

「これで感じるなんて、いけない人だな」

 純奈の身体の反応は、全て貴嶺にわかってしまっている。言われた言葉に顔を真っ赤にし、目を閉じた。シールを外し終えた貴嶺は、ストッキングに手をかけ下着と一緒に脱がそうとする。純奈は慌ててその手を止めようとするも、深いキスにからめ取られて引き下ろされてしまった。

「こんないきなり、脱がせ、ないで」

 息を乱して抗議をすると、首筋を強く吸われて身を震わせる。
 中途半端にショーツとストッキングが絡まったまま抱き上げられ、ベッドに下ろされた。見上げると、シャツを脱いだ貴嶺が覆い被さってくる。

「俺がどれだけパーティーの間我慢してたか、あなたはわからないでしょう?」

 首に顔をうずめられ、胸をまれる。旦那様に上に乗られると純奈は身動きができない。でもその重ささえ気持ちがよくて、つい背を反らしてしまう。
 突き出すようになった胸に貴嶺の唇が触れた。胸の先端を吸い、乳房を軽くんだ後は、胸の谷間に唇をわせる。激しい愛撫に、胸を食べられているみたいに錯覚してしまう。

「シールのあと、少し赤くなっていますね」

 純奈を見ながら、貴嶺は赤くなっているところをめた。

「……っん」
「こんなところにシールを貼るからだ」

 胸を横からすくい上げるように持ち上げ、純奈の胸の先端を貴嶺の唇が強く吸った。軽く噛んだかと思うと舌を絡め、皮膚の赤くなっている部分を熱心に愛撫する。

「は……っあ」

 音を立てて胸から唇を離した貴嶺は、純奈の脇腹を撫でながら徐々に唇を下げていく。そして、引っかかったままのストッキングとショーツを脱がせ、純奈の足を開いた。

「や……っ」

 次に何をされるかわかって、足を閉じたくてたまらなくなる。

「それは……や、だ……っあ!」

 制止も虚しく、貴嶺の顔が純奈の足の間に埋められた。熱い舌が純奈のソコを下から上へと舐め上げ、尖った部分を唇で食まれる。

「あっ」

 そんなことをされると、どうしようもなく腰が揺れてしまう。貴嶺は、純奈のソコを何度も舐めながら、腕を伸ばして胸を揉み上げる。

「はっ……あ……っん!」

 下腹部が堪らなくうずいて、腰の揺れが止まらない。その時、隙間を舐める彼の舌が中心をえぐってきて、純奈の身体がビクンと跳ねた。

「やっ……」

 シーツを握りしめ、強過ぎる快感に身を震わせる。
 貴嶺はなだめるように純奈の胸を揉みながら、もう片方の手で隙間を探りゆっくりと中に指を入れてきた。貴嶺の指の動きに合わせて濡れた音が聞こえてきて、純奈の快感があおられる。

「た、かね、さ……っん」

 指が二本に増え、どんどん動きがスムーズになる。もうダメだ、と思った瞬間、貴嶺が足の間から顔を上げ指が引き抜かれた。スラックスと下着を下げた貴嶺の身体が近づき、しっかりと反応した彼のモノが純奈の隙間に当たる。
 眉を寄せ、自身を純奈の中にうずめていく貴嶺は、壮絶に色っぽい。中に入ってくる熱くて硬い感覚が奥に届いた時、純奈は腰を反らせて達してしまった。

「ああ……っん」

 せわしない息遣いと心臓の音がやけに大きく聞こえる。純奈は自分の身体が興奮しているのがわかった。貴嶺のモノを身体の内側ではっきりと感じる。
 純奈の中をいっぱいに満たす貴嶺を意識した途端、身体の内側がキュッと締まった。

「そんなに狭くしたら、すぐにイキそうです」

 軽く眉間にしわを寄せて微笑んだ貴嶺は、純奈を見つめてその頬を撫でた。

「気持ち良過ぎて、どうにかなりそうだ。あなたの表情も可愛くて、困ります」
「か、可愛いって、そんな……」

 貴嶺が腰を押し付けるようにして、さらに純奈の奥まで入ってくる。

「あ……っ」

 思わず声が出た純奈を見て、満足そうに微笑む。

「可愛いです。だから、もっと可愛くなって、純奈」

 そう言う貴嶺の息も上がっていて、彼が純奈で感じているのがわかる。それを証明するみたいに身体の中で、貴嶺のモノが大きくなった。
 貴嶺が純奈の腰を揺さぶり始める。硬いモノで何度も中をこすられ、純奈は目を閉じて小さくあえいだ。すると貴嶺が噛みつくみたいに深く唇を重ねてきて、一層純奈を翻弄ほんろうする。

「んん……っ!」

 グッと奥まで腰を突き入れられ、そこで円を描くように丸く腰を動かされる。
 強過ぎる快感に、純奈は身を震わせて貴嶺の身体に強くしがみついた。彼の腰の動きに合わせて、自然と腰が揺れ動く。

「良さそうだ」

 キスを解いた貴嶺が、耳元で熱くささやいた。
 微かに笑った彼の息が耳にかかり、ぞくりと肩をすくめる。貴嶺が動くたびに下半身から聞こえる濡れた音にさえ感じてしまい、鼻にかかった声が出るのを止められない。

「奥で腰を使うと、より感じるようですね」

 腰を隙間なく押し付け、貴嶺のが最奥さいおうまで入ってくる。ソコをかき回すみたいに腰を動かされるとたまらない。

「や……っあ!」

 純奈の身体を抱きしめ、そのまま貴嶺が身体を起こす。ベッドに座った貴嶺と正面から抱き合う形になり、先程よりも結合が深くなった。そのせいか、貴嶺の大きさをリアルに感じてしまう。

「……っ!」

 さらに、腰を揺らした貴嶺に奥をグッと押されて、身体が震えた。

「また狭くなった。感じてますか?」

 ため息まじりの、何かを耐えるような声音。それにすら純奈の身体はうずきを増す。

「だって、ずっと奥まで……っ」
「弱いですね、ここ」

 そう言ってゆるく腰を回されて、純奈は貴嶺の首に強くしがみつき首を振った。

「私、また……っあ!」
「イキそう?」

 腰を上下に揺らしながら言われて、純奈はコクコクと頷く。

「ふ……っう、そんなに、いっぱいにしないで」

 貴嶺のモノが中でさらに大きくなった気がして、純奈はたまらずあえぎ声をらす。その様子に貴嶺はクスリと笑って、腰を押し付けたまま純奈の身体を揺らす。

「あなたが、狭くなっただけだ。そんなふうにされると、こっちも、もたない」

 かすれた低い声に、背筋がゾクゾクした。けれど彼は下から何度も腰を揺すりながらも、なかなか達してくれない。

「貴嶺さん、まだ……っ?」
「……イキそう、ですよ」
「早く、私と……っん」

 一際強く腰を突き上げられ、再びベッドに押し倒された。純奈の身体を強く抱き、貴嶺は一度腰の動きを止める。

「イキたい、ですか?」

 純奈の唇を彼の舌がペロリと撫でるようにめた。

「貴嶺さんも……イキそう、って」

 喘ぎながら言うと、旦那様は少し意地悪そうに笑って小さくキスをした。

「俺は、こうやって小休止をすれば、まだ平気ですよ、奥さん」
「私は、平気じゃないです……っ」

 目の前の意地悪な貴嶺も色っぽくて素敵過ぎ。おまけに純奈の中にいる貴嶺のモノは、純奈の身体をえず疼かせている。

「貴嶺さん……っ」

 純奈は早く、と言うかわりに、貴嶺の身体を引き寄せて頬をすり寄せた。

「いけない人だ、あなたは……俺をこんなに夢中にさせて」

 直後、速く強く、貴嶺の腰が動く。抑えようとしても、こらえきれない嬌声きょうせいあふれ出てしまう。ぼんやりした視界に、眉を寄せ汗をしたたらせる貴嶺の姿が見える。彼は言葉通り、本当に純奈に夢中なのだと思った。同じように、純奈だって彼に夢中だ。
 彼から与えられる全てが気持ち良くて、また達してしまいそうだった。

「あ、もう、ダメ……った、かねさ……っ」

 純奈の期待通りの快感が、身体を駆け抜ける。貴嶺の熱さを感じながら、堪らない心地よさを得た。

「純奈……っん!」

 これ以上ないくらい奥深く身体をつなげ、純奈は達した。貴嶺もまた達したらしく、腰の動きを一度止めた。それから何度か身体を揺すって、完全に動きを止める。
 せわしない息を吐き、身体を起こした貴嶺の首に手を伸ばす。しっとりと流れる汗を感じて、彼がそれだけ熱くなっているのがわかった。
 額にかかった髪の毛をかき上げるのが、カッコイイ。本当にキレイで美しい、純奈の旦那様。

「貴嶺さん、大好き」

 ずっと彼の傍にいたい――そう思うと泣けてきた。もっともっと努力しないと、この人と一緒に歩いていけない。先が見えない不安に、純奈の目から涙がこぼれる。

「どうしました? ……純奈、泣かないでください」

 表情はあまり変わらないながらも、貴嶺が心配しているのが伝わってきた。

「大丈夫です。ただ、貴嶺さんが好きだと思ったら、もっと抱きしめたくなって」

 純奈の涙をぬぐった貴嶺が、口元に柔らかな笑みを浮かべる。

「好きなだけ。俺は、あなたのものだ」

 そう言って抱きしめてくれた彼を、純奈も負けずに強く抱きしめた。

「あなたも、俺のものですよ、純奈」

 耳元で言われ、純奈は何度も頷く。

「愛してる。どうしてこんなに、愛しいのかと思うほど」

 普段の口下手くちべたが嘘のように、甘い言葉をくれる。そんな彼と、純奈は絶対に離れたくない。こんなにも純奈を思ってくれるのは、きっと貴嶺だけだと思うから。

「………貴嶺さん」
「はい?」
「もう一回、したい」

 貴嶺の額に浮かぶ汗を手を伸ばして拭うと、その手を掴まれた。手のひらにキスをされ、熱く見つめられる。

「あなたが求めてくれるなら、何度でも」

 にこりと笑った彼のモノは、純奈の中で力を取り戻していた。
 純奈は貴嶺の頬を包んで引き寄せ、自らキスをする。最初から深くなっていくキスに、純奈は酔いしれた。

「ん……っふ」

 貴嶺は一度だけ腰を揺すった後、純奈の胸をみ、舌をからめ取るように吸う。彼の脇腹を撫でながら手を移動させた純奈は、貴嶺の腰を引き寄せた。
 貴嶺の身体は、どこに触れてもキレイに引き締まっている。そっと腰のラインで手を止めると、唇を離した貴嶺がはぁ、と熱くため息を吐く。

「こんなふうにあなたが俺を求めるのは、初めてだ」

 鼻をすり寄せるようにして顔が近づき、純奈はキレイな目にまっすぐ見つめられた。

「いけません、か?」

 少し動くだけでも、つながっている下半身から快感が込み上げてくる。熱くため息をついた純奈は貴嶺の腰を撫で、そのさらに下へと手をわせる。

「もっと、奥まで、きてください」

 こんなこと言うなんて、心が爆発しそう。でも大好きな旦那様に、いっぱい身体を揺さぶってほしい。
 たくさん愛してほしい。

「あなたは、最初から奥が好きでしたね」

 その言葉に顔が赤くなる。自分で言っておきながら激しい羞恥心しゅうちしんに駆られた。心が爆発どころか、消えてしまいたくなる。

「……そ、そんなこと」

 片腕で顔を覆うと、その腕を取られベッドに押さえつけられた。

「あなたの身体の奥を、俺のでたくさん愛して差し上げます」

 そう言って、腰をゆっくりと、しかし断続的に揺さぶられる。手を押さえられているので、純奈の自由はきかない。でもそれがかえって旦那様の熱を感じることになり、気持ちの良い快感に支配されていく。
 何度でも、という言葉通り、純奈は何度も貴嶺に愛された。情熱的に求めてくる貴嶺に、純奈も必死にこたえた。
 ずっとこの腕に抱かれていたい。ずっと一緒に歩いて行きたい。
 そう願いながら貴嶺との行為におぼれ、熱い時間を過ごす純奈だった。



   3


 ――ドイツでのパーティーから一週間後、純奈は日本に戻って来た。
 正確には、旦那様の仕事の都合で一週間と二日後だ。旦那様はこれから一ヶ月半ほどの予定で、日本の外務省で仕事をすることになっているらしい。
 昨夜は、羽田空港直結のホテルに泊まった。その翌日の今日、純奈たちは揃って貴嶺の実家である新生家に来ていた。貴嶺のお祖父じい様の初盆はつぼんのためである。
 目の前に建っているのは、洋風のかなり大きなおうち。それなりに築年数はいってそうだが、細部まできちんと手入れが行き届き古さは感じない。よく見ると、敷地内に小さな洋風の家がもう一軒建っていて、母屋おもやと通路で繋がっている。
 思えば、純奈がここに来るのは初めてだった。出会ってから入籍までが驚くほど速かったし、その間ほとんど貴嶺が日本にいなかった。挙げ句、すぐにドイツに引っ越してしまったのだ。長男の嫁として我ながらどうなのかと思ってしまう。

「どうしました?」

 ぽけっと目の前の家を見つめていたら、タクシーから降りた貴嶺に声をかけられた。

「いえ、立派なおうちだと思って……」
「普通ですよ」

 淡々と答える旦那様の今日のよそおいは、黒のスーツとネクタイ。いわゆる喪服だ。
 手にはブリーフケースとおそなえ物のビールの箱を持っている。貴嶺は家の前に立ったままの純奈をじっと見てきた。

「……そろそろ機嫌は直りましたか?」
「誤解です。何度も言いましたけど、機嫌が悪いわけではないので」

 そろそろ中に入らないと汗で化粧が溶けると思いながら、純奈は立派な玄関に手をかける。

「なら、どうして俺と寝ないんです? あれからもう一週間以上経ちます」
「ちょっ……誤解されるような言い方はやめてください。ここ、貴嶺さんの前ですよ」


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